ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

社会党第一書記、ブロガーを訴える! なぜ?

2011-08-14 20:27:26 | 政治
私事ですが、13日のアクセス数はどうしたのでしょうか。アクセスIPが711。500を越えたことがなかったものですから、この数字、にわかに信じ難いものがあります。集計ミスなのだとは思うのですが、もしかしてどなたかネットワークの広い方がどこかで弊ブログをご紹介してくれたのではないか、などと都合のいいことを考えて嬉しくなり、お盆休みにするはずだった14日も、こうして更新しようとしています。まさに、○○もおだてりゃ木に登る・・・どんな木に登るかが、問題ですが。

さて、今日の話題は、社会党第一書記のマルティーヌ・オブリー(Martine Aubry)です。彼女と夫のジャン=ルイ・ブロシャン(Jean-Louis Brochen)があるブロガーを名誉棄損で訴えたというものです。

マルティーヌ・オブリー・・・1950年8月8日生まれの61歳。父は欧州委員会(la Commission européenne)の委員長を務めたジャック・ドロール(Jacques Delors)。パリ政治学院を1972年に、次いでENAを1975年に卒業。高級官僚となり、社会党のミッテラン政権誕生後は、政権内で様々なポストを経験。1991~93年には労働・雇用・職業訓練相、1997~2000年には雇用・連帯相。大臣として週35時間労働を実現。2001年からリール市長。2008年11月から社会党第一書記に。履歴が示すように、労働・雇用畑が活動の中心。そのため、風貌と相まって、よく言えば伝統的な、逆の言い方をすれば古くさい、闘う社会党といったイメージを体現しています。

はじめての結婚は1973年で、グザヴィエ・オーブリーと。一女を儲けるも、離婚。政治活動では、離婚後もそのままAubry姓を使用。2004年に弁護士・政治家のジャン=ルイ・ブロシャンと再婚。

ジャン=ルイ・ブロシャンは、1944年6月7日生まれの67歳。弁護士活動を行いつつ、1989~92年には生まれ故郷、ルベ市(Roubaix:ノール地方、ベルギー国境に近い市)の市議会議員を務め、1995~2000年にはリール市の副市長に。

こうした、マルティーヌとジャン=ルイのカップルがブロガーを訴えたのにはどのような背景があるのでしょうか・・・2日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

マルティーヌ・オブリーと夫であるジャン=ルイ・ブロシャンがストラスブールに住むブロガー、フランシス・ネリ(Francis Néri)を法廷に呼び出すことにしたことが、2日、周辺に知れ渡った。71歳の退職者であるフランシス・ネリはパリ大審裁判所(Tribunal de grande instance:TGI:日本の地裁に相当:シテ島にあります)の軽罪第17部(17e chambre correctionnelle)に9月12日に出廷するようにと召喚されたが、その召喚状を自分のブログ“Le systémicien”にコピーしてアップした。

フランシス・ネリは「リールのマルティーヌ家」(La Mrtine de Lille)というタイトルで7月11日にアップした記事の中で、マルティーヌ・オブリーのプライバシーに関する噂や健康について広言するとともに、元弁護士である夫のブロシャン氏をイスラム過激派・サラフィスト・グループの扇動者を擁護する共同体主義者(分離主義者)だと決めつけた。

その記事はその後、削除されたのだが、フランシス・ネリが紹介したマルティーヌ・オブリーに関する噂はそれ以前からネット上に書き込まれており、7月8日の時点で、彼女は噂を広めているサイトに「引用をすぐさま削除するように、さもなければ裁判に訴える」と伝えていた。

マルティーヌ・オブリーの周辺によれば、「5月中旬からその噂は広まり始めたのだが、政治とは関係ない話なのでそのままにしておいた。しかし、広まる一方なので、サイト管理者たちに削除するよう依頼したのだが、結果を伴わなかった。そこで、訴えることにしたのだ。ネリ氏へも削除依頼を送っていた」ということだ。

一方、フランシス・ネリは、7月11日に掲載した内容について、信頼できる情報であり、整合性のある主張だと判断し、「自分のブログが法廷に召喚されるほどの人気の的になるとは思ってもいなかった。まったくの驚きだ」と語っている。

フランシス・ネリは自ら認めるように、与党・UMP(国民運動連合)の党員であったが、2010年以降その資格を更新していない。また、アルザス地方の反イスラム運動“Résistance républicaine”(共和主義抵抗)の役職もすでに辞任していると述べている。ネリ氏は訴えられたのが自分ひとりであることに驚いている。また彼は、マルティーヌ・オブリーから記事を削除してほしいという警告を受けていなかったと述べ、「もし受け取っていたら、すぐ削除したのに」と語っている。マルティーヌ・オブリーの周辺は、他のサイト管理者やブロガーも訴えたのかどうかについては、明言しなかった。

・・・ということで、マルティーヌ・オブリー側が彼女の噂に関する記事を削除するようサイト管理者たちに依頼したのが、7月8日。フランシス・ネリがその噂と彼女の夫に関する文章を書き込んだのが7月11日。どうも、フランシス・ネリはマルティーヌ・オブリー側からの警告を受けていなかったのではないかと思われます。

では、なぜ訴えられたのがフランシス・ネリなのか・・・マルティーヌ・オブリーに関する噂は他のブログにも多く見られるわけですから、オブリー&ブロシャン夫婦の気に障ったのは、たぶん、ブロシャン氏に関する記述なのではないでしょうか。イスラム過激派を擁護する共同体主義者・・・大統領選の公認候補を選ぶ社会党の予備選に立候補しているマルティーヌ・オブリーにとっては看過できない内容なのではないでしょうか。いくら社会党とは言え、共和国精神に反する人が夫では、問題視される可能性がある。しっかりと否定しておく必要がある。ということなのではないでしょうか。

そういうことなのではないかと思うのですが、しかし、もしフランシス・ネリが言うように記述内容がでたらめでないとしたら、言論の自由への侵害に当たらないでしょうか。でも、元UMP党員にして反イスラム団体の役員も務めていたとなれば、社会党トップの夫への誹謗中傷の可能性も排除できませんね。

ネット上での言論・発表の自由と記述される側のプライバシーの保護。難しい問題です。日本でもツイッターで有名人がどこに宿泊したとか、どこで何を食べたとか、プライバシーを暴露するようなつぶやきが、問題視されたりしています。

言論の自由とプライバシー保護。ネット上で簡単に発信できるようになっただけに、問題にもなりやすい。少なくとも、大枠を明確にする必要があるのではないでしょうか。話題になりさえすれば、アクセス数やフォロアーが増えさえすれば、どんな発言をしてもいい、という気持にもなりやすいのかもしれません。木に登る○○にならないように・・・自戒です。