ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

罰金を科されても議会を欠席する、フランスの国会議員。

2011-08-08 21:22:45 | 政治
日本インターネット新聞社が、2008年における衆議院議員の国会での活動を集計して公表しています。議員立法数、主意書提出数、委員会への出席回数、委員会での発言回数など・・・どの議員が国会で真剣に議員としての務めを果たしているのかどうか、少なくともそうしたことを判断する参考にはなります。たとえば出席を見てみると、首相経験者をはじめベテランのなかに一桁の回数しか出席しかなかった議員が10人ほどいます。引退するならするで、はっきりした方がいいのではないかと思いますが、国会議員という座から降りたくない理由があるのでしょうね。

他の議員でも、十数回の議員から百回を超える議員まで、出席回数だけを見ても、真剣さに大きな差があるように思えてしまいます。こうしたデータ、さまざまなメディアがより頻繁に公表すべきなのではないかと思うのですが・・・

さて、委員会への出席など、議会での日々の活動、そこに大きな差があるのは、何も日本の国会議員だけではありません。欠席が多いので有名なのが、フランスの議員たち。半円形・階段状の議場(hémicycle)が閑散としている場面をニュースで見たりします。2008年には、あまりに欠席が多いので、改善策が決議されました。

2008年当時の、欠席の多い議員たちの言い分は、国会にいても、主要議員がすべてを決めていくので、自分たちは単に投票の際の「数」でしかない。それなら、選挙区にいて、選挙民との対話を増やしていた方が、次の選挙に有利になる・・・このようなものでした。

そこで、改善策ですが、主要なものは、委員会を月2回以上欠席した場合、議員報酬に応じて罰金を科す、その一方、出席の多い議員にはテレビなどマスコミがカバーする場面での発言チャンスを優先的に与える、という「アメと鞭」でした。

さて、2010年秋に始まり、バカンス前に終えた直近の国会、状況は改善されていたのでしょうか。2日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2010-2011年セッションにおいて、委員会への度重なる欠席により、100人ほどの下院議員が罰則の対象になるようだ、と“Regards citoyens”(市民の目)という団体が推測している。しかし、それでも、この罰則が法制化された当時と比べれば、議員たちの出席は改善されているそうだ。

「議員たちの委員会への出席は一般的に多くなってきている。それも水曜朝の定例会だけでなく、ほかの曜日でも出席が増えてきている」と“Regards citoyens”は語っている。この団体は、官報および議員本人への問い合わせを基に、577人の下院議員のうち102人が355ユーロ(約4万円)から5,325ユーロ(約60万円)の罰則の対象になっていると推測している。

2008年の憲法改正と同じタイミングで採用された新たな下院規則により、水曜の午前中に開催される委員会をひと月に2回以上欠席した議員には議員報酬の25%相当額が罰則として科せられ、多い場合はひと月で1,400ユーロ(約155,000円)になる。

2010年10月から2011年6月の期間に「欠席王」となったのは、与党・UMP所属でHauts-de-Seine県選出のパトリック・バルカニー(Patrick Balkany)議員だ。出席すべき33回の委員会に一度も出席しなかったようだ。5,325ユーロを罰として科されたのは、このバルカニー議員だ。

通信社AFP(Agence France-Presse)の取材に、バルカニー議員は罰則を受けたという情報を断固として否定し、病気治療による欠席届けを提出しており、国会では誰もが知っていることだと述べている。国会議長は、罰則を受けた議員のリストは公表するつもりはないと述べ、毎月20~30人の議員が罰則の対象になったと言うにとどめた。

サイト“Rue89”(2007年に日刊紙“Libération”の元記者たちによって開設された、左翼向けの情報・討論サイト)によれば、欠席が2番目に多かったのは、Nord県選出の社会党議員ミシェル・ドゥルバール(Michel Delebarre)、3位はSaône-et-Loire県選出の社会党議員で、大統領選の社会党公認候補を決める予備選に立候補しているアルノー・モントゥブール(Arnaud Montebourg:社会党の刷新担当全国書記であり、Saône-et-Loire県議会議長)だ。このモントゥブール議員は、6月に、同僚のサンドリヌ・マズティエ(Sandrine Mazetier)議員にツイッターで、モントゥブール議員の代わりに投票したのは、今日で5回目。もうこれで最後にすると殿下にお伝えしたい、と皮肉を表明されてしまった。

・・・ということで、選挙民とのふれあいを優先する議員や、党内活動を重視する議員たちに欠席が多いようです。

活発な論戦が戦わされる議会がフランス革命以来の伝統なのではないかと思えますが、実際には議会に重きをおかない議員も多くいるようです。まずは選挙に勝つこと、という国会議員は、どうしても選挙区に張り付いてしまうのでしょうね。一方、政界での階段を登れるだけ登りたいという議員は、選挙対策とともに、党内政治、議会活動と、それぞれに抜かりなく対処していかざるをえない。やはり、トップを目指す人には、パワーが必要です。

しかし、それでもフランス国会で論戦が行われているのも事実です。ニュースなどを見ていても、堂々と論陣を張る議員、官僚が用意してくれたペーパーなどなしで見事に切り返す閣僚・・・国会はこうでなくちゃと思えてきます。

片や、永田町では、用意された答弁書を読み上げたり、官僚が答弁したり、閣僚が涙にくれたり・・・20世紀まではそれでよかったのだと思います。日本型スタイルで、戦後の廃墟から世界2位の経済大国にまで復興・成長できたわけですから。しかし、国際化といわれて久しい今日、自分の主張を、自分の言葉で、それも夢としてではなく、政策として語れる政治家が、必要なのではないでしょうか。求められているのは、「リーダー」です。

“昨夏、一年ぶりにシンガポールでリークワンユー顧問相(当時:今は前顧問相)にお会いする機会を得た。私は二つだけ質問した。「なぜ日本は20年に渡る経済停滞から抜け出せないと思うか?」「欧米も中国もこれから深刻な課題山積だか、危ないのではないか?」
 氏の答えは、「日本人は皆きわめて優秀であり、問題も答えもわかっているはずだ。しかし、実行する人がいない」「欧米や中国の問題は深刻だ。社会不安になりかねない。しかし、私は乗り越えられると思う。なぜなら指導者教育をしっかり行っているから」と簡潔であった。”(田村耕太郎:『現代ビジネス』電子版より)

個々人の問題ではなく、社会システムの問題のようです。ボトムアップ型から、真のリーダーによるトップダウン型へ、変われるのでしょうか。あるいは、ボトムアップのままで、21世紀の大競争社会を生き抜く新たな術を見出すことができるのでしょうか。外交的ジャパン・パッシングの中で、日本そのものの存在感が雲散霧消してしまわないよう、切に願っています。
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