ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

ヴァカンスの時くらい、ストを止めよう、という提案・・・是か非か。

2011-08-04 21:12:02 | 政治
フランスといえば、スト。交通機関のストがすぐ頭に浮かびますが、それだけではなく裁判官、医師、メディア、美術館の学芸員、教師、あるいは高校生まで、あらゆる階層、グループが、ストを行います。ストに遭遇し、せっかくの旅行が台無しだ!という経験をされた方、逆に、本場のデモ行進が見れて良かったという方、いろいろな見方があるかと思います。

イギリス人からは、イギリスでは、国会で、国民が選んだ議員が議論によって物事を決めていくが、フランス人は未だにフランス革命の余韻が忘れ難く、なにかと言うとすぐ街頭に繰り出して意思表示をする、と揶揄されていますが、馬耳東風。相変わらず、様々なスト、デモ行進が行われています。

ストには慣れているはずの、地元・フランス人でも、さすがにこれはまずい、というストがあります。ヴァカンスで人の動きが多い時のスト。特に、飛行機、列車といった交通機関や、ホテル、飲食などのサービス業がストを行えば、せっかくのヴァカンスが、それこそ台無し。

今年の7月、フランス企業ではありませんが、アルジェリア行きのフライトを運航している航空会社がストを行ったため、フランス国内の空港で数日足止めをされたヴァカンス客もおり、ニュースになりました。

そこで、ヴァカンス期間くらいはストを禁止にしたらどうか、という提案が与党議員によってなされました。7月20日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

人の行き来の多い夏のこの時期に、エール・フランスは7月末と8月上旬に予定されているストという難問に直面している。アルプ・マリティム(Alpes-Maritimes)県選出の与党(UMP)下院議員・リオネル・リュカ(Lionnel Luca)は、イタリアに倣って、多く国民がヴァカンスへ出発する時期と、帰ってくる期間のストを禁止し、エール・フランスが直面しているような状況に終止符を打ったらどうかと提案している。

運輸担当大臣のティエリー・マリアニ(Thierry Mariani)とともに、UMPの党内会派“Droite populaire”(大衆的右翼:UMPの国会議員42名が参加、より右寄りな視点を政策に加えることを目標にしています)を立ち上げたリオネル・リュカは、「経営陣と労働組合の対立には何ら関係のない立場の乗客を無視するような対応には我慢がならない。唯一の解決策は、ヴァカンス客の多くが出発する期間と戻ってくる時期のストを禁止することだ」と述べている。

リュカ議員は実際、数週間前に上記のような内容の提案を下院に提出し、ストであっても最低限のサービス(le service minimum)が実施されるよう要求した、と語っている。

7月29日から8月1日までの間、エール・フランスのすべてのCA(客室乗務員)の組合と、パイロットの加入する二つの小さな組合がストを行うと通告している(幸いにもこのストは回避されたと聞いています)。そして、最も影響力のあるパイロットの組合・SNPL(Syndicat national des pilotes de ligne:全国民間パイロット組合)は8月5日から8日までのストを予定している。

組合側の主な不満は、現在のパリをベースにした勤務体制から、乗員などのベースをマルセイユ、ニース、トゥールーズ、ボルドーへと分散するにあたっての労働協約がまだ結ばれていないことだ。

労働組合のFO(Force ouvrière:CGT、CFDTに次ぐ第三の組合)は、「リオネル・リュカの提案は組合に対する挑発、あるいはスト権を禁止しようとする意思の現れだ。ストは何も楽しみで行っているのではなく、交渉が行われない、あるいは合意に至らないときに行っているのであり、現状は、組合との交渉のテーブルに着くことがエール・フランスの経営陣に求められているのだ。こうしたことをリュカ議員は理解すべきだ」と非難している。

しかし、組合側は、大統領選挙のキャンペーンが始まるや、再びこうした少なくとも反動的な色彩を帯びた提案が持ちだされ、反組合的な香りが漂うことを憂慮している。

・・・ということで、ヴァカンス期間でも、特に多くの人が出発する時や戻ってくるときのストを禁止しようという提案がなされたようです。例えば鉄道、メトロなどではすでに、ストが行われていても、“le service minimum”(最低限のサービス)が維持されています。完全にストップするのではなく、大幅な間引き運転が行われるようになっているのですが、それを航空業界にも適用しようとしているようです。

日本では、はるか昔に消え去ってしまったスト。フランスでは、まだまだ健在ですが、労組が心配しているように、ストは国民生活に大きな影響を与える、だから止めるべきだ、少なくとも最低限のサービスは行うべきだ、という意見が出て来ているようです。その先には、当然、スト権の見直しも。

やがては、フランス名物のストやデモが消え去ってしまうのでしょうか。その趨勢に大きな影響を与えるのが、来年の大統領選挙。UMPの候補(サルコジ大統領)が勝てば、さらにスピードを増してスト見直しの方向へ進むでしょうし、社会党候補(フランソワ・オランドかマルティーヌ・オブリー)が勝てばその流れにストップがかけられそうです。

2012年から2017年までの大統領を選ぶ来年の選挙、当然のことながら、様々な分野に影響を及ぼすようで、結果が注目されます。