ご存知のように、スペインのカタルーニャ州自治政府は、州内での闘牛を2012年から禁止する法律を可決しました。闘牛と言えば、スペインの国技として位置付けられており、メリメ(Prosper Mérimée)の『カルメン』(Carmen)をはじめ多くの作品で描かれています。カナリア諸島ではすでに禁止されていますが、スペイン本土では初めての禁止。1,000年以上の歴史を誇る闘牛が、行われなくなってしまう・・・
しかし、あくまでカタルーニャ州内だけの話。ほかの地域では、引き続き行われるのですが、今回の禁止の決定には、カタルーニャはカタルーニャであり、スペインじゃない、何も無理してスペインの伝統を守っていく必要はない、という意識もあったのかもしれないですね。
カタルーニャだ、バスクだ、アンダルシアだ、カスティーリャだ・・・こうした地域主義が、スペインの国としてのまとまりを阻害しているような気がします。その典型がサッカー。クラブチームは強いのに、スペイン代表は、いつも前評判倒れ。選手たちが出身地ごとにまとまって、すぐ内紛・・・無敵艦隊と言われながら、なかなか優勝できませんでした。それが、ユーロ08で優勝、そしてW杯2010で優勝! その背景には、選手たちの国際化があったのではないかと思います。スペイン国内ではなく、イングランドをはじめ国外のチームでプレーする選手がふえた。海外から見れば、カタルーニャもカスティーリャもない。あるのは「スペイン」。そのことに気づけば、代表チームで内紛なんかしていられない。出身地域に関係なく、チームプレーに徹し、勝利を目指しますよね。その結果の優勝なのではないかと、ひそかに思っています。
さてさて、スペインから、話題はフランスの闘牛へ。フランスでも、闘牛は立派に行われています。しかし、動物愛護団体をはじめ、反対の声も大きくなっています。そこへ、カタルーニャ州での闘牛禁止の決定。どのような反応があったのかを含め、フランスの闘牛について簡略にまとめた記事が、28日のル・モンド(電子版)に出ていました。
スペインから入ってきた闘牛がフランスで行われた最初の確かな記録は、1853年8月21日、スペイン国境に近い大西洋岸の町、バイヨンヌ(Bayonne)でのもの。フランスでは、憲法で家畜やペットなどへの虐待は禁止されていますが、地域において絶えざる伝統を有する雄牛の競技は例外になっています。つまり「伝統的な」という点において、闘牛は、今でもフランスで禁止されずに行われているわけです。新しいものには警戒心を抱くが、ひとたび「伝統」になったものはしっかり守っていく・・・いかにもフランスらしい一面ですね。
そして、もう一点、地域における伝統の「地域」ですが、2000年4月3日、トゥールーズの控訴院(高裁)が闘牛を許可するエリアを明確に規定しました。アルルとバスク地方の間、地中海と灌木エリアの間、ピレネー山脈とガスコーニュ地方の間の、南仏。つまり、アキテーヌ(Aquitaine)、ミディ・ピレネー(Midi-Pyrénées)、ラングドック・ルシヨン(Languedoc-Rousillon)、プロヴァンス・アルプ・コートダジュール(Provence-Alpes-Côte d’Azur)の4地域圏においてのみ、闘牛の開催を許す、という決定です。
これら南仏地方においては、闘牛は単なる伝統であるだけではなく、経済的効果ももたらしているそうです。有名な闘牛士による1時間半のパフォーマンスは、テレビの放映権を除いても、10万ユーロ(約1,100万円)の収入をもたらすそうです。そして、なんといっても、経済的貢献が大きいのは、観光。ニーム(Nîmes;デニムの語源になった町ですね)の市長曰くは、闘牛を中心にしたお祭りの期間、100万人もの観光客がやってくる。しかも、年々若い人が増えている。
経済貢献の大きい闘牛。しかし、その文化的側面を見逃すわけにはいかない・・・これまた、いかにもフランスらしいですね。いかなる事象にも、「文化」を見出す。例えば、アルルの円形競技場長は、闘牛は我々アルルのアイデンティティを色濃く反映するものだ、と述べているそうです。そして、闘牛の愛好者には、文化人も多い。ヘミングウェイ、ピカソ・・・もちろん政治家の中にも。先の大統領選挙の際の社会党候補、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)女史は、闘牛は素晴らしいショーだと公言しています。
もちろん、言うまでもなく、動物愛護などの立場から闘牛に反対している人たちもおり、カタルーニャ州の闘牛禁止の決定に、大喜びしています。テレビ局“France 2”のニュースでは、動物愛護運動の先頭に立つブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)の嬉しそうなコメントも流されました。また政界でも、闘牛と闘鶏の禁止法案を提案した58人の議員たちは、カタルーニャ州の決定は、フランス議会にも大いなる刺激となる、と述べています。
ここで、面白いのは、この58人の議員には、与党UMP(国民運動連合)の議員も、野党・社会党の議員も含まれていることです。超党派での法案提出。フランスでは、よく見かけます。基本的な政治信条が近い党に加入はするが、すべて党の決定に従うわけではない。党派を超えて同調者がいれば、肩を組むこともあり得る・・・アメリカの共和党と民主党の間でも、しばしば見受けられますね。日本では、少ないような気がします。どちらかと言えば、逆に党議拘束をかける場合が多いのではないでしょうか。良く言えば、チームワーク、一致団結。悪く言えば、個性が埋没する、自分が消えてしまう、顔が見えない日本人、右に倣えのミートゥ―(me, too)日本人。しかし、自由の許容範囲は、それぞれの国民にとって、居心地のいいところで決まっているのでしょうから、どちらが良い悪いということではないと思います。それぞれの国に、それぞれのフリーハンド枠。そして、もちろん、どこの国にも、その国の自由度に不満を感じる人はいるのでしょう。
さて、与野党議員の共同提案による闘牛・闘鶏廃止法案、2004年以来3度目の提案なのだそうですが、今まで一度も国会の議題にすら挙がっていないとか。その理由は・・・「伝統」を守ろうという意識、闘牛や闘鶏を行っている団体によるロビー活動、国会議員の中にいる愛好者。
伝統を大切にする国・フランスでは、立派に伝統の一つとなっている闘牛は、そう簡単に禁止されないようです。闘牛愛好者よ、カタルーニャがだめなら、南仏があるさ! と言ったところでしょうか。
しかし、あくまでカタルーニャ州内だけの話。ほかの地域では、引き続き行われるのですが、今回の禁止の決定には、カタルーニャはカタルーニャであり、スペインじゃない、何も無理してスペインの伝統を守っていく必要はない、という意識もあったのかもしれないですね。
カタルーニャだ、バスクだ、アンダルシアだ、カスティーリャだ・・・こうした地域主義が、スペインの国としてのまとまりを阻害しているような気がします。その典型がサッカー。クラブチームは強いのに、スペイン代表は、いつも前評判倒れ。選手たちが出身地ごとにまとまって、すぐ内紛・・・無敵艦隊と言われながら、なかなか優勝できませんでした。それが、ユーロ08で優勝、そしてW杯2010で優勝! その背景には、選手たちの国際化があったのではないかと思います。スペイン国内ではなく、イングランドをはじめ国外のチームでプレーする選手がふえた。海外から見れば、カタルーニャもカスティーリャもない。あるのは「スペイン」。そのことに気づけば、代表チームで内紛なんかしていられない。出身地域に関係なく、チームプレーに徹し、勝利を目指しますよね。その結果の優勝なのではないかと、ひそかに思っています。
さてさて、スペインから、話題はフランスの闘牛へ。フランスでも、闘牛は立派に行われています。しかし、動物愛護団体をはじめ、反対の声も大きくなっています。そこへ、カタルーニャ州での闘牛禁止の決定。どのような反応があったのかを含め、フランスの闘牛について簡略にまとめた記事が、28日のル・モンド(電子版)に出ていました。
スペインから入ってきた闘牛がフランスで行われた最初の確かな記録は、1853年8月21日、スペイン国境に近い大西洋岸の町、バイヨンヌ(Bayonne)でのもの。フランスでは、憲法で家畜やペットなどへの虐待は禁止されていますが、地域において絶えざる伝統を有する雄牛の競技は例外になっています。つまり「伝統的な」という点において、闘牛は、今でもフランスで禁止されずに行われているわけです。新しいものには警戒心を抱くが、ひとたび「伝統」になったものはしっかり守っていく・・・いかにもフランスらしい一面ですね。
そして、もう一点、地域における伝統の「地域」ですが、2000年4月3日、トゥールーズの控訴院(高裁)が闘牛を許可するエリアを明確に規定しました。アルルとバスク地方の間、地中海と灌木エリアの間、ピレネー山脈とガスコーニュ地方の間の、南仏。つまり、アキテーヌ(Aquitaine)、ミディ・ピレネー(Midi-Pyrénées)、ラングドック・ルシヨン(Languedoc-Rousillon)、プロヴァンス・アルプ・コートダジュール(Provence-Alpes-Côte d’Azur)の4地域圏においてのみ、闘牛の開催を許す、という決定です。
これら南仏地方においては、闘牛は単なる伝統であるだけではなく、経済的効果ももたらしているそうです。有名な闘牛士による1時間半のパフォーマンスは、テレビの放映権を除いても、10万ユーロ(約1,100万円)の収入をもたらすそうです。そして、なんといっても、経済的貢献が大きいのは、観光。ニーム(Nîmes;デニムの語源になった町ですね)の市長曰くは、闘牛を中心にしたお祭りの期間、100万人もの観光客がやってくる。しかも、年々若い人が増えている。
経済貢献の大きい闘牛。しかし、その文化的側面を見逃すわけにはいかない・・・これまた、いかにもフランスらしいですね。いかなる事象にも、「文化」を見出す。例えば、アルルの円形競技場長は、闘牛は我々アルルのアイデンティティを色濃く反映するものだ、と述べているそうです。そして、闘牛の愛好者には、文化人も多い。ヘミングウェイ、ピカソ・・・もちろん政治家の中にも。先の大統領選挙の際の社会党候補、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)女史は、闘牛は素晴らしいショーだと公言しています。
もちろん、言うまでもなく、動物愛護などの立場から闘牛に反対している人たちもおり、カタルーニャ州の闘牛禁止の決定に、大喜びしています。テレビ局“France 2”のニュースでは、動物愛護運動の先頭に立つブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)の嬉しそうなコメントも流されました。また政界でも、闘牛と闘鶏の禁止法案を提案した58人の議員たちは、カタルーニャ州の決定は、フランス議会にも大いなる刺激となる、と述べています。
ここで、面白いのは、この58人の議員には、与党UMP(国民運動連合)の議員も、野党・社会党の議員も含まれていることです。超党派での法案提出。フランスでは、よく見かけます。基本的な政治信条が近い党に加入はするが、すべて党の決定に従うわけではない。党派を超えて同調者がいれば、肩を組むこともあり得る・・・アメリカの共和党と民主党の間でも、しばしば見受けられますね。日本では、少ないような気がします。どちらかと言えば、逆に党議拘束をかける場合が多いのではないでしょうか。良く言えば、チームワーク、一致団結。悪く言えば、個性が埋没する、自分が消えてしまう、顔が見えない日本人、右に倣えのミートゥ―(me, too)日本人。しかし、自由の許容範囲は、それぞれの国民にとって、居心地のいいところで決まっているのでしょうから、どちらが良い悪いということではないと思います。それぞれの国に、それぞれのフリーハンド枠。そして、もちろん、どこの国にも、その国の自由度に不満を感じる人はいるのでしょう。
さて、与野党議員の共同提案による闘牛・闘鶏廃止法案、2004年以来3度目の提案なのだそうですが、今まで一度も国会の議題にすら挙がっていないとか。その理由は・・・「伝統」を守ろうという意識、闘牛や闘鶏を行っている団体によるロビー活動、国会議員の中にいる愛好者。
伝統を大切にする国・フランスでは、立派に伝統の一つとなっている闘牛は、そう簡単に禁止されないようです。闘牛愛好者よ、カタルーニャがだめなら、南仏があるさ! と言ったところでしょうか。