ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

闘牛は伝統文化か、動物虐待か?

2010-07-31 21:30:23 | 社会
ご存知のように、スペインのカタルーニャ州自治政府は、州内での闘牛を2012年から禁止する法律を可決しました。闘牛と言えば、スペインの国技として位置付けられており、メリメ(Prosper Mérimée)の『カルメン』(Carmen)をはじめ多くの作品で描かれています。カナリア諸島ではすでに禁止されていますが、スペイン本土では初めての禁止。1,000年以上の歴史を誇る闘牛が、行われなくなってしまう・・・

しかし、あくまでカタルーニャ州内だけの話。ほかの地域では、引き続き行われるのですが、今回の禁止の決定には、カタルーニャはカタルーニャであり、スペインじゃない、何も無理してスペインの伝統を守っていく必要はない、という意識もあったのかもしれないですね。

カタルーニャだ、バスクだ、アンダルシアだ、カスティーリャだ・・・こうした地域主義が、スペインの国としてのまとまりを阻害しているような気がします。その典型がサッカー。クラブチームは強いのに、スペイン代表は、いつも前評判倒れ。選手たちが出身地ごとにまとまって、すぐ内紛・・・無敵艦隊と言われながら、なかなか優勝できませんでした。それが、ユーロ08で優勝、そしてW杯2010で優勝! その背景には、選手たちの国際化があったのではないかと思います。スペイン国内ではなく、イングランドをはじめ国外のチームでプレーする選手がふえた。海外から見れば、カタルーニャもカスティーリャもない。あるのは「スペイン」。そのことに気づけば、代表チームで内紛なんかしていられない。出身地域に関係なく、チームプレーに徹し、勝利を目指しますよね。その結果の優勝なのではないかと、ひそかに思っています。

さてさて、スペインから、話題はフランスの闘牛へ。フランスでも、闘牛は立派に行われています。しかし、動物愛護団体をはじめ、反対の声も大きくなっています。そこへ、カタルーニャ州での闘牛禁止の決定。どのような反応があったのかを含め、フランスの闘牛について簡略にまとめた記事が、28日のル・モンド(電子版)に出ていました。

スペインから入ってきた闘牛がフランスで行われた最初の確かな記録は、1853年8月21日、スペイン国境に近い大西洋岸の町、バイヨンヌ(Bayonne)でのもの。フランスでは、憲法で家畜やペットなどへの虐待は禁止されていますが、地域において絶えざる伝統を有する雄牛の競技は例外になっています。つまり「伝統的な」という点において、闘牛は、今でもフランスで禁止されずに行われているわけです。新しいものには警戒心を抱くが、ひとたび「伝統」になったものはしっかり守っていく・・・いかにもフランスらしい一面ですね。

そして、もう一点、地域における伝統の「地域」ですが、2000年4月3日、トゥールーズの控訴院(高裁)が闘牛を許可するエリアを明確に規定しました。アルルとバスク地方の間、地中海と灌木エリアの間、ピレネー山脈とガスコーニュ地方の間の、南仏。つまり、アキテーヌ(Aquitaine)、ミディ・ピレネー(Midi-Pyrénées)、ラングドック・ルシヨン(Languedoc-Rousillon)、プロヴァンス・アルプ・コートダジュール(Provence-Alpes-Côte d’Azur)の4地域圏においてのみ、闘牛の開催を許す、という決定です。

これら南仏地方においては、闘牛は単なる伝統であるだけではなく、経済的効果ももたらしているそうです。有名な闘牛士による1時間半のパフォーマンスは、テレビの放映権を除いても、10万ユーロ(約1,100万円)の収入をもたらすそうです。そして、なんといっても、経済的貢献が大きいのは、観光。ニーム(Nîmes;デニムの語源になった町ですね)の市長曰くは、闘牛を中心にしたお祭りの期間、100万人もの観光客がやってくる。しかも、年々若い人が増えている。

経済貢献の大きい闘牛。しかし、その文化的側面を見逃すわけにはいかない・・・これまた、いかにもフランスらしいですね。いかなる事象にも、「文化」を見出す。例えば、アルルの円形競技場長は、闘牛は我々アルルのアイデンティティを色濃く反映するものだ、と述べているそうです。そして、闘牛の愛好者には、文化人も多い。ヘミングウェイ、ピカソ・・・もちろん政治家の中にも。先の大統領選挙の際の社会党候補、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)女史は、闘牛は素晴らしいショーだと公言しています。

もちろん、言うまでもなく、動物愛護などの立場から闘牛に反対している人たちもおり、カタルーニャ州の闘牛禁止の決定に、大喜びしています。テレビ局“France 2”のニュースでは、動物愛護運動の先頭に立つブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)の嬉しそうなコメントも流されました。また政界でも、闘牛と闘鶏の禁止法案を提案した58人の議員たちは、カタルーニャ州の決定は、フランス議会にも大いなる刺激となる、と述べています。

ここで、面白いのは、この58人の議員には、与党UMP(国民運動連合)の議員も、野党・社会党の議員も含まれていることです。超党派での法案提出。フランスでは、よく見かけます。基本的な政治信条が近い党に加入はするが、すべて党の決定に従うわけではない。党派を超えて同調者がいれば、肩を組むこともあり得る・・・アメリカの共和党と民主党の間でも、しばしば見受けられますね。日本では、少ないような気がします。どちらかと言えば、逆に党議拘束をかける場合が多いのではないでしょうか。良く言えば、チームワーク、一致団結。悪く言えば、個性が埋没する、自分が消えてしまう、顔が見えない日本人、右に倣えのミートゥ―(me, too)日本人。しかし、自由の許容範囲は、それぞれの国民にとって、居心地のいいところで決まっているのでしょうから、どちらが良い悪いということではないと思います。それぞれの国に、それぞれのフリーハンド枠。そして、もちろん、どこの国にも、その国の自由度に不満を感じる人はいるのでしょう。

さて、与野党議員の共同提案による闘牛・闘鶏廃止法案、2004年以来3度目の提案なのだそうですが、今まで一度も国会の議題にすら挙がっていないとか。その理由は・・・「伝統」を守ろうという意識、闘牛や闘鶏を行っている団体によるロビー活動、国会議員の中にいる愛好者。

伝統を大切にする国・フランスでは、立派に伝統の一つとなっている闘牛は、そう簡単に禁止されないようです。闘牛愛好者よ、カタルーニャがだめなら、南仏があるさ! と言ったところでしょうか。

未来は「風」の中に。

2010-07-30 21:13:51 | 社会
各国、各地で続く、猛暑、洪水、異常低温・・・こうした異常気象は、環境を破壊されつつある地球からの危険信号なのでしょうか。我らが母船「地球号」が、危ない。

そこで、環境破壊の要因の一つ、温室効果ガスの排出を低減しようと、様々な取り組みが進められていますね。クール・ビズに協賛し、社員はノーネクタイにさせていただきます、と言いながら、店内は思いっきり冷房を効かせ続けているショッピング・モールなど、本当に環境について考えているのか、表面だけトレンドに乗っているのか分からない例も見られますが、真剣に取り組んでいるところも多くあります。

例えば、発電。再生可能エネルギーの活用にも多くの取り組みが行われています。太陽光、風力、潮力、地熱・・・そのうちの風力発電について、先進国・デンマークの例を27日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

ウィキペディアによると、2008年末時点での風力発電所の累積設置容量は、アメリカをトップに、ドイツ、スペイン、中国、インドと続き、デンマークは9位。フランスは7位ですから、フランスのほうが風力発電の設置容量は大きいのですが、デンマークが進んでいるのは、洋上発電所。風力発電所の周辺では低周波の騒音問題が発生したりしますが、洋上に発電所を建設すれば、こうした公害問題も解決できる、ということなのでしょうね。

ル・モンドが紹介しているのは、デンマーク西部の沖合30kmにある“Horns Rev 2”という洋上風力発電所。2009年9月の運転開始以来、91基のタービンが昼夜を問わず回転を続け、209MW(メガワット)の発電を行っている。

沿岸に少し寄ったところには、2002年に運転を開始した“Horns Rev 1”があり、こちらは、80基のタービンが160MWを発電している。

こうした洋上風力発電所は、再生可能エネルギーの活用を30年来、推進し続けているデンマークの政策を示す好例であり、政治的意思、行政の簡素化、地元住民の協力がかみ合って、達成されたものだ、と伝えています。

デンマークで使用されている電力の22.0%は、風力・地熱・潮力発電からのもので、フランスの1.5%とは大きな開きがある。しかし、デンマークもこのレベルに一朝一夕に達したわけではない。国を挙げての取り組みがそこにはあった。スタートは地域の協同組合などによる、地上に設置された小さな風力発電装置。こうした運動を政治が後押しした。風力発電所建設プロジェクトに地域住民が参加できるようにし、また地域の団体が発電所建設のフィージビリティ・スタディを行う際の資金援助も政府系の基金が行っている。結果、地域住民の参加意識も高まり、再生可能エネルギーと言えば、90%のデンマーク人が風力発電と答えるほどになっているそうです。

また、洋上に風力発電所を建設するとなると、反対運動が予想されるのが漁業従事者。なにしろ、“Horns Rev 2”の広さは、35km2。漁場へ与える影響も大きいはず。しかし、デンマークの漁民たちは、計画に反対せず協力する代わりに、当初の計画より影響の少ない場所に建設場所を変更させるとともに、100万ユーロ(約1億1,000万円)の補償を手に入れました。大人の対応、と言えるのかもしれませんね。

そして、このプロジェクトのもう一つの成功のカギは、手続きの簡素化。関係するいくつもの省庁や機関の窓口を一本化。場所の選定や環境への影響調査から入札までを、ひと所が担当し、効率的な作業を実現したようです。

さらには、洋上風力発電所の建設と運転は、デンマークの産業と雇用に好影響を与えています。風力発電関連の技術・製品は、デンマークの輸出高の10%を占めるまでになっており、雇用の創出にも貢献しているとか。

デンマークの風力発電の設備を製造しているのは、“Vestas”というデンマークの企業なんだそうですが、その技術力には定評があり、世界中に輸出されている。イギリス沖に建設される洋上風力発電者事業、請け負ったのはドイツのシーメンス社なのですが、その設備にはVestas社製のものを使うそうで、デンマークの技術が信頼されている証左の一つになっているようですね。

フランスがようやく洋上風力発電所事業の第一歩を記そうとしているのに対し、デンマークでは、政府の補助金にも助けられ、既存の設備を最新のものに交換するプログラムをすでに始めている。デンマークの産業界は、最も大規模な洋上風力発電所と最も強力な発電設備に、自らの豊かな明日の姿を見ているようだ・・・ル・モンドの記事は、こう結んでいます。

この記事を書いた記者は、かなり、風力をはじめ太陽光、地熱、潮力などの再生可能エネルギーに信頼を置き、その活用に後れを取っている自国にいら立っているようですが、それでも冒頭に紹介したように、累積設置容量で、フランスは7位。1番じゃないと気が済まないのでしょうか。2番以下じゃダメなんでしょうか・・・日本は、13位なんですが。

でも、フランスには、原子力発電があります。発電量のおよそ80%が原子力発電で賄われているほど。しかも、原子力発電設備のメイン・プレーヤーの一つが、フランスの“Areva”社であることは有名ですね。最近は、このAreva社とフランス電力公社(edf;Électricité de France)が資本面での提携強化を政府主導で模索しているようです。いずれにせよ、発電から、送電、配電までを一貫して請け負い、受注・輸出を増やそうと躍起になっています。

日本も発電量全体に占める原子力の割合が約30%と高くなっています。また、日本で風力発電があまり普及しないのは、台風の際の強力な風力に対応できる設備の開発が難しいこと、風車(タービン)を設置できる平地が少ないことなどが理由なのだろうと指摘されています。その分、日本には、地熱や潮力など、利用できそうな再生可能エネルギーが多くある。それをうまく活用できれば、環境にもいいですし、なんといっても原油の輸入大国から電力の輸出国へ転換することも可能なのではないでしょうか。温泉地を中心に全国あちらこちらで利用できそうな地熱、そして海に囲まれた島国であればこそ、いたるところにある潮力・・・活用できるかどうかは、政治の意思、行政の簡素化、そして住民の協力。デンマークに学ぶべきは、フランスよりも日本なのではないか、そう思えて仕方がありません。

電子書籍の普及は、印刷本を超えたか?

2010-07-29 20:06:10 | 文化
アマゾンの電子ブックリーダーであるキンドル(Kindle)、このデバイスを使って電子書籍を読む人が増えているそうです。アマゾンを通して購入された電子書籍の部数が、ついに印刷された単行本の部数を上回った、とアマゾンが発表しました。先月には1.8倍にもなった。もちろんアメリカでの話ですが、いずれにせよ、時代の大転換点だ、とアマゾンは大きな勝鬨をあげています。

しかし、ここで、「ちょっと待て」と声をあげたのが、やはり、フランス。22日のル・モンド(電子版)によると、アマゾンの発表した数字は、一部分だけを取り出したもので、現状を正確には示していない。デバイスである「キンドル」自体の売り上げも、7月1日に259ドルから189ドルに値下げして以来、3倍に増えていると発表しているが、正確な販売台数を公表しようとしていない。公表できないということは・・・当然、良くはないのだろうと推測できますよね。

ル・モンド曰くは、アマゾンは、電子書籍化が進んでいるというイメージを植え付けるために、都合のいい数字だけを発表している・・・アメリカの出版業界によると、2009年に発売された書籍全体に占める単行本のシェアは35%で、文庫本のシェアが56%、電子書籍は3%にすぎない。短期的に、電子書籍の売り上げ部数が単行本を上回ったからといって、それだけで印刷された書籍を電子書籍が超えたとは言えない。大きなシェアを持っている文庫本も、言うまでもなく印刷書籍なのだから。確かに、電子書籍の売り上げは伸びており、2010年の5月の売り上げ部数は、対前年同月比で200%の伸びを示したが、書籍全体のシェアは、まだ8.5%にすぎない。

また、販売部数ではなく、販売額でみると、アマゾンの主張がおかしいことが一層よく分かる。単行本は1冊平均で15~20ドルしているが、アマゾンから購入されている電子書籍の80%は、その価格が9.99ドル以下。特に良く売れている作品は、3~5ドルだ。印刷された単行本1冊の料金で、2~5冊の電子書籍が購入できる。この価格差は当然、企業の業績にも影響を及ぼしているはずだが、アマゾンは詳細を公表しようとしていない。ここもおかしな点だ。

ル・モンドは、都合のいい情報を小出しにするのは、アマゾンの常套手段だと、続けています。去年の12月にも、クリスマスの日に、ついにアマゾンの顧客は印刷された書籍よりも電子書籍のほうを多く買うことになる、と言っていたが、実際にはそうはならなかった。

しかし、今回の電子書籍の売り上げ部数が単行本のそれを上回ったという発表には、ある背景がある。それは、競合他社の追い上げ。電子書籍の売り上げが大きく伸びているというアマゾンの今回の発表は、アップルの四半期業績の発表の数時間前。今のところ、電子書籍ではアマゾンに対抗しうる企業は出てきていませんが、今後は、強敵が出現してくる。そのひとつであるアップルの業績発表前に、電子書籍はアマゾン、というイメージを再度強調したかったのかもしれない・・・

今後の強敵たちとは・・・まずは、アップル。音楽や動画用の“iTunes”でユーザーを取り込んだ上で、iPad・iPhone用電子書籍アプリケーション“iBooks”を登場させています。そして、グーグル。ここには電子書籍リーダー“Google Books”があり、この夏には仮想書店“Google edition”を立ち上げると言われています。

もちろん、アマゾンも単に手をこまねいているだけではなく、iPhoneやiPadに対応したキンドルを発売したり、グーグルのアンドロイドを使って携帯でも使用できるキンドルを登場させたりしています。

競争の激化する電子書籍。アマゾン、アップル、グーグル・・・熾烈な競争が展開されそうですが、勝ち抜くのはどこでしょうか。そして、競争があれば、市場は活性化しますから、電子書籍自体の売り上げも伸びていくと思われます。しかし、最後に、ル・モンドはもう一度、しかし、と言っています。アメリカにおいてすら、明日にでも電子書籍のシェアが印刷書籍全体を上回ってしまうという状態ではない。実際、この5月、アメリカでの単行本の売り上げは対前年同月比で、43%も伸びたという。

電子書籍だなんだと大騒ぎしているが、実態は、まだまだ、印刷された書籍の足元にも及ばない。新し物好きのアメリカがどんなに騒ごうと、長い歴史を持つ印刷書籍文化は捨てたものではない。歴史ある文化大国のフランスがしっかりと守っていくぞ! そんな気概が感じられる、ル・モンドの記事です。

9月、ヴァカンスが明けると、一気に数百冊の新刊が書店の店頭を飾るフランス。今年は、どんな話題作が登場するのでしょうか。楽しみですね。

ところで、日本は・・・「印刷業界大手の大日本印刷と凸版印刷は27日、国内で電子書籍ビジネスの発展に向けた環境整備を進めるため、『電子出版制作・流通協議会』を設立した。印刷2強がスクラムを組み、出版業界を巻き込んで国内での主導権を握る構えだ。背景には、インターネットを武器に電子書籍事業を拡大しているアマゾン・ドット・コムやアップル、グーグルなど、米国のIT(情報技術)大手に対する危機感がある。」(27日:時事)

しかし、「印刷や出版社、流通取次、書店と書籍関連のプレーヤーが多く、複雑な業界形態を維持したままで電子書籍に対応できるのか。協議会の調整力が試される。」(28日:フジサンケイ ビジネスアイ)

日本市場での、電子書籍と印刷書籍の戦い、今後どう推移していくのでしょうか。窮鼠猫を噛む、火事場の馬鹿力・・・日本企業の頑張りに期待しましょう。

風吹けば、コピー商品が減る!?

2010-07-28 21:22:54 | 社会
「風吹けば桶屋が儲かる」・・・思わぬ者同士の因果関係を、こんなふうに言ったりしますよね。なぜ風が吹くと、桶屋が儲かるのか・・・ウィキペディアに簡潔に出ています。起源は、江戸時代の浮世草子の一つだそうです。

1.大風で土ぼこりが立つ
2.ぼこりが目に入って、盲人が増える
3.盲人は三味線を買う(当時、三味線は盲人が弾いた)
4.三味線に使う猫皮が必要になり、ネコが殺される
5.ネコが減ればネズミが増える
6.ネズミは桶を囓る
7.桶の需要が増え桶屋が儲かる

思わぬ経過をたどって、意外なところに影響が出る。意外なようでいて、実はこうしたことは、よくあるのかもしれないですね。何しろ、江戸時代からの長い年月、廃れることなく、言い伝えられてきたのですから。

このことわざに近い状況が、22日のル・モンドに短い記事で出ていました。近いと言っても、本家よりは、短絡的ではあるのですが・・・

1.サブ・プライムローン、リーマン・ショックなどにより景気後退
2.給与カットや失業の増加により、購買力後退
3.商品の動きが悪くなるので、貿易量が減少
4.EU諸国の輸入量ももちろん減少
5.輸入量が減れば、そこに含まれる偽造品・模造品の輸入も減少

ということなんだそうです。「不景気の風が吹けば、コピー商品が減る」、ということなんですね。

一昨年の2008年には、EU圏へのコピー商品の輸入が最多を記録。49,381件の摘発があり、1億7,890万点が押収されたそうですが、それが一転、昨年は、43,500件の摘発で、1億1,800万点の押収に減少したそうです。

この傾向は、税関当局が摘発をさぼったわけではなく、かといって、取り締まり対策が功を奏したわけでもないということを、税関当局が認めているとか。要は、貿易量が減少したため、そこに含まれるコピー商品も減少した、ということだそうです。

減ったとはいえ、1億店以上のコピー商品が入ってきている。主な偽造品は、タバコ、衣料品、ブランド品なのだそうですが、健康被害が危惧される医薬品、歯磨き、食品、玩具、家庭用品も大きな割合を占めているそうで、総数が減ったからといって、安心は禁物だ!

では、コピー商品はどこから来るのか。およそ64%が中国から送られてくるそうです。中国の知的所有権(DPI;les droits de la propriété intellectuelle)侵害の主要国としての地位は安泰だとか。しかし、コピー商品の世界にも「新興国」が登場してきているそうです。玩具の分野でエジプトが、医薬品とコンドームはアラブ首長国連邦が、それぞれコピー商品の輸出を増やしている! 中国から中近東へ。コピー商品の勢力図も東から西へと移動しているのでしょうか。ジャック・アタリ(Jacques Attali)がその著書『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界』(Une brève histoire de l’avenir)の中で、世界の中心は常に東から西へと移動している、と語っているのと同じように。

因みに、言わずもがなですが、アメリカ西海岸まで達した世界の中心、1980年代には、ついに太平洋を渡って、日本へ、と世界の多くの人々が思っていたのですが、日本にその気がなく、バブルがはじけるとともに、かつての勢いはどこへやら。日本は、やはり、辺境の国。世界の中心を見つけては、すり寄り、その良好な関係の恩恵に浴することで満足する。ときには、虎の威を借りる。決して、自ら覇道を求めることはしない。それに引き換え、中華の国は、やはり、覇道を求めるのでしょうね。多極化の時代から、中国の世紀へ・・・そう進むのかどうか、今後の推移に注目! ですね。

戦争だ! と叫び続けて、8年。出口は見えず。

2010-07-27 19:43:12 | 政治
フランスでは、今、勇敢な「戦士」が大統領になっているそうです。花の都パリ、馥郁たるワインとグルメの国フランス、文化の華開くフランス・・・そんなイメージが日本ではいまでも根強いですが、その国のトップにいるのは、武闘派。21日のル・モンド(電子版)によると・・・

今月、グルノーブル郊外のラ・ヴィルヌーヴ(La Villeneuve)地区で、強盗を働いたらしい住民が警官によって殺されたことを端緒とする暴動が発生。一晩でクルマ30台が燃やされ、商店が荒らされた・・・もちろん、内相が飛んで行ったのですが、大統領としても、黙っているわけにはいかない。閣議で、(事件の背後にいると思われ、多くの事件を引き起こしている)麻薬密売人たちに対して戦争を開始する、と表明。国内問題で「戦争」(une guerre)とは勇ましい、ショッキングでさえある言葉で、それだけの意気込みなのだろうと思えてしまいますが、ここは気をつけなくてはいけない、何しろ、2002年以来、あまたの戦争宣言をしているのだから、と記事は綴っています。

2002年に、ニコラ・サルコジは内相に就任。2,000名もの警察幹部を集めて、何がなんでも、犯罪を減らさなくてはいけない。これはまさに治安の悪さに対する「戦争」であり、最後に勝利するのは我々だ! と気合の入った檄を飛ばしました。武闘派内相の登場は、拍手喝采で迎えられました。頼れる、政治家・・・ここが、大統領の座への直接的スタート地点になりましたね。

同年10月、ストラスブールで多くの車に火がつけられる騒乱が起きると、現地を訪れ、警察官の増員を発表するとともに、犯罪者を徹底して取り締まる「戦争」を遂行しなくてはならない、とここでも“guerre”を持ちだしました。

翌2003年、不法薬物の取り締まりに関する上院の委員会では、フランス国民が薬物に手を出すことを減らすには、密売人たちへの「戦争」を継続しなければいけない、とまた言及。

同年夏、さらなる「戦争」が。その対象は、悪質ドライバー。交通事故を減らすのも内相の務めの一つなのでしょうね。

でも、ここまでは、よかった。戦う内相として、頼れる政治家として、人気が上がり、大統領への道をまっしぐら。

しかし、大統領に選出されると・・・まずは、麻薬密売人へ情け容赦のない「戦争」を行う、と改めて宣言。続いて、暴力団への「戦争」を宣言。さらには、教育の場でも。教育現場の荒廃に対して情け容赦のない「戦争」を遂行していく、と明言。

今年に入ると、犯人追跡中に殺された女性警官へ哀悼の意を表す際、重罪に対してフランスは「戦争」を始めた、と決意の表明。以前の犯罪は、麻薬取引などの軽犯罪。これからは、殺人などの重犯罪に関しても「戦争」を遂行していく、というわけですね。

次々と、戦線を拡大。これも、当然と言えば、当然ですよね。内相時代は国内の治安がカバー領域でしたが、大統領になれば、すべての分野に対して、コメントを発することができる・・・

問題は、この「コメントを発することができる」ことなんですね。あそこでも、ここでも、「戦争」だ、「戦い」だと、勇ましく叫んでいるのですが、その成果は? 今でもさまざまな軽犯罪が多発し、重犯罪も後を絶たない。教室の荒廃は傷害事件にまで発展している。コメントはもうわかった、聞き飽きた。結果を示してくれ! 

ニコラ・サルコジの「戦争」は8年を過ぎ、国民から飽きられてしまいつつあるようです。このままでは、オオカミ少年ならぬ、戦争おじさん。勇ましい、威勢の良い言葉は発するものの、国民の関心を集める新たな事件が起きると、そちらへさっさと移行。先に述べたことは、もう眼中にない。単なる人気取り、ポピュリズム・・・実像を見極められてしまったのか、支持率は30%前後にまで落ち込んでいます。

とはいうものの、30%の支持率・・・わたしたちの国では、それなりの支持率ですね。危険水域よりは上。20%を切ったり、中には一桁台まで落ち込んだり・・・それがいつの間にか普通のことに思えてしまうような政治環境。期待できない政権、支持できない首相が続いていることは、国民にとって不幸なことなのか、それとも、そうした政治家を生み出している我々国民に問題があるのか・・・ポピュリズムとは知りながら、国民の心の琴線に触れる言葉を8年もの間、発し続けることができる政治家の出現を待ち望んでしまいます。そうでもしなければ、我らが祖国の「政治」がますます遠のき、霞んでしまいそうです。

「閥」は、×か○か?

2010-07-26 19:24:06 | スポーツ
「ばつ」は、バツかマルか・・・わたしたちの周りでも、「閥」って聞くことありますよね。例えば、閨閥。妻の一族を中心に結ばれた人のつながり。閨閥政治。『広辞苑』にはこのように説明されています。奥さん同士が姉妹という政治家、日本にいますね。

そして、最も頻繁に聞くのが、学閥。出身学校が同じ人たちが、結びつき、助け合う。例えば、慶応出身者が多いデパート、早稲田出身者が多いデパート。さらに細かくなると、東大野球部閥のある企業。いろいろな企業でいろいろな学閥が、覇を競ったりしていますが、どんなメリットがあるのでしょうか・・・

もちろん、この学閥、日本だけにあるものではありません。例えば、フランス。グラン・ゼコール出身者のつながりはかなり密接なようです。国立行政学院(Ecole Nationale Administrative;高級官僚養成学校)出身者は“enarques”(エナルク)と呼ばれ、高等師範学校(Ecole Normale Superieur;グラン・ゼコールや大学の教員養成学校)卒業者は“normaliens”(ノルマリアン)、理工科学校(Ecole Polytechnique;理工系エリート養成学校)出身者は“polytechniciens”(ポリテクニシアン)と呼ばれ、別格扱いされていますし、出身者同士の縦のつながり、横のつながりが、フランス社会にしっかりと張り巡らされているようです。

例えば、エナルク。ごくごく一部をご紹介すると・・・(肩書には、現職・元職が含まれています)

Bernard Attali(エール・フランス会長)
Jacques Attali(官僚・エコノミスト・作家、Bernardとは双子)
Martine Aubry(社会党第一書記)
Edouard Balladur(首相)
Daniel Bouton(ソシエテ・ジェネラル会長)
Michel Camdessus(IMF専務理事)
Jacques Chirac(大統領)
Jean-François Copé(与党UMP幹事長)
Laurent Fabius(首相)
Valery Giscard d’Estaing(大統領)
Martin Hirsch(慈善団体Emaüs代表)
François Holland(社会党第一書記)
Lionel Jospin(首相)
Alain Jupé(首相)
Valérie Pecresse(文部科学相)
Jacques Rigaud(欧州最大のメディアグループRTL会長)
Michel Rocard(首相)
Ségolène Royal(環境相)
Louis Schweitzer(ルノー会長)
Jean-Claud Trichet(ヨーロッパ中央銀行総裁)
Dominique de Villepin(首相)

1945年の設立で、歴史はそれほど長くないのですが、錚々たる人物リストですね。高級官僚養成学校だけあって、政界・官界を中心に、実業界も含め、多彩な人物を輩出。そして、そのネットワークはかなりしっかりしていると言われています。例えば、政府系企業のトップがenarquesの間でたらいまわしになったり・・・もちろん、それを決定する立場にいる政治家も、enarque。

フランスのこんな細かい事例を調べたのは、日本の意外なところに「閥」が見られるような気がしたからです。その意外なところとは・・・サッカー界。日本サッカー協会の人事です。

最低2期4年会長職にとどまると言われていた犬飼基昭氏が1期2年で退任。FIFA理事の小倉純二氏が新会長に。代表の岡田監督や原技術委員長が、芸術家・東京芸大教授の日比野克彦氏とともに新理事に。

ところで、国際サッカー連盟・FIFAは“Fédération Internationale de Football Association”の略、つまりフランス語なんですね、イギリス生まれのスポーツですが、その国際団体の名はフランス語、ご存知でしたか?


さて、日本サッカー協会の新体制、その顔ぶれの出身大学と社会人としてプレーした出身企業を調べてみると・・・

名誉会長 :川渕三郎  ・早大―古河電工
名誉副会長 :釜本邦茂  ・早大―ヤンマー
会長   :小倉純二  ・早大―古河電工(プレーの経験はない)
副会長   :大仁邦弥  ・慶大―三菱重工
副会長   :大東和美  ・早大―住友金属(ラグビー選手・Jリーグチェアマン)
副会長   :田嶋幸三  ・筑波大―古河電工
理事   :岡田武史  ・早大―古河電工
理事    :原博実   ・早大―三菱重工
理事    :日比野克彦 ・東京芸大(芸術家)
*理事はほかにもいらっしゃるのではないかと思いますが、日本サッカー協会のホームページで見つけられませんでした。

さらに、今回退任した人を調べると、
会長   :犬飼基昭  ・慶大―三菱重工
副会長  :鬼武健二  ・早大―ヤンマー

退任した人も加えると、早大―古河電工が3人、早大―ヤンマーが2人、慶大―三菱重工が2人。特に、早大―古河電工は名誉会長、会長、代表監督ですから、強いですね。早大だけを見れば、上記の中に7人。古河電工出身者は、4人。一方、慶大―三菱重工は2人でしたが、たった1期2年で犬飼会長が退任。強引な協会運営をめぐり批判があったともいわれていますが、追い出されたと見えないこともない・・・

たまたまこうなっただけ、ということかもしれないですが、上下関係が厳しく、団結力の強い体育会系の出身者ですから、先輩後輩のつながりは、陰に陽に、強いものと思われますね。

サラリーマン的にみると、面白いポジションにいるのが、新しく理事になった原技術委員長ですね。大学は主流派の早大。プレーした社会人チームは、対抗派閥的な三菱重工。どちらとも話ができるので、うまく立ち回れば・・・しかし、下手をすると、どちらからもスパイ扱い・・・

まあ、こんなサラリーマン的解釈とは一切関係なく、日本サッカー協会には、ぜひとも一丸となって、日本のサッカーがさらに強く、人気が出るように、リードしていってほしいと思います。選手の自覚、Jリーグ各チームの努力も必要ですが、なんといっても、日本サッカーの進路を決めるのは、日本サッカー協会。会長交代の影響もあり、代表の新監督決定が遅れているとか。新チームの最初の試合(9月4日、対パラグアイ戦)にも間に合わない、という憶測も出ています。「閥」などにとらわれず、適材適所で、ぜひ、先頭を切って走っていってほしい・・・これからも、応援していける、日本代表、Jリーグであってほしいと思います。

旅の人々、ロマ、ジプシー・・・違いが分かりますか。

2010-07-25 19:14:16 | 社会
フランス語表記すると、“les gens du voyage”“les Roms”“les Tsiganes”、最後の単語は“les Tziganes”とも書きますし、昔は“les Gitans”とも表記しました。

さあ、それぞれ、どう違うのでしょうか。日々の暮らしの中で、人種や民族について考える機会があまり多くないと、これはちょっと分かりにくいですよね。

最もなじみのある語「ジプシー」から、調べてみましょう。ウィキペディアによると、

ジプシー(英: gypsy、西: gitano、仏: gitan)は、一般にはヨーロッパで生活している移動型民族を指す。転じて、様々な地域や団体を渡り歩く者を比喩する言葉ともなっている。元々は、「エジプトからやって来た人」という意味の「エジプシャン」の頭音が消失した単語である。

こうなっていますが、フランス語表記“Gitan”は、今では“Tsigane”(ル・モンドなどの表記)または“Tzigane”(仏和辞書などに見られる表記)と書かれます。私が学生時代は、確かに、Gitanでした。有名なタバコも、“gitane”(ジプシー女)ですしね。そういえば、東京も昔は“Tokio”と表記されていました(沢田研二の「トキオが空を飛ぶ」を思い出します・・・古くてすみません)が、今では“Tokyo”。外国語表記も「世につれ」ですね。

ということで、“les Tsiganes”と“les Tziganes”はジプシーのことだと分かりましたが、ウィキペディアでは、ジプシーについてさらに次のような説明があります。

ヨーロッパ・中近東のマイノリティ集団
・ロマ―北インド起源の移動型集団
・ロマ、アッシュカリー、エジプシャンの総称

おや、ちょっと待て、ですね。ジプシーは北インド起源のマイノリティという説を聞いたことがありませんか。日本では、こう思い込んでいる人が意外と多いのではないでしょうか。しかし、ウィキペディアによると、ヨーロッパや中近東を移動するマイノリティ集団=ジプシーで、そのうち、北インド起源の人たちは、ロマと呼ばれる、ということになりますね。

では、ロマの説明は・・・

ロマはジプシーと呼ばれてきた集団のうちの主に北インドのロマニ系に由来し中東欧に居住する移動型民族である。移動生活者、放浪者とみなされることが多いが、現代では定住生活をする者も多い。ジプシーと呼ばれてきた集団が単一の民族であるとするステレオタイプは18世紀後半に作られたものであり、ロマでない集団との関係は不明である。

ということですので、ジプシーと言われる移動集団のうち、北インドを起源とする人たちがロマ(Romes)ということになりますね。

では、もうひとつの“les gens du voyages”とはどういう人たちなのでしょうか。直訳すれば、「旅の人々」。旅から旅へと移動を繰り返す人々・・・ということは、ジプシーのことでしょうか。どうもそうではないようです。

21日のル・モンドによると、ロマ(les Roms)は外国人(主にルーマニア人やブルガリア人)だが、旅の人々(les gens du voyage)は完全なフランス人で、ブルターニュ人やサヴォワ人よりも古いフランス人だ、ということです。1532年にフランスに併合されたブルターニュ半島に住むケルト人や1860年にイタリア王国の成立を承認してもらう代わりにイタリアがフランスに割譲したサヴォイア地方(フランス語表記はSavoieで、サヴォア)の人々よりも昔からフランスに暮らす人々。しかし、移住を繰り返す・・・

ロマ(les Roms)と旅の人々(les gens du voyage)の違いを上記のように定義したのは、上院の旅の人々に関する諮問委員会の委員長で、2008年には旅の人々の定住に関するレポートをまとめた与党・UMPの上院議員、ピエール・エリソン(Pierre Hérisson)です。なぜ、彼のこうしたコメントが引用されているかと言うと・・・

パリの南西、ロワール・エ・シェール(Loir-et-Cher)地方のサン・テニャン(Saint-Aignan)という町で、16日の夜、警察の制止を振り切って車で逃げようとした22歳の青年が銃撃され、12km離れたところで遺体となって発見された。その青年は、旅の人々の一人で、2歳の子の父親だった。警官による射殺に激怒した旅の人々が、クルマに火をつけたり、警察を襲撃したり、大きな騒ぎになっている。こうした動きに、治安の悪さには強面で取り組むのを是とするサルコジ大統領が、旅の人々やロマの行動が引き起こす問題についてエリゼ宮で会議を開催することにした。しかも、そうした人々が住む違法なキャンプ地を撤去させる可能性にも言及。そのことが、人権団体や旅の人々を支援する団体の怒りをかっています・・・まるで、すべての旅の人々やロマが犯罪者であるかのような印象を与える意見だ! 実際、射殺された青年の家族は、2世代にわたって、仮設ではないきちんとした住居に定住しているそうです。

2000年に成立した法律(la loi « Besson »)により、人口5,000人以上の自治体は、旅の人々などのためにキャンピングカーを停めるエリアを確保しておくことが義務付けられています。テレビのニュースなどを見ると、そうしたエリアには、水道や電気が整備されているようです。今日では、こうした受け入れ施設が全国に8万か所。しかし、夏の巡礼などで人々が大集合する場合やそこまでの通過地域では、エリアからあふれてしまい、地域住民との軋轢も生じることがあるようです。こうした事態に備えて、フランス南西部と東部に25,000台のキャンピングカーを収容できるゾーンを整備するとともに、今年4月の内相令で、通過する旅の人々のために各県に少なくとも2か所、200~240台収容できるエリアを設けるよう要望を出していました。

こうした状況下での、旅の人々との衝突。旅の人々、ロマ、そして増え続ける移民・・・フランスが解決すべき大きな問題になっています。そして、言わずもがなですが、我らが日本にとっても、他人事では済ませられない問題になりつつありますね。

議会を欠席すると、罰金だ!

2010-07-24 19:28:56 | 政治
21日のル・モンド(電子版)に、「93人の下院議員が、ずる休みのために罰則を受けることに」(93 députés pourraient être sanctionnés pour absentéisme)というタイトルの記事が出ていました。ずる休みで叱られる・・・それも、れっきとした国会議員が!?

そうなんですね、フランスの国会議員の中には、国会審議、特に委員会への欠席がとても多い人がいるそうなんです。以前、雑誌(Le Pointだったか、あるいはl’Express)で読んだ記憶があるのですが、1年に1回とか、2年で数回とかしか出席したことがないという議員が結構いる。

じゃ、どこにいるのか・・・選挙区にいるんだそうです。そこで何をしているのか。日本と同じような状況なんだそうです。つまり、選挙民の冠婚葬祭。例えば、結婚式に招かれる。何かの記念式典に出席する。スケジュールが1日に10以上も入ることが多いとか。目的は、支持者との絆を深める。選挙民に顔を売る・・・日本と同じようですね。ヨーロッパの政治家は、政策立案に多くの時間を割いているのではないかと、勝手に思い込んでいたのですが、どうも、選挙のための活動がもっぱらという議員も多いようです。

でも、そうした議員たちにも言い分がある。議会に出席したところで、採決の際の投票を期待されているだけ。政策提案や、TV放送で画面に登場するような質疑応答は、党の要職を占める一部の議員たちに独占されてしまっている。それなら、選挙区にとどまって、支持層の掘り起こしをしていた方が、よほど次の選挙のためになる。

というわけで、欠席する議員が多くなった。確かに、国会審議をTV放送で見ると、半円形の階段教室のような議会には、空席が異常に目立つことが多くあります。それでも、特に問題視されはしなかった。

それが問題になってしまったのが、2008年の憲法修正提案(だったと思うのですが)の採決の際。与党に欠席議員が多く、なんと与党提案が否決されてしまった。これでは、なんのために多数派の与党になったのか、わかりませんね。

そこで、与党(UMP:国民運動連合)は、対策を講じました。もちろん、アメとムチ。ぶら下げたエサは、出席率のいい議員には、TV放送のある際、優先的に登壇させる。そして、ムチが、今回ル・モンドが伝えているように、ひと月に2回以上正当な理由なしに議会を欠席した場合、罰金を科す。

この決まりは、昨年の12月から実施に移されていましたが、21日、今までの7カ月分をまとめて、歳費から引き落とされたそうです。ひと月の歳費は、7,043.69ユーロ(およそ78万円、X12で年間940万円ほどですから、これに比べれば、日本の国会議員、貰いすぎではないでしょうか)。この歳費のうち、1,400ユーロほどが委員会など議会への出席に関する歳費だそうで、その25%、つまり353ユーロ(約4万円弱)が1カ月分の罰金になるそうです。21日に引き去られた額は、少ない人で、353ユーロ、多い人では2,119ユーロ。つまり、この7カ月の間に、2回以上欠席したことのある月が多い人では6回! やはり選挙区にこもっていたのでしょうか。少々のお金を払っても、貴重な時間をつぶして、パリまで行き、国会に出席するよりは、選挙区対策だ・・・こんな風に考えているのでしょうか。それなら、なんのために、国会議員になったのやら・・・

罰金を払った議員は93人。下院議員の定数が577人ですから、93人と言えばその16%。およそ6人に1人が正当な理由もなく月に2回以上、国会審議を欠席している。しかも、これでも以前よりは出席率がよくなったそうですから、昨年までの空席の目立つ議会も納得できますね。

欠席の多いフランスの議会と居眠りの多い日本の議会。どちらもどちら、としか言いようがないですね。給料泥棒の多い議会、これまた洋の東西を問わないようです。

フランスは、影が薄くなった!?

2010-07-23 19:45:58 | 政治
先週、フランスのフィヨン首相(François Fillon)が日本を訪問しましたが、あまりメディアでは取り上げられなかったですね。これが、アメリカのクリントン国務長官だったらどうでしょうか、中国の温家宝首相だったら・・・フランスは、日本ではすっかり影が薄くなってしまったような気もしますが、政治面では昔からこの程度の関係だったかもしれませんね。『龍馬伝』や『坂の上の雲』を見ると、幕末や明治時代、政治や軍事ではなかなかの関係だったことが窺い知れますが、今日では・・・その逆もまた同じ状態で、日本の政治がフランスのメディアに大きく取り上げられることは、稀ですね。

こうした状況でのフィヨン首相の日本訪問、今回、フランスのメディアが大きく取り上げています!

しかし・・・残念ながら、日仏関係に関してではなく、フランスの内政問題に触れた首相のコメントに関してです。

16日、東京で財界人を相手に講演したのですが、その中で、“la rigueur”という言葉を用いたことが、いろいろな憶測を呼んでいます。“la rigueur”とは「緊縮策」といった意味の言葉なのですが、詳しくは、19日のル・モンド(電子版)が紹介しています。

サルコジ大統領がほとんど忌み嫌っていると言ってもいい“la rigueur”という単語を、フィヨン首相が日本で発言。遥か彼方の極東への旅で疲れていたのか、あるいは日本の財界人を前に、フランスは財政赤字にもかかわらず、投資先としてまだまだ魅力的であることを強調したいという、その気持ちが先走ってしまったのか、と憶測されていたのだが、なんと、次の訪問地、ニュー・カレドニアでも、また、言ってしまった。“la rigueur”と、6日の間に、二回も! これは確信犯なのではないか・・・決して言い間違えたのではなく、経済の現状を正確に言い表すため、そして将来の政治を切り開くためにこの言葉を口にしたのではないか。そう、自らの将来を切り開くために、フランソワ・フィヨンがついに、政治活動を始めたのではないか!

ここでちょっと昔を振り返ってみましょう。2007年にサルコジ大統領が誕生すると、フランソワ・フィヨンが首相に指名され、ともにフランスの改革を目指しました。しかし、どこにでも顔を出し、何でも自分でやってしまおうというワンマン型のサルコジ大統領の陰に隠れ、当初は、首相はどこへ消えてしまったのか、と揶揄されていましたが、ウケ狙いではない誠実な話しぶり、職務に忠実で粘り強い対応などで、いつの間にか支持率で大統領を上回るように。離婚、再々婚、贅沢なヴァカンスなどゴシッピーな話題や派手なジェスチャーが次第に鼻についてきた大統領とは反対に、次第に国民の信頼を勝ち得るようになってきました。ちなみに、先日発表されたTNS-Sofresの政治家人気度調査では、トップ3に入ったIMF専務理事のドミンク・ストロス=カーン(Dominique Strauss-Kahn、もともと社会党だが、サルコジ大統領の推薦で現職に就任)、社会党第一書記のマルチーヌ・オブリー(Martine Aubry、かつてのEC委員長、ジャック・ドロールの娘)、パリ市長のベルトラン・ドラノエ(Bertrand Delanoë、社会党、ホモセクシュアルであることを公言)らに続いて、フィヨン首相は支持率36%で5位に。一方のサルコジ大統領は、わずか26%の支持。現職の大統領でなければ、2012年の大統領選へ向けては、泡沫候補の一人にすぎない!?

しかし、フィヨン首相が目指したフランスの改革は、サブプライムローンに端を発する経済危機、そしてユーロ圏の危機という経済問題に行く手を阻まれて、なかなか実現できずにいます。

こうした経済危機のさなか、ユーロ圏の各国は「緊縮策」を打ち出し、危機から脱しようと必死になっています。ですから、“la rigueur”という単語を使うことは何ら問題ないようにも思われますが、そうはいかないのがフランス、なのでしょうね。

国民の生活を守ったうえで、国家としての存在感を高めていくのが、政治家の仕事。それを、経済危機とやらで、国民の暮らしを犠牲にして経済を立て直そうなどとは、政治家として、失格だ! こんな声が上がっているのでしょう、年金受給開始年齢の引き上げ、公務員数削減など、国民に負担をかける政策を推し進めざるを得ない状況下、あえて国民を刺激する“la rigueur”(緊縮策)という言葉は、どうしても使いたくない。それがサルコジ大統領の気持なのかもしれません。

フランスの政治史には、同じような状況がかつてあったそうです。ジスカール・デスタン大統領(Giscard d’Estaing)時代、第一次、第二次のオイルショックに見舞われ、経済立て直しのために「緊縮策」が必要と判断したレイモン・バール首相(Raymond Barre)は、“la rigueur”を連発。一方の大統領は、緊縮策が大統領選時の自分の公約と齟齬をきたすのを恐れ、にがにがしく思っていたそうで、首相を罷免しようかとまで考えたそうですが、結局思いとどまったとか。

歴史は繰り返す・・・でしょうか? 今年10月、サルコジ大統領は、大規模な内閣改造を計画しています。その際、首相交代があるのかどうか・・・10月、もし財政状況がさらに悪化していれば、今以上に緊縮策が必要になる。緊縮策を遂行できるのは誰か・・・“la rigueur”と公に発言しているのは、フィヨン首相だけ。であれば、交代させられるわけがない。また、もし、個人的な好き嫌いから、サルコジ大統領が首相を交代させた場合、フランソワ・フィヨンは真実を語った勇気ある国父というイメージを持ったまま首相官邸(Matignon)を去ることができる。いずれにせよ、今、“la rigueur”(ラ・リグール)と叫ぶことは、フランソワ・フィヨンにとって、マイナスにはならない!

政争に明け暮れる政治家というよりは、能吏のイメージが強いフランソワ・フィヨンが首相として初めて打った政治的一手。さて、結末や、いかに・・・

フランス政治、なかなか面白いですよね。そう思いませんか。何が面白いって、登場人物たちです。大統領、首相、支持率トップの三人、そしてほかにも「国境なき医師団」の創設者の一人であるベルナール・クシュネル外相(Bernard Kouchner、社会党員だが、サルコジ大統領の一本釣りにより入閣)、イラク開戦に反対した当時のイケメン外相、ドミニク・ド=ヴィルパン(Dominique de Villepin、職業外交官、作家、弁護士にして政治家)をはじめ個性ある政治家たちが多くいます。一方、日出国の政界を見渡すと、どこを見ても、世襲、元キャリア官僚、弁護士、労組幹部出身者だらけ。政策面で国民の共感を呼ぶようなアイデアが出ないなら、せめて政治家の個性で国民の政治への関心をつなぎ止めてほしいと思うのですが、どうも均質的で没個性ですね。でも、国民は自らにふさわしい政治しか持てない、とも言います・・・ちょっと気が滅入ってしまいますね。

「eコマース」は、どこへ行った?

2010-07-22 20:15:32 | 社会
『花はどこへ行った』(Where have all the flowers gone?)はキングストン・トリオやPPM(ピーター・ポール&マリー)、ザ・ブラザース・フォアなどによって歌われた反戦フォークの名作ですが(相変わらず、古い!)、今日の話題は、eコマースはどこへ行った、です。

わずか数年前、eコマースだとか、仮想商店街といったコトバが注目を集め、すごい時代がやって来るように思われていましたが、あっという間に普及。ネット上での取引など当たり前!になってしまいました。そして、その普及に反比例するかのように、eコマースとか仮想商店街と言ったコトバは、ほとんど見かけなくなってしまった。それだけ時代の回転は速いということなのでしょうね。やっぱり、すごい時代です。

今、フランスでネット上での注文が増えているが、ピザの宅配サービス、という話題が、17日のル・モンド(電子版)に出ていました。

ピザの宅配、まずはイギリスの事例から紹介されています。ドミノ・ピザがホームページを開設して、宅配サービスを始めたのが1998年。その年、ネットを通しての宅配ピザの年間売り上げは10万ポンドだった。それが2000年には月間で10万ポンド、2003年には週間で10万ポンド、そして2006年には1日の売り上げが10万ポンドになったそうです(10万ポンドは、現在のレートで約1,300万円)。ものすごい急成長ですね。売上高はもちろんですが、ネットでの注文はドミノ・ピザが受け付けた注文全体の27.8%を占めるに至っているそうです。また、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用したプロモーションも始めたそうで、ますますネットを通しての注文が増えると期待されているとか。

そして、同じ傾向が、フランスでも見られる。ピザハットの例です。20%の売り上げがネットを通しての注文で、イギリスよりは少し小さい数字だが、順調に成長してきている。イギリスとの差は、イギリスのほうがインターネットの活用が少々先行しているからだが、どんなにネット社会が発展している国でも、なかなか30%の壁は超えられないでいる・・・こんな風に言っています。つまり、ネット社会という意味では、イギリスのほうに一日の長があるのは認めざるを得ないが、30%が上限みたいなもの。フランスだってすぐに追いつくさ・・・負け惜しみ、イギリスへの対抗意識。いかにも、フランスです!

ネット上での注文が30%を超えるブレイクスルーは、携帯電話を通しての注文なのではないかと、記事は言っています。フランスではまだ始まっていないが、昨年末いくつかの国で始まった、携帯電話のホームページからのネット注文???ということは、そうなんです、携帯電話を使ったネット注文がフランスではまだできない! 新しい技術にすぐには飛びつかない・・・これまた、いかにもフランスらしいですね。

携帯でのネット注文がすでに始まっているアメリカやオーストラリアでは、売り上げを大きく伸ばしている。オーストラリアのドミノ・ピザでは3ヶ月間で200万オーストラリア・ドル(約1億5,400万円)の売り上げがあり、アメリカのピザハットではiPhoneからのネット注文が半年で100万枚に。しかも、携帯から注文すれば、注文した品が今どの段階まで進んでいるのかがリアルタイムでわかるなど、消費者にとって大きなメリットがある、と記事は紹介しています。

お財布携帯など日本の携帯サービスを時々フランスのニュースでも紹介するのですが、携帯でこんなことまでやるのか、変わった国だね、ニヤッ・・・キャスターの表情がそう言っているように見えるのですが、でも、ビジネスの世界では、携帯の便利さがわかってきたようですね。

ちなみに、日本では、ドミノ・ピザの例ですが、2008年春にはすでにパソコンまたは携帯電話を使ったネット注文が売り上げ全体の30%を超え、2009年春には40%。携帯電話のホームページから注文できるようになったのも、2007年の7月から。もう3年も前です。恐れ入ったか、フランス!

ただ、さまざまなアプリが使える日本の携帯も、ご存じのように日本マーケットだけで独自に発達したもので、21世紀のガラパゴスとも言われています。ほかの国々では、まだ普及していない機能がいっぱい。そのいくつかは、上記の例のように、便利さが認識されてきましたので、今後海外展開もできるかもしれないですね。いったん、海外市場から撤退していた日本の携帯電話メーカーが、再び外国マーケットへ進出しようとしています。今度こそは、ぜひ各マーケットの実情、要望に沿った製品づくりで、しっかりシェアを確保してほしいと思いますが、ここへ来て、強敵が。新型端末です。上のアメリカの例で出ていた、iPhone、そしてiPad。このiPadは、操作も簡単、しかも文字が指の操作だけで拡大できるので、日本の高齢者にも受け入れられているそうです。パソコン代わりに、iPadを通してのネット注文が増えるかもしれないですね。でも、ピザよりは、スーパーへの注文が多くなるかもしれないですが。

独自の進化を遂げた機能充実の日本の携帯、基本機能をバランスよく搭載のフィンランド・アメリカ・韓国などの携帯、そして、iPhone。今後、どのような戦いが展開されていくのでしょうか。楽しみですが、IT関連では、フランスはちょっとカヤの外ですね。残念でした、ヒッ、ヒッ、ヒッ(どこの国にも、強いところがあれば弱いところもある。この世に天国はない、ということですね)。