「例えば、夏の浜辺で、お互いの一般教養をテストし合うような質問だが、下記の三問に答えてみてほしい。」
こうした書き出しの記事が、16日の『ル・モンド』(電子版)に出ています。さて、その三つの質問とは・・・
① 次のように言ったのは誰か:友人の資産家や私は、長い間、たっぷり甘やかされてきた。私たち裕福な資産家は、優遇税制措置の恩恵にあずかってきたのだ。今、アメリカ政府は、犠牲の共有について真剣に取り組むべきだ。
② 次のように書いたのは誰か:連帯を示すための努力は、まず恵まれた境遇にある人たちから始めることが不可欠だと思われる。そう、最も富裕な層の貢献が不可欠だ。
③ 次のような決定をした首脳は誰か:9万ユーロを超える所得には5%、15万ユーロを超える分には10%の所得税を導入することを決めた。
財政赤字と債務に苦しむユーロ圏の国々は、新たな緊縮政策の策定に迫られています。16日には、サルコジ大統領とメルケル首相がユーロ圏の信頼回復に向けた対策について協議し、いくつかの提案を行いました。特に、ユーロ圏における経済政府の設立、黄金律の採用(財政均衡化目標を予算案に盛り込むことを憲法に明文化すること)、金融取引税の導入、が主要な三提案でした。
一方、アメリカも長期国際の格付が引き下げられています。大西洋をはさんで、財政赤字と債務問題へのより一層の取り組みが求められています。その対策の一つとして、増税、それも富裕層への増税が議論されています。
そうした背景から上記の三つの質問を読んでみると・・・いかがでしょう。特に①は日本でも多くのメディアが伝えていましたから、すぐお分かりの方も多いのではないかと思います。では、三つの答えも含め、『ル・モンド』の記事を読み進めることにしましょう。
迷ってはいまいか。①はリリアヌ・べタンクール(Liliane Bettencourt:ロレアル・グループの相続人)やベルナール・アルノ(Bernard Arnault:LVMH会長)といったフランス有数の富裕層だろうか。②はジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon:左翼戦線)やフィリップ・プトゥ(Philippe Poutou:反資本主義新党)といった、大統領選挙への左翼候補者だろうか。③はサルコジ大統領だろうか。
答えは、①:世界有数の資産家、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)が8月15日、『ニューヨーク・タイムズ』に語ったもの、②:フランスの大手広告会社、ピュブリシス(Publicis)会長のモーリス・レヴィ(Maurice Lévy)が同じく15日、『ル・モンド』の記事に書いたもの、③:イタリアの首相にして、最も富裕な資産家であるシルヴィオ・ベルルスコーニ(Sivio Berlusconi)が12日に発表した緊縮策の中で発表したこと。
国庫をより迅速に、より公正に救済するために富裕層へ増税すべきという案は、必ずしも強硬な左翼の専売特許というわけではない。しかし、フランスでは、サルコジ大統領が就任以来4年、増税は決してしないと言い続けてきただけに、政府に困難な対応を強いている。このサルコジ・ドクトリンのお陰で、非常に困難な綱渡りをせざるを得なくなっているのだ。国債の負担を背負えるだけの経済成長が期待できないのであれば、増税はやむを得ないということは誰もが理解している。今こそそうすべきなのだが、逆方向から行おうとしている。つまり、税の減免措置やその結果がもたらす利点を削減しようとしているのだが、これはまさに増税以外の何物でもない。2011年に導入し、2012年により広範囲の削減にしようとしている。
それで十分なのだろうか。答えは、ノンだ。首相や下院への予算案提出者といった堅実な人たちは、その不安を隠しはしない。フィヨン(françois Fillon)首相は、法人税を算定するベースに受け入れがたいほどの高額な経営陣の所得を算入することを求めており、与党・UMPのジル・カレズ(Gilles Carrez)は、課税対象所得が100万ユーロ(約1憶1,000万円)を超える3万人の所得に1%から2%の新たな課税を行うよう提案している。両者の案とも、富裕層への増税を求めているものだ。
サルコジ大統領は、最近の資産に対する税の改革で富裕層への課税を20億ユーロも軽減したが、この先、富裕層への増税を決断するのだろうか。もし大統領が躊躇した場合には、税はすべての国民がその資力に応じて平等に負担すべきものであることを訴えようではないか。その際には、ウォーレン・バフェットを引用するまでもなく、1789年の『人権宣言』の第13条を引き合いに出せばすむことだ。
・・・ということで、欧米では富裕層への増税論が声高に叫ばれているようです。
なお、『人権宣言』の第13条は、租税の分担について述べています。「公の武力の維持および行政の支出のために、共同の租税が不可欠である。共同の租税は、すべての市民の間で、その能力に応じて、平等に分担されなければならない。」(樋口陽一・吉田善明編『改定版 解説世界憲法集』)
一方、日本では、消費税増税は語られていますが、累進税率の改定などによる富裕層への増税についてはほとんど語られていません。子ども手当の収入による制限などが行われてはいますが。国難にあっては、皆が等しく負担すべし・・・一見平等なようで、資産が大きく異なる場合、はたして平等と言えるのかどうか。豊かな者は、より豊かに、でいいのか、豊かな者こそ、率先して連帯を示すべきなのか。問われているのは、富裕層の「品格」なのかもしれません。
こうした書き出しの記事が、16日の『ル・モンド』(電子版)に出ています。さて、その三つの質問とは・・・
① 次のように言ったのは誰か:友人の資産家や私は、長い間、たっぷり甘やかされてきた。私たち裕福な資産家は、優遇税制措置の恩恵にあずかってきたのだ。今、アメリカ政府は、犠牲の共有について真剣に取り組むべきだ。
② 次のように書いたのは誰か:連帯を示すための努力は、まず恵まれた境遇にある人たちから始めることが不可欠だと思われる。そう、最も富裕な層の貢献が不可欠だ。
③ 次のような決定をした首脳は誰か:9万ユーロを超える所得には5%、15万ユーロを超える分には10%の所得税を導入することを決めた。
財政赤字と債務に苦しむユーロ圏の国々は、新たな緊縮政策の策定に迫られています。16日には、サルコジ大統領とメルケル首相がユーロ圏の信頼回復に向けた対策について協議し、いくつかの提案を行いました。特に、ユーロ圏における経済政府の設立、黄金律の採用(財政均衡化目標を予算案に盛り込むことを憲法に明文化すること)、金融取引税の導入、が主要な三提案でした。
一方、アメリカも長期国際の格付が引き下げられています。大西洋をはさんで、財政赤字と債務問題へのより一層の取り組みが求められています。その対策の一つとして、増税、それも富裕層への増税が議論されています。
そうした背景から上記の三つの質問を読んでみると・・・いかがでしょう。特に①は日本でも多くのメディアが伝えていましたから、すぐお分かりの方も多いのではないかと思います。では、三つの答えも含め、『ル・モンド』の記事を読み進めることにしましょう。
迷ってはいまいか。①はリリアヌ・べタンクール(Liliane Bettencourt:ロレアル・グループの相続人)やベルナール・アルノ(Bernard Arnault:LVMH会長)といったフランス有数の富裕層だろうか。②はジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon:左翼戦線)やフィリップ・プトゥ(Philippe Poutou:反資本主義新党)といった、大統領選挙への左翼候補者だろうか。③はサルコジ大統領だろうか。
答えは、①:世界有数の資産家、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)が8月15日、『ニューヨーク・タイムズ』に語ったもの、②:フランスの大手広告会社、ピュブリシス(Publicis)会長のモーリス・レヴィ(Maurice Lévy)が同じく15日、『ル・モンド』の記事に書いたもの、③:イタリアの首相にして、最も富裕な資産家であるシルヴィオ・ベルルスコーニ(Sivio Berlusconi)が12日に発表した緊縮策の中で発表したこと。
国庫をより迅速に、より公正に救済するために富裕層へ増税すべきという案は、必ずしも強硬な左翼の専売特許というわけではない。しかし、フランスでは、サルコジ大統領が就任以来4年、増税は決してしないと言い続けてきただけに、政府に困難な対応を強いている。このサルコジ・ドクトリンのお陰で、非常に困難な綱渡りをせざるを得なくなっているのだ。国債の負担を背負えるだけの経済成長が期待できないのであれば、増税はやむを得ないということは誰もが理解している。今こそそうすべきなのだが、逆方向から行おうとしている。つまり、税の減免措置やその結果がもたらす利点を削減しようとしているのだが、これはまさに増税以外の何物でもない。2011年に導入し、2012年により広範囲の削減にしようとしている。
それで十分なのだろうか。答えは、ノンだ。首相や下院への予算案提出者といった堅実な人たちは、その不安を隠しはしない。フィヨン(françois Fillon)首相は、法人税を算定するベースに受け入れがたいほどの高額な経営陣の所得を算入することを求めており、与党・UMPのジル・カレズ(Gilles Carrez)は、課税対象所得が100万ユーロ(約1憶1,000万円)を超える3万人の所得に1%から2%の新たな課税を行うよう提案している。両者の案とも、富裕層への増税を求めているものだ。
サルコジ大統領は、最近の資産に対する税の改革で富裕層への課税を20億ユーロも軽減したが、この先、富裕層への増税を決断するのだろうか。もし大統領が躊躇した場合には、税はすべての国民がその資力に応じて平等に負担すべきものであることを訴えようではないか。その際には、ウォーレン・バフェットを引用するまでもなく、1789年の『人権宣言』の第13条を引き合いに出せばすむことだ。
・・・ということで、欧米では富裕層への増税論が声高に叫ばれているようです。
なお、『人権宣言』の第13条は、租税の分担について述べています。「公の武力の維持および行政の支出のために、共同の租税が不可欠である。共同の租税は、すべての市民の間で、その能力に応じて、平等に分担されなければならない。」(樋口陽一・吉田善明編『改定版 解説世界憲法集』)
一方、日本では、消費税増税は語られていますが、累進税率の改定などによる富裕層への増税についてはほとんど語られていません。子ども手当の収入による制限などが行われてはいますが。国難にあっては、皆が等しく負担すべし・・・一見平等なようで、資産が大きく異なる場合、はたして平等と言えるのかどうか。豊かな者は、より豊かに、でいいのか、豊かな者こそ、率先して連帯を示すべきなのか。問われているのは、富裕層の「品格」なのかもしれません。