ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

増税は、鬼門。されど、フランス政界は、与野党ともに増税を模索する。

2011-08-19 21:15:02 | 政治
日本政界では、消費税は鬼門。自民党時代には、消費税導入を目論んだ政権が倒れ、民主党政権になっても、昨年、菅首相の突然の消費税率アップ発言で、民主党は参院選で大敗北を喫しました。どこの国民も、増税を喜んで受け入れる人は少ないのでしょうね。

ところがフランス政界では今、財政赤字、債務問題を解消するために、支出削減よりも増収策を模索しているようです。それも、与党だけでなく、野党までも。しかし、野党と言っても、社会党ではなく、ヨーロッパ・エコロジー・緑の党ですが。与野党それぞれ、どのように考えているのでしょうか。

まず、サルコジ大統領率いる現政権ですが、

 「フランス政府は、財政赤字削減目標を達成するため、高所得者向けの増税や住宅関連税制優遇の縮小、企業向け税控除の縮小などを検討している。
(略)
 政府筋によると、フランスはスペインやイタリアと異なり、支出削減よりも増収策を重視する方針。対策の詳細は明らかにされていないが、新税の導入よりも、税制優遇措置の縮小が中心になる見込みという。」
(8月18日:ロイター)

と、高額所得者向けの増税、税制優遇措置の縮小で対応していくつもりのようです。

一方、環境対策などで、サルコジ政権と対峙してきたヨーロッパ・エコロジー・緑の党の党首で、2012年大統領選挙の党公認候補に決まったエヴァ・ジョリー(Eva Joly:ノルウェー人、フランス人と結婚後ノルウェー・フランスの二重国籍)がサルコジ大統領を批判しつつ、提案内容は上記与党案とほぼ同じという発言を『ル・モンド』とのインタビューで行っています。どう語ったのでしょうか・・・17日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

『ル・モンド』とのインタビューで、ヨーロッパ・エコロジー・緑の党の大統領選候補、エヴァ・ジョリーは、「予算均衡のための方策は、増税と財政改革だ。行動する余地がない時には、コントロールすることは難しい」と述べるとともに、サルコジ大統領がメルケル首相とともに提唱した黄金律の採用、つまり、予算案に財政均衡化目標を盛り込む規則を憲法に明文化することは否定している。

裁判官でもあったエヴァ・ジョリーは、また次のようにサルコジ大統領を激しく非難している。「ニコラ・サルコジが、我こそは国民を危機から救うことができる人間だ、というのを聞くたびに、怒りがこみ上げてくる。ニコラ・サルコジの、無為さ加減と権力の座について以降の政治判断、それこそが我々フランス国民を危機に陥れた一因なのだ。」

18日からクレルモン・フェラン(Clermont-Ferrand)で行われる夏の党大会を前に、エヴァ・ジョリーは、大統領選キャンペーンで取り上げようとしている、経済危機に対する環境党からの提言の概略を語ってくれた。まず、公務員を聖域化することから始める。退職者2名に対し1名しか新たに採用しないというばかげた公務員削減策をすぐさま廃止することだ。次いで、税の減免措置(niches)を廃止し、タックス・ヘイヴン(paradis fiscaux)や脱税と真剣に戦うことだ。

そして、彼女は、「増税を行う。しかし、この増税は国民の所得上位15%だけが対象になるもので、累進性のため、特に上位5%の富裕層に大きな負担になる増税を考えている。また、資産運用益に対する増税は金融取引税と同じようなものだ。配当や利息など資産運用益は、労働賃金への課税と同じように、当然、課税対象となるべきものだ」と、述べている。

大統領選挙での彼女のスローガンは、「公正なチェンジ」(changement juste)であり、経済危機、環境の危機、社会の危機という3局面に傾注されることになる。「ついに、現行システムのままで良いわけはないと国民に向かって言うべき時がやって来たのだ」と語り、国民には政治環境を選択するよう訴えていくそうだ。

・・・ということで、サルコジ大統領を激しく批判はしてはいますが、公務員削減を除いては、富裕層への増税、税制優遇措置の削減と、経済危機への対応策では歩調を同じくしているようです。できることは限られている、ということなのでしょうか。

一方、フランス国民は、どのような方策を支持しているのでしょうか。14日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

13日に発表された調査会社IFOPの世論調査によると、国債発行額が国内総生産(PIB:Produit intérieur brut)の85%(1兆6,461億ユーロ:約181兆710億円)に達しているという現状を前に、調査対象者の82%が財政赤字と債務問題に不安を抱いている。そして、50%が国債発行額の削減が最優先課題だと考えている。2010年のはじめには36%しかそうした考えをもっていなかっただけに、大きな変化だ。

しかし財政危機を最優先課題に上げた対象者が50%だったことは、失業(59%)、健康(59%)、教育(55%)への取り組みを期待する層よりも少なく、犯罪対策(50%)、収入増と購買力向上(51%)と同程度でしかない。

財政赤字や債務問題の解決策として対象者が挙げたのは、サルコジ大統領の看板政策を廃止せよ、ということだった。退職する公務員2名に対し1名しか新規採用しないという政策(53%)、残業料の非課税化(57%)、飲食業に認められているTVA(付加価値税)の税率低減(62%)などだ。

そして、もうひとつある対策、つまり増税に関しては、受け入れてもいいと答えたのはわずか24%だった。

・・・ということで、直接的な増税はいやだが、国家の財政危機に際し、税の減免措置の削減には応じよう、という気持ちのようです。

このあたり、与党はしっかり国民の意向を汲んでいるのかもしれないですね。何しろ、もうすぐ大統領選挙ですから。国民の受け入れる範囲で、経済危機に対処しようとしているようです。しかし、就任後これまでの4年ちょっとの間に形作られてきたサルコジ大統領のイメージは、そう簡単には修正できないようです。サルコジの看板政策を廃止すれば、危機を乗り越えられる・・・そこまで嫌われてしまっているようですが、大統領選へ向けて、さて、どんな奇策を用意しているのでしょうか。