民主党の代表選挙は、短期決戦。しかも、乱立模様。一方、同じ乱立でも、フランス大統領選挙は、長丁場。来年春の本番へ向けて、各党の公認選候補を選ぶ予備選が行われています。野党第一党・社会党の予備選はこの秋ですが、現第一書記のマルティーヌ・オブリー(Martine Aubry)と、前第一書記のフランソワ・オランド(Hrançois Hollande)、この二人のいずれが社会党候補となっても、現職のサルコジ大統領より優勢だと、ヴァカンス前の世論調査は伝えていました。この夏の財政危機・金融危機の後で、どのように変わっているでしょうか。
ところで、テレビ局が、再選された大統領か、新たに選出された新大統領の選挙戦に密着取材し、ドキュメンタリー番組として、選挙後に放送することがよくあります。日本では、NHKがよくやっていますね。NHKのように予算があれば有力候補、数人に密着取材できるのでしょうが、それが無理な場合は、誰か一人の候補者に賭けるしかない。当たれば見事なドキュメンタリー番組になりますが、外れた場合は・・・
来年の大統領選挙へ向けて、“France 3”が賭けたのは、フランソワ・オランド。どのような背景で、社会党前第一書記が有力と判断したのでしょうか。22日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。
大統領選挙まで一年を切って、France 3はフランソワ・オランドを選んだ。公共放送であるFrance 3は、コレーズ(Corrèze)県選出の国会議員で、社会党の予備選挙に立候補しているフランソワ・オランドの選挙戦を取材できるよう申し込んだところだ。週刊誌“Express”と出版社“les Editions du Seuil”の元社長、ドゥニ・ジャンバール(Denis Jeambar)と、ジャーナリスト・映画監督のステファニー・カイム(Stéphanie Kaïm)が企画・制作を担当し、プロデューサーは数々の話題作を手掛けてきたシリル・ヴィギエ(Cyril Viguier)が務める。
「大統領選の期間中、フランソワ・オランドに密着することになる。選挙運動の中で、外で、彼をフィルムに収めるつもりだ」と、ジャンバールは語っている。52分のドキュメンタリー番組は、来年の5月、決選投票直後に放送される予定だ。決められた予算は16万ユーロ(約1,760万円)で、その内の11万ユーロ(約1,210万円)を局が負担する。
もしフランソワ・オランドが社会党の予備選で負けた場合はどうするのだろうか。「2012年5月、フランソワ・オランドは共和国大統領に選出されるだろう。私は昨年9月、すでにそのことを上院の放送局“Public Sénat”(Canal 13を通して、下院のチャンネルLCPと交互に放送されています)で語っている」と、ジャンバールは述べている。彼は、いつも素晴らしい予想をするようだ。すでに、「1994年にジャック・シラクの当選を予想していた」と実績を語っている(ジャック・シラク<Jacques Chirac>が最終的に勝利したのは1995年5月7日。第1回投票の前までの世論調査では同じ右派の現職首相、エドゥアール・バラデュール<Edouard Balladur>がリードしていましたが、第1回投票で3位と敗れ、決選投票はジャック・シラクと社会党のリオネル・ジョスパン<Lionel Jospin>の戦いになりました。この選挙でニコラ・サルコジはバラデュールを支持し、ジャック・シラクとの間に溝ができてしまいました)。
自分の予想に自信を持つジャンバールは、選挙期間中のドキュメンタリー制作を受け入れてもらおうと、すでに昨年秋からフランソワ・オランドに張り付いていた。「当時は、誰もフランソワ・オランドの周りに寄り付いてはいなかった」と、ジャンバールは皮肉っぽく語り、「その時から、フランソワ・オランドと私は信頼関係を築いたのだ。特に、私はオランドの勝利を信じた最初の一人だったからだ」と指摘している。2人は2009年にすでに出会っている。2008年11月に第一書記は退任したものの、社会党幹部であるオランドは、対談集“Droit d’inventaires”を出すにあたって、出版社をSeuilに決めたが、当時の社長がジャンバールだった。「その時が大統領選へ向けての第一歩だった」と、ドゥニ・ジャンバールは懐かしそうに思い出している。
「ドキュメンタリーでは、共和国大統領がいかに選挙を通して鍛えられていくのかを示したい。原則はつねに身近にいることだ」と、ジャンバールは語っている。オランドも積極的に協力することに決めている。通常の撮影に加えて、「長いインタビューを行うため、毎月、定期的に時間を取ってくれることになった」そうだ。
France 3は、この提案にすぐさまゴーサインを出した。というのも、ヴィギエとジャンバールはすでにオランドと協定を結んでいたからだと、局の役員、フランソワ・ギルボー(François Guilbeau)は説明している。ヴィギエはサルコジ・シンパだと言われているが、その評判をギルボーは否定し、「ヴィギエ氏は信頼できるプロデューサーだ」と、擁護している。ヴィギエは現在のFrance 5の設立者の一人で、番組局長を務めており、その時、ジャンバールをデビューさせたのだ。決して門外漢ではない。ヴィギエは実際、アメリカ大統領を扱ったドキュメンタリーをプロデュースしてきている。2004年にドナルド・レーガンを描いた作品、2011年にジミー・カーターを取り上げた作品。また、ブッシュ親子にスポットを当てた作品は、現在撮影中だ。「France 3は目下のところ、フランソワ・オランド以外に密着取材する予定はない」と、ギルボーは強調している。マルティーヌ・オブリーについてもだ。「ただし、もし状況が彼女に有利になれば、話は別だ・・・」と、ギルボー。
・・・ということで、フランソワ・オランドが大統領に就任した暁には、選挙期間中の様子を裏から表から、様々に紹介する密着ドキュメンタリーをオンエアする計画のFrance 3。しかし、選挙は水もの。テレビ局としては、一種の賭けですね。当たれば、高視聴率が期待できるでしょうが、外れたら・・・
他局は、他の候補者に的を絞った、同じようなプランを持っているのでしょうか。デジタル化(アナログ放送の終了が、フランスでは今年の11月29日、EUとしては来年の1月1日)に伴う多局化で、局間の競争も激しくなっているのではないでしょうか。いくら公共放送と言っても、テレビ・コマーシャルが入るわけですから、視聴率は気になるところだと思います。
フランスで、テレビと言えば、すぐ非難されるのが、広告。下劣なコマーシャルが映像文化のレベルを下げている(CMは芸術作品ではないのですが・・・)。コマーシャルが入る時間だけ、肝心の番組が短くなってしまい、残念だ。
一方、我らが日本では、1957年に発表された大宅壮一の「一億総白痴化」以来、テレビ自体への懐疑的な見方があり、テレビを見ないという方、あるいはテレビを子どもには見せないというご家庭もあります。しかし、それでも、見て良かったと思える番組は多くありました。しかし、今や、芸人の作り話によるばか騒ぎばかりで、時間の無駄としか思えません。昔の番組は、良かった・・・完全に、年寄りの台詞です。
しかし、テレビへの批判は多く出されています。その中で、思わず膝を打った一文を、以下に紹介させていただきます。
総視聴率の低下に加え内外から寄せられる批判――テレビの凋落に歯止めがかからない。それはなぜなのか、神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏が分析する。
CMを流すことと引き換えにクオリティの高いコンテンツを視聴者に無料提供するという民間放送というアイディアは20世紀で最も成功したビジネスモデルである。このシステムは絶対に手放してはならないと私は思っている。だが、このすぐれたビジネスモデルを破壊しているのはテレビ業界自身である。
草創期のテレビにかかわったのは、1960年安保闘争に敗れ、就職先もない“やさぐれた”人々だった。先行モデルもなく制約もない中でこの世代のテレビマンたちは高い創造性を発揮した。
だが、この華やかな成功が結果的にテレビを破滅へ導くことになる。一流大学出の秀才たちがテレビ界に殺到してきたからだ。
秀才は本質的に「イエスマン」であり、前例を墨守し、上司の命令に従うことはうまいが、クリエーション(創造)にも冒険にも興味がない。安定した組織を維持し、高給や特権を享受することには熱心だが、危機的状況への対応や新しいモデルの提示には適さない。
草創期の冒険的なテレビマンが姿を消し、成功した先行事例を模倣することしかできないイエスマンがテレビ界を独占するに至って、テレビからは創造性も批評性も失われた。
この先テレビが復活する可能性があるとすれば、一度どん底まで落ちて、世間から「テレビマンは薄給で不安定な職業」と見なされ、秀才たちがテレビを見限った後だろう。
(週刊ポスト2011年8月19・26日号:電子版)
ところで、テレビ局が、再選された大統領か、新たに選出された新大統領の選挙戦に密着取材し、ドキュメンタリー番組として、選挙後に放送することがよくあります。日本では、NHKがよくやっていますね。NHKのように予算があれば有力候補、数人に密着取材できるのでしょうが、それが無理な場合は、誰か一人の候補者に賭けるしかない。当たれば見事なドキュメンタリー番組になりますが、外れた場合は・・・
来年の大統領選挙へ向けて、“France 3”が賭けたのは、フランソワ・オランド。どのような背景で、社会党前第一書記が有力と判断したのでしょうか。22日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。
大統領選挙まで一年を切って、France 3はフランソワ・オランドを選んだ。公共放送であるFrance 3は、コレーズ(Corrèze)県選出の国会議員で、社会党の予備選挙に立候補しているフランソワ・オランドの選挙戦を取材できるよう申し込んだところだ。週刊誌“Express”と出版社“les Editions du Seuil”の元社長、ドゥニ・ジャンバール(Denis Jeambar)と、ジャーナリスト・映画監督のステファニー・カイム(Stéphanie Kaïm)が企画・制作を担当し、プロデューサーは数々の話題作を手掛けてきたシリル・ヴィギエ(Cyril Viguier)が務める。
「大統領選の期間中、フランソワ・オランドに密着することになる。選挙運動の中で、外で、彼をフィルムに収めるつもりだ」と、ジャンバールは語っている。52分のドキュメンタリー番組は、来年の5月、決選投票直後に放送される予定だ。決められた予算は16万ユーロ(約1,760万円)で、その内の11万ユーロ(約1,210万円)を局が負担する。
もしフランソワ・オランドが社会党の予備選で負けた場合はどうするのだろうか。「2012年5月、フランソワ・オランドは共和国大統領に選出されるだろう。私は昨年9月、すでにそのことを上院の放送局“Public Sénat”(Canal 13を通して、下院のチャンネルLCPと交互に放送されています)で語っている」と、ジャンバールは述べている。彼は、いつも素晴らしい予想をするようだ。すでに、「1994年にジャック・シラクの当選を予想していた」と実績を語っている(ジャック・シラク<Jacques Chirac>が最終的に勝利したのは1995年5月7日。第1回投票の前までの世論調査では同じ右派の現職首相、エドゥアール・バラデュール<Edouard Balladur>がリードしていましたが、第1回投票で3位と敗れ、決選投票はジャック・シラクと社会党のリオネル・ジョスパン<Lionel Jospin>の戦いになりました。この選挙でニコラ・サルコジはバラデュールを支持し、ジャック・シラクとの間に溝ができてしまいました)。
自分の予想に自信を持つジャンバールは、選挙期間中のドキュメンタリー制作を受け入れてもらおうと、すでに昨年秋からフランソワ・オランドに張り付いていた。「当時は、誰もフランソワ・オランドの周りに寄り付いてはいなかった」と、ジャンバールは皮肉っぽく語り、「その時から、フランソワ・オランドと私は信頼関係を築いたのだ。特に、私はオランドの勝利を信じた最初の一人だったからだ」と指摘している。2人は2009年にすでに出会っている。2008年11月に第一書記は退任したものの、社会党幹部であるオランドは、対談集“Droit d’inventaires”を出すにあたって、出版社をSeuilに決めたが、当時の社長がジャンバールだった。「その時が大統領選へ向けての第一歩だった」と、ドゥニ・ジャンバールは懐かしそうに思い出している。
「ドキュメンタリーでは、共和国大統領がいかに選挙を通して鍛えられていくのかを示したい。原則はつねに身近にいることだ」と、ジャンバールは語っている。オランドも積極的に協力することに決めている。通常の撮影に加えて、「長いインタビューを行うため、毎月、定期的に時間を取ってくれることになった」そうだ。
France 3は、この提案にすぐさまゴーサインを出した。というのも、ヴィギエとジャンバールはすでにオランドと協定を結んでいたからだと、局の役員、フランソワ・ギルボー(François Guilbeau)は説明している。ヴィギエはサルコジ・シンパだと言われているが、その評判をギルボーは否定し、「ヴィギエ氏は信頼できるプロデューサーだ」と、擁護している。ヴィギエは現在のFrance 5の設立者の一人で、番組局長を務めており、その時、ジャンバールをデビューさせたのだ。決して門外漢ではない。ヴィギエは実際、アメリカ大統領を扱ったドキュメンタリーをプロデュースしてきている。2004年にドナルド・レーガンを描いた作品、2011年にジミー・カーターを取り上げた作品。また、ブッシュ親子にスポットを当てた作品は、現在撮影中だ。「France 3は目下のところ、フランソワ・オランド以外に密着取材する予定はない」と、ギルボーは強調している。マルティーヌ・オブリーについてもだ。「ただし、もし状況が彼女に有利になれば、話は別だ・・・」と、ギルボー。
・・・ということで、フランソワ・オランドが大統領に就任した暁には、選挙期間中の様子を裏から表から、様々に紹介する密着ドキュメンタリーをオンエアする計画のFrance 3。しかし、選挙は水もの。テレビ局としては、一種の賭けですね。当たれば、高視聴率が期待できるでしょうが、外れたら・・・
他局は、他の候補者に的を絞った、同じようなプランを持っているのでしょうか。デジタル化(アナログ放送の終了が、フランスでは今年の11月29日、EUとしては来年の1月1日)に伴う多局化で、局間の競争も激しくなっているのではないでしょうか。いくら公共放送と言っても、テレビ・コマーシャルが入るわけですから、視聴率は気になるところだと思います。
フランスで、テレビと言えば、すぐ非難されるのが、広告。下劣なコマーシャルが映像文化のレベルを下げている(CMは芸術作品ではないのですが・・・)。コマーシャルが入る時間だけ、肝心の番組が短くなってしまい、残念だ。
一方、我らが日本では、1957年に発表された大宅壮一の「一億総白痴化」以来、テレビ自体への懐疑的な見方があり、テレビを見ないという方、あるいはテレビを子どもには見せないというご家庭もあります。しかし、それでも、見て良かったと思える番組は多くありました。しかし、今や、芸人の作り話によるばか騒ぎばかりで、時間の無駄としか思えません。昔の番組は、良かった・・・完全に、年寄りの台詞です。
しかし、テレビへの批判は多く出されています。その中で、思わず膝を打った一文を、以下に紹介させていただきます。
総視聴率の低下に加え内外から寄せられる批判――テレビの凋落に歯止めがかからない。それはなぜなのか、神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏が分析する。
CMを流すことと引き換えにクオリティの高いコンテンツを視聴者に無料提供するという民間放送というアイディアは20世紀で最も成功したビジネスモデルである。このシステムは絶対に手放してはならないと私は思っている。だが、このすぐれたビジネスモデルを破壊しているのはテレビ業界自身である。
草創期のテレビにかかわったのは、1960年安保闘争に敗れ、就職先もない“やさぐれた”人々だった。先行モデルもなく制約もない中でこの世代のテレビマンたちは高い創造性を発揮した。
だが、この華やかな成功が結果的にテレビを破滅へ導くことになる。一流大学出の秀才たちがテレビ界に殺到してきたからだ。
秀才は本質的に「イエスマン」であり、前例を墨守し、上司の命令に従うことはうまいが、クリエーション(創造)にも冒険にも興味がない。安定した組織を維持し、高給や特権を享受することには熱心だが、危機的状況への対応や新しいモデルの提示には適さない。
草創期の冒険的なテレビマンが姿を消し、成功した先行事例を模倣することしかできないイエスマンがテレビ界を独占するに至って、テレビからは創造性も批評性も失われた。
この先テレビが復活する可能性があるとすれば、一度どん底まで落ちて、世間から「テレビマンは薄給で不安定な職業」と見なされ、秀才たちがテレビを見限った後だろう。
(週刊ポスト2011年8月19・26日号:電子版)