ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

DSK、訴追を免れる・・・フランス政界の反応は、いかに。

2011-08-24 21:30:53 | 政治
日本でも報道されましたように、ドミニク・ストロス=カン(Dominique Strauss=Kahn:DSK)前IMF専務理事への訴追が取り下げられました。

DSKはソフィテル・ホテルの客室係、ナフィサト・ディアロさんへの強姦未遂・性的暴行などの罪状で拘束され、IMF専務理事の地位も失いました。しかし、DSKと有名人の裁判を多く扱ってきた敏腕弁護士は、ディアロさんとの性交渉はあったが、同意の上だったと、嫌疑を否定していました。一方、検察側は有罪にできると自信を持っていましたが、事件後の行動をはじめ、多くの点でディアロさんの説明におかしな点やウソが見られ、このままでは陪審員の信用を得られないと判断。訴追取り下げの決断を下しました。

ニューヨークの裁判所が検察からの訴追取り下げ申請を23日に認めたわけで、これでDSKはとりあえず晴れて自由の身。24日には取り上げられていたパスポートも返還されるそうで、間もなくフランスへ戻ってくるものと思われます。

あの、DSKが帰ってくる! 5月14日の逮捕以来、ダントツのトップランナーだったDSK抜きで大統領選への動きが加速していたフランス政界。このタイミングで、「DSKが戻ってくる」という情報に接し、どのような反応が示されているのでしょうか。23日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。ただし、検察の訴追取り下げが公になったものの、ニューヨーク州裁判所の決定が出される前、というタイミング(フランス時間、23日午後4時57分)で公表された記事です。

23日、DSK事件に終止符が打たれそうだという見通しに、彼の友人たちは安堵感を表明しているが、一方、アメリカの裁判所が出すであろう決定を残念だと嘆くフランスの政治家たちもいる。

例えば、セーヌ・サン・ドニ(Seine-Saint-Denis)県選出の共産党下院議員、マリー=ジョルジュ・ビュッフェ(Marie-George Buffet:1997-2002年に青年・スポーツ相、2001-2010年にフランス共産党書記長)。彼女は今回のアメリカ司法による決定を、正義にとっても、女性にとっても間違った決定だと非難。「検察の決定は、女性の権利を、強姦はその被害者に基本的には非があるとする時代、強姦が犯罪と見做されない時代へと逆戻りさせる恐れがある。今日まで、無罪となる被告にも、被害者とされる原告にとっても、真実が語られてはいない」と、さっそく用意したコミュニケの中で語っている。

与党・UMP(国民運動連合)のジャン=フランソワ・コペ(Jean-François Copé)幹事長はDSKにとって幸いな決定だと述べているが、同じUMP所属でも、ノール(Nord)県選出のフランソワーズ・オスタリエ(Françoise Hostalier)下院議員は、DSKに対する検察の訴追取り下げを驚きであり、かなりのショックだと受け止めている。そして彼女は、「民主主義を代表することにまったく値しない人間をフランス政界から放擲することができて良かった。客室係がフェラチオをDSKに強要されたことを示す物質的証拠が科学的に認められているのにも拘らず、独立した存在だと自ら語っている検察は訴追しないことに決めてしまったのだ。フランスでなら、こうした決定は、正義を否定するものと見做され、検察官は担当を外されることになる。この悲惨な事件の第一段階、その結論は、フランスの司法の方がアメリカの司法よりもすばらしい、ということだ」と、語っている。

大統領選への社会党予備選へ立候補している政治家たちの反応は、微妙に異なっている。第一書記のマルティーヌ・オブリー(Martine Aubry)は、幸いな結末に大いなる安堵感を抱いていると語り、マニュエル・ヴァル(Manuel Valls)は、DSKにとってあまりに大きな損害だったと残念がっている。一方、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal)とアルノー・モントゥブール(Arnaud Montebourg)は、コメントを差し控えている。

そして、社会党所属の下院議員にして、強姦未遂でDSKを訴えている作家・ジャーナリストのトリスターヌ・バノン(Tristane Banon)の母でもある、アンヌ・マンスレ(Anne Mansouret)は、心の底から憤慨している、と語っている。

しかし、政界の大勢は、右であろうと左であろうと、アメリカの司法の決定をポジティブなものと歓迎している。DSK支持者であったが、今はフランソワ・オランド(François Hollande)の選挙コーディネーターとなっているピエール・モスコヴィチ(Pierre Moscovici)は、DSK本人に、そして彼の家族に対して愛情あふれるコメントを寄せ、「この試練によってDSKは変わるだろう。個人的に立ち直るまでの猶予を与えるべきだ」と語っている。

また、パリ市長であるベルトラン・ドラノエ(Bertrand Delanoë:社会党)は、喜びと安堵を語り、「ここ数カ月の狂騒ぶりは、噂に基づくものが大半で、当事者たちへの敬意が見られず、今日、集団的良心への検証が求められている」と述べている。パリ選出の下院議員、ジャン=マリー・ルガン(Jean-Marie Le Guen)は、DSKの輝かしい政界復帰に賭けているようで、「ご存知のようにDSKは大統領選の候補者ではないが、無罪が確定した時点からは、再び尊敬を集め、彼の発言は重要視されるだろう」と語っている。

・・・ということで、訴追の取り下げというアメリカ司法の決定については、政治的立場よりも、どちらかというと、男女の差が大きい反応のようです。女性議員からは、がっかりした、女性の権利を蹂躙してどうする気か、という憤慨の声が聞こえて来ますが、男性政治家は概ね好感をもって受け止めているようです。

テレビ局“France2”の23日夜8時のニュースでは、いきなり“La victoire de DSK”(DSKの勝利)という文字が画面に踊りました。フランス人がアメリカで無罪を勝ち取ったことは素晴らしい! アメリカにひと泡吹かせることができた! そんな感情が見え隠れしているようにも思えます。アメリカが大国であり、フランスだけでは太刀打ちできないことは頭では分かっているものの、アメリカ何するものぞ、という感情は消えない。アメリカに勝ったと言えるケースを見つけるや、喜びの感情を抑えかねるのでしょうね。フランスの司法の方が、アメリカより優れていると語る女性政治家の喜色満面とした表情も目に浮かびます。そう簡単に国民性が変わるはずがありません。

変わらない国民性。まあ、他国のことは言えませんが・・・