ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

フランスの「ジェネレーションY」は、マイ・ウェイだ!

2012-01-31 21:43:49 | 社会
幾時代かがありまして
茶色い戦争ありました

幾時代かがありまして
冬は疾風吹きました

幾時代かがありまして
今夜此処でのひと盛り
今夜此処でのひと盛り

こう始まる詩は中原中也の『サーカス』ですが、「時代」があれば、そこに生きる人々がいる。異なる時代に生きれば、価値観や行動様式などに、どうしても違いが出てきてしまいます。そこで、注目されるのが、「世代」。

世代・・・さまざまな世代がありました。アメリカでの命名に従うと、古くは、ロスト・ジェネレーション。1920年代・30年代に活躍した作家や芸術家がこう呼ばれており、生まれは1883年から1899年頃。20世紀に入ると、1950年代・60年代に活躍した作家たち。ビート・ジェネレーションと呼ばれ、生まれは1914年から29年ごろに当たります。

戦後になれば、ベビー・ブーマー世代。圧倒的人口の多さで、常に時代を作ってきました。広義では1946年から59年生まれを言うそうですが、日本では、1947年から49年生まれを団塊の世代と言っていますね。その次に登場したのが、ジェネレーションX。1960年から74年に生まれた世代で、日本では、しらけ世代、新人類とも呼ばれています。

そして、ベビー・ブーマーの子どもたち。ベビー・ブーマー・ジュニアとも呼ばれるのが今日のテーマ、「ジェネレーションY」です。1975年から89年に生まれた世代。つまり、ベトナム戦争終結からベルリンの壁崩壊までの間に生まれた世代で、子どもの頃からデジタル製品に囲まれて育ち、ネットや携帯を使いこなす世代と言われています。

このジェネレーションY、フランスでは1980年から99年生まれを指すそうで、今日の20代、10代を占めています。その内、20代は社会に出て働き始めています。社会には、当然、他の世代もいて、新たに労働の場に加わった世代をさまざまに評価しています。どのように判断されているかと言うと・・・16日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

30歳以下の「ジェネレーションY」(la génération Y)は、先輩社員たちにあまり良くは思われていない。他の世代よりも野心的、個人主義的ではあるが、効率的、意欲的ではないと見做されている。日刊紙『ル・フィガロ』(Le Figaro)とテレビ局“BFM”とともに教育訓練機関“CESI”が調査会社“Ipsos”に依頼して行った調査によると、30歳以上のサラリーマンの55%が20代の同僚を野心的、58%が個人主義的と見做しており、同時に48%が効率的でない、46%があまり意欲的でない、44%が熱意が感じられない、器用ではないと判断している。

一方、ジェネレーションY自身は(このYは英語のwhyに由来しているのだが)、先輩社員よりも器用で、意欲的、効率的で熱意もあると自己評価しているが、同時に個人主義的で野心的であることも認めている。このように世代間には大きな相違があるが、それでも仕事の維持、給与のレベル、労働条件を常に気にかけている点では、先輩世代と何ら変わりがない。

調査は経済状況についても聞いている。その結果によると、企業経営者の29%が、この先6カ月、企業活動は悪化すると考えているが、2010年の下半期には19%しかいなかった。一方、働く側も24%が企業業績は悪化すると考えており、2010年の14%より大きく増加している。経営者たちは、一般に、ここ2年以内に経済状況が改善するとは思っていないようだ。

こうした状況にもかかわらず、経営者、労働者併せて70%の人がこの先6カ月の雇用に関しては楽観的である。しかし、労働者側の53%は、もし自分が働く企業で労働運動が起きたなら参加すると答えている。

実査は昨年11月18日から12月6日にかけて行われ、408社の経営者には電話で、サラリーマン1,014人にはネット上で、それぞれ質問に答えてもらった。

・・・ということで、フランスの「ジェネレーションY」は野心的だが、個人主義的なんだそうです。よく、個人主義的だと言われるフランス人。その中でも、いっそう個人主義的な訳ですから、究極の個人主義者、なのかもしれないですね。常に、“going my way”なのでしょうか。

“going my way”と言えば、あの有名な『マイ・ウェイ』。カタカナ表記されると、布施明や尾崎紀世彦の熱唱を思い出しますが、“My Way”と英語になれば、やはり、フランク・シナトラでしょうか。

♪♪信じたこの道を私は行くだけ
  すべては心の決めたままに

死が近づいた男が自分の過去を肯定して、朗々と歌い上げる歌ですね。作詞は『ダイアナ』などで有名な歌手、ポール・アンカ(Paul Anka)ですが、この曲のオリジナルは、実はフランスの曲。ご存知の方も多いと思います。浅学の身も、そのことは知っていたのですが、遅ればせながら、はじめてオリジナルを聞きました。歌っているのは、作曲も手がけたクロード・フランソワ(Claude François)。タイトルは“Comme d’habitude”で、その歌詞はポール・アンカの作詞とはまったく異なっています。どこをどう転んでも、似たところはまったくありません。それでいて、後半の熱唱ぶりは似てくるから、不思議です。

Je me lève
Et je te bouscule
Tu ne te réveilles pas
Comme d’habitude
Sur toi je remonte le drap
J’ai peur que tu aies froid
Comme d’habitude
Ma main caresse tes cheveux
Presque malgré moi
Comme d’habitude
Mais toi tu me tournes le dos
Comme d’habitude

Alors je m’habille très vite
Je sors de la chambre
Comme d’habitude
Tout seul je bois mon café
Je suis en retard
Comme d’habitude
Sans bruit je quitte la maison
Tout est gris dehors
Comme d’habitude
J’ai froid je relève mon col
Comme d’habitude

Comme d’habitude
Toute la journée
Je vais jouer à faire semblent
Comme d’habitude
Je vais sourire
Comme d’habitude
Je vais même rire
Comme d’habitude
Enfin je vais vivre
Comme d’habitude

Et puis le jour s’en ira
Moi je reviendrai
Comme d’habitude
Toi tu seras sortie
Pas encore rentrée
Comme d’habitude
Tout seul j’irai me coucher
Dans ce grand lit froid
Comme d’habitude
Mes larmes je les cacherai
Comme d’habitude

Comme d’habitude
Même la nuit
Je vais jouer çfaire semblant
Comme d’habitude
Tu rentreras
Comme d’habitude
Je t’attendrai
Comme d’habitude
Tu me souriras
Comme d’habitude

Comme d’habitude
Tu te déshabilleras
Comme d’habitude
Tu te coucheras
Comme d’habitude
On s’embrassera
Comme d’habitude

Comme d’habitude
On fera semblant
Comme d’habitude
On fera l’amour
Comme d’habitude
On fera semblant
Comme d’habitude

という歌詞なのですが・・・どこか身につまされる、男の哀しさ、なのですが、どうやったら熱唱できるのかと、不思議です。Claude François Comme d’habitudeで文字検索すると、YouTubeにアップされている映像がすぐに見つかります。まずは、一見にしかず・・・

サルコジ大統領のご託宣・・・メディアをジャックする!

2012-01-30 21:43:46 | 政治
信用不安に端を発する経済危機に、どう対処すべきか。野党がさまざまな提案を行っている中で、EUなど国際機関の中で一定の主導的役割は果たしてはきましたが、国内の対策については明確に述べてこなかったサルコジ大統領。ついに、国民向けに、新たな経済対策を発表しました。

その発表の仕方が、これまた、サルコジ大統領らしい。いわば、「メディア・ジャック」・・・“Media Hijack”に由来するジャパングリッシュの“Media Jack”。車両、駅、雑誌などといったビークル(vehicle:媒体)をある広告で埋め尽くしてしまうことですが、サルコジ大統領は自らの経済対策の発表を、29日午後8時10分から、多くのテレビ局、ラジオ局で同時に中継しました。どこにチャンネルを合わせても、サルコジ大統領の顔が見え、声が聞こえる・・・

放送したメディアは、放送前に公開された『ル・モンド』(電子版)の記事“Le dispositive de l’entretien télévisé de Nicolas Sarkozy”によると、地上デジタル放送を受信できる家庭では、TF1、France 2、BFM TV、iTélé、国会チャンネルの5局、ADSLやサテライトで受信している家庭ではFrance 24、TV-5 Mondeなどが加わり9局で視聴可能となったそうです。

特に、24時間情報チャンネルがこうした会見を中継できるのは初めてだそうで、BFM TVの報道局長、エルヴェ・ベルー(Hervé Béroud)は、「叙任式」(une consécration)のようだと表現しています。

さて、メディア・ジャックしてまでサルコジ大統領が国民に提示した改革案とは・・・放送終了直後に『ル・モンド』(電子版)が早速伝えています。その概略を・・・

主要な対策は、付加価値税(TVA)の標準税率を1.6ポイント引き上げること、中小企業(PME)向けの融資制度を担う投資銀行の創設、金融取引税の新設の3点だ。

●付加価値税率のアップ
現行19.6%の標準税率を21.2%へ引き上げることにより、130億ユーロ(約1兆3,000億円)の増収を図り、増収分は企業の社会保障負担の軽減に充て、競争力強化につなげる。会計処理のコンピューター・プログラム変更などを考慮し、10月1日からの導入とする。食品などへの中間税率や医薬品などへの特別軽減税率は現状を維持する。

付加価値税増税によるインフレの可能性については、「物価上昇など、すべての問題に対処する準備ができている」とサルコジ大統領は述べている。また、フランスのTVA標準税率は21.2%に上昇するものの、EU圏内では平均的な税率だと、語っている。

サルコジ大統領はかつて、増税には反対の姿勢を示していた。昨年11月には、TVA全体の税率をアップさせようという増税案に反対した。その時の理由は、増税は消費に大きな影響を与えるから、というものだった。

●住宅問題
3年以内に住宅を戸数も土地占有係数(coefficient d’occupation des sols:COS)も30%増加させる。この政策は、建設業界に多くのビジネス・チャンスを与えることになり、ひいては経済成長を後押しすることにつながる。

●雇用と労働時間
企業ごとに、労働者と交渉し、半数以上の賛同を得られれば、労働時間に関する協定を結ぶことができる。つまり、週35時間労働の終焉を迎えることになる。「競争労働協約(accords compétitivité-emploi)のお陰で、ドイツは雇用を優先する政策を実施することができている。フィヨン首相があす以降、労使双方に企業ごとの協定を結ぶよう依頼することになる」と、サルコジ大統領は述べている。

競争労働協約ができれば、経営者にとってより容易に給与と労働時間について労働側と交渉することができるようになる。しかし、実施に移すには、多くの課題がある。企業業績のよくない時期に、こうした協定を結ぶことは、2007年の大統領選でのサルコジ大統領のスローガン、“travailler plus pour gagner plus”に反することになるだろう。しかし、この政策により、社会党政権が実現した週35時間労働を転換させ、企業経営にフレキシビリティをもたらすことになると、大統領は自画自賛している。

●金融取引税
8月から実施する予定の金融取引税は、フランスで上場している企業(entrprisee cotées en France)の金融取引に0.1%を課税するものだ。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS:credit default swap)やインターネット株取引(achats spéculatifs par ordinateur)も課税対象となる。金融取引税の総額は、年間10億ユーロ(約1,000億円)と見積もられている。

この新税によって企業の海外移転が進みやしないかという疑念に対して、サルコジ大統領は、課税対象はフランスで上場している全企業であり、そうした企業がニューヨークで株の取引を行ったとしても課税されるので、この新税により海外移転が進展することはない、と説明している。

●産業投資銀行の創設
市中銀行の貸し渋り対策として、2月以降、10億ユーロの資本金で、産業銀行(une banque de l’industrie)を設立する。この銀行は、中小企業への融資を担当する国営金融機関“Oséo”の子会社として設立されるのだが、フランス経済の中核をなす中規模企業が十分な融資を受けられない現状を改善することが目的であり、「この銀行は、金融経済のためではなく、実体経済のために資金を提供するものだ」と、サルコジ大統領は述べている。

●研修生受け入れを増やすための制裁措置
サルコジ大統領は、従業員250人以上の企業が受け入れる若年研修生の割合を従業員数の5%に引き上げると発表した。25歳以下の生産年齢での失業率は20%を超えており、全世代平均の9.3%を大きく上回っている。こうした現状を改善すべく、若年研修生の受け入れ数を現行の4%から5%に引き上げるとともに、遵守しない場合の罰則を強化することにした。

現状では、社員数250名以上の企業が受け入れている研修生は1%未満で、平均1.7人に過ぎず、総数でも60万人ほどだ。それを政府は2015年までに80万人、あるいは100万人にしたいと述べている。

・・・ということで、サルコジ大統領の経済政策が発表になりました。

中に付加価値税の標準税率のアップが含まれていますが、これはあくまで標準税率であって、生きていく上に欠かせない食料品などは5.5%(今月から一部7%)、医薬品などは2.1%であり、税率が一つしかない日本の消費税とは仕組みが異なっています。標準税率だけを紹介して、だから日本の消費税は低い、欧米並みに上げるべきだという意見をときどき耳にしますが、実体はそう簡単に比較できるものではありません。すべての商品カテゴリーをどのように異なる税率に分類するのか、という面倒な作業を日本の政治・行政、あるいは企業は行いたくないようで、一律の消費税になっています。そうした違いを認識した上での議論が必要だと思います。知っていても都合の悪い情報を隠して論じる評論家も多いようですが、騙されないようにしないと・・・

また、サルコジ大統領の声明の中に、金融経済ではなく、実体経済の支援を、という言葉がありました。姜尚中氏は、「虚の経済」から「実の経済」へ、という表現をしています。そろそろマネーゲームから、モノづくりへ、という機運が高まって来ているのではないでしょうか。シティとウォール街に牛耳られる世界から、額に汗して人々の暮らしに役立つモノを作りだす、そうしたことが正しく評価される世の中に代わって行ってほしいものだと思います。

『曽根崎心中』などでお馴染みの浄瑠璃作者、近松門左衛門は、芸の面白さは虚と実との皮膜にあるという「虚実皮膜論」を唱えたと言われていますが、経済も虚と実の両輪が必要なのではないでしょうか。虚の経済だけが大手を振って、わがもの顔で歩き回るさまは、「ひとつの妖怪が世界を徘徊している―拝金主義の妖怪が」となるのではないかと思えてしまいます。

モノづくりの時代への回帰・・・日本の復興を後押ししてくれるかもしれません。そのためにも、まずは、「モノづくりの現場」を修復・再興することが急がれのではないでしょうか。

大統領職のあとさき・・・ニコラ・サルコジの場合。

2012-01-28 22:16:05 | 政治
♪♪一人歩きを始める 今日は君の卒業式
  僕の扉を開けて すこしだけ泪をちらして

と始まる、さだまさしの『つゆのあとさき』。どうして梅雨の時期に卒業式、と思ってしまうのですが、

♪♪めぐり逢う時は 花びらの中
  別れ行く時も 花びらの中

とありますから、卒業式は、やはり、春。ということは、梅雨は梅雨でも、菜種梅雨なのではないかと、感性の鈍ったおじさんは勝手に思ってしまうのですが、どうも、「卒業」は男女の別れを象徴しているという解釈もあり、涙の雨、心の梅雨なのでしょうか・・・

などと、さだまさしファンには言わずもがなのことをくだくだと書き連ねているのは、サルコジ大統領の今後についての記事を読んだからでありまして、もしかすると大統領選挙で敗れるのではないか、もしそうなった場合、ニコラ・サルコジはその先どのような人生を送るのか・・・「大統領職のあとさき」ということで、つい懐かしのフォーク・ソングが蘇ってしまったわけです。

あの強気で知られるニコラ・サルコジが、負けるかもしれないという仮定を受け入れ始めている。さあ、たいへんだ・・・24日の『ル・モンド』(電子版)です。

彼の心の中に、もはや疑う余地はなくなっている。「敗北した場合、政界から引退する、間違いなく。」 数日前から、大統領選で敗れた場合という仮定の話が出されると、このようにニコラ・サルコジは語っている。訪問客の前では情熱を誇示したり、自信のほどを語ったりしているが、敗北・引退という可能性も思い描いているようだ。

「いずれにせよ、崖っぷちにいる。人生で初めて、キャリアの終焉に直面している」とニコラ・サルコジは付け加えているが、キャリアの終点は数カ月後、あるいは5年後には必ずやってくる。

ニコラ・サルコジは、大統領の椅子に恋々としていないということを示そうとしている。彼を共和制君主に擬えているような人たちに対して、「自分は独裁者ではない」と好んで答えている。

もちろん、もし政界から去らねばならないとすれば、生活のリズムの変化や権力がもたらすアドレナリンの上昇を失うことを懸念してはいる。パスカル(Blaise Pascal:1623-1662)の言葉を引用して、「人間は死ぬということを忘れるように造られている」(l’homme est ainsi fait que tout est organisé pour qu’il oublie qu’il va mourir)と述べている(「人間は,死,悲惨,無知を癒すことができなかったので,自己を幸福にするために,それらを敢えて考えないように工夫した」、「人間は生まれながらの死刑囚である」といった言葉が『パンセ』に見られます)。

しかし、ニコラ・サルコジは変わった。別の人生の準備をすることになると自分を説得している。政治の世界では望むべきものをすべて得たことになる。市長、県議会議員、県議会議長、主要閣僚、そして大統領。そして、すべてを知ることになる。勝利がもたらす歓喜、敗北の傷、試練がもたらす知恵。心の穴を埋める情熱以上に何を期待できるだろうか。

2007年の大統領選で勝利する前に、ニコラ・サルコジはすでに、権力の消耗について考えを巡らせていた。2005年、大統領選の2年前、領土担当大臣となるブリース・オルトフー(Brice Hortefeux)を引き連れて、サルコジは内相のポストに再び就いた。ニコラ・サルコジとは子どもの頃からの友人であるブリース・オルトフーは、初めて閣内に入り、“Restignac”の役割を果たした(バルザックHonoré de Balzacの作品『ゴリオ爺さん』le Père Goriotの登場人物の名で、今日では、出世主義者arrivisteや野心家un jeune loup aux dents longuesといった意味で使われています)。サルコジはオルトフーに対して、「今の立場を楽しむがいい。最高の時かもしれない」といっていたが、彼らの夢、人生の野望を実現した時に、その最高の時はやってきた。

「ニコラ・サルコジは権力をもてあそぶという考えなど一切持っていなかった。代わりに、義務という言葉をしばしば口にした」とオルトフーは語っている。そのオルトフーにも、サルコジは、もし大統領選で負けたら政界を引退すると打ち明けている。他の側近たちとともに、オルトフーは、敗北した場合でも、UMPの領袖となってほしいと説得しているが、サルコジ大統領はそうは望んでいない。「UMPを率いてほしいって? それは自分には相応しくない。それくらいなら、カルメル山(カルメル修道会:le Carmel)の方を選ぶ。少なくともカルメル山では希望がある」と語っている。

大統領選挙(決選投票)の行われる5月に、サルコジ大統領は57歳になっているが、まだまだ何でもできる年齢だ。特に、昨年子どもが生まれたばかりのサルコジ大統領なら。(大統領をもう一期やった場合の)2017年には、62歳だ。今、彼は世界の首脳たちの政界引退後の歩みを観察している。国際会議で講演をする人が多いが、英語の場合が多く、彼の苦手な言語だ。一方、元ドイツ首相のゲルハルト・シュローダー(Gerhard Schröder)は、プーチン・ロシア首相と親しく、ロシアのエネルギー企業・ガスプロム(Gazprom)に職を得ている。

サルコジ大統領は、金銭欲を隠しはしない。昨年11月、G20のカンヌ・サミットで、金融界のモラルのなさを批判する前に、次のように語った。「私も将来、しっかり稼ぎたいと思っている。」

オルトフーによれば、マルタン・ブイグ(Martin Bouygues:建設・通信・テレビ局TF1・運輸Alstomなどの企業を傘下に置くコングロマリット、ブイグ・グループの会長)は、サルコジ大統領に幾度となく彼のグループに加わるよう勧めているようだ。サルコジ大統領は側近たちに対して、「自分は弁護士であり、自分の事務所を持っていた。やるべきことが多いほど情熱的になれるんだ。いずれにせよ、人生をすっかり変えようと思う。君たちも、もう私について聞くこともなくなるだろう」と語っている。

サルコジ大統領は、もっと快適で、疲れることの少ない人生を望んでいる。「旅行をし、火曜に始まり、木曜の夕方には終えるような仕事をこなす。そんな人生に懸念などない」と語っている。「彼は政界引退後、より快適な日々、それほど刺激的ではないが、より快適な人生を望んでいるようだ」とオルトフーは述べている。

行動派ではあるが、ニコラ・サルコジは、いつの日か自分の人生を生きる時間を取り戻すことを望んでいた。大統領に就任してすぐ、2007年9月14日に、父親の祖国、ハンガリー訪問から帰国した際、退任後の人生に思いを馳せるようになった。実際にはかけ足の滞在でしかなかったが、ブダペストに残り、二日ほど街をぶらぶらと歩くことができればと思うようになったのだ。二日あれば、馬に乗って森の中を散策し、温泉につかり、コンサートにも足を運ぶことができる。時間さえあれば。「ミッテラン元大統領は楽しみのために外遊をした。そのことを批判するつもりはないが、自分は仕事のために旅行をしている」と、サルコジ大統領は周囲に漏らしている。

元大統領たちと同じように、サルコジ大統領が気にかけていることは、歴史にどのようなカタチで残るかということだ。この点については、確信をもっている。「将来において愛される存在になるためには、止めるべきだ。」

・・・ということで、各種世論調査での劣勢を受け入れ、政界引退、そしてその後の人生設計に想いを馳せつつあるサルコジ大統領。しかし、本心なのでしょうか。それとも、乾坤一擲、反転攻勢へ出るための、言ってみれば嵐の前の静けさなのでしょうか。

1955年1月28日生まれですから、まさに今日、57歳の誕生日。Bon anniversaire ! まだまだ、若い。

しかし、権謀術数、陰謀渦巻く政界に長く身を置いてきただけに、静かな余生を送りたいと、思うようになったのでしょうか。人間は、誰でもいつかは死ぬ。どんな政治家でも、いつかは政界から引退する。そろそろ潮時かもしれない・・・本当にそう思っているのなら、さすがのomniprésentな大統領も、ついにエネルギーが切れてしまったのでしょうか。もしそうなら、政治家のエネルギーのもとは、国民からの支持、国民によって与えられる信任なのかもしれません。

あるいは、頂点を極めれば、あとは山を降りるしかないことに気づいてしまったのでしょうか。最良の時を十分に楽しんでしまったから、後悔はない、といったところなのでしょうか。

♪♪梅雨のあとさきのトパーズ色の風は
  遠ざかる 君のあとを かけぬける

ニコラ・サルコジの去った後には、どんな色の風が吹くのでしょうか・・・いずれにせよ、退任後の話題が出ること自体、フランス・メディアもサルコジ後に備え始めたということなのだと思います。

中近東は遠い・・・第三次オイル・ショック、日本の備えは?

2012-01-27 21:44:49 | 社会
フランス語では、“Proche-Orient”と“Moyen-Orien”になりますが、これは言うまでもなく、ヨーロッパ中心の見方。日本から見れば、「遠西」と「中西」、併せれば、「遠中西」でしょうか。そうすると、ヨーロッパは当然、極西、“Extrème Occident”になりますね。

昔、あまりに日本を「ファー・イースト」、「ファー・イースト」と呼ぶイギリス人がいたので、イギリスを“Far West”と呼んだら、嫌~な顔をしていました。ヨーロッパ中心主義が抜けないのでしょうね。

これは、なにも、西東だけではなく、南北にも言えます。日本にいると地図上では北が上と思い込んでいますが、南半球のオーストラリアに行くと、南が上の地図があります。そこに描かれている我らが日本は・・・カタチも位置も、変だな~と、思わずうなってしまいます。

慣れは恐ろしいというか、思い込みはいけないな~と思ったりするわけで、ときには視点を換えてみる必要があると思うわけです。

ということで、今日のテーマは「遠中西」、ではなく、「中近東」です。中近東と言えば、石油。輸入原油に依存する我らが日本にとって、中近東からの輸入が減少すれば、一大事。昔のトイレット・ペーパー買占めが思い出されますね。そう、オイル・ショックです。

第一次、第二次のオイル・ショックを経て、原油の供給が安定しているように思えていたのですが、ここにきて、ペルシャ湾の波高し。核開発を進めるイランへの制裁措置として、原油の禁輸を求める動きになっています。

日本もアメリカの要請を受け、検討せざるを得ない状況ですが、なかなか明快には答えにくい状況です・・・では、ヨーロッパンは? と言うわけで、23日にアップされた『ル・モンド』(電子版)の記事がEUの決定とその背景を伝えています。

イランへの圧力はさらに強まった。EU加盟27カ国の外相は23日、世界市場の混乱を防ぐため、イラン中央銀行の資産凍結、イラン産原油の禁輸という制裁措置を決めることになっている(実際、決定されました)。この決定はすでに実施されている、長い制裁リストに新たに付け加えられるものだ。433のイラン企業及び113人のイラン人の資産凍結、兵器などの輸出制限、豊富なガス田の開発などを含むプロジェクトへの投資禁止などがすでに講じられている。

EUは、はじめてイランの主要な収入源である原油、一日260万バレルという原油の輸出を制裁のターゲットとした。制裁の背景にはイランの核兵器開発があるのだが、それは国際原子力機関(IAEA、仏語ではl’Agence internationale de l’énergie atomique)の専門家にとってはもはや疑いえない事実となっている。原油禁輸が7月1日以前に発効することはないが、それは原油輸入国、特にアジアの国々に代替供給源を確保する時間的余裕を与えるためだ。

アメリカは今回の禁輸の影響を受けない。と言うのも、イランからはもはや一滴の原油も輸入していないからだ。EU諸国も、イラン産原油のわずか5.8%に相当する量しか輸入していないため、ほとんど影響を受けない。しかしその中にあってイタリア、スペイン、ギリシャは例外的にイラン原油にかなり依存しているため、同調するよう説得するのは容易ではない。一方、インド、中国、日本、韓国はイラン産原油に大きく依存している。

日本はかなり及び腰で、前例のない今回の制裁措置への同調に反対するメッセージを発している。インドは慎重な態度を崩さず、中国に至っては欧米に一切の希望を与えてくれない。「イランと通商を行っているのは中国一国だけではなく、また世界の貿易は守られるべきだ」と、湾岸諸国を訪問中の温家宝(Wen Jiabao)首相は述べている。

イラン原油の禁輸分を増産で補うという約束をサウジアラビアが守るなら、禁輸による原油価格の上昇は限定的なものになるだろう。そしてイランにとっては痛手となる。「外国企業との契約がなければ、イランの原油生産量はゆっくりとだが減少する」と、雑誌“Pétrostratégies”の編集長、ピエール・テルジアン(Pierre Terzian)は述べている。

一方、もしイランがホルムズ海峡(le détroit d’Ormuz)を封鎖すると、海運によって輸送される世界の原油の35%がそこを通過しているだけに、状況は非常に深刻なものとなるだろう。その結果、原油価格は高騰するに違いない。こうした不安は、1月初め、ユーロ安と産油国であるナイジェリアの社会的宗教的対立による混乱によって原油価格が急上昇したことで、すでに起こりうるものとして確認されている。

サルコジ大統領は、外務省に次のような意向を伝えた。軍事介入を防ぐためにあらゆる手立てを講じなければならない。もし軍事介入が現実のものとなれば、中東にとって大混乱(le chaos)となるだろう。そして、また次のように付け加えた。時間は限られている、制裁のさらなる強化によって平和は維持される、と。サルコジ大統領がそう述べる前日、アメリカのパネッタ(Leon Panetta)国防長官は、アメリカはこうした状況に対応できうる準備をしている、と述べていた。つまり、ホルムズ海峡を通過するタンカーの安全を確保するために、軍事的行動を取るということだ。

原油価格は2011年、ブレント価格(原油価格の指標)の年平均が110ドルという記録的上昇を示した。フランス石油新エネルギー研究所(l’Institut français du pétrole – Energies nouvelles)のオリヴィエ・アペール(Olivier Appert)理事長は、「世界は第三次オイル・ショックに直面している。過去の2回のオイル・ショック(1974年と1980年)と同じように、貿易収支は原油輸入と密接に結びついているだけに赤字に転落することになる」と強調している。

2012年の原油価格の上昇は、その需要の停滞により和らげられるかもしれない。1月、国際エネルギー機関(IEA、仏語ではl’Agence internationale de l’ énergie)は、今年の原油消費量の予想を5カ月連続で引き下げ、1日当たり9,000万バレルとした。

・・・ということで、「第三次オイル・ショック」と言うショッキングな表現も飛び出しています。日本ではそれほど深刻な報道にはなっていませんが、それはイラン原油の禁輸措置が実施されるのが7月以降だからでしょうか。その間に、代替供給地の確保ができる見込みがあるのでしょうか。それとも、アメリカとうまく交渉して、日本の禁輸を一部に限定できる目算があるのでしょうか。

しかし、アメリカやEUの決定、そして関係国への足並みをそろえるようにという要求ですが、実体を知れば、呆れてしまいますね。アメリカはイランから原油を輸入していない、EU諸国も一部の例外国を除いて、輸入量は非常に限られている。自国に影響のない制裁策で、イランに圧力をかけようとしている、とも解釈できます。その措置の影響を蒙るのは、アジア諸国とEUの例外国、つまり、イタリア、スペイン、ギリシャ・・・見事に信用不安の渦中にある国々ですね。いっそうの混乱に巻き込まれることはないのでしょうか。

今回の制裁措置においても、アメリカ、イギリスとその旧植民地(オーストラリア、カナダなど)、つまりアングロ・サクソンが中心的に、言いかえれば、自分たちの都合のいいように世界を動かそうとしているのでしょうか。イラン原油の禁輸措置により、もし原油価格が上昇した場合、北海油田を持つイギリス、国内に油田を持つアメリカ、しかも石油メジャーを抱える両国は、得することはあれ、損をすることはない。しかもアジアを中心とした新興国の経済にはマイナスの影響を与えることができ、自国産業の後押しにすらなる・・・素人には、こう読めてしまいます、ど素人の邪推でしかないとは思いつつ・・・

政治家の妻・・・フランスの場合は?

2012-01-24 22:30:10 | 政治
武士もいわば政治家だと考えれば、その妻で有名なのは、まずは山内一豊の妻、見性院(千代、まつ)。嫁入りの持参金で名馬を買ったり、その賢夫人ぶりは今に伝えられています。千代紙の由来になったという一説まであります。

そう少し歴史を遡れば、源頼朝の正室、北条政子。頼朝亡き後は、尼将軍として幕政を担いました。そして、今日では、民主党三首相の夫人が、それぞれのキャラクターを見せてくれています。

アメリカでは、ファースト・レディ。ケネディ大統領夫人、ジャクリーンやクリントン大統領夫人、ヒラリーが特に有名ですね。フランスでは、大統領夫人は“première dame”。サルコジ大統領夫人は元トップ・モデルにして歌手のカーラ・ブルーニ。その華やかさにスポットが当てられています。

大統領や首相ではなくとも、政治家の妻には、選挙区を守る役目や、さまざまな付き合いなど、やることが多く、責任も重いようです。しかし、それでも、政治家の妻はセレブだとその座を目指す人もかなりいるようです。

さて、最近、『ル・モンド』(電子版)が二人のフランス人政治家の妻について、報道していました。誰で、どのような報道だったのでしょうか。まずは、22日の記事から・・・

警察の発表によると、国民教育相(ministre de l’ éducation nationale)リュック・シャテル(Luc Chatel)の妻、アストゥリッド・エレンシュミット(Astrid Herrenschmidt)が22日朝、自殺した。リュック・シャテル自身も、その死を通信社・AFPに送った文書で認めている。

「リュック・シャテルは、今朝起きた個人的悲劇を確認するとともに、子どもたち、家族そして自分自身のためにも故人のプライバシーに対する配慮をお願いする次第です」と、その文書に記している。

南米の仏領ギアナに滞在中のサルコジ大統領は、個人的な出来事であり、リュック・シャテルとは電話で直接話をし、子どもたちの世話をするために時間を割くよう伝えたと、『ル・モンド』の取材に対し述べている。

・・・という短い記事ですが、自殺したのが政治家の妻。何か政治的背景があるのかと疑ってしまいますが、あくまで個人的出来事ということで、詳細は公にされていません。政治家といえども、プライヴェートには深入りしないのがフランス流。かつて隠し子について記者から質問を受けたミッテラン大統領は、“Et alors ?”(それが、何か?)と一言。それ以上、マスコミも世論も追及しませんでした。大統領として、あるいは政治家として、その職務を全うしていれば、プライヴェートについては問わない、というのがフランスの伝統で、今回の悲劇も詳細には報道されていません。

しかし、そういう伝統を持たないアメリカ、大統領はよき夫、よき父親でなければならないアメリカでは、もう少し詳しい報道がなされていました。しかも、リュック・シャテルはアメリカのメリーランド州生まれ。アメリカや英語に愛着があるようで、フランスでの英語教育を早めるような政策も推し進めていますから、アメリカのメディアも関心を寄せているようです。

アメリカでの報道によると、リュック・シャテル(47)とアストゥリッド・エレンシュミット(45)は1991年に結婚し、4人の子どもを儲けています。アストゥリッドは名前から分かるように、アルザス出身のドイツ系。アルザスで自らビジネスも立ち上げていたそうです。それが1月22日早朝、パリ郊外、ブーローニュの森に近いBoulogne-Billancourtの自宅で、首を吊った状態で実母に発見されました。その時、リュック・シャテルは不在だったと伝えられています。その死の背景にあるものは・・・それ以上の情報は、さすがにまだないようです。

こうした悲劇の前日、21日の『ル・モンド』がスポットを当てていたのは、社会党の大統領選候補、フランソワ・オランド(François Hollande)の現パートナー、ヴァレリー・トゥリエルヴェイエ(Valérie Trierweiler)です。どう紹介されていたのでしょうか・・・

オランド陣営のスタッフを不安がらせるには、パリ市セギュール街(avenue de Ségur)に置かれたフランソワ・オランドの選挙本部の3階にある部屋のドアに“Valérie Trierweiler”と書かれたプラカードを吊るすだけで十分だった。「2007年の大統領選の時、我々社会党はセシリア・サルコジ(Cécilia Sarkozy:当時のサルコジ夫人。後、離婚)が果たしている役割を批判したが、今や社会党も候補者夫人の役割について批判されかねない」とスタッフの一人は溜め息をついている。

2007年にセシリアは口出ししたり、アドバイザーを遠ざけたりするなど、あちこちに顔を出していたが、オランドのパートナーはそこまで表に出ているわけではない。しかし、それでも会議の席に加わったり、ネットで発信したりしている。ヴァレリーは、週刊誌“Paris Match”の政治記者だったので、今ではオランドの周りに集まっている社会党の有力議員たちが、かつてオランドについてどんな噂をし、どう蔑んでいたかをよく知っている。

周囲を不安がらせているオフィスの名札を彼女は取り外した。「私がくつろぐ場所が必要じゃないかということでフランソワが決めたことなのですが、そこにはたまにしか行きませんし、実際、そこは会議室として活用されていますから」と述べている。彼女は、第二のセシリアになるのではないかという周囲の心配に対しも、「ニコラ・サルコジは実際、その当選のかなりの部分をセシリアに負っていたのではないかと思われます」とうまくかわしている。

大統領選キャンペーンの序盤から、アドバイザーやジャーナリストたちは彼女の言動を目撃している。1月8日、フランソワ・オランドがジャルナック(Jarnac)にあるミッテラン元大統領の墓前に参った際、ヴァレリーが元大統領の娘、マザリヌ(Mazarine)と話しこんでいるのを目撃している。

社会党支持者を集めた大集会の際には、オランドとの間に4人の子どもを儲けた前パートナー、セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal:2007年の社会党候補)の隣にヴァレリーが間違っても座ることのないように、広報担当者たちがせわしなく動き回っているさまが目を引いた。オランドが地方遊説から帰るクルマの中では、アドバイザーたちはオランドのスマートフォンの画面にヴァレリーからの電話であることを示す“Mon amour”という文字が現れるのをひそかに待ち構えていた。その文字が現れるや、彼らはオランドから離れなければならないからだ。

ヴァレリーの影響力は、実際どれほどなのだろうか。オランド陣営の広報担当でもある党の実力者、マニュエル・ヴァルス(manuel Valls)は彼女に何かと相談をし、オランドのより親しみのあるイメージをどう作るかに関して、彼女の意見に耳を傾けている。なにしろ、ヴァレリーは『パリ・マッチ』誌で政治家を厨房に立たせるなど親しみを演出するやらせのシーンを幾度となく作ってきたからだ。

1月15日の夜、『ル・モンド』は、フランス国債がAAAから引き下げられたことに関するオランドとのインタビューの返事を待っていたのだが、驚いたことにヴァレリーのメール・アドレスから返事が返ってきた。彼女はすぐさま、「フランソワはパソコン入力をせず直筆で書きました。それを私が秘書のようにパソコン入力したまでです」と、彼女が替わりに返事したのではないかという疑いを払拭した。

『パリ・マッチ』誌は、ヴァレリーが情報を社会党に漏らすことを恐れ、編集会議に加わらないよう彼女に求めた。「まるで罰せられ、自宅謹慎になっているような気分です」と彼女は残念がっている。しかし、彼女の気に入らない記事が出たあと、彼女から怒りの電話をもらった編集長は一人や二人ではない。「ジャーナリスト何人かに電話したのは事実ですが、私に関する記事についてで、フランソワに関するものではありません」と彼女は語っている。

ヴァレリーは長年務めてきた政治コメンテーターとしての役割から離れようと懸命に努めている。彼女の友達は、ナディーヌ・モラノ(Nadine Morano:与党・UMP所属、職業訓練・職業教育担当大臣:フランソワ・オランドがサルコジ大統領を批判した一部の言葉、失敗した大統領(président en echec)と汚い奴(sal mec)がメディアに流れた際、モラノ担当大臣が「許し難い暴言であり、謝罪すべきだ」と非難。それに対して、ヴァレリーが反論しています)やメディアに対してツイートするのを止めるよう勧めたが、彼女はそれを拒んだ。

1月13日、左翼戦線(Front de gauche)の大統領選候補、ジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)は、テレビ局・France 2に出演した際、彼が極右・国民戦線(FN)の候補、マリーヌ・ルペンに微笑んで挨拶したと彼を罠にかけるような報道をヴァレリーがテレビ局・Direct 8の番組でしたと批判。それに対し、ヴァレリーはツイッターで、「カメラの前でメランションさん、あなたがルペン女史に対して愛想の良い顔をしているのを見れば、罠にかけるなどと言うことはできない筈」と反論している。

数週間前から、コミュニケーション会社“EuroRSCG”の元社員、ナタリー・メルシエ(Nathalie Mercier)がヴァレリーのアドバイザーに就いている。1月25日、Direct 8で彼女がキャスターを務める新しい文化番組についての宣伝のため、同系列のテレビ局・Canal+のトークショー“Grand Journal”に出演した際、彼女は番組の後半にしか出演しないで済むよう交渉した。政治担当の編集者たちは前半で席を立つからだ。

・・・ということで、政治ジャーナリストとしての経歴ゆえ、その言動がいっそう注目されてしまうヴァレリー・トゥリエルヴェイエ。彼女なりに、目立たないように気を使ってはいるようなのですが、長年の習慣か、つい意見を公表したり、反論してしまったりしているようです。なかなか習性は抜けないのでしょうね。

一口に「政治家の妻」と言っても、その人の経歴や、夫(パートナー)の立場によって、一概にどうあるべきかを決めることはできないようです。それぞれが、それぞれの立場でベストな行動を取る必要がある。それだけに、その人の人間性なり、能力が現れてしまう。批判されることも多い・・・政治家の妻、決して楽なセレブ稼業でないのは、洋の東西を問わないようです。

フランソワ・オランドが公約を発表。政治家の約束、フランスでは・・・

2012-01-23 21:45:53 | 政治
以前は、政治家の公約は守られないものだ、という認識が強かったのですが、最近では、政治家が行うと公約したことは実施されず、行わないと明言したことが行われる、と理解する必要があるのではないかと、思えて来てしまいますが、これは我らが日本の現状。さて、ユーラシア大陸の反対側、フランスでは、政治家の公約はどの程度守られているのでしょうか。

例えば、サルコジ大統領の公約。特に有名な“Travailler plus pour gagner plus”(より長く働いて、より多く稼ごう)というスローガンに関しては、“Travailler plus pour gagner moins”(より長く働いて、少なく稼ごう)になっているという批判がよく聞こえてきます。

やはり、政治家の舌は二枚舌・・・権力の座について、国のため、国民のため、こうした政策を行いたい、という人よりは、権力欲が強く、権力闘争の好きな人が権力の座を目指すからなのでしょうか。権力の座に就けば、後はこっちのもの。好きなようにできる。だから、嘘も方便。選挙の時だけ、頭を下げていれば良い・・・

それでも、政治家が立法を担い、行政のトップに就くシステムの下で暮らす限り、政治家に期待するしかありません。少しでも良い政治家に出現してほしい・・・フランス大統領選挙に、社会党から公認候補として出馬するフランソワ・オランドの場合は、どうでしょう、国民のための政治をしてくれるのでしょうか。その答えは、当選した場合のその後の行動を見るしかありませんが、嘘半分としても、その公約がどのようなものなのか、興味を惹かれますね。

22日、15,000人とも言われる多くの支持者を集めた最初の大規模な集会を開き、そこで選挙キャンペーンで掲げる公約を明らかにしました。どのような内容なのでしょうか・・・22日の『ル・モンド』(電子版)がその要約を伝えています。

1月22日、ル・ブールジェ(Le Bourget:パリ郊外、チャーター便やプライヴェート・ジェットの飛行場がある事で知られる町)でフランソワ・オランド(François Hollande)が行った演説で明らかになった公約の要約は以下の通りだ。

●経済(économie)・財政(finance)・赤字(dette)・税(impôts)
―銀行業務において融資と投機を区別するとともに、ボーナスに規制を設けること
―実体経済の必要性と何ら関係のない金融商品は完全に一切禁止すること
―金融取引に関する実質的な課税を、賛同する欧州各国とともに実施に移すこと
―欧州レベルでの公的格付け会社の設立
―欧州における環境分担金の導入
―フランスの再工業化を後押しする国有投資銀行の創設
―中小企業(PME:Petites moyennes entreprises)の振興に役立てることを目的とした貯蓄商品の創設
―年収15万ユーロ以上(約1,480万円)の人たちに対する税率45%という課税区分の新設

●社会(société)・脱宗教性(laïcité)・平等(parité)
―地方選挙における外国人への参政権付与
―同性愛者の結婚、養子縁組を認めること
―提案するすべての法律において、ハンディキャップのある人に対する条項を加えること
―10年以内に、フランス全土を超高速通信網(en très haut débit)により結ぶこと
―共同体主義(communautarismes)に対しフランス社会を自由にし守るためのものがライシテである故に、ライシテに関する1905年の法律を憲法に明記すること
―給与の男女平等を守らない企業に対して免税措置を廃止すること

●治安(securité)・住宅(logement)・退職(retraite)
―軽犯罪(délinquance)の発生率の高い地域に、優先的治安ゾーンを設けること
―すべてのフランス人が公共住宅に入居できるよう、非課税貯蓄商品“livret A”の預け入れ上限を倍増させること(現状は15,300ユーロです)
―高過ぎる家賃に制限を設けること
―地域に建つ住宅のうち少なくとも20%を公共住宅にすべしというSRU法(Loi relative à la solidarité et au renouvellement urbains)の規則をないがしろにしている自治体へ科す罰則を5倍にすること(公共住宅が増えると、移民や低所得層が増えるため、罰則を科されても建設しない自治体が多くあります。例えば、パリ西郊の高級住宅街、ヌイイー・Neuilly-sur -Seine。長年ここの市長を務めていたのがサルコジ大統領です)
―退職に関しては、若くして働き始めた人が60歳から年金全額を受給できるようにすること

●教育(éducation)
―2017年までに、何ら資格を得ずに教育課程を終える若者を半減させること

●政治制度(institutions)
―大統領と閣僚の給与を30%削減すること
―国会議員の兼務を禁止すること(国会議員と地方議会議員などを兼務する政治家が多く、フランソワ・オランド自身、下院議員とコレーズ県議会議長を兼務しており、批判されています)

●外交(relation internationales)・防衛(armée)
―2013年1月に新たな仏独条約をドイツ首相に提案し、実現させること
―アフガニスタンから撤兵すること

・・・ということですが、どれが実現できそうで、どれがリップ・サービスに聞こえるのでしょうか。大統領と閣僚の給与30%削減と兼務の禁止などは、自ら襟を正すといったところで、実現すれば、国民受けがいいのではないかと思います。

また公的格付け会社の設立という項目は、S&Pというアメリカの民間格付け会社によってフランス国債の格付けがAAAから1段階引き下げられた直後だけに、フランス国民受けするのではないでしょうか。このあたりは、さすが中華思想の国だと思えてしまいます。フランスがトップでない物差しは、物差しの方がおかしい。新しい物差しを作ってしまおう・・・

同じ中華思想の国、中国はすでに1994年、民間会社ではありますが、「大公国際資信評価」という格付け会社を作り、事故直後の中国鉄道省にもAAAを付けています。中国国債はAA+。一方、アメリカ国債の格付けはA、シングルAです。また、中国はノーベル平和賞に反発して、孔子平和賞を創設しましたが、受賞者が授賞式に出席せず、立ち消えになりそうな情勢です。しかし、それでも欧米中心の制度にはっきりと「不是」(ノー)といっているのは、見上げたものです。『「NO」と言える日本』はエッセイの中だけのことだったのでしょうか。「NO」と英語を使っているあたりからして、すでに腰が引けているのかもしれませんが。

もし、フランソワ・オランドが当選した場合、どの程度公約を守ってくれるのか、我らが日本の政治家とは異なるのか、同じなのか、今日の公約はしっかりと記憶に留めておきたいものです。

イタリアは、いつも「イタリア」。イタリア人も、いつも「イタリア人」だね~。

2012-01-22 21:40:15 | 社会
国民性は、なかなか簡単には変わらないようですね。しかも、外から見た方が、その特徴が良く分かる。というわけで、各国の国民性をネタにしたジョークが世界中にあるようです。

以前にもご紹介したことがありますが、『世界の日本人ジョーク集』(早坂隆著:2006年刊)から、若干引用させてもらいます。

●それぞれの幸福
 イタリア人の幸福とは、愛人とパスタを食べながらサッカーを見ている時。
 イギリス人の幸福とは、うまいブラックジョークが決まった時。
 ドイツ人の幸福とは、計画通りに物事が運んだ時。
 スペイン人の幸福とは、美味い物を食べてのんびり昼寝している時。
 日本人の幸福とは、食事をさっさと終えて再び働き始めた時。
 ソ連人の幸福とは、部屋に踏み込んできた秘密警察が人違いに気付いて帰って行った時。

●遅刻の対処法
国際的な学界の場で遅刻してしまったため、発表の持ち時間が半分になってしまった場合、各国の人々はどうするのだろうか?
 アメリカ人・・・内容を薄めて時間内に収める。
 イギリス人・・・普段通りのペースで喋り、途中で止める。
 フランス人・・・普段通りのペースで喋り、次の発言者の時間に食い込んでも止めない。
 ドイツ人・・・普段の二倍のペースで喋る。
 イタリア人・・・普段の雑談をカットすれば、時間内に収まる。
 日本人・・・遅刻はあり得ない。

●軍隊比較
世界最強の軍隊とは?
 アメリカ人の将軍
 ドイツ人の参謀
 日本人の兵
では世界最弱の軍隊とは?
 中国人の将軍
 日本人の参謀
 イタリア人の兵

●早く飛び込め!
 ある豪華客船が航海の最中に沈みだした。船長は乗客たちに速やかに船から脱出して海に飛び込むように、指示しなければならなかった。船長は、それぞれの外国人乗客にこう言った。
 アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」
 イギリス人には「飛び込めばあなたは紳士です」
 ドイツ人には「飛びこむのがこの船の規則となっています」
 イタリア人には「飛び込むと女性にもてますよ」
 フランス人には「飛び込まないでください」
 日本人には「みんな飛び込んでますよ」

先週のフランスにおけるトップ・ニュースは、豪華客船の座礁事件でした。60数カ国からの乗客・乗員がいたというイタリアの豪華客船、コスタ・コンコルディア号。スポットが当てられたのは、乗客がどう対応したかではなく、船長がどう振る舞ったか、でした。

少なくとも11人が死亡し、21人が行方不明となっている大惨事。ご冥福をお祈りするばかりですが、問題視されているのは、イタリア人船長が取った行動。フランス人犠牲者も少なくとも4人出ています。この悲劇をフランス・メディアがどう伝えていたか、その一端を19日の『ル・モンド』(電子版)に見てみることにしましょう。

イタリア沿岸で座礁した豪華客船「コスタ・コンコルディア」号(“Costa-Concordia”)の残骸から生存者を探す捜索が、19日も行われた。現状での犠牲数は11人に上っている。そのうち8人の身元が確認された。乗客はフランス人が4人、イタリア人1人、スペイン人1人、乗員はペルー人が1人と船内のオーケストラでヴァイオリンを弾いていたハンガリー人が1人だ。

17日に発見された犠牲者のうち、フランス東部出身の二人の遺体が19日、家族によって確認されたと、トスカーナ州ゴッセート(Gosseto)市の警察が公表した。「コスタ・コンコルディア号の座礁で失われたフランス人の命は4人となった。行方不明となっている2人のフランス人に関する情報はまだない」と、仏外務省の報道官、ベルナール・ヴァルロ(Bernard Valero)は語っている。

座礁から6日、まだ24人の行方が不明なままだ(『ル・モンド』は24人と伝えています)。行方不明者の家族は船長への怒りを露わにしているが、滞在先を割り当てられ、不安の中で捜索の結果を待っている。

「昨晩行ったテストは上手く行った。潜水夫たちがすでに潜って救援活動を行っている。極小の爆発物を使って、船内へのアクセス通路を広げたので、船内に入り、生存者を探すことが可能になった」と、沿岸警備隊の広報、フィリッポ・マリーニ(Filippo Marini)が19日早朝、述べている。

しかし、潜水夫の作業は困難を極めている。井戸と化した廊下を進まねばならず、船内は鍵の掛けられたドアや家具の山、カーペットの切れ端などによって寸断されているからだ。しかも、島の近くで座礁した巨大な船体がわずかに動いただけで、18日はほぼ丸一日、捜索活動は中断を余儀なくされた。

19日、さらなる情報が、過失致死をはじめ船を座礁させたこと、座礁後に船を見捨てたことなどにより訴えられている船長、フランチェスコ・スケッティーノ(Francesco Schettino)をいっそう窮地に追い込んだ。今、船長はナポリの南、メタ・ディ・ソレント(Meta di Sorrento:『帰れソレントへ』で有名な地域ですね)にある自宅に軟禁されているが、検察によると、船長は「離船後、ジリオ島(Giglio)の岩礁の上でじっとしたまま、船が沈んでいくのを見ていた」そうだ。

起訴は、船長の行動に関する5人の乗組員の証言に基づいている。乗組員たちは、ジリオ島へ近づくためにスケッティーノ船長がルートを変更するように決めたと検察に語っており、判事(Valerio Montesarchio)は、慎重さと思慮に著しく欠ける行動だと批判している。

判事はまた、「船長の行動、特に責任を持つべき4,000人以上もの人命をないがしろにし、状況の深刻さを信じられない程に軽く見た判断が甚大な被害の原因であり、許されるものではない。船長は損害の大きさを過小評価し、沿岸警備隊に事故を速やかに知らせることを怠ったため、結果として緊急対応と救援活動を遅らせてしまった」と非難した。

取り調べを受けた際、スケッティーノ船長は自分は優れた船長だと自慢していたと言われるが、現地の報道によると、14日の事故直後、憲兵隊に「人生を変えるつもりだ。船には二度と足を踏み入れたくない」と語っていたそうだ。

捜索と並行して、燃料の流出を防ぎ、ジリオ島の環境を守るために、2,380トンにおよぶ燃料油の抜き取り作業が19日に始められることになっている。数週間かかることになるこの作業は、燃料油にいっそうの流動性を持たせるために加熱する必要があるだけに、非常に困難なものだ。

・・・ということで、『ル・モンド』はあくまで客観的に報道しているだけですが、通信社などの報道によると、船長は座礁の後にも拘らず、恋人だか愛人だかの女性との食事のためにオーダーをしたとか、乗客よりも先に救援ボート上にいたのは、混乱の中で転んだところ、たまたまボートの上に転がり落ちただけだと語ったとか、ジリオ島に近づいたのは、そこに先任の船長が住んでいるから、あるいは給仕長の家族が住んでいるので挨拶のために近づいたとか、さまざまな情報が飛び交っています。船長と一緒に食事をしようとしていた女性が外国メディアの取材を受けた映像もネットに流されていました。また、沿岸警備隊との通話記録も公開されましたが、船に戻るよう厳しく言われたにも拘わらず、なんだかんだと言って戻らなかったようです。

「さすが、イタリア人」と、変な感心をしてしまうのですが、一方、「さすが、イタリア」と感心させてくれるニュースを、同じく19日の『ル・モンド』(電子版)が伝えていました。

イタリア警察は19日、ミラノにあるスタンダード&プアーズ(S&P)イタリア法人の本社を家宅捜査した。この捜査は市場操作の疑いで2010年にムーディーズ(Moody’s)に対して始められたもので、その後S&Pに捜査対象が広げられた。

コミュニケの中で、S&Pは格付けの独立性をめぐる捜査に驚き、嘆いていると語っている。また、今回の捜査は根拠を欠いており、目的もないものだと批判。そして、自らの行動、評判、自社アナリストたちの評価を全力で守ると述べている。

トラーニ(Trani:イタリア南東部にある市)の地検は2010年末、同年5月に出されたムーディーズのレポートに対する消費者団体からの訴えに基づき、捜査を開始した。その文書はイタリア金融機関の市場における取引にマイナスの影響を与えた。その報告書において、ムーディーズはイタリアなどEUの国々の格付けを引き下げることがギリシャの場合と同じように、金融システムに影響を与えるリスクについて警戒を促していたからだ。

2011年の春から夏にかけてS&Pがイタリアに関するコメントを発表して以降、捜査対象にS&Pも含まれるようになった。検察は、S&Pの発表したコメントはイタリアに関する根拠のない判断を含んでおり、市場にネガティブな影響を与えたと判断している。5月に、S&Pはイタリアの格付けを引き下げる可能性にはじめて言及し、7月には、新たな緊縮策にもかかわらず、財政赤字削減目標にはリスクが伴うと強調していた。

それ以降、S&Pは9月にイタリアの格付けを1段階、そして今年1月13日には2段階引き下げ、BBB+とした。格付け会社は重要な時期にEU諸国の格付けを引き下げ、ユーロ危機を助長させたと批判されている。

・・・ということで、背景はいろいろあるにせよ、格付けを引き下げられた途端、S&Pオフィスの家宅捜査を行ったイタリア。良くもここまで見え透いたことを、と感心してしまいました。さすがは、イタリア!

情熱の国、イタリア。そこにあるのは、愛人、パスタ、カルチョ、責任逃れの詭弁、ずる賢さ、やられたらやり返すずうずうしさ・・・それでも、愛すべき人々なのかもしれません。周遊旅行で、フランスからイタリアに入った途端、なぜかホッとしたという人も多くいるのですから。それに、歴史の遺産。観光地としては、素晴らしいものがあります。しかし、住むとなると、愛すべき人たちとも言っていられなくなるのではないかと思ったりするのですが・・・

そして、ブーメランは、我らが日本へ。上記のジョーク集にあるように、勤勉、規律、まじめ。しかし、リーダー・シップがない。戦略がない。そう、リーダーたる人物をなかなか輩出できない社会ではあるようです。どうしてなのでしょうか。

日本を支えるのは、現場。現場の力です。トップはお飾り、神輿に乗るのは軽いほどいいと、政界でも言います。トップダウンではなく、ボトムアップの社会。だからでしょうか、社長の就任あいさつでも、聞こえてくるのは、現場に最も近い社長でありたい、現場が明るく楽しく働くことができる会社にしたい・・・決して経営戦略ではありません。現場が頑張れる環境整備が社長の役目であったりします。しかし、それで、この国は成長してきたわけで、なにも無理に変える必要はないと思います。

もし、今日本が国際競争などで困難な時期にあるとすれば、それは自らの強みである現場の力を自ら削いでしまったからではないでしょうか。現場の人件費をコストとして削減した、つまり非正規や派遣を増加させ、プロとしての誇りを失わせてしまった。また、転職を奨励することにより愛社精神を薄れさせ、仕事、ひいては会社の成長のために全力を尽くすことを忘れさせてしまった。自分のことしか考えないサラリーマンや労働者。しかも、ゆとり教育のせいか、基礎学力等に若干のハンデを抱えた労働力が増えている。さらには、ともだち親子の影響か、叱られ慣れていない、打たれ弱い人材が現場の主力になってきている。日本が沈みつつあるとすれば、それは自ら招いた結果なのではないでしょうか。

今、リーダーを希求する声が大きいですが、望むべくもないことを夢見るよりは、現場の力をもう一度取り戻すことの方が日本に合っているのではないでしょうか。現場が強くなってこそ、「さすが、日本」なのだと思います。日本人は優秀な兵ではあっても、優秀な参謀ではないようですから。もう一度、原点、日本人の良さを取り戻そうではありませんか、一人一人が、身近なところから。そう思っています。

何事も、道具じゃない、キミの腕次第だ!

2012-01-17 21:10:53 | 文化
例えば、スキー。どう滑るか(受験生のいるご家庭には、恐縮です)よりも、ウェアはどのブランド、板はどのメーカー、という方に話題が行ってしまう。ゴルフにしても、どこのクラブが良いか、それもウッドはどこ、アイアンはどこという話題で盛り上がってしまう。ブームに乗る、あるいは周囲に合わせるから、という背景もあるのでしょうが、私たちの周りには、どうも、道具やファッションに先に目が行ってしまうことがよくあります。

事は、なにもスポーツに限らず、音楽でも。楽器はどこのメーカーのものが良いのか、といった話題が先行してしまう場合もありますね。それも、アマチュアだけでなく、プロの演奏家を評する際にも。あのソリストはどこどこの楽器を使っているから、さすがに音色が違うとか、そんな批評を音楽ホールのロビー(foyer)でしているのを耳にすることがあります。

はたして、道具がパフォーマンスにどれほどの影響を及ぼすのでしょうか。こうした疑問に答えるべく、時々、「愛好家」にとってはちょっぴり意地悪な調査が行われたりするわけですが、最近、フランスの音響学者がヴァイオリンについての調査を行いました。そのターゲットになったのは、かの「ストラディヴァリウス」。

ストラディヴァリウスについては、改めてご紹介するまでもないと思いますが、概略だけ。

イタリア北西部、クレモナの弦楽器製作者、アントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari:1644-1737)によって製作された弦楽器。特に名ヴァイオリンの代名詞として知られています。ヴァイオリン(violon)が600挺、チェロ(violoncelle)が50挺、ヴィオラ(alto)が12挺、ギター(guitare)が3挺、計700挺近くが、オリジナルを基に再現されたものも含め、伝わっています(“Dictionnaire Larousse de la Musique 1987”)。

その価格は、オークションに懸けられたヴァイオリンが12億円以上の値を付けたこともあるほど。従って、個人所有のものばかりではなく、団体や企業が所有し、名演奏家に貸与しているケースも多く、例えば、ベルリン・フィルのコンサート・マスター、樫本大進氏のストラディヴァリウスは、多くのストラディヴァリウスを保有する日本音楽財団からの貸与だそうです。

各楽器には、“Antoniusu Stradivarius Cremonensis Faciebat Anno 0000”(クレモナのアントニオ・ストラディヴァリ0000年作)とラテン語で記されており、そこからラテン語で「ストラディヴァリウス」と呼ばれているとか。

さて、では、どのような調査が行われ、その結果は・・・14日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ついに名器ストラディヴァリウスの謎が明かされたのだろうか。いや、むしろ、ストラディヴァリウス神話が色褪せたと言った方が良いだろう。アメリカのインディアナポリスで、あるフランス人音響学者によって行われたブラインド・テストの結果は、かの有名な楽器に捧げられた称賛を痛烈に批判するものとなった。パリ第6大学の音響学者、クローディア・フリッツ(Claudia Fritz)は、2010年、(4年に一度開催される若手ヴァイオリニストを対象とした)「インディアナポリス国際ヴァイオリン・コンクール」を利用して、21人の腕の確かな演奏家によるヴァイオリンのブラインド・テストを行った。クレモナの名人の手による楽器は、そのテストで巷間言われている評判ほどの結果を得ることはできなかった。

すべてにわたって慎重な準備が行われた。実査への協力も、バラエティに富んだ演奏家に依頼した。コンクールへの参加者だけでなく、ソリストやベテラン演奏家にも加わってもらった。演奏家たちにはまず、楽器の種類が分からないように、溶接工が使うゴーグルを掛けてもらい、しかも、楽器に使われている古い木特有のにおいを消すため、香水をひと吹き。

なにしろ、ここが肝心な点。年代物の楽器か新しい楽器かを判断してもらうのだから。ホテルの部屋で、演奏家たちには2ステップの調査を行ってもらった。

まずは、現代の名工の手によるヴァイオリン3挺(平均価格25,000ユーロ:約2,450万円)と18世紀イタリア製の3挺(ストラディヴァリウスが2挺、ガルネリウス・デル・ゲズ〈Guarnerius del Gesu〉が1挺、3挺合計の価格はおよそ800万ユーロ:約7億8,400万円)を順不同に弾いてもらった。そして、6艇を演奏後、どのヴァイオリンが家に持ち帰りたくなるほど気に入ったかを尋ねた。

2番目のテストは、2挺のヴァイオリンを手にしてもらい、どちらが年代ものかを判断してもらった。

この2番目のテストでは、ほとんどの演奏家が間違ってしまった。音の深さ、緻密さ、音の反響、ムラのない音域、反応の速さ・・・そうしたすべての評価基準で、特別な存在と言われてきたヴァイオリンも現代の作品と差がないことが分かった。どちらが優れているかという質問では、少し良い結果になったが、それでも21人中8人だけが年代物の名器の方が良いという判断を示した。最も良い評価を得たのは現代に作られたヴァイオリンで、逆に最も悪い評価を得たのは1700年ごろに製作されたストラディヴァリウスだった。

昔の弦楽器製作者の手になる作品への評価を相対化するような研究は今回のテストが初めてではない。しかし、いつもの調査は、聴衆を対象に行われており、この点が今回のテストの新しさだ。演奏家を対象に行った今回の調査結果が聴衆を対象にした今までのテストと同じ結果になったことに、音楽関係者は驚いている。調査に加わった演奏家の一人も、“Artsjournal.com”というサイトで、そのような感想を述べている。

しかし、議論が終わったわけではない。今回の調査結果が1月2日にアメリカ・アカデミー紀要に発表になって以来、多くの名演奏家たちが調査への疑いを表明している。例えば、優れたヴァイオリンはホテルの部屋などで弾かれるものではない。あるいは、ヴァイオリンの傑作を弾きこなすにはもっと時間がかかる、など。クローディア・フリッツにとっては、いずれにせよ、ストラディヴァリウスの名器たるゆえんをイタリアのかつての弦楽器製作者が使った木質、接着剤、ニスに求める必要がなくなった、ということだ。彼女が『ニューヨーク・タイムズ』に語ったように、「傑出した楽器の秘密は演奏家の頭の中にある」ようだ。

・・・ということで、音楽愛好家が聴いても、プロの演奏家が弾いてみても、ストラディヴァリウスと現代の優れたヴァイオリンの間には差がない。差がないどころか、現代の作品の方が良い評価を得てしまう。しかし、それにもかかわらず、ストラディヴァリウスは別格だという声が多く、調査を疑う声まで聞こえてきます・・・ストラディヴァリス信仰。

「信仰」の対象は、なにも楽器だけに留まりません。先月、クリスマスを前に、フランスのテレビ局が、シャンパン好きを自認する3人に、ブラインド・テストをやってもらいました。1本は8ユーロ程度(800円弱)のシャンパン、もう1本は20ユーロ(2,000円弱)ほど、そしてもう1本は約100ユーロ(1万円弱)だったと記憶しています。さて、どのシャンパンが一番おいしいか・・・3人がこぞって選んだのは・・・言うまでもありませんね、8ユーロのシャンパンでした。

お墨付き、評判、思い込み・・・正しい判断をするには、そうした装飾を引き剥がして、自らの目、耳、舌などいわゆる五感で正直に判断すべきなのではないでしょうか。自分で、きれいだな、上手だな、美しいな、おいしいなと思うものが、「いいもの」なのだと思います。もちろん、自らの五感を鍛えることはおろそかにしてはいけないと思います。しかし、他人の判断に従っているだけでは、虎の威を借る狐、勝ち馬に乗っているだけなのではないでしょうか。

虚飾を捨て、「自分」に正直に・・・長い、長い、誤った道を歩いて来て、今、正直に、素直に、そう思っています。まさに、後悔、先に立たず。残念。

世界の中心で、改革をさけぶ・・・フランスの場合。

2012-01-16 21:46:47 | 政治
「セカチュー」・・・憶えていますか。TVドラマで観た人、映画で観た人、漫画で読んだ人、そして原作で読んだ人。片山恭一氏の『世界の中心で、愛をさけぶ』。原作は100万部を超えるミリオンセラーになりました。現在進行形の青春を送っている人も、セピア色の青春を心の片隅に大切にしまっている人も、胸がうずいてしまうような物語でしたね。

しかし、「現実」はそんな胸のうずきなど関係なく、残酷に時計の針を進めていきます。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)によるフランス国債の格下げから2日。フランスこそ世界の中心と思っていた人々にとっては、ある程度予想されていたとはいえ、やはりショック。どう対応すべきか・・・

サルコジ政権は改革をさらに加速させると述べ、対応を急ぎ始めました。野党は現政権を強烈に非難していますが、批判するだけでは万年野党。特に社会党にとっては、政権の座が手の届くところにあるだけに、しっかりとした公約を発表する必要があります。どのような対策かと言えば、やはり改革。

アムール(amour)の国フランスで、「愛」ではなく「改革」の大合唱が、与野党を問わず起きています。いつ、どのような改革案を国民に提示するのでしょうか・・・格下げショックに揺れるフランス政界の反応を、15日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

サルコジ大統領は、15日、次のように語った。経済危機からどのように脱出するかについて、今週水曜日に労使双方のトップに改革案を提示することになっているが、今月末、その内容を直接国民に語ろうと思う。

「時期を逸せず、速やかに行うべき重要な決断について国民に語ろうと思う。危機は、国民が思いを一つにし、改革を実行しようという強い意志を持てば、乗り越えることができる」と、サルコジ大統領は、ドゥブレ元首相(Michel Debré:第五共和制下、初代の首相。在任期間は、1959-1962)の生誕100周年を祝うために出向いたアンボワーズ(Amboise:Indre-et-Loire県)での記者会見で語った。

「2008年以来、過去100年にわたって前例のないほどの重大な危機に直面してきたが、その間、私は事の重大さについて国民に真実を語ってきたつもりだ。その危機は、過小評価も、度を越す誇張もすべきではないものだ。これは、立ち向かうべき、耐えるべき、戦うべき、勇気を示すべき、冷静さを示すべき、そうした試練なのだ。興奮したり、激怒しては、このような重大な危機に対処することはできない」と、サルコジ大統領は続けた。

大統領は、水曜日に、労使双方をエリゼ宮に集め、社会貢献付加価値税の実施や(TVA sociale:Taxe sur la Valeur Ajoutée sociale:フランス製品の課税前価格を引き下げ、その分付加価値税率をアップさせる。そのことにより、輸出品の価格競争力を増し、また輸入品からより大きな税収を得ることができる。つまり国内産業を保護することができ、同時にその税収増加分を社会保障に充てることができるというものですが、物価上昇、貧困層の負担増といった問題や課税前価格をメーカーが本当に引き下げるのかといった懸念が指摘されています)、企業の競争力を強化するための労働時間の変更協約など、一連の改革案を提示する予定になっている。

しかし、サルコジ大統領は、格付け会社“S&P”によるフランス国債のAAAからAA+への格下げについては、コメントをしなかった。

一方、15日、グアドループ(Guadeloupe:カリブ海にある海外県)へ行っていた社会党の大統領候補、フランソワ・オランド(François Hollande)は、サルコジ大統領がやってしまったような、AAAを失い、国家が格付け会社の手中に落ちるようなことがあってはならない、と語った。「国民に語りかける責任を大統領と競うつもりはないが、失政の結果として国民が試練に直面している時に、それは当然行うべきことだ。」

「勇気とは、任期の最後にニコラ・サルコジ自身によってもたらされた財政赤字をTVAやその他の税で穴埋めすることを国民に求めることではない。勇気とは、連帯を呼び掛けることであり、富裕層にさらなる貢献を求めることだ。任期の最終局面に差し掛かっている大統領が、5年前から自分で引き起こした問題の解決策を見出すことができるとは思わない」と、フランソワ・オランドはきっぱりと述べた。

また、オランドは、自らの政策を示す提案を今月末に行うが、それは「金融の統治について、成長戦略について、投資に関する新たな施策について、税制について語ることになる」と明かしている。

投資財団(l’investissement)の理事長を務め、サルコジ大統領に近いルネ・リコル(René Ricol)は週刊紙“le Journal du dimanche”の15日号で、中央銀行がその国のソブリン債格付けを守るべきだと主張し、フランスのAAAからの格下げを行った格付け会社を激しく非難した。「Standard & Poor’s、Moody’s、Fitchの三大格付け会社が大きな力を持つことは、もはや受け入れ難い。調整機関に匹敵するような役割を三社に与えてしまった。格付け会社は市場に携わる企業、融資ビジネスに携わる企業でしかないにも関わらずだ」と、ルネ・リコルは激怒している。

ルネ・リコルはまた、「格付け会社のビジネス手法は疑った方が良い。なにしろ、S&Pはフランス国債の格下げを誤って11月10日に発表したし、昨年のアメリカ国債の格下げも見込み違いをするなど『へま』(bourde)を重ねているのだから」と語っている。

・・・ということで、フランス国債の格下げに憤懣やるかたないフランス人が多いようです。しかし、AAAを維持していた間、その格付けをこれ見よがしに誇っていたのもフランスです。

使えるものは利用し、ひとたび使えなくなったり、敵に回れば、ぼろくそに非難する・・・人間、この点では国の違いを問わないようです。♪♪人は哀しい、哀しいものですね。人はかよわい、かよわいものですね。

愛の国、フランス、その「威光、燦燦」という時代は帰って来るのでしょうか・・・

AAAからAA+へ・・・フランスは、EUは、ユーロは?

2012-01-15 23:17:46 | 経済・ビジネス
14日の『ル・モンド』(電子版)です。

フランスの長期国債は、その格付けを最上位のAAAからAA+へと1段階引き下げられ、見通しはネガティブとなった。13日夜、格付け会社(agence de notation または agence d’evaluation)のStandard & Poor’s(S&P)が発表した。その影響は・・・

●フランスはいつからAAAを保っていたのか?

フランスの格付けは、S&Pが30年以上の中断を経て国債格付けを再開し1975年6月25日以降、常に最高位のAAAを保ってきた。この1975年は、偶然にもそれ以降フランスの財政が均衡を保てなくなった年に当たる。

アメリカが2011年8月5日にそのAAAを失って以降、フランスはS&Pの格付けで最も長く最上位を保っていることを自慢してきた。しかしその地位は、フランスの格下げにより、1975年7月9日からAAAを維持しているノルウェーに移った。

他の二つの主要格付け会社の評価では、フランスは依然として最初の格付け以降、現在でも最上位のAAAをキープしている。ムーディーズ(Moody’s)では1979年から、フィッチ(Fitch)では1994年からだ。これら二つの格付け会社はフランスの格付けを最上位で継続しているものの、フランスへ圧力を強めている。ムーディーズは、フランスのAAAにネガティブな見通しを加える可能性があり、その場合、2年以内に50%の確率で格付けが引き下げられることになる。フィッチはすでにフランスをネガティブな見通しとしているが、2012年に引き下げが行われることはないだろうと見ている。

●格付け会社による評価はどうしてこれほど重要視されるのだろう?

格付けは金融界の要求に答えるものだ。つまり、どこの債券が他と比べてリスクがあるのか、あるいは銀行、保険会社、ファンドといった投資機関が最も安心して購入できる債券はどこのものか、リスクが高いのはどこのものなのかを知りたいというリクエストだ。

巨大な投資機関は、信用リスクの評価を格付け会社に委ねており、その結果、格付け会社はあたかも公的な機関であるかのようになっていると、EUも認めている。法律や規制の担当者は、格付け会社による格付けを銀行の自己資本や、金融機関が中央銀行から融資を受ける際の信用度を測るのに利用してきた。

●格下げは金利の上昇を意味するのか?

理論的には、ことは至ってシンプルだ。つまり、格付け会社がある国の国債の信用度についての判断を公表する。投資家が国債を購入する際に、その格付けによって金利が上昇したり下降する、ということだ。

20点満点の試験で20点を取るようなものであるAAAを得ていることは、低い金利で資金を調達する絶対的な保証になるはずである。しかし、実際には、必ずしもそうなるものではない。例えば、アメリカのケースだ。S&Pがアメリカの格付けを2011年8月5日にAAAからAA+(22段階の上から2番目)に引き下げたが、アメリカはそれ以降、格下げ以前よりも低い金利で資金を借り入れている。

国債の格下げは金融市場に動揺を与え、投資家をインフレヘッジとなる金融商品へと走らせる。それがアメリカの国債というわけだ。問題は、ユーロはまだドルと同じような外貨準備通貨としての地位を獲得していないことだ。

他のケースとしては、日本がある。財政赤字はGDP(仏語では、PIB=Produit intérieur brut)の233%にも達しており、S&Pの格付けもAA-(22段階の上から4番目)でしかない。しかるに、日本の国債金利は非常に低い。それは、国債の90%が国内投資家によって保持されているからだ。一方、フランスでは逆で、国債の65%が外国の投資家によって購入されている。

また、金融市場は格付け会社よりも判断や行動が早い。それは、市場は毎日変動しており、新たなニュースに反応しているからであり、格付け会社の判断を読もうとしているからでもある。それゆえ、同じユーロ圏でAAAを持っていた国々でも、最近の金利が大きく異なっていたのだ。

●格下げは、フランスの財政、国民の生活にどのような影響を及ぼすのか?

フランスは2012年に、発行済み国債の償還、それもGDPの4.5%に達する額の返済に際し、市場で1,780億ユーロ(約17億4,500億円)の調達を見込んでいた。

ここ数カ月、フランス国債の金利がドイツやオランダ、フィンランドといったユーロ圏の他のAAAの国々のそれとかなり乖離してきた。それは同じAAAの国でも、市場が格下げ以前にすでに差別化を行っていることを物語っている。フランスとドイツの10年もの国債の金利の違い、つまり金融界が専門用語で「スプレッド」(spread)と呼ぶものだが、それが昨年11月中旬には2ポイントに開いた。その後は1.3ポイント前後になっているが、昨年5月の0.3ポイントに比べれば大きな差になっている。

市場の大きな不安にも関わらず、昨年のフランス国債の平均金利は2.8%でしかなく、2010年の2.5%に次いで過去2番目の低さだった。このパラドクスは、より危険だと見做される株やその他金融商品ではなく、最も確かだと判断される金融商品、つまり国債への投資額の多さによって説明される。2011年、転売市場における10年ものフランス国債金利は3.3%に達した。10年もの国債が金利のバロメーターの役割を果たしているのだが、2012年予算に見積もっている3.7%を辛うじて下回っている。

フランス国債はAA+に引き下げられたが、それは昨年11月末までのベルギーと同じランクだ。しかるに、ベルギーの10年もの国債の平均金利は平均4.24%だった。フランス国債より1ポイントも高かったことになる。アセット・マネジメント会社“Amundi”(アムンディ:欧州2位、世界9位の金融資産管理会社)の分析によれば、金利が1ポイント上がると、フランスは初年度に追加費用として30億ユーロ(約2,950億円)必要になる。国民への影響は、国が資金調達するための金利を上げれば、不動産金利や消費者物価を押し上げることになるということだ。それは、国債金利が他の融資の金利を決めるベースになるからだ。

●企業、自治体、欧州金融安定基金への影響は?

「さまざまな組織をその存在している国の影響を無視して評価することはできない」と、格付け会社の元役員は述べている。それゆえにこそ、マイクロソフトやエクソン・モービルなどアメリカ企業4社のまれなケースが起きるわけだ。それらの企業の社債格付けはアメリカ国債よりも良いが、その格付けを活用できないでいる。国債金利の影響は特にサブ・ソブリン債発行者へ大きく現れる。つまり、自治体や公共事業体は国の保証を暗黙のうちに享受しているのだ。

フランス国債に格下げにより、多くの債券発行機関のAAAも引き下げられることになるだろう。例えば、預金供託金庫(CDC:la Caisse des dépôts et consignations)、社会保障負債償還金庫(Cades)、Unedic(union nationale interprofessionnelle pour l’emploi dans l’industrie et le commerce:全国商工業雇用協会連合)、フランス鉄道線路事業公社(RFF:Réseau ferré de France)、パリ病院公共援護会(Assistance publique – Hôpitaux de Paris:AP-HP)、パリ市、全国高速道路金庫(la Caisse nationale des autoroutes)などだ。フランス国鉄(Société Nationale des Chemins de fer français:SNCF)もAA+から引き下げられるだろう。国が株を保有している企業もまたその社債格下げになるだろう。例えば、フランス郵政公社(La Poste)、EDF(フランス電力公社)、フランス・テレコム、パリ空港公団などだ。

国際機関では、市場で資金を調達して金融危機にあるユーロ圏諸国に融資する欧州金融安定ファシリティ(EFSF:仏語では、le Fonds européen de stabilité financière=FESF)がAAAを失う恐れがある。この組織はユーロ圏でAAAを保有する6カ国の保証の上にのみ立脚している。その6カ国とは、フランス、ルクセンブルク、ドイツ、オーストリア、オランダ、フィンランドだ。しかるに、フランスとオーストラリアの国債が格下げされ、4カ国になってしまった。しかも経済力の大きさから、フランスはこの組織を支える主要二カ国の一つだった。

S&Pはしかし、欧州金融安定ファシリティは最高位の格付けを維持するだろうと述べている。そのためには、AAAを維持している4カ国のさらなる金融支援が求められるだろう。

●AAAを取り戻した国はあるのだろうか?

AAAを失えば、それでおしまい、ということではない。しかし、それを取り戻すには、長い年月が必要となる。デンマークは1983年にS&PからのAAAを失ったが、取り戻したのは2001年だった。オランダがその後AAAを維持している秘訣は、2011年においても財政赤字を対GDP比44.33%という低いレベルに保っていることであり、その結果、10年もの国債金利は2%以下に抑えられている。S&Pの格付けでは、4カ国がAAAを失った後に回復している。カナダ(1989年に失い2002年に回復)、フィンランド(1992年、2002年)、スウェーデン(1993年、2004年)、そしてオーストラリア(1986年、2003年)。いずれも回復後、そのAAAを維持している。

逆に、アメリカ、アイルランド、日本、ニュージーランド、スペインはAAAを失った後、取り戻すことはできずにいる。アメリカはAAAを長期にわたって保有していたが、他の国々がキープしていたのは数年だった。アイルランド、スペイン、日本にとっては、取り戻すことなど願うべくもない状況だ。

●AAAを維持している国はいくつあるのか?

S&Pは格付け対象の127カ国・地域のうち18カ国・地域にAAAを認めていた。そのうち6カ国がユーロ圏内だ。しかし、今や16カ国・地域になり、ユーロ圏内はルクセンブルク、ドイツ、オランダ、フィンランドの4カ国となった。

ユーロ圏以外では、シンガポール、カナダ、イギリス、ノルウェー、スイス、デンマーク、スウェーデン、オーストラリア、マン島(イギリスとアイルランドの間にある島)、ゲルンジー(英仏海峡にある島々)、香港、そしてリヒテンシュタインだ。これらの国々のうち、シンガポールの財政赤字はGDPの98%に達しており、唯一、フランスの86.67%を上回っている。

●格付けをしてもらうために、フランスはS&Pに支払っているのか?

格付会社のビジネスモデルは、「支払者格付け」に反する原則だ。「支払者格付け」の場合なら、借り手側が企業経営に透明性をもたらし、投資家を安心させ、資金を有利な条件で借りるために自ら評価を提供するものだが、フランスのような大きな国は例外的ケースになる。ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカと同じように、フランスは1サンチームたりともS&Pに支払ってはいない。S&Pは対象の国々に資金援助を頼まず格付けを行っている。

格付け会社にとって、大国を格付けすることは避けて通れない。それはイメージの問題だけでなく、投資家にとって格付けが投資の目安になるため、費用を支払ってでも評価を得たいからだ。「ソブリン債の格付けは売り上げの10%以下だ」と、三大格付会社の一社はこっそりと情報を与えてくれた。しかし、だからと言って収益が悪いわけではない。昨年度の9か月間のS&Pの営業利益は42.99%に達しており、ムーディーズは41.8%になっている。

●格付会社の重要度を削ぐにはどうしたら良いのか?

欧州と同じようにアメリカでは、金融危機以降、かなりの見直しが行われ、格付け会社に多くの非難が浴びせられている。アメリカでサブプライム・ローンという劇薬を含んだ金融商品にAAAを与えてバブルを膨らませたとか、突然の格下げでソブリン債の信用危機を深刻化させているとか、さんざんに糾弾されている。アメリカでもヨーロッパ同様、当局は格付けへの言及を削減、あるいは廃止できないものか検討している。EUも三大格付会社が90%のシェアを持っている現状に競争原理を導入し、より多くの物差しを用意することによって、格下げによる衝撃を弱めようとしている。

欧州委員会は、困難な状況にある国の場合は、動揺を大きくしないためにも、その格付けを延期できないか検討してきた。しかし、こうした対策は悪い情報を隠すためのものだと市場が結論付けてしまうことを恐れるあまり、対策を実施に移せずにいる。

・・・ということで、私企業である格付会社の判断に、世界金融が振り回されているようです。特に、中華意識の強いフランスにとっては、最上位から格下げされたことは、いかんともしがたい侮辱のように思えるのではないでしょうか。

バロワン財務相は、格下げによる影響は小さいと、火消しに躍起になっていますが、サルコジ大統領は昨年、「トリプルAを失えば自分はおしまいだ」と漏らしていたといいますから、そのショックはいかばかりでしょうか。ただでさえ、世論調査で社会党のオランド候補の後塵を拝しているわけですから。第1回投票まであと3カ月ちょっとの時点での、格下げ。もうこれまで、アウト!、でしょうか。

 「大統領選に立候補している中道派のフランソワ・バイル氏はテレビ番組で『わが国の評価に悪影響を及ぼす国家主権の格下げであり、ドイツと比較した格下げでもある。欧州におけるわれわれの状況は象徴的にも政治的にも悪化することになる』と語った。」
(1月14日:ロイター)

というのが、フランス国民の感情に最も近いのではないでしょうか。欧州の中心を任じてきたフランス、それが今ではライン川の向こう側(ドイツ)や海峡の向こう側(イギリス)がAAAを保っているのに、どうしてフランスが・・・どうやって、この現実を受け入れるのでしょうか。格付け会社を批判して溜飲を下げ、それでおしまいでしょうか。格下げされたフランス、特にその政治への影響、そしてフランスの反応が楽しみです、たかがAA-の国の国民が何をほざくと、叱られそうですが・・・