ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

日本のトニー・ブレアって、誰だ?

2010-09-28 20:10:45 | 政治
イギリスのブレア元首相。第三の道、あるいはニュー・レイバーの旗手として、1997年に43歳の若さで首相に就任。2007年に退陣するまで、10年間、イギリス政治の舵取りをしてきたことは、ご存知の通り。鮮やかな弁舌と甘いマスクで、人気を博しました。そのトニー・ブレアに譬えられる日本の政治家とは・・・21日のル・モンド(電子版)が紹介しています。“Le “Tony Blair du Japon” chargé de gérer la crise avec la Chine”(中国との危機管理の任に当たる日本のトニー・ブレア)。

日本のトニー・ブレアとは・・・1993年に31歳の若さで衆議院議員に初当選。12年後には、民主党の党首を務めた・・・そう、前原誠司氏です。政界で若くして頭角を現し、階段を一気に登って行ったスピード、そしてその弁舌の巧みさで「日本のトニー・ブレア」と呼ばれている・・・確かに、民主党の党首に選出されたころ、朝日新聞が「目指せ、日本のブレア」という見出しを使ったようです。因みに、別の新聞では、「永田町の郷ひろみ」・・・

その前原氏について、ル・モンドは、17日の内閣改造でセンセーショナルだったのは、前原外相の誕生だった、と伝えています。

時あたかも、微妙な時期。言うまでもなく、7日、尖閣諸島沖の日本の領海で、海上保安庁の巡視船と中国のトロール漁船が衝突。その後の中国漁船に対する臨検と船長の逮捕という一連の対応で、日本と中国の対立が公然となっていた時期に、前原氏が外相に就任。

この件は、緊張が和らいでいた日中両国関係を悪化させることになる。中国政府は断固たる対抗措置を明言し、日本の若者1,000人の上海万博訪問や、同じく上海万博でのSMAPの公演を延期した。こうした中国側の対応に対し、前原外相は何ら臆することなく、日本の主権に対するいかなる脅威にも断固たる対応で臨むと述べている。こうした対応を示す前原外相が、日本外交の舵をどう取るのだろうか・・・

1962年4月30日に京都で生まれた前原誠司氏。父親の自殺後、母親の女手一つで育てられる。写真と野球が趣味・・・写真は特にSLの写真で、野球は阪神ファン。それ以外に、プロレスのファンとしても有名。なお、フランスではプロレス(le catch)が子供たちの間で人気で、その技をまねて遊ぶため事故が増えていると、ごく最近、テレビ局France2がニュース番組で伝えていました。

さて、前原氏は京都大学を卒業後、松下政経塾で学び、京都府議に。1993年、衆議院選挙に新党日本から立候補し、当選。新党さきがけを経て、1998年に旧民主党の結党に参加。2005年9月から翌6年4月まで、党首も務める。2009年、民主党政権になると、国土交通大臣として、公共事業の無駄削減に取り組む・・・ご存知の通りです。

安全保障の論客でもあり、民主党のネクスト内閣(le cabinet fantôme)では防衛大臣に。日米同盟を擁護する立場で、2007年にはアフガニスタンでのテロとの戦いに日本もさらなる貢献をするよう党執行部に要請したほどだ。

改憲派であり、中国に対してはタカ派(un faucon)と見られている。中国のミサイル配備や中国海軍の日本近海における海上訓練に懸念を表明。外相に就任すると、18日には中国の防衛費の伸びにさらなる懸念を表明。

中国の圧力に決して屈しないタイプですが、しかし同時に緊張を必要以上に激化させようとするタイプでもない。18日、反日のデモをコントロールした中国政府の対応を評価し、翌19日には、巡視船と漁船の衝突は残念な偶発的な事故だったと事件の鎮静化に努めた。悪天候が嵐に変わるかもしれない時期に、どのように外交の舵を取るのか、前原外相の手腕に注目していきたい・・・21日時点で、ル・モンドはこのように伝えていました。

フランスのメディアが、日本の政治家個人を取り上げることは、首相就任時以外では、めったにありません。日中の緊張高まる中での外相就任というタイミングもあるのでしょうが、前原氏の経歴・政治信条を要領よくまとめて紹介しています。日中の対立は、経済面でフランスにも何らかの影響があるとみているのか、あるいは影の薄い、個性の乏しい日本の政治家たちの中にあって、前原氏が個性的で、フランスのメディアにとっても興味の対象になっているのか、あるいは2017年のフランス大統領選挙の目玉の一人がコペ氏(Jean-François Copé)と見られているように、前原氏を民主党の次の世代の有力な首相候補と見做しているのか・・・ル・モンドならずとも、前原外相の今後の政治活動が注目されますね。
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荒れる学園・・・リセに、ついに警官が駐在。

2010-09-27 20:04:38 | 社会
リセ、リエアン、リセエンヌ・・・カタカナで書くと、おしゃれに見えますが、実際の高校生たちは勉強に忙しい。落第もありますし、バカロレア(大学入学資格試験)に合格しないといけないし。フランスは何しろ、階級社会。資格がなければ、社会の階段を上っていくことはまず不可能。一生がかかっていると言ってもいいほどで、バカロレアの結果発表の瞬間には、日本の大学入試の発表と同じような光景が繰り広げられています。

そして、高校(リセ)で学ぶ男子生徒(リセアン)や女子学生(リセエンヌ)をめぐる事件も数多く報告されています。薬物使用もありますが、生徒同士の刃傷沙汰、生徒が教師にナイフを振りかざす事件・・・荒れる学園がしばしば報道されています。

内相として強引な手段で治安を改善して男を上げたサルコジ大統領は、荒れる教育機関を黙って見逃すことができない。ついに、警官を派遣することにしました。常駐ではないのですが、専用のオフィスを用意し、校内の巡回を行うようにしたそうです。

もちろん、大統領ですから、自ら直接細部までかかわったわけではなく、直接指示したのは、オルトフー(Brice Hortefeux)内相ですが、大統領と内相は年が近いうえに、共に富裕層が多く住むヌイイ市育ちで、昔からの友達。いわゆる、ツーカーの仲。警官派遣だ!と以心伝心で思ったのかもしれません。

20日のル・モンド(電子版)が高校への派遣第1号となった警官を紹介しています。

第1陣として、全国で53名の警官が高校に派遣されるそうですが、その第1号となったのは、シルヴィ・パンサール(Sylvie Pinsard)という若い女性警官です。強面の男性警官ではなかったのは、高校に武器を携行する警官が駐在することに対して一部にある反対や恐れを和らげるためでしょうか。それとも、女性警官も多いため、たまたまそうなっただけなのでしょうか。たぶん、前者なのではないかと、推測しますが・・・

担当することになった高校は、パリ郊外、Seine-et-Marne県のMoissy-Cramayelという町にあるマール・カレ高校(le lycée de la Mare-Carrée)。正式には24日の金曜日から、毎週1日、高校に駐在することになっているそうですが、すでに、いくつかの教室で生徒たちに紹介されているそうです。

20日(月)午前には、オルトフー内相とシャテル(Luc Chatel)文相がこの高校を訪問し、彼女を激励するとともに、学校側と内密の打ち合わせをしました。何しろ初めが肝心ですから、慎重を期しているのでしょうね。

文相曰くは、各学校長には新指導・危機管理要領も配布した。また、内相は今回の措置の背景を次のように説明しています。目的は、高校における生徒・教師の安全を確かなものにすることだ。何しろ、校内における暴力など軽犯罪に相当する事件の85%が生徒間で起きているのだから。

一方、社会党員で、セーヌ・エ・マルヌ県のあるイル・ド・フランス地方圏議会で高校問題委員会の委員長をしているフィッシャー(Didier Fischer)氏は、両大臣はコミュニケーション・キャンペーンをやっているにすぎない。現状は、教師の定員削減、研修という名の改革など教育をめぐる問題が山積。非常に困難な状況で生徒も教師も新学年のスタートを迎えている。他に優先的に行うべきことがあるではないか、と非難しています。警官一人が週一日在校するだけで解決できるような現状ではない、ということなのでしょうね。

荒れる生徒、人員削減に直面している教師・・・おしゃれな学園生活とは言い難いようです。おしゃれなのは雑誌の中か夢の中だけなのかもしれないですね。現実は厳しい・・・
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わが子の頭の悪さは、水道水のせい!?

2010-09-26 17:14:32 | 社会
やっぱり「蛙の子は蛙」、あるいは「瓜の蔓に茄子はならぬ」なのか、それとも、もしかして「鳶が鷹を生む」か・・・自分とわが子を見て、さまざまな思い、希望が湧いたりしますが、子供の頭の良し悪しに思わぬ要素が関係しているという研究成果が発表されたそうです。

20日のル・モンド(電子版)が伝えていますが、研究したのは、カナダ、モントリオールにあるケベック大学の学際チームで、ブシャール(Maryse Bouchard)さんがその中心。名前から分かるように、フランス系女性ですね。ケベック州の独立運動については、以前ほど耳にしなくなりましたが、今でもケベック州ではフランス系の人たちが多くの分野で活躍しているようで、フランスのメディアもよく取り上げています。

さて、肝心の研究成果ですが、多くのマンガンが含まれた水道水を飲んでいると、子供の知能指数が低下する! というものです。知能指数、IQですね。“intelligence quotient”ですが、形容詞が後ろに来るフランス語では、QI(le quotient intellectuel)になります。英語とは形容詞の位置が逆になることが多いため、略語がしばしば異なり、覚え直すのが大変ですね。国連はUNがONUですし、IMFはFMI、NATOはOTANです。しかも、NATOは日本語では「ナトー」ですが、英語読みでは「ネイトー」。カタカナ、英語、フランス語・・・大変です。また、中国の名前は日本語読みで覚えてしまうと、外国の人と話す際に通じない。他の国では中国語読みのピンインを使いますから、胡錦濤はHu Jintaoですし、毛沢東はMao Zedongと言わないとコミュニケーションが取れませんし、しかも相手がフランス人だと、例えば温家宝はWen Jiabaoですが、wenが鼻母音になってしまい、発音がちょっと異なってしまい分かりにくい・・・どうでもいいことですが、国際コミュニケーションと簡単に言っても、実際は細かい面倒なことがたくさんありますね。

頭がこんがらがってきてしまいますが、話題はその頭。ケベック州に住む6歳から13歳までの生徒362人を対象に、自宅の水道水に含まれているマンガンの量を測定。水道水を飲む量は自己申告。調査期間中、学力・運動・態度に関するチェックを継続的に行ったそうです。その結果、マンガンが多く含まれている水道水を飲んでいる子ほどIQが低下する明確な傾向が見られたそうです。マンガンを多く摂取した上位20%の子供たちは、マンガンが含まれていない水道水を飲んでいる子供たちより平均して6ポイントもIQが低いことが判明した! ということです。

でも、水道水以外の要素が多いんじゃないの・・・おっしゃる通りです。こんなふうに疑ったりしますよね。でもこの研究チームは、世帯収入、親のIQ、親の学歴、水道水に含まれる他の物質についてもしっかり考慮に入れたうえでの調査結果だそうです。

健康に影響しないと思われてきたマンガンが、実は知能に影響を与えていた・・・この研究結果を知るや、水道の蛇口にフィルターを取り付ける自治体が増えてきたそうです。樹脂と活性炭を含んだフィルターを使えば、マンガンを60%から100%除去できるとか。

蛙の子は蛙、と言う前に、水道水をチェックしてもらって、マンガンが含まれているようなら、フィルターで除去する。こうしてみると、もしかすると鳶が鷹を産むことになるかもしれませんね。どうです、おやりになってみませんか?
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家族手当ほしけりゃ、登校せよ!

2010-09-25 19:43:41 | 社会
長期欠席児童・生徒への家族手当支給を停止するという決定がなされました。もちろん、日本ではなく、フランスでの話。6月29日に下院を通過していた法案が、ヴァカンスを挟んで今月14日、上院で可決成立したそうです。詳細を15日のル・モンド(電子版)が伝えています。

日本の場合、長期欠席とは年間30日以上の欠席を言うようですが、今回成立したフランスの法律では、正当な理由なくひと月に4回以上欠席した児童・生徒が対象になるそうです。正当な理由のない欠席・・・簡単に言えば「ずる休み」ということなのでしょうね。

学校長がひと月に4回以上ずる休みを繰り返した児童・生徒を確認した場合、視学官へ連絡。視学官はその家族に連絡を取り、支援が必要な場合は手立てを講じるとともに、自治体に父兄の責任に関する契約書を用意してもらう。もし翌月も同じ児童・生徒が4回以上理由なく欠席をした場合には、視学官は家族手当の支給を担当する部署に連絡を取り、支給を停止してもらうことができる。しかし、もしその児童・生徒が少なくともひと月、理由なく欠席せずきちんと登校すれば、家族手当の支給は再開される・・・これが今回成立した法律の概略です。

この法律、視学官の要請にこたえて、与党・UMP(国民運動連合)のシオッティ(Eric Ciotti)議員が提案したもので、繰り返されるずる休みを教育の癌と呼んで、それとの戦いを優先的な課題にしているサルコジ大統領の意向にも沿ったものだそうです。

シャテル(Luc Chatel)文部大臣も、親の責任を放棄し、不登校を黙認しているような家族に対しては、支援や対話だけでは不十分で、家族手当の支給停止こそ、ずる休みをなくす最後の手段になる、と新しい法律を擁護しています。

しかし、この強硬手段、言うまでもなく反対意見が多く出されています。国会での審議に際しても、与党議員の中でさえ欠席や棄権に回った議員も目立ち、中道諸党は棄権、あるいは反対。左派は言うまでもなく、反対。また、教職員組合やPTA連合会も、大反対の合唱です。

左派陣営からは、「この法律では効果は期待できず、単なる人気取りであり、低所得者層に犠牲を強いる許しがたい法律だ」という非難、あるいは、「ずる休みは一般に思われているほど頻発しているわけでない。児童・生徒の6~7%に見られるだけで、大問題だと騒ぎ立てるほどではない」という冷静な分析、はたまた「最近、与党が立て続けに行ってきた極右と同じような権威を笠に着た衆愚政治的扇動だ」という怒りが表明されています。

フランスの教育現場、確かにいろいろ問題があるようです。生徒同士の喧嘩、生徒による教師への傷害事件、薬物使用・・・そうした問題を、正当な理由なく欠席する児童・生徒に結び付けようということなのでしょうか。しかし、登校させれば解決できるものなのでしょうか・・・あるいは、緊縮財政の折、家族手当の予算を削減したいだけなのでしょうか。日本政府は太っ腹で、自国に残してきた外国人の子供にまで子供手当を出していますが・・・

次代を担う子供たちへの教育、どこの国でも頭を悩ませているようです・・・みんな、悩んで大きくなる!?
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太りたくなければ、フランス式食事。

2010-09-24 19:52:49 | 社会
痩せたい、もっと痩せた~い! と願う女性は多いですが、実際に肥満人口が多いのは欧米。特にアメリカ。「肥満人口が3分の1以上を占める米国で、肥満は健康に悪いだけでなく、家計にも重くのしかかるという調査結果が発表された。」(9月22日:CNN)という記事も出ていました。

フランスでも肥満はメディアなどでしばしば取り上げられていますが、肥満の問題はまだアメリカほど深刻ではないようです。Crédoc(le centre de recherches pour l’étude et l’observation des conditions de vie:生活環境調査観察研究所)が20日に発表した研究成果によると、肥満人口の総人口に占める割合は、アメリカで26.9%。それに対し、フランスでは14.5%。フランスの方がはるかに肥満率が小さいことが分かりますね。

Crédocはフランスの肥満がアメリカほどに深刻ではない理由として、フランス式の食事を挙げています。フランス料理の大好きな方には残念ですが、あくまで食事スタイルで、料理のメニューやレシピではありません、念のため。肥満にならないその食事スタイルとは・・・20日のル・モンド(電子版)が次のように伝えています。

1日3食を、毎日ほぼ決まった時間に、しかも家族や友人・知人と時間をかけて楽しみながら摂ること。このフランスの伝統的な食事スタイルが肥満を防ぐために大きな役割を果たしている!

フランス人はエネルギー摂取の90.2%を3度の食事で賄い、3度の食事以外、つまり間食で摂取しているエネルギーはわずか9.8%。それがアメリカ人の場合は、間食の割合が21.6%に上るそうです。炭酸飲料か、ビールの入った大きな紙コップを片手に、スナック類を頬張り続ける肥満したアメリカ人・・・さまざまな映像でよく見かけますね。

社会の変化、ライフ・スタイルの変化が激しくなっても、フランス人は規則正しい食事を守っているそうです。毎日きちんと昼食を摂る人の割合は、1999年に84.7%、2003年で91.2%、2007年に87.1%とあまり変化をしていません。同じように、夕食を毎日摂る人の割合も、90%前後で大きな変動を見せてはいません。しかし、朝食はどうなのでしょうか。この記事が紹介しないのか、Crédocが出さないのかは分かりませんが、毎日朝食を摂るかどうかに関しては、さすがのフランスでも、変化があるような気がしますが・・・

ただし、若い人ほど冷凍食品など調理済みの料理で済ませることが多く、年配の人ほど材料を買ってきて手作りの料理を楽しんでいる割合が高いという世代によるスタイルの変化は見て取れるそうです。

また、Crédoc曰くは、食事を摂るということは、フランスではたんに栄養を摂る、空腹を満たすという以上の意味を持っている。社会が変化し、仕事の必要上、食事のテーブルに就く時間は短くなってきてはいるが、それでも食事の時間にはそれ自体に今でも価値があり、社会生活に欠かせないものになっている。一方のアメリカでは、他の事をやりながら、あるいは短い時間で、しかも何度かに分けて何かを食べるという傾向にある。これでは太るのも無理はない!

そして、フランス式食事で大切なもう一つの要素、それが複数の人たちと一緒に食事を摂るということだそうです。日本では「個食」がかなり以前から問題になってきましたが、フランスでは、食事は家族や友人などとおしゃべりを楽しみながらするもので、社会生活の一部になっています。従って、みんなの食事の時間が大体同じになり、毎日ほぼ決まった時間に食事を摂ることにもつながっている。おしゃべりをしながらですから、最低でも1時間。夕食はいいですが、昼食でも1時間以上。確かに、パリの舗道にせり出したカフェのテーブルで、いつ終わるともしれぬ様子で、食事を楽しんでいるサラリーマンやOLを見かけますものね。一方、我ら日本のサラリーマンの昼食時間、何分で終わってしまうのでしょうか・・・

ほぼ決まった時間におしゃべりを楽しみながらきちんと食事をする。こうしたフランス人の傾向はヨーロッパの中でも顕著だそうです。別の調査をル・モンドが紹介しているのですが、そのデータによると、12時30分に昼食を摂っているフランス人の割合は57%、他方ベルギーでは38%、ドイツでは20%、イギリスに至っては14%だそうです・・・ただし、国によっては昼食時間が12:30から、あるいは13:00からのところがありますから、このデータだけではフランス人が他のヨーロッパ人よりしっかり昼食を摂っていると言いきるにはちょっと無理がありますね、残念。

ということで、毎日規則正しく、家族や友人と楽しくゆっくりと食事をする。そのことで肥満がある程度防げそうだ、ということのようですね。確かにそうかもしれませんが、しかし、言うまでもなくそれだけで肥満が防げるとは限りませんね。なにしろ、フランスの食事スタイルとは全くかけ離れていながらも、長寿を誇っている国がある・・・

長寿国・日本ということで、高齢者の割合の高い沖縄を中心に、食事やライフ・スタイルがフランスでも時々紹介されますが、一度、日本のサラリーマンの食事を紹介してもらうといいのではないかと思ってしまいます。最近では、お弁当とか内食が増えてきてはいますが、それでも、朝食抜き、昼は定食を15分、夜は同僚と上司の悪口を肴に居酒屋で一杯、というのが伝統的スタイル・・・これでも長寿大国です。

それぞれの国民性に合った食事のスタイルで、健康と長寿を実現していけばいいのではないか、ということなのでしょうね。フランス人はフランス式で、日本人は日本式で・・・もちろん、他国の参考にすべきところは取り入れながら、ということですね。ただし、アメリカ式にいいところがあるのかどうかは、肥満度を見せつけらた後では「?」ですが。
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2012年、勝つのは誰だ!

2010-09-23 20:41:59 | 政治
来年のことを言うと鬼が笑う・・・そんな悠長なことは言っていられないのが政治の世界。選挙が終わると、次の選挙へ向けてもう競争が始まる。2007年に当選したサルコジ大統領の任期は5年。2012年春に次の大統領選挙が行われます。

日本の国会議員の場合、特定の団体・組織に支援され、選挙の心配のない議員を除いては、国会開催中でも金帰月来、選挙区に張り付いていることが大切と言われていましたが、今は少し変わってきているようですね。フランスでも、トップを目指さない議員たちは、とにかく選挙区に張り付いています。以前ご紹介したように、選挙区での顔つなぎを優先し、審議を欠席した与党議員が多くて、与党提案の法案が否決されてしまったほど。

その点、直接選挙によって選ばれる大統領職ともなれば、フランス全土が選挙区。“omnipresent”、どこにでも顔を出し、しかも、国家の代表として、世界の政治シーンでもリーダーシップを発揮しなければならない。かと思えば、プライベートを追いかけるパパラッチもいる。気の休まる時がないのではと思いますが、これくらいのプレッシャーで音をあげるようでは、はじめから大統領になんか立候補すべきではない、ということなのでしょうね。

そこかしこから飛んでくる攻撃の矢などどこ吹く風、猪突猛進しているサルコジ大統領ですが、支持率は、何回もご紹介しているように、30%ほどと長期低迷状態。これで、2012年、勝てるのだろうか。そうした懐疑的な声が与党からも出ています。最新の世論調査の結果やいかに・・・14日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

“Le Parisien”(日刊紙『パリジャン』)の依頼で“CSA”という調査会社が行ったものです。『ル・モンド』、最近、『パリジャン』からのデータ引用が多いですが、経営は大丈夫なのでしょうか。

さて、調査結果ですが、まずは、与党UMP(国民運動連合)を中心とした右派の大統領候補にふさわしいのは誰か?

・Nicolas Sarkozy     :15%
・Dominiques de Villepin  :15%
・François Fillon     :13%
・Alain Juppé       : 7%
・Jean-François Copé    : 5%

現職のサルコジ大統領と同じ15%の支持を集めているのは、シラク前大統領の側近、ド・ヴィルパン氏。外相時代にイラク開戦に反対し、国連でも立派な論陣を張り、有名になりましたね。その優雅な物腰、整った顔立ちで女性を中心にファンが増えました。しかし、その後の首相在任中、パリ郊外での移民を中心とした暴動の対処に手間取ったことや、若年層の雇用拡大のため、26歳以下の被雇用者は雇用2年以内なら理由なしでも解雇できるという「初期雇用契約」(CPE:Contrat première embauche)を導入しようとしましたが、すさまじいデモ・ストライキに遭い、撤回したこと。こうした経緯から、ジャック・シラクの後を継いで大統領になることができませんでした。しかし、今年、2012年を狙って、独自のグループ「共和国連帯」(Republique solidaire)を立ち上げました。

3位は現職のフィヨン首相。就任当初は、どこにでも登場するサルコジ大統領の陰に隠れ、首相はどこへいった、などと揶揄されていましたが、堅実で落ち着いた対応がやがて国民の信頼を得るようになり、人気(支持率)ではサルコジ大統領を上回っています。しかし、大統領としては、押し出しが弱いということでしょうか、わずかに大統領を下回っています。

4位のジュペ氏もシラク側近で、1995年から97年に首相を務めています。シラク大統領が自分の後継に、と考えていた人物です。何しろ、学業優秀。高等師範学校(Ecole normale supérieure)、パリ政治学院(Institut d'Etudes Politiques de Paris:通称Sciences-Po)、国立行政学院(Ecole nationale d'administration:通称ENA)という名門校を3つも卒業。今はボルドー市長の職にあります。フランスの政治家は兼職ができるので、国会議員と市長を兼ねる人も多く、シラク前大統領はパリ市長を、サルコジ現大統領はパリ西郊、富裕層の多く住むヌイイの市長を長らく務めていました。ただし、ジュペ氏は前回の下院選挙で落選していますので、現在は市長職だけです。

5位に名が挙がっているコペ氏。現在、与党(UMP)の幹事長職にあります。1964年5月5日生まれですから、まだ46歳。小沢一郎氏が自民党の幹事長になったのが47歳ですから、それより若い! 国による違いがありますから、一概には言えませんが、次代を担う政治家の一人であることは間違いありません。ラファラン首相やド・ヴィルパン首相のもとで、政府の要職も務めてきました。本人は、次の次、2017年の大統領選挙を狙っていると言われています。2012年以降、コペという名前をあちこちで読んだり聞いたりすることになるかもしれません。パリ政治学院とENAを卒業。母親はアルジェリア出身、父親がルーマニア出身の外科医で大学教授。ユダヤ系ですが、宗教には熱心でなく、政教分離の典型だと言っています。今のフランスを代表するようなバックグランドですね。

さて、もうひとつの質問は、サルコジ大統領と社会党(Parti socialiste:PS)候補の決選投票になった場合、どちらに投票しますか。

・PSの候補がMartine Aubryの場合  50対33でAubryの勝ち
・   Dominique Strauss-Kahnの場合  56対25でDSKの勝ち

いずれの場合も、サルコジ大統領の敗北です。

PSの最初の候補は、女性のマルチーヌ・オブリ。現社会党第一書記です。2008年11月、オランド第一書記の後継を巡って、2007年の大統領候補だったセゴレーヌ・ロワイヤル氏と熾烈な選挙戦を展開。僅差で勝利しました。1990年代、ジョスパン首相や日本人を「黄色いアリ」(fourmis jaunes)呼ばわりしたクレソン首相のもとで、閣僚を経験。長年、リール市長も兼ねています。父は、経済学者にして政治家のJacques Delors。1985年から10年間、欧州委員会(EC)の委員長を務めた、あのドロール氏です。2004年に前夫と離婚しましたが、政治活動に当たっては、前夫の苗字(Aubry)を使い続けています。弁護士のBrochen氏と再婚しています。

PS、もう一人の候補は、ここ数年、経済面でおなじみのドミニク・ストロス=カーン氏(頭文字をとって、DSKと呼ばれています)。現IMF専務理事。社会党員でありながら、サルコジ大統領の推挙で2007年11月にIMFのトップに就任。法律の博士号と経済学の大学教授資格を持つ学者でもありますが、親しみやすい風貌から、フランス国内でも人気があります。最近の調査では、どの結果も、DSK対サルコジなら、DSKの勝利と出ています。しかし、問題が。IMF専務理事の任期が2012年10月末まであることです。大統領選は2012年春。この問題をどう解決するのか。早期辞任して立候補するのか、2017年を目指すのか、大統領の椅子ではなく、IMFのトップの座で長期政権を作るのか・・・

次の大統領選挙まで2年を切って、何かと騒がしくなっているフランスです。一方日本は、言うまでもなく毎年首相が交代して、ドタバタ、あたふた。いつまで続くやら・・・
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思いは複雑、EUとユーロ。

2010-09-22 19:46:22 | 社会
EUの単一通貨「ユーロ」が誕生して、10年。ヨーロッパの人々は、この通貨をどう見ているのでしょうか。10年ひと昔・・・「ユーロ」が生活の隅々にまで浸透し、改めて話題にするまでもないのか、昔の自国通貨に戻りたいという郷愁の念に駆られているのか、はたまたギリシャ危機は人々の気持ちにどのような影響を与えているのか・・・15日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

“German Mashall Fund”(GMF)という経済を中心に大西洋を挟んでの欧米関係を調査しているアメリカの団体が、ユーロに対してヨーロッパ人がどのような気持ちを抱いているのかについて調査。その結果を発表しました。内容は・・・

ユーロには不満だ! ヨーロッパの経済に不利益をもたらしている! と回答した人が実に57%に上るそうです。不満に思っている人が最も多かったのがフランスで、60%。危機に陥ったギリシャへの支援で最も重い負担を強いられることに不満を抱いているドイツの53%を上回っている。これは不思議だと記事は述べていますが、何事も疑ってかかる傾向の強いフランス人、フランスが中心でないと気が済まない傾向にあるフランス人のこと、この程度の不満票はあってしかるべきと思うのは、外国人だけなのでしょうか・・・

GMFは毎年ヨーロッパで定点観測を行っていますが、ユーロに対する満足度について聞いたのは今年が初めてなので、57%が増加した数字なのか、減少したのか、時系列的判断はつかないそうです。

GMFの分析担当者は、もう少し詳しく次のように述べています。調査対象者全体の57%が不満を表明したということは、ユーロ圏にかなりのフラストレーションが溜まっているということだ。しかし、この数字を拡大解釈してはいけない。ユーロ加盟国は、ユーロ圏から離脱し、元の自国通貨に戻る心の準備さえできていないのだから。今年5月、この質問をフランス、ドイツ、スペインでぶつけてみたが、圧倒的多数が「ノン」と答えたのだ・・・もはや後戻りはできないということなのでしょうね。

ユーロ圏外では、ユーロに関して懐疑的意見が圧倒的だったそうです。とくにイギリスでは、83%がユーロ採用に反対。2015年をめどにユーロを採用する予定のポーランドでも、過半数の57%がユーロを評価していないそうです。

このように、「ユーロ」はヨーロッパの人々に良いイメージを持たれていませんが、EU自体については前向きな意見が多くなっている。EUが直面している経済危機は、かえってEUの結束を高めることになると57%の対象者が答えていたそうです・・・

強大国・アメリカの存在、そして中国、ロシア、インド、ブラジルなどの新興国の台頭。ヨーロッパの存在感を強固にするためには、EUとして結束することが必要なことは分かっている。そのためには共通通貨も必要なのだろうとも思っているが、かつての自国通貨への郷愁、自前の通貨への憧れは、いかんともしがたい・・・そんなところでしょうか。

翻って、アジア。ユエン、ウォン、エン・・・これらがまとまって一つの共通通貨になる。こうした仮定は、なかなか想像することすら難しいですね。アセアンはもしかするとできるかもしれない。しかし、中国・韓国・日本が共通通貨を持つことは・・・これら3カ国が共同歩調を取れたら、その影響力は非常に大きなものとなるのでしょうが。そうはさせじと動く勢力が、域内にも域外にもいそうですね。アジアの世紀・・・各国が半ば反目しあいながら切磋琢磨するしかないのでしょうか。協力し合えると、もっと楽な歩みになると思うのですが・・・
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テレビ映りが肝心ですね、大統領閣下。

2010-09-21 19:34:32 | 政治
9月14日、サルコジ大統領は、パリの南東15kmのところにあるVilleneuve-le-Roi(ヴィルヌーヴ・ル・ロワ)を訪問。目的は、900戸のアパルトマンという大規模な住宅建設現場を視察することでした。大統領が動けば、メディアが後を追います。夜のニュースでその映像が流される。翌日の新聞には、写真が掲載される。良くある話なのですが、事前にちょっと変わったお願いが大統領府から建設を請け負っているディベロッパーに届いたそうです。そのお願いとは・・・

14日のル・モンド(電子版)が伝えています。

現場で働いている作業員の中から、移民であること、勤務ぶりが模範的であること、いかにも成功した移民といったイメージをもっていること、という条件に合致する社員を選んで、大統領がメディアの取材を受ける際に、大統領から5m以内のところに立たせてほしい!

ディベロッパーの経営陣は、こうした依頼は受けていないと否定していますが、現場の責任者が認めてしまっています。

ロマや不法移民の国外追放などで、一部に大きな反発がある中、国民との関係を修復したい大統領にとっては、いかにも移民といった作業員と和気あいあいとした雰囲気を醸し出すことによって、移民への強硬な政策に対する反感も一時的にせよ和らげ、国民感情を幾分なりとも落ち着かせることができるのではないか。そんな計算があったのではないでしょうか。現代の政治家は、イメージ戦略、メディア戦略をなおざりにはできません。フランスとて、事情は同じようです。

しかし、サルコジ大統領が、視察先に依頼をするのは、実はこれが初めてではないんですね。以前、どんなキャスティング(castings)をしていたかというと・・・


2009年の夏、オバマ大統領がフランスを訪問した際には、与党・UMP(国民運動連合)の支持者の中から人選をし、フランスの庶民代表として二人の大統領の前に立たせたそうです。でも、これくらいはどこの国にもありそうですね。さすがサルコジ大統領、というキャスティングは、この後、出てきます。

2009年9月に自動車部品メーカーの“Faurecia”を訪問した際には、背の低い従業員を大統領に周りに立たせるようにという依頼があったと、従業員が取材したベルギーのテレビ局に語っています。大統領府は、もちろん、そんなばかげたことをするわけがない、と否定をしていました。

今年に入ると6月22日、フランス南西部、ピレネーの麓に近いボルド(Bordes)の町にある、ヘリコプターや飛行機に搭載されるタービンの世界的メーカー・“Turbomeca”を訪問。その際には、大統領府の係員2名が先遣隊としてやってきて、大統領の周囲には身長1m70cm以下の人だけを集めるように指示。一方で、優秀な女性のエンジニアは遠ざけられてしまった。なぜなら、彼女の身長は、1m85cm。会社の経営陣はこの件を否定していますが、従業員が、メディアにしっかり証言しています・・・

良く言えばエネルギッシュ、悪く言えば独断専行、そして身長の低いことから、サルコ・ナポレオンなどと言われていますが、ちょっと調べてみると、この名前、ナポレオンに失礼なようです。ナポレオンの身長は1m67cmだったと言われており、今日のフランス人男性の平均身長=1m75cmから背の低い男だったと思われていますが、ナポレオンが生きた時代のフランス人男性の平均身長は1m60cm以下だったというデータもあり、ナポレオンはむしろ身長が高かった。一方のサルコジ大統領は、160cm台前半と言われていますので、明らかに背が低い!

サルコジ大統領は背の低さがやはり気になるのでしょうね、上げ底靴を履いているとかいろいろ言われていますが、カメラ映りを気にして、周囲を背の低い人たちだけで固めているようです。イメージが大切。気苦労が多いようですね。

しかし、何でもかんでも自分でやろうとし過ぎると言われ、“omnipresent”、神出鬼没な大統領とか言われていますが、各地の現状も自分の目で実際に見ようとしています。現実から遊離してしまわないという意味では、いいことなのだと思いますが、もう少し、じっくりと政策を練ってもいいのではないかとも思えてしまいます。あまりにも現場に行っているのでは、現場第一主義の日本の経営陣と同じです。

日本はボトム・アップの社会ですから、現場の発想が大切で、社長もいかに現場に近いかを競っている。従って現場での改善・改革がうまく、現場のクォリティは非常に高いのですが、大きなビジョン、戦略が弱点になっている。一方フランスなど欧米各国は、トップダウンの社会。しっかりとした戦略をトップが構築し、それを現場に落とす。ただし、現場の質に「?」がついてしまうのが残念。

どうもサルコジ政権、日本型に近いのかもしれません。ENA(Ecole nationale d’administration:国立行政学院)出身でないため、フットワークと現場感覚で勝負しようとしているのでしょうか。しかし、現場にいるのは、国民に近いということを印象づけるイメージ戦略でしかなく、国民との意識の共有はできていないようにも思えます。2005年にパリ郊外などで発生した暴動の際には、参加者を「人間の屑」(la racaille)呼ばわりし、2008年の農業見本市の際には親サルコジではない来場者と言い争いになり、「それなら、お前が失せろ。この野郎」(casse-toi alors pauvre con)と喚きました。

本音丸出しで、ブルドーザーのように猛進するサルコジ政権・・・やはり、ちょっと異質なのかもしれないですね。でも、その馬力と迫力、今日のわが国で求められているような気がしませんか。
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いつまで続くのか、フランス・テレコム社員の自殺。

2010-09-20 17:48:25 | 社会
ここ数年、フランス・テレコムと言えば自殺、と連想されてしまうほど、社員の自殺が社会問題となっているフランス・テレコム。最近もまた、わずか2週間で5人もの自殺者が出たそうです。10日のル・モンド(電子版)が伝えています。

ちょっと前に日本の自殺についてご紹介しましが、今度はフランスの自殺。続けての話題で恐縮ですが、それだけ生きにくい世界になっているということなのかもしれません。

今回の5人を加えて、今年に入ってからのフランス・テレコム社員の自殺は23人。未遂も16人に上っています。フランス・テレコムが大変だ、危機だ、と大騒ぎされた2008年、2009年ですら、自殺者はそれぞれ17人、18人だったわけですから、今年さらに大幅に増えたことになります。

ここ2週間で自殺した5人には、退社後に橋から身を投げた人が1人いますが、会社内で自殺した人はおらず、仕事と自殺の因果関係はまだ調査中だそうです。しかし、妻を自殺で亡くした男性が会社を糾弾するメールを送付。そのEメールが社内を駆け巡り、同情と動揺をもたらしているそうです。

国営企業として独占的に事業を行ってきたフランス・テレコム。それが、株100%を国家が保有するとはいえ、株式会社化され、規制緩和により厳しい国際競争に巻き込まれた。その競争に打ち勝つには・・・どこでも同じですが、社員数削減と組織改編というリストラ。突然、初めての職種への異動、300㎞も離れた職場への転勤。そこは、見知った人もいない職場。そして、厳しいノルマを課される・・・

以前がぬるま湯過ぎた、過保護だったんだ、と言われれば、それまでなのですが、当事者たちにとっては、想像だにしていなかった激変。大きなストレスを抱え込むことになり、やがてうつ病に。精神安定剤や抗うつ剤のお世話になり、そしてついには・・・

自殺者の多さが社会問題となるにつれ、国も手を拱いているわけにもいかなくなり、経営陣の一部入れ替えを行い、鎮静化を図りました。こうした政府系企業の経営陣の交代、ENARQUE(ENA:国立行政学院の出身者)を中心とした高級官僚の玉突き人事が多いのが特徴ですね。

新たに加わった経営陣の中で、特に大きな役割を果たしているのが、ステファン・リシャール(Stéphane Richard)。昨年9月に国際事業担当役員としてフランス・テレコムに加わり、10月には国内部門の最高責任者となり、今年の5月からは社長。組合側も、リシャール氏がトップに就いて以降、昨年までのような動揺は社内から消えつつあることは認めています。労使の話し合いも再開されたし、強制的な異動は凍結され、組織再編も縮小されている。

しかし、ここにきて、新たな方針が発表されました。“It’s time to move”・・・フランス企業でも、スローガンに英語を使っている。ビジネス上の共通語は、明らかに英語ですね。このプログラムでは、管理職は3年ごとに異なる職種、異なる職場に異動することになります。

組合側も、一般社員の強制的異動は抑えられているが、管理職がストレスを抱え込めば、そのことが職場の雰囲気に何らかの影響を与えるかもしれないと危惧。しかも、経営方針が全く一新されたわけではない。以前のように大っぴらに公表されてはいないが、こっそりと、少しずつリストラが進行している、と警鐘を鳴らしています。

社会党をはじめ、左派がまだそれなりの議席を獲得し、組合が強いフランス。デモやストがいまでも頻繁に行われます。それでも、リストラによる死者が後を絶たない。人生と仕事。国際大競争の時代と言われます。競争で進歩するものもあるでしょう。進化のためには、競争は否定できません。しかし、同時に、人生について、人の心についても考える必要があるのではないでしょうか。大競争の中で、あるいは大競争の後の世界で、人はどう生きて行くべきなのでしょうか。何に価値を見出すべきなのでしょうか。心について考える人、そうした人たちからの声に耳を傾ける機会、そうしたものを失ってはいけないのではないでしょうか。特に、日本において。なにしろ、防衛省・自衛隊で毎年100人前後の自殺者が続いていると報道されているほどの国なのですから。
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彼も人の親だね、では済まされない話。

2010-09-19 20:25:43 | 政治
日本でいえば警察庁長官に当たる“le directeur général de la police nationale”の職にあるペシュナール氏(Frédéric Péchenard)が、取り調べを受けた息子の件をもみ消した、という話題が、16日のル・モンド(電子版)に出ていました。

事の発端は、1年半も前。2009年2月17日の深夜、シャンゼリゼを走っていた1台のスクーターが停止を命じられました。大声を出していたか、蛇行運転をしていたのでしょう、酔っ払い運転の疑いでした。そして、実際、酔っ払い運転をしていたことが判明。しかも、運転をしていた若者は停車を命じた警察官に悪態をついた。ろくな仕事してないな、お前なんか交通整理の係に異動させてやる!

その若者は、取り調べのために、8区の警察署に連行されました。しかし、すぐに釈放されてしまった。身元引受人が現れたからです。その身元引受人が、ペシュナール氏。留置されそうになった若者は、警察庁長官の16歳の息子でした。

長官は侮辱された警官と一対一で会い、話をつけたようです。そして、息子を留置しないように、検察の当直者にこの件を伝えないように、この件は忘れるように、と命じると、息子を伴って警察署を後にしたそうです。

1年半も前の事件が今頃になって表沙汰になったのは、日刊紙“Le Parisien”(ル・パリジアン)が警察署の内部資料と関係した警官の証言を記事にしたため。警察庁長官の周辺は、もちろん、この件について否定し、提訴を取り下げさせたこともないし、事件を葬り去ったこともない、と言っているそうです。しかし、2通の調書の抜粋と取り調べの際のメモが新聞紙上に公開されてしまっている・・・

飲酒運転と警官侮辱の罪で現行犯逮捕された場合、一般的には、禁固2年半と7,500ユーロ(約82万円)の罰金に処せられるそうです!

明らかに、職権乱用、ですね。しかし、我が子かわいさで、深夜にもかかわらず、自ら身柄を引き受けに来た。警察庁長官といえども、人の親・・・

彼も人の親だね、とかよく言いますが、フランス人も「人の親」では人後に落ちないようですね。警察庁長官しかり、そして、おなじみ、サルコジ大統領しかり。

昨年の秋、サルコジ大統領は、自らの次男を要職につけようとして、すさまじい反対・バッシングに会い、結局撤回しました。次男の名は、ジャン・サルコジ(Jean Sarkozy)。1986年9月1日の生まれですから、今年24歳。父親に似ず、長身のイケメン。すでに、大手家電量販店“DARTY”のオーナー令嬢と結婚しています。しかし、おつむの方は父親似なのか、高校卒業後、グランゼコール入学を目指して、名門校“Henri Ⅳ”(アンリ4世校)の準備学級に入りましたが、途中で断念。パリ第1大学の法学部に入学しましたが、2年から3年への進級に2年連続で失敗。去年の秋、まだ大卒の資格を得ていませんでした。

そんな状態で、サルコジ大統領は、わが子をパリ西郊・デファンス地区の開発を一手に引き受けているEPAD(Etablissement public pour l’aménagement de la région de la Défense)という公社のトップにつけようとしました。この組織、莫大な予算を握っています。なんとなく匂ってきますね。もちろん、マスコミをはじめ世論は大反発。経験も才能もない若造が、どうしてこんな大切な職に就けるんだ!

前任者は65歳の定年で退職しました。経験に裏打ちされたしっかりとした見識が求められる地位のようです。そのポジションに大学を卒業するのにさえ苦労している23歳をつけようとした。誰だった驚き、怒りますよね。“népotisme”・・・縁故主義とか依怙贔屓とかいった意味ですが、まさにその通りですね。

サルコジ2世は、その後、パリ西郊・ヌイイ市を地盤に、Hauts-de-Seine県の県会議員になるとともに、EPADの取締役になっています。どうしても、EPADのトップの座を狙いたいのでしょうか。

日本の政界でも世襲議員が多いですね。実力があればいいのですが、ただ政治家の息子だからというだけで、地盤・看板・かばんを引き継いだとすれば、国にとって、そして私たち国民にとっていい迷惑ですよね。しかし、議員の椅子を譲る親も、やはり「人の親」の気持なのでしょうか・・・

人の親の心は闇にあらねども子を思う道にまどひぬるかな(藤原兼輔:後撰集)
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