ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

犬にも「人権」を・・・ブリジット・バルドーの戦い。

2011-08-16 21:18:24 | 社会
ブリジット・バルドー(Brigitte Bardot)・・・1934年9月28日生まれですから、間もなく77歳。BBの愛称で、セックス・シンボルともてはやされましたが、代表作は、と言われると、20歳以上年齢の離れている身には、すぐに答えられません。ようやく思い出すのが、『素直な悪女』(Et Dieu…créa la femme:1956年作)。当時の夫であったロジェ・バディムが監督でした。歌手としては、“Je t’aime moi non plus”などがヒットしました。

1973年に芸能界から引退し、その後マスコミに登場するのは動物保護活動家としてです。特に、「動物の倫理的扱いを求める人々の会」(People for the Ethical Treatment of Animals:PETA)のメンバーであり、広告塔的な存在でもあります。毛皮への抗議活動でも有名な団体で、ポール・マッカートニーなど有名人の賛同者も多いのですが、その過激な抗議活動が顰蹙をかうこともあります。

そのBBが今月、久々にマスコミに登場したのも、動物保護活動家としての抗議活動によってです。4歳の女の子の顔に咬みついた犬であっても、殺すべきではない!

事件の顛末は次のようなものです。

主人公の犬の種類は、ブルテリア犬(un bull-terrier)。ブルドッグの闘争心とテリアの敏捷性を兼ね備えた究極の闘犬種として、闘犬の盛んだったイギリスで交配によって作りだされた犬です。1835年に闘犬が禁止された後、家庭用番犬として飼われるようになりました。平均的なオスは、体高48~56cm、体重21kgほどになるそうです。

さて、事件のプレリュードは、1年前。ブローニュ・シュール・メール(Boulogne-sur-Mer:北部のNord-Pas-de-Calais地域圏にあり、英仏海峡に面した、人口45,000人ほどの市)で、あるブルテリアのオスが、自然死したまま2週間誰にも気づかれずにいた飼い主の死体を食べていたとして捕獲されました。しかし、それは生き延びるためであり、生きている人間に咬みついたのではないという理由で、殺されずに済み、動物愛護協会(Société protectrice des animaux)が引き取りました。その犬を、今年7月のはじめ、ある一家が貰い受け、家で飼うようになりました。

その新たな飼い主の家で事件は起きました。先月16日、飼い主の友人一家が訪ねて来ました。その時、件のブルテリアが、親と一緒にやってきた4歳の女の子の顔に咬みつき、重傷を負わせてしまったのです。飼い主は、その犬の前歴は知らなかったと言っていますが、動物愛護協会は知っていたはずと反論しています。

その犬の運命は、そして、今回の事件の責任は誰にあるのか・・・7月21日に予審が始まりました。そして、そこに登場したのがBB、というわけです。

BBの言い分を、13日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ブリジット・バルドーが、7月にブローニュ・シュール・メールで4歳の女の子の顔面に咬みついて重傷を負わせたブルテリア犬の擁護に立ち上がった。その犬を安楽死させるべきではないと述べ、自分の財団で引き取りたいと提案している。13日付の日刊紙“la Voix du Nord”とのインタビューに答えて、その犬を地獄から救い出すべきだ、と力説している。

ブリジット・バルドーはブローニュ・シュール・メールの市長に手紙を送り、その犬を自由放免にしてほしいとは言わないが、食べ物を与える人が見える程度の明るさの部屋で、檻に入れて生かしておくだけの思いやりをどうか発揮してほしい、と懇願した。

彼女は、まったく孤独な状態におかれたその犬の、収容施設におけるひどい待遇を非難しているが、4歳の少女に起きたことに関しては痛ましいことだと認めている。

日刊紙“la Voix du Nord”は、ブローニュ・シュール・メール市長(Frédéric Cuvillier:社会党)の意見も掲載している。市長は、犬の監視飼育状況には問題はないと述べ、ブリジット・バルドーに現地に足を運んで自分の目で確認するよう促している。また、犬の運命はすでに司法の手に委ねられていることを強調している。この「過失傷害」(blessures involontaires)事件の予審は7月21日にブローニュ・シュール・メールの検事によって始められている。

ブリジット・バルドーは、その犬を救えというネット上での嘆願要請に11,000人近くが賛同を寄せており、また子どもを見張りもせず勝手に犬と遊ばせている親たちがいるがその責任も追及されるべきだと、述べている。「フランスは人間への死刑を廃止している。人間と同じ意識を持たない動物が起こしたことに対して、どうして同じように死罪を排除しないのだろうか」と、彼女は問いかけ、2012年の大統領選挙の候補者に動物保護全般についての政策を聞き、もし納得できる候補者がいない場合は、自ら立候補すると、力説している。

・・・ということで、動物保護活動家としての面目躍如、ですね。動物保護を争点に、自ら大統領選へ立候補することも辞さず! 

BBの発言で気になるのは、親の責任に関しての言及です。一般論として語っていますが、親は子どもをしっかり見張るべきなのに、その親としての務めを果たさず、子どもを勝手に犬と遊ばせていて事故が起きた場合、親にも責任がある、という意見。

日本では、まず出てこない意見ですね。もしそんなことを言えば、袋叩きでしょう。子どもが事故にあった場合、企業の責任、行政の責任は問われても、子どもの親の責任が問われることはありません。

これも彼我の差のひとつですが、違いがあるのであって、どちらが正しい、どちらが間違っている、ということではないと思います(いつも、いつも同じ言い方で恐縮です)。それぞれの国民、それぞれの社会が長い年月をかけて創ってきた価値観であり、生き方です。日本には、日本のやり方がある。ただ、心のどこかに留めておくべきは、外国に行けば価値観や考え方が異なることもある、ということです。しかも、郷に入っては郷に従えで、外国に行けばその国の価値観なりを受け入れざるを得ません。日本の価値観で抗議しても、かみ合わないことがあるのではないでしょうか。可愛いうちの子に、なんてことをするんだ! そんなに可愛いなら、手を離すな!・・・「国際化」の時代は、なにかと大変です。