ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

百万長者、億万長者が続々・・・自慢するフランスと中国。

2010-10-30 21:12:52 | 社会
個人資産百万ドル(今の為替レートなら8,100万円ほど)以上の人がどこに、どれくらいいるのか・・・こうした調査を行ったのは当然金融機関で、クレディ・スイス。その調査研究所(l’Institut de recherche de Crédit Suisse)が「世界の富レポート2010」(le Rapport 2010 sur la richesse mondiale)を発表しました。それによると、フランスは世界で3番目に百万長者が多い国だ! と喜んでいたのは、10月11日の『ル・モンド』(電子版)です。

フランスには220万人の百万長者がいる。ということは、国民30人に一人が百万ドル長者! この220万人という人数は世界中の百万長者の9%に当たるそうで、逆算すると世界中でおよそ2,440万人の百万ドル長者がいることになります。最も多い国は、当然アメリカで、994万人。世界中の百万長者の41%がアメリカ人ということだそうです。そして、2位は、日本! 10%と言っていますから、244万人もいることになります。国民50人に一人が、100万ドル以上の資産家! 世帯収入が下がっている、失業率が5%を超えている、非正規雇用が多いなどと言われながらも、あるところには、あるものですね。

2,440万人の百万ドル長者の国籍、他の主要国では、イタリアに6%、イギリスに5%、ドイツに5%、カナダには4%、そして中国に3%。世界の成人が保有する個人資産は、2000年からの10年間で、72%も増え、今後もさらに増え続けることが予想されています。2015年には2010年比で61%もアップするという予想になっています。 

しかし、問題はやはり富の偏在。2,440万人という百万ドル長者は、世界人口の0.5%に満たない。しかしこの人たちが、世界の富の35.6%を保有している。逆に個人資産1万ドル(約81万円)以下しか持たない層は、30億3,000万人にのぼり、世界人口の68.4%。この人たち全てを合わせても世界の富の4.2%にしかならない・・・

国民一人当たりの平均資産で見ると、最も多いのはスイス、続いてノルウェー、オーストラリア、シンガポール、そして5位にフランス。アメリカは7位だそうです。やはり、スイス、北欧、オセアニア、シンガポールといった国々が、国力としてではなく、国民一人一人の豊かを充実させているようです。多くの国民が豊かに暮らせる場所なのでしょうね。「豊かさ」を示すいろいろな調査、データで、これらの国々が必ずと言っていいほど上位を占めています。それだけ、国民と政治がしっかりとした国づくりをしているのでしょう。その中で5位のフランスも、評価されてしかるべきですね。

一方、国ごとに個人資産の総計を出して見ると、最も多いのは言うまでもなくアメリカで、続いて日本、中国の順だそうです。中国はなにしろ人口が多いですから、国全体にすれば、大きな数字になりますね。GDPにしても日本を抜くと言われていますが、一人当たりにすれば、まだ日本の10分の1。しかし、国力を示す数字となると、統計上もやはり「数は力」なのでしょう。しかも、毎年二桁の経済成長を続ければ、国民所得も増え続ける。従って、2015年までに中国の個人資産の総計は日本を超えると予想されています。ますます驕りが出てくるのでしょうか。『世界の日本人ジョーク集』に次のような一節があります。

「世界最弱の軍隊とは?
  中国人の将軍
  日本人の参謀
  イタリア人の兵」

たぶん、理由は・・・ふんぞり返り、威張り散らすだけの中国人将軍、額に汗することと上司へのごますりはうまいが、戦略の立てられない日本人参謀、額に汗することが大嫌いで、戦う前にすぐ逃げ出すイタリア人兵士・・・これでは弱いはず。世界はよく見ているものですね。

因みに、「世界最強の軍隊とは?
 アメリカ人の将軍
 ドイツ人の参謀
 日本人の兵」

適材適所ということなのでしょうが、額に汗して、自らの任務を100%こなす。いや、それどころか創意工夫で120%、150%の達成度にすることができる日本人の特長、自ら喪失しては残念ですよね。良いところは残し、直すべきと自ら思うところは修正していきたいものですね。きれい事と言われるかもしれませんが、そう思います。

さて、個人資産合計の多い国ランキングでは、中国の次、4位がフランス、続いてイギリス、ドイツで、ヨーロッパではフランスが最も豊かだと、『ル・モンド』は最後にもう一度、小さく自慢しています。

一方、百万ドル長者なんて、小さい、小さい。調べるなら、億万ドル長者を調べよ。というわけで、翌12日の『ル・モンド』(電子版)は、女性の億万ドル長者について報じています。

世界の女性資産家トップ20の半分以上、11人が中国人女性だ! しかもトップ3はすべて中国人! 最も裕福な女性資産家は、紙のリサイクルで財をなしたZhang Yinさん、53歳。56億ドル(約4,500億円)の個人資産を持っているそうです。2位は不動産業を営むWu Yajunさんで、41億ドル(約3,300億円)。3位が港湾・エネルギーなどのコングロマリットを統率する69歳のChen Lihuaさんで、40億ドル(約3,240億円)。そして、4位に初めて中国人以外の女性が登場します。おなじみのファッション・ブランド“Zara”の経営者、スペイン人のRosalia Meraさんです。

では、どうして中国に裕福な女性資産家が多いのでしょうか。『ル・モンド』曰くは、一つには、中国では昔から女性が働くのが当たり前だったこと。早くから女性の社会進出がなされていたということなのでしょうね。もう一つの理由は、祖父母が孫の世話をよくすることが多く、一人っ子政策も相俟って、女性の自由になる時間、自分の仕事に集中できる時間が多いこと、だそうです。

中国駐在時、確かに女性がよく働いていました。残業も厭わず、しかも優秀な女性社員も多くいました。ただ、男性の協力もあるようです。例えば、中国で女性が一番強いと言われる上海では、結婚前に「男性」が料理学校に通う。花嫁修業ならぬ、花婿修業。夫婦共働きは当たり前で、早く帰宅したほうが料理をするそうです。

女性が働くという伝統、子育てへの親の協力、家事では夫の協力・・・こうした環境があるからでしょう、トップ20に入っている中国人女性資産家、親からの遺産相続ではなく、自らの才覚と努力で、一代で財をなしたそうです。日本も見習いたいですね。夫の協力、まずは料理学校にでも通いますか・・・でも、今からでは、老後、先立たれた場合に備えてだろう、と言われてしまいそうです。
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賄賂天国はどこだ? ランキング発表!

2010-10-29 21:22:58 | 政治
「政治とカネ」という言葉がメディアに踊らない日はないと言ってもいいくらいですね。小沢氏の場合は、挨拶に行ったのに名刺も受け取ってくれなかったとか、「勉強が足りない」と同業者の面前で言われたとかいった経験をしたメディア人の私憤、あるいは小沢氏の性格が嫌いだという心情的反感も大きいような気がしますが、違法献金、賄賂、口利きといった「政治とカネ」の問題は、日本の政治史に連綿と続いていますね。造船疑獄、ロッキード問題、リクルート事件、佐川急便問題・・・

しかし、日本の政治状況は、これでも改善されてきているのだと思います。政治資金規正法など法整備も進み、また政治家や企業人のモラルの変化もあり、透明性は時系列的には改善されてきているとは思います。

では、その日本のクリーン度は、外国と比べてどの程度なのでしょうか。相対的にかなり透明なのか、まだまだなのか・・・

ベルリンに本部を置く“Transparency International”というNGOが、年次報告を発表しました。その中に、「汚職指数2010」(Corruption Perceptions Index 2010:仏語訳はIndex 2010 de la perception de la corruption)という国ごとの汚職度を示すランキングがありますが、その概略を26日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

見出しは強烈です。「ほぼ75%の国々が汚職にまみれている」(Près de 75% des Etats perçus comme très corrompus)。

まず、指数の出し方ですが、ビジネスマンや専門家に、汚職のないクリーンな国は10点、汚職まみれで目も当てられない国は0点、という10段階評価で、それぞれの国をチェックしてもらいました。その結果は・・・

最もクリーンな国として認められたのは、3カ国が同点で、デンマーク、ニュージーランド、シンガポール。続いて4位にフィンランドとスウェーデン。6位がカナダ。7位、オランダ。8位にオーストラリアとスイス。そして10にノルウェー。これがクリーンな国トップ10です。北欧、オセアニアにクリーンな国が集まっていますね。その中でアジアからシンガポールがトップ10入り。立派なものです。罰金の多さに“fine country”(「罰金」と「良い」という意味のかけ言葉)と言われるほどでしたが、初代首相、リー・クアンユ―氏の国づくりがさまざまな分野で結実していますね。

一方、ワーストは・・・調査対象178カ国の最下位は、海賊問題でも有名なソマリア。そのすぐ上、176位にアフガニスタンとミャンマー。そして175位にイラク。どうしても戦争や内乱などにより、治安が悪化している国々が、汚職まみれになっているようです。これでは、国の再興も、難しいのでしょうね。

さて、では日本は・・・『ル・モンド』が紹介していないので、“Transparency International”のサイトを見てみると、17位です。どうですか、予想より良かったですか、悪かったですか。上位10%ですからそれなりの結果ではないでしょうか。因みに、他の主要国は・・・ドイツは15位、イギリスが20位、アメリカ22位、フランス25位。この辺りまでが、何となく政治とカネに関しては、ある程度のクリーンさを保っているのではないかと思われますね。

さらに他の国々を見てみますと、韓国は39位ですから、もう少しですね。イタリアは67位。ベルルスコーニ首相の言動やマフィアの暗躍を聞くにつれ、この順位も宜なるかな、といったところですね。では、BRICsはどうでしょう。ブラジル69位、中国78位、インド87位。経済の発展に、法整備やモラルの改善が、まだ追いついていないようですね。そしてロシアは何と154位。ビジネスはすべて政治家とのコネ次第、なのでしょうか。あるいは、政治家がビジネス界も思いのままに操っているのか。いずれにせよ、ロシアでは政治とビジネスが良い意味ではなく一体化しているようですね。

また、地理的に日本に近いところでは、タイが中国と並んで78位、インドネシアは110位、ベトナムが116位、フィリピンは134位。まだまだ袖の下が幅を利かせているようです。ビジネス慣行上、必要悪として、賄賂が必要な場合もある。それを受け入れざるを得ない現地と、認めようとしない日本本社。その板挟みにあって困るのが駐在員。こんな状況もあると聞いています。現地の状況を受け入れず、その状況の解決まで一企業や一駐在員に命じるのは、風車に向かって突撃するドン・キホーテのようなもの。すべて日本スタンダードで行おうとするのは、無理があります。

ビジネス上は受け入れざるを得ない場合もある袖の下ですが、原則はもちろん無くすることです。そのためには、どうすべきか・・・“Transparency International”曰く、破綻してしまっている国々に国際社会の力で信頼できる政治体制を構築することが必要だ。このことは少なくとも、開発援助として数十億ドルの援助をすることと同じ程度には大切なことだ。いくら支援しても、それが一部の権力者に自由に使われてしまっては、貧困にあえぐ国民の苦しみを継続させるだけで、一向に改善しない。

36カ国が、外国の公務員への賄賂を禁ずるOECDの反汚職協定に署名していますが、状況は必ずしも改善されていない。こうした協定を実効あるものにするとともに、加盟国を増やしていく、地道な努力が求められています。

汚職、政治とカネ・・・日本でも、まだまだ改善の余地があるのではないでしょうか。税金は、国民のために。私腹を肥やすのではなく、清廉潔癖な政治を。そうした決意のある政治家を生み出す社会へ。そのためにも、政治家のみならず、国民一人ひとりの自覚と行動が欠かせないのだと思います。政治家からのさまざまな便宜供与を期待しながら、清廉な政治をというのでは、政治とカネの問題は解決しないのではないでしょうか。
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ベルギーから、国王退位の噂。

2010-10-28 20:33:01 | 政治
火の無い所に煙は立たぬ、と言います。ベルギーから届いた「国王退位」の噂には、信じるに足るどのような根拠があるのでしょうか・・・19日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。「噂の真相」や、いかに。

オランダ語を話すフランデレン地域とフランス語を話すワロン地域の対立は根深く、国を二分する論争はとどまるところを知りません。その激しさから、大幅な自治を認める連邦制へと1993年に移行し、今では連邦立憲君主国となっていますが、それでも不十分で、完全な分離独立を求める声が特にフランデレン地域から起こっています。

連邦制と言っても、国の政府(連邦政府)はひとつですから、組閣の際にはもめにもめる。特に2007年以降は、泥沼のような状態に陥っています。今年行われた総選挙から4カ月。新たな内閣ができていません。調停を行うのは、もはや国家としての最後の砦、最後の接着剤となっている国王。

しかし、現国王・アルベール2世(Albert Ⅱ)もさすがに疲れ果て、うんざりしてしまったのか、ベルギーがEU議長国の立場にあり(今年の7月から12月まで)、国内政局が表面上安定しているこの機会に、息子のフィリップ皇太子に王位を譲って退位したいと漏らしている、というのが今回の噂です。

ベルギーでは、王位の譲位というのはまれだそうで、前回は、1951年にレオポルド3世(Léopold Ⅲ)が、第二次大戦中の行動を批判され、その復位を巡って国を二分する大論争、挙句に暴動にまで発展したのを受けて、息子のボードゥアン1世(Baudouin Ⅰ)に王位を譲った例があります。

そのボードゥアン1世は1993年、スペインに滞在中に心不全で急死しましたが、子供がいなかったため、弟のアルベール2世が即位しました。しかし、アルベール2世に対する国民の一般的なイメージは、その息子フィリップ皇太子が即位するまでのつなぎ役。実際、しばらくは暫定王(roi de transition)と言われていたようですが、最終的に正式に国王として君臨することになりました。

しかし、度重なる政治の空白と混乱する政局、うんざりしてしまったのでしょう、譲位の噂が出てきたわけですが、こうした情勢に各政党はどう反応するのでしょうか。今年の総選挙で第1党になったフランデレン地域の新フラームス同盟(N-VA)は、元来、君主制に反対で、少なくとも国王の権限を極力小さくしたいと思っていただけに、もし国王が譲位すれば、その機に乗じて、念願の分離独立の動きを一気に加速するだろうと思われます。

とは言うものの、国王の存在は一般国民の間では、まだ過半数に支持されているだけに(特にワロン地域)、アルベール2世としても国家のさらなる混乱を招きかねない譲位は思いとどまらざるを得ないのではないか、と見られていますが・・・

アルベール2世は19日、政党間の対話が可能かどうかを確かめるよう、もはや何回目か分からないほどの同じ指示を出したそうです。しかし、それに先立ち、分離独立派の新フラームス同盟のデ・ウェーフェル党首はフランス語圏の4政党に敵意丸出しの声明を出しています。

ベルギーの混乱、いつまで続くのでしょうか。あるいは、本当に分裂してしまうのでしょうか。分離独立するにせよ、しないにせよ、あくまで話し合いで決めてほしい。内乱のような暴力沙汰にはなってほしくない・・・ベルギーには、「騒乱の国」よりも、「チョコレートとビールと小便小僧の国」が似合っています。しかも、EU本部のあるブリュッセルを首都とするベルギーだけに、その動向はEUのイメージや今後の動きに影響を与えずにはおかないでしょう。一カ国の内政問題では済ませられないと思います。ここは「欧州の知恵」の出しどころです。
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研究者の給与は安すぎる・・・フランスの場合。

2010-10-27 20:14:12 | 文化
今年も日本からお二人のノーベル賞受賞者が出ました。同じ国民として、とてもうれしいニュースですね。お二人を加えると日本からの受賞者は、18名(内、お一人はアメリカ国籍)。文学賞二人、平和賞一人を除く15名の方々がいわゆる理科系の賞での受賞。科学・技術立国、日本。やはり、目指すべき姿は、これしかないと思います。

そして26日、今年の受賞者お二人に文化勲章が贈られることになり、また同時に文化功労者にも。お喜びもひとしおではないかと思います。しかし、今回のノーベル賞受賞がなかったら、文化勲章もなかったのかもしれない・・・さまざまな分野で立派な功績を残されながら、一般に知られていないために、名誉に浴していない方々も多いのではないでしょうか。いや、研究は名誉のためではない。人類に貢献できれば、それでいいのだ。という声もあるかもしれませんが、研究者の方々には、もっと良い環境で仕事に打ち込んでいただきたいと思います。

2007年までで53人のノーベル賞受賞者(マリ・キューリー、高行健など外国生まれを含む)を輩出しているフランスの場合はどうなのでしょうか。文化大国・フランス、さぞやしっかりした研究環境が整っているのかと思いきや、フランス国民の評価は必ずしもそうではないようです。20日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

文部省の依頼を受けてCSAという調査機関が1,051人を対象に行った調査によると、95%と圧倒的多数の人が科学は社会の役に立つと答えています。また79%の対象者が、科学は信頼できるものだと認めています。

しかし、65%の人が職業としての研究者は今日のフランスでは優遇されていないと述べています。この数字、15―24歳では49%に下がりますが、たぶん研究者を含めさまざまな職業での給与など待遇面での詳細をまだ知らないからではないでしょうか。教えを乞うている先生方の待遇はそれなりに見えてしまうのでしょうね。

また、58%の回答者が、研究者の給与はその仕事や能力に見合うだけのレベルに達していないと認めています。そして、68%の人が、研究者の給与はその功績に基づいて一層上げるべきだと答えています。

一方、科学への興味ですが、60%の対象者が、科学にはほとんど興味を持っていないと答えています。そして64%の人がメディアは科学の発展をあまり紹介していないと言っています。これは、鶏が先か、卵が先か、ですね。メディアが科学を紹介しないから科学に興味が持てないのか、視聴者が科学番組を見ないから、メディアは科学を紹介する番組を作らないのか。この状況は、日本でも同じなのではないでしょうか。しかし、日本には、理科嫌いを科学好きにするユニークな授業を行っている先生がいらっしゃいます。同じように、多くの視聴者が科学に興味を持つような番組が作れれば、少しでも多くの国民が科学に興味・関心を持つようになると思います。それとも、それでも芸人のお笑い番組のほうにチャンネルを合わせてしまうのでしょうか。

ところで、日本にしろ、フランスにしろ、以前から頭脳流出が問題になってきました。頭脳の流出先は、言うまでもなく、アメリカ。より良い研究環境を求めて、アメリカへ。施設や人的支援、研究に割ける時間など純粋により良い環境を求めてということなのだとは思いますが、環境の一部に給与が含まれていても、決して非難されるべきではないと思います。

さらに最近では、最先端の頭脳がこれからの国力を左右するとばかりに、世界から優れた研究者を高給や優れた環境で引き抜いている国々も出てきています。例えば、シンガポール。厚待遇で迎えていますが、もちろん待遇に見合う研究成果が出なければ、即契約解除。21世紀の外国人傭兵のようでもあります。しかし、自国がしっかりした研究体制を整えていれば、なにも外国に行く必要はないので、海外に流出する研究者を責めることはできません。

研究者たちのモチベーションをあげるためにも、研究環境の一層の整備が求められているのは、日本もフランスも同じようです。もちろん、日本とフランス以外にも同じような悩みを抱えている国々も多いことでしょうか。どこが先に現状を変え、自国の頭脳を維持、進化させることができるのか。各国の将来の立ち位置が、ここで決まってしまうかもしれません。頑張れ、日本!
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ゲランの新しい香水、その名は「人種差別」。

2010-10-26 19:57:59 | 社会
『ミツコ』、『夜間飛行』、『シャンゼリゼ』、『ヴォワイヤージュ』、『チェリー・ブロッサム』・・・こうした香水や、さまざまなスキンケア商品、エステティックサロンなどでおなじみの有名ブランド、ゲラン(Guerlain)。創設は、1828年に遡ります。調香師のピエール=フランソワ=パスカル・ゲラン(Pierre-François-Pascal Guerlain)が、パリに自分の香水の店を開いたのが始まり。ナポレオン3世の皇后ウジェニーのために作った香水が大好評で、その名がヨーロッパ中の王侯貴族の間で評判となりました。この初代から数えて4代目、ジャン=ポール・ゲラン(Jean-Paul Guerlain)氏の発言が、大いなる顰蹙を買っている・・・その失言と騒ぎを、23日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ジャン=ポール・ゲラン氏は昨年、ゲラン調香師のポストをティエリー・ワッサー(Thierry Wasser)氏に譲ったようで、先代調香師という肩書で紹介されていますが、何しろゲラン家の出。今でもマスコミに注目される存在であるようで、問題の発言は、先々週、テレビ局・France2の午後1時のニュースに出演した際のもの。何と言ったかというと・・・一生懸命、それこそ黒人(un nègre)のように仕事に取り組み始めたところなんです。これほど黒人(les nègres)が仕事に励んでいるのかどうかは知りませんが、まあ、とにかく、一生懸命です。

73歳のジャン=ポール・ゲラン氏、さすがにまずいと思ったのか、私の発言が傷つけたかもしれないすべての人々にお詫びをします、と言葉を継いだそうですが、一度発してしまったコトバは取り返しのしようがない。永田町では、発言の撤回や前言を翻すことが簡単にできるようですが、一般的には後悔先に立たず。失言の咎は甘んじて受けざるを得ない。

ゲラン家出身のジャン=ポール・ゲラン氏の失言だけに、ゲラン社としても無視はできず、ジャン=ポール・ゲラン氏の発言は決して許容できるものではないと公表。また、ゲラン・ブランドは1994年からLVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)の傘下に入っており、LVMHグループも、どのような表現であれ、人種差別に関する言動は厳に取り締まっている、と述べています。

しかし、差別の対象になったと感じた人々の怒りは、こうした弁明の言葉だけでは収まりません。さっそく、“Boycottez Guerlain”(ゲラン商品ボイコット)という団体ができ、23日の午後、シャンゼリゼにあるゲランの旗艦店前で抗議運動を展開しました。100人以上の人々が集まり、臨時に閉じられてしまった店の入口前にゲラン商品を並べ、抗議の意を表しました。

“Boycottez Guerlain”のスポークス・パーソン、ンザンバ(Michaël Mouity-Nzamba)氏は、ジャン=ポール・ゲラン氏の発言が我々を傷つけたのと同じくらいの激しさで、LVMHグループが彼をメディアを通して糾弾することを期待すると述べ、単なる通り一遍の非難では怒りの矛を納めないと表明。

また、ゲランの店前での抗議運動に参加した人たちが持っていたプラカードには、次のように書かれていました。「わたしだって、もう黒人のようには働きたくない」、「黒人側こそ、あなたにはうんざりだ」・・・ンザンバ氏は、必要なら、毎週土曜日、この店の前で抗議運動を行う、と述べています。さあ、いつまで続くのでしょうか。決着や、いかに・・・

意思表示は、我慢せず、明確に行う。しかも、暴力によらず、言葉やアイディアある行動で示す。フランス社会にはしっかり根付いているようです。不満は、我慢せず、堂々と表明する・・・ガス抜きを上手にした方が、個人も国家も、暴発せずに済むのかもしれませんね。
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年金ストの陰に、フランス対アングロ=サクソンの戦い。

2010-10-25 20:06:28 | 社会
財政赤字を改善するための緊縮策の一環としてサルコジ政権が推し進めている年金改革。支給開始年齢を60歳から62歳へ、全額支給開始を65歳から67歳へ、それに伴い年金保険料の支払い期間も延長する・・・こうした「改革」案に対して、ご存知のように、労働組合を中心に、ストやデモが続いています。交通が混乱、公的機関の窓口が閉鎖、教育施設が休校、石油精製所のストでガソリンや航空燃料が不足、騒ぎに乗じた一部若者による商店などの破壊行為・・・さまざまな分野で影響が出ていますが、それでも過半数の国民の支持を得ています。

しかし、23日から学校が11月1日の万聖節(la Toussaint)を挟んでの2週間の休暇に入りましたので、国民の関心が薄れたり、ガソリン不足が休暇先への移動や滞在に影響すれば、世論の風向きも変わるかもしれませんが、組合側は今週、そして11月にもストを予定しており、反対運動の「出口戦略」はまだ見えていません。

ラテン系や一部の国々を除いては、最近あまり見られない大規模なストやデモ。それが長期にわたって継続しているわけですから、世界のニュースにならない訳がありません。他の国々は、フランスのストやデモをどう見ているのか。フランス人もさすがに気になるようで、19日の『ル・モンド』(電子版)が紹介していました。

『ル・モンド』が気にするのは、アングロ=サクソン、つまりイギリスとアメリカのメディアの論調。年金改革の端緒が赤字財政への取り組み策ですから、財政・金融と言えばアングロ=サクソンで、どうしても英米の反応が気になるのでしょうね。

ストやガソリン不足、若者と警察との衝突など、混乱の渦中にあるフランスについて多くの国がメディアが取り上げている。外国からはなかなか理解しにくいフランスの事情を分かりやすくQ&Aで説明しているのがBBC。『ガーディアン』(The Guardian)は、ストやデモの現場の状況を詳しく報道している。フランスの今回の騒動について大まかな解説をしているだけのメディアが多い中で、『ウォール・ストリート・ジャーナル』(The Wall Street Journal)や『ロサンジェルス・タイムズ』(Los Angeles Times)は、現状を2005年に起きたパリ郊外での暴動や2006年のCPE(Contrat première embauche:初期雇用契約)に関する騒動との関連性でとらえている。

『ニューヨーク・タイムズ』(The New York Times)はさらに踏み込んだ見解を示している。状況の詳細を紹介したうえで、今回の騒動を、庶民によるエリート層への反発として紹介しているが、年金受給開始年齢の引き上げ自体には、賛同している。フランスの莫大な財政赤字を考慮すれば、この年金改革は必要不可欠なものであり、問題なのは政府の実現へ向けた進め方がまずいことだ。抵抗運動はフランスの伝統にしっかりと根付いたものであることは理解できるが、国民感情や伝統が現実の財政状態よりも優先されるべきではない。

『フィナンシャル・タイムズ』(The Financial Times)も同様な見解で、年金制度を救うためだけでなく、フランスが改革を行う意思があることを示すためにも、頑張るべきだと、サルコジ大統領にエールを送っています。

こうした報道に、『ル・モンド』は、アングロ=サクソンのメディアが「改革」を支持することは驚くに値しないと論評するとともに、イギリスやアメリカの庶民は異なる意見を持っていると具体な声を紹介しています。ネット上に寄せられている声は、ストやデモを行っている組合員への支持を表明するものが多い。たとえば、「フランス人は政策に賛成できない場合、ストやデモに訴える。ただ考えているだけのイギリス人とは違う」、「フランス人は先祖が獲得した権利を守るために立ち上がるが、このことは称賛すべきことだ」。また、フランス人の戦う意思を政府の緊縮策に直面しても立ち上がらないイギリス人の小心さと対比させているイギリス人もいる。

もちろん、すべての人がストやデモに賛成しているわけではなく、「正直に言って、退職年齢の引き上げはロジカルなものだと思える。若者が参加しているのは、単に就職口が見つけ難くなるからなのだろう」というフランスに住むイギリス人の声も紹介されています。

「改革」、「改革」と叫び、他国にまで「改革」を迫るアングロ=サクソンのメディアに対し、伝統や社会的連帯を重視するフランスのメディア。両者の違いが良く分かります。そして、こうした違いは、単にメディアに関してのものだけではなく、一般国民、その多数派の考えの違いにも通じているように思えます。では、日本のメディアは・・・やはり、寄らば大樹の陰、長い物には巻かれよ、でしょうか。あるいは私的感情に流された報道になっているのでしょうか。メディアも、国民性を映し出す鏡のようですから、批判は天に唾するものですが、それでも、ジャーナリストには取材先との関係維持よりも「真実」を報道してほしいと思うのですが、虫がよすぎるでしょうか。頑張れ、日本のメディア!
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男女平等、遅れているのはメディアだ!

2010-10-24 19:17:39 | 社会
外見と実態が異なることって、よくありますよね。スマートそうな人が、家庭では亭主関白だったり、怖そうな人が、実は優しかったり・・・人間にもあることは、人間の集合体である組織にもあります。最先端でスマートなイメージの会社が、社内は旧態依然だったり、その逆があったり。

例えば、禁煙を訴えているメディア、特に新聞社や雑誌社が愛煙家の巣窟だったり、カタカナ社名のおしゃれなイメージで売っている企業が、ペーパーレスでは非常に遅れていたり。

こうした外見と中身が違う、言っていることとやっていることが違う、というフランスでの例を、『ル・モンド』(10月13日:電子版)が紹介しています。

問題だ、と言われているのは、メディア。ニュース番組やドキュメンタリー、あるいは論説コラムで、男女平等とか、女性にもっと活躍の場を、とか言っていますが、そのメディアが旧態依然とした女性のイメージにとらわれていて、そこから抜け出ようとしていない。

具体的には、メディアに登場する女性は、家庭の主婦か、事件の犠牲者、あるいは目撃者。重大な事柄に対して専門的に語る場合、そこの登場するのは、男性ばかりで、女性が状況を分析したり、専門的な見識を駆使して語ることはまれだ。

国民の51%が女性であるにもかかわらず、メディアで女性に与えられる時間・スペースは、男性より少ない。男女ともに読者とする雑誌においても、写真で登場するのは女性より男性の方が3倍も多い。女性誌でも記者の多くは男性だ・・・

このあたり、日本と同じような状況ですね。フランスは女性に優しい王子さまの国というイメージが日本では一般的に持たれていますが、実態は違うようです。女性の社会進出は他の欧米諸国より遅れており、給与の男女格差も大きくなっています。結婚後も、夫婦で別会計か、世帯の財布を握るのは男性が多い。外見の優しさに騙されてはいけない! でも、外見も中身も自分勝手な日本男性よりは、ましでしょうか。

さてメディアに関して、フランスの状況は日本と似ていますが、違うのは、そうした問題への対応。メディアにおける女性のイメージ向上を目的に、10月13日、60ほどのメディアとモラノ家族担当大臣(Nadine Morano)、視聴覚最高評議会(CSA:le Conseil supérieur de l’audiovisuel:放送法に基づき、規制権限を行使する独立行政機関)が一堂に会し、協定にサインをしました。その取りきめの内容とは・・・女性専門家のリストを作り、番組や紙面で、そうした女性に活躍場を優先的に提供すること。そして、その結果を毎年検証し、レポートにまとめて公表すること。

女性ジャーナリストの活躍の実態が公表されるわけですから、メディアもお得意の言葉だけで終わらせるわけにはいきません。しっかりと実行することが求められています。

というわけで、フランスではマスコミに登場する女性の専門家も増えてきそうです。この世には、基本的には女性と男性がいる。その両方の視点で世の中の動きを見てこそ、初めて両眼で見つめたことになるのだと思います。偏らない見方ができるのだと思います。ちょっと昔、男だけの組織は問題だということで、女性だけの会社とか部署を作ることがはやりました。しかし、男だけが問題なら、女性だけも問題だと思います。両者の視点、感性を集めて事に当たるべきではないでしょうか。

動きの遅い日本でも、ようやく女性のエコノミスト、コメンテーター、解説委員が登場してきています。男女の別なく、実力のある人、見識の深い人が、メディアにより多く登場することを願っています。
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女性首相、フランスに再び誕生か?

2010-10-23 20:41:54 | 政治
フランスに女性首相は、今までに一人。日本で特に有名な、あの方です。エディット・クレソン(Edith Cresson)。なぜ有名かというと、覚えていますよね、次のような発言。

「日本人は黄色いアリ」
「日本人はアリ。何度殺しても出てくる」
「日本人はウサギ小屋のような小さなアパートに住み、2時間もかけて通勤している」

三番目の発言は、事実と言えば事実なのですが、上二つはひどいものです。文化大国の首相の発言とは思えません。ただ、アングロ=サクソン嫌いでも有名で、「イギリス男はゲイだ」と公言し、顰蹙を買いましたから、政治家というよりは、毒舌コメンテーターなのかもしれません。

クレソン女史が首相に在任したのは、1991年5月から1992年4月まで。農業政策をめぐって農民から反発を買い、さらに地方議会選挙で所属する社会党が敗北し、わずか1年で辞任に追い込まれました。

クレソン女史が唯一の例ですから、フランスの女性首相にいいイメージはありませんが、もしかすると二人目が誕生するかもしれない・・・11日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

候補のあげられているのは、“MAM”(マム)の愛称で呼ばれるミシェル・アリヨ=マリ(Michèle Alliot-Marie )女史。サルコジ大統領が11月末までに内閣改造を行うと発表しており、フィヨン首相が就任3年半になるため、退任するのではないかと予想されています。その後任候補に挙げられているのが、アリヨ=マリ女史というわけです。

現在のフィヨン改造内閣では、司法大臣(日本風に言えば法相)を務めていますが、その経歴は華麗。ラファラン内閣で、仏女性初の国防大臣。フィヨン内閣で、仏女性初の内務大臣。そして現在の司法大臣と、継続して内閣の主要ポストを占めています。党務においても、シラク前大統領が創設したド・ゴール主義政党“RPR”(Rassemblement Pour la République:共和国連合)の党首を1999年から2002年にかけて務めました。フランスの主要政党としては初めての女性党首でした。

政界の渡り鳥でもなく、実力ある男性議員に媚を売るでもなく、実力でこれまでの経歴を積み重ねてきたようです。フランス人女性初という肩書が多いですが、首相の座は先を越されてしまった。しかし、仏女性初の安定内閣なら、作れるかもしれません。政治学が専門で、長年日本で教鞭を取っているフランス人がいつも、MAMはエレガントだとうっとりとして語っています。弁護士資格も持っているエリートで、眼鏡にショートヘアのきりりとした風貌。そして、確かに、おしゃれはエレガント。センスの良さを感じさせる出で立ちです。

そして、最近、首相の座への色気を自ら表に出し始めています。「政治の世界で、ある程度の責任あるポストに就くようになれば、全ての政治課題に精通していなければならないし、いかなる要望にも応えられるように準備しておかねばならない」、「RPRの党首になって以来、全ての課題に関心を持ってきた。エコノミスト、経営者、学者、組合幹部など、さまざまな分野の人たちとも会ってきた」、そして首相の座についても、「大統領の決断ならば、それに応える準備をしておくのが私の義務だ」とインタビューに答えていました。

では、国民の見方は・・・9月3日に発表になった調査によると、フィヨン首相が退任した場合、その後任にふさわしいのは誰かという質問に、ミシェル・アリヨ=マリと答えた人が23%で、環境大臣のジャン=ルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)氏と並んでトップ。国民の期待もあるようです。この調査で二人の次に続くのは、与党UMP(国民運動連合)下院幹事長で2017年の大統領選挙を狙っていると言われるジャン=フランソワ・コペ(Jean-Francois Cope)氏が19%、予算大臣のフランソワ・バロワン(Francois Baroin)氏が9%、内務大臣のブリス・オルトフー(Brice Hotefeux)氏が8%、食料・農業・漁業大臣のブリュノ・ルメール(Bruno Le Maire)氏が5%。

フランスでは今、退職年齢引き上げに対してストやデモといった激しい抵抗が行われ、将来への悲観主義が広がっていますが、アリヨ=マリ女史は、「将来への信頼を取り戻すためには、我々の強みを再確認するとともに、民間企業と同じように公務員の間でも実力に報いる昇進などを再び活性化し、階級の固定化、社会の閉塞感を打ち破ることが大切だ」と述べ、活力に満ちた、明るい社会の実現を訴えています。

二人目の女性首相になって、こうした事前公約のような自らの意見を実現することができるでしょうか。楽しみですが、政治や管理職への女性進出の遅い日本でも、人気取りではなく、実力で女性の首相候補が出てくる日を楽しみにしています。生きているうちに、ぜひ拝見したいものです。
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フランス人怒る、公共心が失われているぞ。

2010-10-22 21:16:57 | 社会
14日の『ル・モンド』(電子版)に、“Une majorité de Français juge l’incivisme en hausse”という見出しの記事が出ていました。「過半数のフランス人が、“incivisme”が増えていると思っている」・・・この“incivisme”とは公民精神の欠如という意味。反意語が“civisme”で、公民精神とか市民意識という意味ですから、簡単に言ってしまえば、「公共心」。従って、「過半数のフランス人が公共心の低下を認めている」といった内容の記事ですね。

日本でも、近頃の若いもんは、という声は時代を問わず、いつの世でも聞こえてきますし、世の中乱れてきている、という嘆き節も聞こえます。確かに、乱れていると非難されても仕方のない点もありますが、世の中時代とともに変わったんだという点もあるのではないでしょうか。「変化=悪」と決め付けるのではなく、変化のどこが悪くなった点で、どこが良くなった点なのかを冷静に見極めることが大切なのではないでしょうか。「自分が若かった時と違う=乱れ」と決め付けないことが大切だと思います。「改革=善」ではなく、改革には改善されるものも、改悪で終わるものもあるのと同じですね。

では、フランスでは、公共心がどう乱れているというのでしょうか。調査会社のIpsosが行った調査によると、65%のフランス人が、特にここ10年、公共心が低下してきていると思っているそうです。むしろ良くなっているのでは、という意見はわずか13%。圧倒的に公共心の悪化を嘆く層が多いようです。65%の内訳は、非常に低下しているが47%、どちらかと言えば乱れてきているが18%。

年齢で切ってみると、やはり、60歳以上では75%の人が、フランス社会では公共心が低下していると嘆いているそうです。近頃の世の中は・・・国は違えど、歳とともに新しい時代、変わりゆく時代への不満が増えてくるようですね。憤懣、やる方ない! 一方、15-24歳では、公共心の低下を認める層は47%に減ります。しかし、それでも半数近い。若者にさえ、社会における公共心、道徳は乱れていると映っているようです。

では、公共道徳の欠如に対し、どのような対策を取るべきなのか。46%と半数に近い人たちは、共生、共存(vivre ensemble)ということを学校でもっとしっかり教えるべきだ、と考えています。また、若者への公共サービスの充実をあげる人が33%、近隣住民との付き合いの大切さを強調する人が25%。

公共心が現れるのはどんなところかという問いには、69%という多くの人が、年齢、性別、出自にかかわらず、周囲の人を敬うことだ、と答えています。「他人への思いやり」ということなのでしょうね。続いては、交通ルールのような、社会で決められた規則を守ることだと答えた人が31%。そして、共和制の価値観を守ることだという人が30%。一方、投票に行くことだという人は18%、社会の利益になることに参加したり、公共的、民主的な生活を送るという答えは、10%以下と少数派です。他人への思いやり、社会のルールを遵守すること・・・こうした点は、日本と変わりないような気がします。

一般的に個人主義と思われているフランス人ですが、内心では隣近所との付き合いは大切だと考え、他人への思いやりが社会の潤滑油としても欠かせないと思っている・・・そういえば、5月に“Fête des voisins”(隣近所のお祭り)というイベントが行われています。今まで名前も知らなかった、同じ建物あるいは同じ地域に暮らす人たちが、建物の中庭や、歩道に集まって、持ち寄ったちょっとした飲み物とつまみを摂りながら、和気あいあいと過ごす。パリ・17区で連帯・家族・近隣問題を担当するペリファン副区長(Anatase Périfan)が、孤独感の解消、地域への帰属意識の醸成を目的に1999年に始めたイベントで、5月下旬(去年までは5月最終の火曜日、今年から最終の金曜日)に行われています。

都会に暮らす孤独、都市の憂愁・・・同じ気持ちの住民、同じ問題を抱える自治体が多いのでしょう、各国に広がり、2009年には、1,000の都市で850万人(フランス国内では650万人)が参加しました。お互いが知り合いになれば、社会のルール無視も減ってくるのではないでしょうか。公共道徳も、蘇ってくるのではないでしょうか。

公共心が無くなっていると憤慨するだけでなく、その対策を考える。それも、前向きで、多くの人が参加したくなるような対策を考え、実行する・・・日本でも、何かいいアイデアは生まれないものでしょうか。ただし、お互いの顔色をうかがい、言いたいことも言えない状態を強いる「世間様」が強くなることは避けるべきだと思います。あくまで前向きな方法を考えたいものです。
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フランス発、対岸の火事ではない、ドイツの移民問題。

2010-10-21 19:48:11 | 社会
フランスの人口学者・家族人類学者であるエマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)が、「『世界の多様性』(La Diversité du monde)の中で世界の家族制度を分類し、大胆に家族型と社会の関係を示し」(ウィキペディア)ています。その中で、日本とドイツは直系家族(la famille souche)という同じ分類に属しています。その特徴は、「子供のうち一人(一般に長男)は親元に残る。親は子に対し権威的であり、兄弟は不平等である。基本的価値は権威と不平等である。子供の教育に熱心である。女性の地位は比較的高い。秩序と安定を好み、政権交代が少ない。自民族中心主義が見られる」(同)というもの。女性の地位は、以前は「それほど高くない」と記述されていましたが、いつの間にか「比較的高い」に変更されていたようです。オリジナルに即して訂正したのか、時代の変化に伴い修正されたものか・・・

いずれにせよ、ドイツと日本は、家族およびその集合体である社会に似たところがある。従って、参考にできる点も、お互いにあるのではないでしょうか。

そのドイツが、移民問題に悩み、ついには、目指していたドイツの多文化主義は失敗した、と宣言する状態に追い込まれています。一方、日本は今、海外からの旅行客を増やすだけでなく、自国への留学生も増やそうとしています。観光に来て日本に興味を持った、あるいは留学後そのまま日本で就職したい。さまざまな理由で、日本に暮らす外国人も今以上に増えてくることでしょう。外国人とどう共存するのか。ドイツの失敗から学ぶことも多いのではないでしょうか。

ドイツの多文化失敗宣言は、16日、メルケル首相(Angela Merkel)によって出されました。17日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ドイツの中央銀行であるドイツ連銀の理事を最近まで務めていたThilo Sarrazin氏が、“L’Allemagne se défait”(仏語訳:「ドイツ、解体す」)というタイトルのパンフレットを発表。イスラム諸国からの移民により、ドイツはぐったり疲弊してしまったとその中で述べて以来、移民に関してドイツの国論が分裂。その分裂状態に、一つの決定を下すがごとく、メルケル首相が、異なる文化をもつ人々が調和を保ちながら共存する社会を目指した「多文化のドイツ」は完全に失敗したと宣言したわけです。

メルケル首相はまた、「ドイツは経験や技能を持った労働者が不足しており、移民に頼らざるを得ないのが現状だが、移民はドイツの文化や価値観を受け入れ、ドイツ社会に溶け込まなければならない。ドイツが必要とするスペシャリストであれば、ドイツの失業者が増えても受け入れるが、ドイツ社会の足を引っ張るような移民は必要としていない」と述べています。

メルケル首相の発言に先立ち、15日には、メルケル首相が党首を務めるキリスト教民主同盟の姉妹政党であるキリスト教社会同盟のゼーホーファー党首(Horst Seehofer)も、「ドイツ固有の文化を守るべきで、多文化には反対する。多文化主義は死んだ」と述べていました。

ただし、政権内で意見が完全に一致しているわけではなく、労働相、文相、経済相らはゼーホーファー氏の発言に与せず、ドイツは労働力が不足しているわけで、しっかりした管理の下、移民に門戸を開くべきだ、と表明しています。

ゼーホーファー氏はさらに遡って10月初旬、「ドイツはもはやトルコやアラブ諸国といった文化を異にする国々からの移民を必要とはしていない。統合することは最終的にほぼ不可能に近いからだ」と述べていますが、この意見について、かつて排斥の対象となったユダヤ人、例えばドイツユダヤ人中央協議会(le Conseil central des juifs d’Allemagne)のクラマー委員長(Stephan Kramer)は、ゼーホーファー氏の意見は、まったく無責任で、移民の統合に関する最近の議論は極端で偽善でヒステリックなものだ、と述べています。

一方、一般国民はというと、世論調査によると、ドイツ国民の過半数がSarrazin氏を支持しています。50%以上のドイツ人がイスラム教徒の存在にうんざりしており、35%以上の人が、外国人移民によってドイツは沈没してしまうと思っている・・・

自民族中心主義だと言われる直系家族社会のドイツでは、移民排斥が一般国民の心の中に忍び込んでいるようです。そうした風潮を感じてか、多文化主義断念を表明する政治家たち。しかし、「旧西独は労働力不足を補うため、1961年からトルコ、ギリシャなどの出稼ぎ労働者を大量に受け入れた。しかし、いずれは帰国するとして、99年に国籍取得条件を緩和するまで積極的な統合政策を怠った」(20日:産経)という過去の経緯があり、「英紙フィナンシャル・タイムズは19日付の社説で『多文化主義は失敗ではない。もっと努力が必要なのだ』と述べ」(同)ているように、移民の統合、そして移民との共存は困難だからと簡単に放棄してしまっていいものではないと思います。

地球は小さな星です。しかし、私たちはこの星から逃げ出すことはまだできません。一方、科学技術の発達で、この星の中なら、ほとんどの所へ簡単に行けるようになりました。人々の移動は容易になりました。この移動の自由は抑えつけることはできません。しかし、この自由な往来の結果として、宗教、価値観など、文化の異なる人同士が隣り合わせで暮らすようになってきました。いかに、一緒に暮らしていくのか。逃げることのできない課題です。人類全体に課された課題とも言えます。ドイツと同じ直径家族社会に暮らす私たち日本人。日常生活で近隣に住む外国人と接する機会も多くなってきました。違いを認めたうえで、共存するのか。外国人は日本の文化を受け入れ完全に融合すべきなのか・・・自民族中心主義による外国人排斥に向かいやすい傾向があるだけに、逃げずに、しかも移民が国内問題になる前にしっかりと考えておきたいものです。
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