ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

原発には反対、予備選には賛成・・・ニコラ・ユロ。

2011-04-29 20:53:59 | 社会
環境保護運動に携わり、国民の間で大きな人気を誇るニコラ・ユロ(Nicolas Hulot)。彼が先日(4月13日)、来年の大統領選挙への出馬宣言を行いました。2007年の大統領選でも出馬を期待されていただけに、満を持しての出馬と言えます。

ニコラ・ユロ。1955年4月30日、リール生まれ。30日で56歳です(因みに、私と同年生まれ)。さまざまな職業を経て、カメラマンに。世界各地の風土をフレームに収めていましたが、ラジオ番組出演が契機となり、1987年、世界の環境問題にスポットを当てるテレビのドキュメンタリー番組“Ushuaïa”(TF1の番組、タイトルは南米大陸南端の町の名)のプロデューサー兼レポーターとなり、一躍人気者となりました。番組は1995年6月まで続き、いったん中断の後、1998年10月からは“Ushuaïa Nature”というタイトルで放送を再開しています。

また、パリ市長時代のジャック・シラク(Jacques Chirac :後の大統領)と会い、意気投合。その頃から環境をテーマに、政治に近づいたようです。

そのニコラ・ユロが、ストラスブールで行われた反原発デモに参加しました。福島原発の事故を契機に広がる反原発の動きですが、大統領選への出馬宣言直後だけに、メディアも大きく取り上げています。25日の『ル・モンド』(電子版)です。

エコロジストの大統領選候補、ニコラ・ユロにとって脱原発は達成すべき命題だ。「福島原発の事故によって、原子力が将来のエネルギー問題を解決する答えではありえないことを完全に認識した」と、ストラスブールで行われたフェッセンハイム原発(la Centrale de Fessenheim:1977年に稼働開始、フランスで稼働中の原発としては最古のもの)の停止を求めるデモを前にこう語っている。

「脱原発は最優先の課題であり、価値観を変えることだ。私自身、原発推進派の科学者たちが述べる意見に賛同する一員であったが、彼らの意見は、福島原発の事故という現実を前に、信頼を失っている。私は教条主義者ではなく、一歩ずつ歩みを進めるタイプの人間だ。しかし、福島原発で起きている現実を前に愕然とし、政治家や科学者たちの狼狽ぶりに、本当の恐怖を感じている」と、こうも続けている。

ニコラ・ユロは、大統領選へ向けてのエコロジー派のライバルであるエヴァ・ジョリー(Eva Joly:ヨーロッパ・エコロジー所属の欧州議会議員)に、大統領選出馬表明の演説で原子力問題に触れなかったことを批判されたが、エコロジー陣営を喜ばすような態度を取ることは敢えて差し控えた。「エコロジスト支持者たちが聞きたいと思っていることに合わせて自分の信念を過激にしようとは思わない。そんなことはせずとも、人類が過ちを犯したことは現実が仮借なきまでに示しているのだから」と、述べている。

ニコラ・ユロによれば、急がず、プラグマティズム(実用主義)に徹すれば、脱原発は今後数十年で達成できるだろうということだ。「そのためには、いくつかのエネルギーを上手に組み合わせ、再生可能エネルギーの研究開発へ投資を誘導し、効率的なエネルギー利用を達成する必要がある」とも語っている。

一方、大統領選へ向けては、「ヨーロッパ・エコロジー・緑の党」の支援を受けずに戦うことは、みんなにとって不幸な結果となるだろうと語り、エコロジストを代表する候補者を決めるオープンな予備選挙を繰り返し提案している。すでに党指導部とともに、支持者に予備選への投票を呼び掛けるための検討に入っている。

「オープンにすることが大切だ。『ヨーロッパ・エコロジー緑の党』の基礎票は必要なのだが、それだけではなくエコロジストの意見に同意していない人たちをも説得することが大切であり、ぜひその説得に努めたい。予備選に参加することは党員になることではないということを、我々の予備選に興味を持っている人たちに明確に説明し、安心してもらうことも大切だ。彼らをだますようなことはしてはいけない」と語り、投票する際に支払わなければならない20ユーロを引き下げるべきだと訴えつつ、「党員だけで固まっている、自閉しているという印象を与えるべきではない」と付け加えている。そして最後に、党指導部との話し合いは、まさに開かれた精神で行われるに違いない、と語っている。

・・・ということで、フランスでも原発が政治問題となっています。原発を推進するのか、脱原発を押し進めるのか。脱原発の場合、代替エネルギーはどうするのか。国民の省エネに頼って、電力消費量を削減するだけで済むのか、再生可能エネルギーに転換するなら、どのようなスケジュールで変換していくのか。

ドイツでは、州の選挙結果に福島原発の事故が大きな影響を与えました。他の国々でも、さまざまな形で政治問題化しています。今後、人類のエネルギーはどうあるべきなのでしょうか。

化石燃料は、排気ガスやばい煙などで環境汚染を引き起こします。風力発電では、低周波が聴力や心理面へ与える影響があるのではないか。太陽光発電にしても、人類の経済活動をすべて賄おうとすれば、地表への熱エネルギーが不足することになりやすまいかと心配になります。地熱発電は、潮力発電は・・・私のような素人には、心配が絶えません。

「・・・日照りの時は涙を流し 寒さの夏はおろおろ歩き・・・」(『雨ニモマケズ』:石川啄木) 不安を抱えながらも、どうすべきか、明らかな指針が見えてこないエネルギー問題。素人には、自分でできる範囲で節電に努めることと無駄な消費を慎むことくらいしか、思いつきません。

今は被災地支援と原発問題の収束に全力を傾けてほしい日本の政治ですが、ある程度目処が立った時点では、今後のエネルギー政策について、政局絡みではなく、真摯な議論を行い、明確な指針を出してほしいものです。

極右・国民戦線が強い! マリーヌ・ルペンが来る!!

2011-04-28 20:11:33 | 政治
後1年ほどとなった、フランス大統領選挙。さまざまな世論調査が行われ、誰が決選投票に進みそうだとか、どのような候補者の組み合わせなら、誰が勝ちそうだとか、政治ジャーナリズムが喧しくなっています。

そうした世論調査のひとつ、日刊紙“Le Parisien”(パリジャン)の依頼で、調査会社“Harris Interactive”が行った調査の結果を21日の『ル・モンド』(電子版)が紹介しています。見出しは、“Un sondage confirme la percée de Marine Le Pen.”(マリーヌ・ルペンの目覚ましい台頭を調査が裏付けた)

この調査では、大統領選挙へ出馬する候補者を社会党以外は以下のように固定しています。

・UMP(国民運動連合、中道右派~右派):ニコラ・サルコジ(Nicola Sarkozy)
・FN(国民戦線、極右):マリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)
・PR(急進党、中道):ジャン=ルイ・ボルロー(Jean-Louis Borloo)
・RS(共和国連帯、保守の新ドゴール主義):ドミンク・ド・ビルパン(Dominique de Villepin)
・MoDem(民主運動、中道):フランソワ・バイル(François Bayrou)
・Ecologistes(エコロジスト、環境主義):ニコラ・ユロ(Nicolas Hulot)
・FG(左翼戦線、共産党・左翼党などの連合体):ジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)
・NPA(反資本主義新党、極左):オリヴィエ・ブサンスノ(Olivier Besancenot)
・LO(労働者の闘争党、極左):ナタリー・アルト(Nathalie Arthaud)
・Debout la République(立ち上がれ共和国、保守のドゴール主義)ニコラ・デュポン=エニャン(Nicolas Dupont-Aignan)

そして、PS(社会党)の候補が、
①マルティーヌ・オブリー(Martine Aubry:第一書記)の場合
②フランソワ・オランド(François Hollande:前第一書記)の場合
③セゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal:2002年の大統領選候補)の場合
④ドミンク・ストロス=カン(Dauminique Strauss-Kahn:IMF専務理事)の場合
に分けて、それぞれの投票意向を調べています。

いずれの場合でも、第1回投票の上位3名はUMP、FN、PSの候補者が占めています。ただし、その順位がケース・バイ・ケースで異なります。他の候補者は、ジャン=ルイ・ボルローが10%に乗る可能性があるだけで、みな一桁の支持率になるという予想になっています。

では、上位3位までの順位は、どうなるのでしょうか。

①の場合:マリーヌ・ルペン(23%)、マルティーヌ・オブリー(21%)、ニコラ・サルコジ
②の場合:マリーヌ・ルペン(23%)、フランソワ・オランド(22%)、ニコラ・サルコジ
③の場合:マリーヌ・ルペン(22%)、ニコラ・サルコジ(19%)、セゴレーヌ・ロワイヤル(15%)
④の場合:ドミニク・ストロス=カン(30%)、マリーヌ・ルペン(21%)、ニコラ・サルコジ

サルコジ大統領の支持率が明記されていないのですが、御覧のように、社会党候補がセゴレーヌ・ロワイヤルでない限り、サルコジ大統領は第1回投票で3位、つまり初戦敗退ということになってしまいます。「現職大統領、決選投票に進めず、敗退す!」というニュースになるわけですね。

今回の世論調査以外でも、セゴレーヌ・ロワイヤル女史の不利は明らかですから、社会党候補は残り3人のいずれかになるものと思われます。従って、決選投票は今のままなら「社会党候補」対「マリーヌ・ルペン」になります。

しかも、第1回投票では、社会党候補がDSK(ドミニク・ストロス=カン)以外では、マリーヌ・ルペンがトップ通過。従って、焦点は、第2回投票でもマリーヌ・ルペンが社会党候補を上回れるかどうか、ということになります。

2002年の大統領選挙では、第1回投票で父親のジャン=マリ・ルペン候補(当時のFN党首)が16.86%を得票し、社会党のジョスパン候補(Lionel Jospin :当時の首相)を上回って、シラク大統領との決選投票に進出。世界的にも大きなニュースとなりました。しかし、決選投票では、極右大統領の誕生を阻止すべしという多くの国民の意思が示され、17.79%の得票率に終わり、82.21%を獲得したシラク大統領の圧勝に終わりました。

今回も同じような経過をたどることになるのでしょうか。国民の不満が極右の票に結びついているのは似通った状況ですが、大きな違いがひとつあります。ジャン=マリ・ルペンは、アラブ人を攻撃しましたが、娘のマリーヌ・ルペンはイスラム教を攻撃対象としています。

アラブ人という人間、人種を非難し、排除しようとする2002年当時のFNを支持することは同じく人種差別主義者であると見做されてしまうという恐れがありました。従って、さすがに「個」を大切にするフランス人とは言え、ルペン支持を公けにはしにくい状況があったのではないでしょうか。それが、いまや批判の対象はイスラム教となり、生身の人間が対象ではなくなった。人種差別主義者のレッテルをはられる心配がなくなったということです。

従って、社会党候補が、マルティーヌ・オブリーやフランソワ・オランドであれば、2002年のような結果にはならず、決選投票が大接戦となるのではないかと思われます、というか、個人的にはそう思っています。しかし、大接戦ではあっても、そこはフランス、極右に大統領の椅子を預けることはないだろうと、半ば希望を込めて思っています。

どのような結果となるのか、今後の行方に大きな影響を及ぼすのは、IMF専務理事であるDSK(ドミニク・ストロス=カン)の動向です。2012年秋まであるIMF専務理事の任期を全うせずに立候補するのでは、と言われていますが、最終決断をいつどのように下すのか。支持率回復を狙ってサルコジ大統領がさまざまな動きをしていますが、どうもDSKとマリーヌ・ルペンが今後を占うキーパーソンになりつつあるように思われる、2011年春のフランス政界です。

衆愚政治と反EUへ・・・フランスとイタリアが先陣争い!?

2011-04-27 21:19:21 | 政治
「アラブの春」以降、北アフリカから多くの移民がイタリア、特にランペドゥーザ島へ押し寄せています。その数2万人とか25,000人とか言われています。その対応に苦慮するイタリア政府は、移民たちに6カ月の滞在許可を発行しました。その許可証があれば、シェンゲン協定に加盟している他の24カ国に自由に移動できるため、イタリアの負担が軽減される・・・はずだったのですが、チュニジア移民の多くが希望する行き先、フランスが待ったをかけました。国境の町、ベンティミリアからフランスへの入国を拒否。

「移民の大量流入を危惧するフランスは今月、1日約60ユーロの滞在費や帰国用の切符などの所持を入国条件とし、持っていない移民をイタリア側に押し返し始めた。シェンゲン協定では「緊急時」に各国が運用を停止できる規定があり、フランスはそれを適用したとみられる。」(4月27日:毎日新聞・電子版)

その結果、イタリア側の国境の町には、フランス入国に必要な滞在費を工面するため、フランス国内にいる親類・知人からの送金を待っている多くの移民がたむろする状況になっています。

そこで、サルコジ大統領とイタリアのベルルスコーニ首相が26日にローマで会談。毎年フランスがイタリアの5倍もの移民を受け入れているという現状をイタリア側も理解し、シェンゲン協定が認めている移動の自由の一時的制限の実施を欧州委員会に両国で求めることにしました。

こうした状況に、社会党で移民問題担当の全国書記を務めるサンドリンヌ・マズティエ(Sandrine Mazetier)下院議員は、まるでフランスとイタリアが衆愚政治の先陣争いをしているようだと非難。社会党の移民政策を採用すべきだと考えています。では、彼女から見て、サルコジ政権の対応のどこに問題があり、社会党ならどう対応するのでしょうか。『ル・モンド』とのインタビューを、26日の電子版が紹介しています。

(註)Sandrine Mazetier:2007年からパリ第8選挙区選出(パリ12区、ベルシーなどをカバーするエリア)の下院議員。この選挙区はシャルル・ド・ゴールの孫、ジャン・ド・ゴールが3期連続で当選するなど、右派の牙城でした。2007年の選挙では、右派からはサルコジ大統領の側近を自認する候補者が立ちましたが、マズティエ女史が見事に勝利し、初当選。下院議員になる前には、パリ市の助役などを歴任しています。

――サルコジ大統領は、チュニジアなどから押し寄せる移民に対応するため、シェンゲン協定の改定を望んでいるようだが。

まずは、規模の問題に立ち返る必要がある。サルコジ大統領は、1月に小規模な内閣改造を行ったが、アラブ革命により制御できないほど多くの移民が押し寄せてくる危険性を喧伝し、そのことを閣僚交代の理由としていた。しかし、1月以降に北アフリカからやってきた移民は2万人ほどで、ヨーロッパ全体からみれば大した数ではない。

――こうした状況に、社会党なら、どのような提案をするつもりか。

移民たちを受け入れる、権利の国としての立場を維持したい。一時的受け入れを認める基準がEUにはある。この基準は、旧ユーゴ内戦の際に創られたもので、特別な状況に際し、騒乱を逃れてきた人々をEU各国が連帯して受け入れるというものだ。この受け入れは各国が分担するものであり、またあくまでも一時的なものだ。その後で、各人の状況を検証し、可能であれば帰国を調整する。このEU基準を適用することを社会党は提案している。

また、ランペドゥーザ島の問題は、イタリア一国で解決できるものではないと思っている。現状は、衆愚政治、外国人嫌悪、反EUをアルプスの両サイド、つまりフランスとイタリアで競っているようなものだ。ヨーロッパの庇護を求めている人たちは、人道的に扱われるべきであり、EUの基準が守られるべきだ。

――シェンゲン協定を一時停止すべきだと思うか。

この問題を大きくするため、サルコジ大統領はさまざまな状況を持ち出した。しかしサルコジ大統領が求めているシェンゲン協定の一時停止と、その条項を適用することとはまったく異なる。協定には救済条項があるが、治安の混乱が懸念される場合には加盟国は国境を一時的に封鎖することができるというもので、条件付き一時停止なのだ。

実際、シェンゲン協定はすべての可能性を見越して策定されている。現在政権の座にある一部政治家たちの無責任さと、彼らの無責任で受け入れがたい発言は、想定外だったが。しかも、ヨーロッパにおいては、国境でなくとも、移民はつねにコントロールされている。毎日、多くの不法移民が逮捕されているのだから(・・・年間の目標数字まで決めて、不法移民を国外に追放しているサルコジ政権の政策を皮肉っています)。

――移民について、社会党はどのような提案をするのか。明確な基準に沿った不法移民の合法化を提案していたが・・・

社会党は基本的には、規則やルールを守ることは大切だと思っている。右派は多くの人々を不法滞在者としてきた。私たちはもちろん、誰でも彼でも合法的な滞在にしようと思っているわけではない。非常に明確な基準に基づいた合法化を考えているのだ。一定期間フランス国内に居住していること、職業についていること、子どもを学校に通わせていること、そして逮捕歴がないこと、という条件だ。

また、選択的移民と名付けることには反対だ。一部の人たちだけが受け入れられるというイメージを持たれてしまうからだ。外国人労働者を必要とする産業では、労使や受け入れ自治体などとの協力で、労働移民がうまく機能するものと思っている。フランス、特に右派は考えようとはしないが、移民には経済活動上必要という側面もあるのだ。

――ヨーロッパ全体としても、何らかの行動を起こすべきか。

ヨーロッパ全体で、移民・難民の受け入れ態勢を強化すべきだと考えている。基本的な人権に関する共通の基準を設けるべきだ。しかし、その一方で、具体的な移民政策はヨーロッパ共通であるべきだとは思っていない。南ヨーロッパと北ヨーロッパ、つまり地中海沿岸諸国とノルディック諸国では、移民を巡る状況があまりにも異なっているからだ。

・・・ということで、反移民を声高に叫んでいるサルコジ政権と、一定の基準を満たす不法移民の滞在を合法化するとともに、外国人の労働力を必要としている業種では労働移民を受け入れようという社会党の考え。相容れそうもありません。

1年後の大統領選挙へ向けて、苦戦が伝えられるサルコジ大統領。社会党に勝利するには、極右の票をどれだけ多く取り込めるかが大切。そのためには、極右支持者に受け入れられやすい反移民・反外国人を前面に押し出すべきだ。このように思っているのではないでしょうか。

一方、北アフリカからの移民に対しては、国境をはさんで押し付け合いをしているイタリアですが、ベルルスコーニ政権内には反移民の北部同盟が加わっており、この点で、サルコジ大統領とベルルスコーニ首相は同一歩調が取りやすかったのかもしれません。しかも、ヨーロッパの多くの国々で反移民・反外国人を掲げる極右勢力が台頭しています。時代の風もフォローだと考えたのでしょう。

一匹の妖怪がヨーロッパを徘徊している――外国人嫌いの衆愚政治という妖怪が。(Un fantôme hante l’Europe – le fantôme de la démagogie et de la xénophobie.)

このような状況になっているのでしょうか。はたして、フランス国民の判断は・・・1年後に大統領選の結果として提示されます。

フランスでも既成政党離れ、その背景は・・・

2011-04-25 20:33:10 | 社会
24日に行われた統一地方選後半戦、大阪を中心に、首長政党、地域政党が躍進しました。また、多くの候補者が、既成政党の公認ではなく、実質的な支援を受けるに留めるなど、「既成政党隠し」が見られました。そこにあるのは、有権者の既成政党への不満。

視線を日本から世界に移しても、既成政党への不満から、極右政党が躍進したり、二大政党だったところに第三極が形成されたり・・・どうも世界的に同じ傾向にあるようです。我が道を行くフランスも、こうした流れには逆らえないのか、同じように既成政党離れが進んでいるようです。その背景にあるのは・・・23日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

電子版で紹介しているのは、ジャン=ルイ・ブルランジュ氏(Jean-Louis Bourlanges)へのインタビューの抄録です。ブルランジュ氏は、政治家にしてエッセイスト。2007年末まで欧州議会議員を務めていました。政治的立場は中道ですが、元来は左翼のド・ゴール主義者。2010年6月からは、中道を研究するシンクタンク「中道財団」(la Fondation du centre)の理事長を務めています。2007年の大統領選挙では、第1回投票までは中道のフランソワ・バイル(François Bayrou)を支持していましたが、多才だが計算高く、エゴイストで、セクト的、まるで自分の執念のために乗組員を死なせたハーマン・メイブル著『白鯨』のエイハブ船長のようだとバイルを批判し、袂を分かちました。第2回投票に際しては、ニコラ・サルコジを支持。サルコジ政権下では、会計検査院の要職を務めるなどしています。さて、ブルランジュ氏が不安を覚えるフランス政治の現状とは・・・

問題になっているのは、フランスがヨーロッパに対し、そして世界に対し扉を開けていることだ。我々は、文化的、経済的、政治的に自らの殻に閉じこもって生きていくことができるのだろうか。そうすることを望んでいるのだろうか。枠をEUにまで広げたにせよ、明らかに、答えはノンだ。しかし、フランス人の多くは、この明らかなことを受け入れようとはしない。しかし、故なしという訳ではない。国際化することにより、貧困層が増え、文化が崩壊し、格差が拡大する恐れがあるからだ。

そこで、左翼も右翼も、政党は論点をごまかし、問題を隠し、将来像を描く代わりに中空を見上げている。既成政党には現状にうまく適応する価値ある政策を提示できないということが明らかになっている。

現実に向き合えないのは、失うことを恐れるからだ。極右、あるいは極左に勢力を奪われやしまいかという恐れだ。しかし、現政権は無責任という訳ではない。サルコジ大統領は、年金改革など不人気な政策もあるが、それでもいくつかの有効な改革をどうにかこうにか行ってきた。

一方、社会党では、オブリー第一書記(Martine Aubry)が党内左派を信用しておらず、左派の論理を批判することは控えながらも、左へ傾き過ぎることを抑えようとしている。その結果、オブリー第一書記の提唱する政策はまだプランの段階だとは言うものの、中身のないつまらないものとなっている。既成政党の政治家たちは言葉を弄して我々国民をだまし、我々が何も気づかないでいることを望んでいる。

その結果は、やりきれないものだ。国際化という現実に適応するために改革が必要なのだが、サルコジ大統領の主張は一貫性に欠け、社会党のプランは取るに足らない。そうした政治状況に直面し、フランス国民は政治家の主張には肝心なことが含まれていないことに気付いており、また、政治家は我々国民にとって耳触りのよいことしか言っていないことにも感づいている。つまり、政治家たちの欺瞞を感じ取っているのだ。

・・・ということで、国際化という時代に、フランスはどこに立ち位置を求めるべきなのか。どこを向いて歩んでいくべきなのか。そうしたことが政治家から明確に提示されていないことが、将来に対する大きな不安になっているようです。

今や、自らの殻に閉じこもっていればいい時代ではない。好むと好まざるとにかかわらず、世界の国々と伍して、進んでいかなければならない。国際化が進展する中で、どうやって自己のアイデンティティを守りながら、繁栄を続けていくのか。明日の我が国の姿を見せてほしい。明確に語ってほしい・・・

こう書いてしまうと、どこの国のことを言っているのか、分からなくなってしまいます。日本の現状について思っていることと同じだからです。日本はボトムアップの社会、現場の力が国を支えている。一方、フランスなど欧米はトップダウン。トップの戦略・戦術に優れている。そんな違いがあると思い込んでいたのですが、どうも状況が変わって来ているようです。欧米、少なくともフランスでは政界トップから明確なビジョンが提示されなくなっている。大衆迎合的な動きばかりが目立つようになっている。

国境を越えて、ヒト・モノ・カネ・情報が行き交う国際化の時代に突入したものの、社会のパラダイムをどう変革していけばいいのか、明確な指針を見いだせずにいる。そんな状況なのではないでしょうか。世界がひとつになってしまうような国際化は、なにしろ、誰にとっても初めてのこと。今は、歴史の踊り場にいるのかもしれません。どこの国が新たな時代にマッチするビジョンを描くことができるのか。最初にブレイクスルーとなる海図を手にした国が、21世紀の世界を牽引していくことになるのかもしれませんね。

頑張れ、日本。世界中のトップが手を拱いているのなら、ボトムアップのできる国が強いかもしれない。日本のチャンスかもしれないですね。私たち一人一人の創意・工夫で、明日の指針を手にすることができないものでしょうか。西周りに進む繁栄の中心。1980年代につかみ損ねた女神の髪ですが、現代の幸運の女神には後ろ髪があるかもしれません。日本に、チャンス、かもしれない。

シェンゲン協定から、フランス離脱か?!

2011-04-24 20:17:47 | 政治
シェンゲン協定・・・ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定(ウィキペディアより)。この協定のお陰で、私たちも一度加盟国内に入れば、その後の移動に際しパスポート・コントロールなどが免除され、数カ国を旅行するのにはとても便利です。

1985年6月にルクセンブルクの町、シェンゲン近くでベルギー、フランス、ルクセンブルク、オランダ、西ドイツ(当時)の5カ国が文書に署名したことから「シェンゲン協定」と呼ばれていますが、今では加盟国も25カ国に増え、EUには加入していないスイス、ノルウェーもこの協定に加盟しています。一方、イギリス、アイルランドはEU加盟国ですが、この協定には加わっていません。一口に「ヨーロッパ」と言っても、異なる考え・方針があり、そう簡単にはまとまらないようです。

さて、当初からの加盟国・フランスで、一時的にこの協定から離脱してはどうか、という声が上がっています。離脱してしまうと、フランスから他の国に行く際に、いちいちパスポート・コントロールを通らなければならなくなる。これは、不便!

どのような事情で離脱しようなどと考えているのでしょうか。22日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

フランスは今、「シェンゲン協定」と呼ばれる、ヨーロッパ内の自由な移動を認める協定からの一時的離脱を模索している。リビアやチュニジアからの不法移民の大量流入に対応するためだ。

フランス大統領府は、シェンゲン協定の運用には欠陥があると見做しているようで、「EU加盟国と非加盟国の国境においてシステム上の問題が発生する場合には、問題が解決されるまで一時的に協定から離脱することができることを協定に付け加えるよう検討すべきだと思われる」と、エリゼ宮(大統領官邸)は述べている。

北アフリカでの政変、特にチュニジアとリビアでの騒乱によって、大量の不法移民がイタリアに押し寄せている。彼らはひとたびシェンゲン協定加盟国であるイタリアに入国できれば、その後、他の24カ国に自由に移動できる。

この問題が、26日(火曜日)にローマで予定されているフランスとイタリアの首脳会談における、最も微妙な争点となっている。

チュニジア・リビアからの移民の殺到に直面し、イタリアは当初、周辺諸国に移民受け入れの協力を依頼した。多くの移民にとってはフランスが目的地であるため、受け入れ協力は主にフランスに対するものとなった。しかし、フランスはその依頼を拒否。EU委員会も、他の加盟国に連帯を強要することはできないと判断した(フランスの対応を支持したわけですね)。

イタリアは、1月以降で2万人以上に達するチュニジアからの不法移民に6カ月の滞在許可を与え、フランスや他のヨーロッパ各国にいる親類知人の元へ向かわせようとした。この方針に、他の国々が反対の声をあげた。ベルギーの移民とその救済を担当する政務次官、Melchior Watheletは、イタリアはヨーロッパのルールを悪用したと批判している。

17日(日曜日)、フランスはイタリアの国境の町Vintimilleからフランス国内に向かっていた列車のフランス領内への運行を認めず、イタリアの怒りを買った。フランスの言い分は、チュニジアからの移民とともに乗り込んでいた支援者たちが公的秩序を乱す恐れがあったからだ、というもの。

「シェンゲン協定において最も大切な決まりごとは、移民などは彼らが最初に入国しようとする国が適切に処遇するということだ」と、フランスのゲアン内相(Claude Guéant)は語っている。

加盟国が北アフリカから押し寄せる不法移民に対して適切な対処を行えないことによって、シェンゲン協定はその存続が危機に瀕している。その消滅はEU内における自由な往来の終焉を意味し、外国人排斥などを訴える極右・ポピュリズム政党にとっては願ってもない結果となるだろう。

治安と移民政策担当のEU委員、Cecilia Malmströmは、25カ国、4億人が国境なしで暮らしている現状が、チュニジア移民がもたらすフランス・イタリア両国の緊張関係によって終末を迎えるという考えは受け入れがたいと述べている。

Cecilia Malmströmはまた、「ヨーロッパ各国政府が治安に関しては責任を持っているのだが、今日では、政権与党に加わっているイタリアの北部同盟や、大きな勢力となっているフランスの国民戦線など、ポピュリズムや外国人排斥運動を特徴とする勢力からの圧力にさらされ、苦悩している」と、明かしている。

27日、ローマでの仏伊首脳会談では、両国間の争点を解決すべく努力すべきだが、今回の移民流入という危機により、シェンゲン協定が抱えている問題は解決にさらに時間がかかりそうだ。EU委員会は、フランスとドイツがルーマニアとブルガリアのシェンゲン協定への加盟に反対しており、新たな加入には長い時間が必要な状況であることを認めている。

フランスとドイツはさらに、加盟国が国境での問題に対処できない場合には、EUと外国との国境をめぐる条項を修正することを提案している。

・・・ということで、折も折、外国人排斥を声高に叫ぶ極右政党が勢力を伸ばしているときに、北アフリカからの不法移民がヨーロッパを目指して大量にやってきた。ひと悶着なしには済まされないようです。

シェンゲン協定が一時的にせよ停止されてしまえば、国境をまたぐたびにパスポート・コントロールを受けることになります。面倒ですね。

そしてそれ以上に面倒なのは、EU加盟国がそれぞれ、自国の殻に閉じこもり、排他的な政策を取りつつあることです。同じEU加盟国であっても、財政赤字のつけは、その国が払うもの。どうして、関係ない我々の税金が注入されるのだ。我々の税金は、この国をよくするためにだけ使われるべきだ・・・単一通貨ユーロを救うためだとしても、表面上は税金が他国救済に使われるように見えてしまう。そこで、反対だ!という声が大きくなってきています。

外国人排斥どころか、EU加盟国同士でも、排他的気運が高まっています。内へ向ったベクトルが、キャパシティ以上の容量となると、一機に外へ向ってほとばしる・・・いつか来た道。次の火薬庫は、どこになるのでしょうか。同じ轍を踏まないためには、どうすべきなのか。「人類の知恵」が試されているのだと思います。

フランスのレストランの評価が低い・・・評価方法が間違っているからだ!

2011-04-23 20:42:31 | 文化
美食と言えば、フランス。フランスには有名シェフも多く、ミシュランの星を獲得しているレスランも多い。日本人シェフも、修行に出かけますね。グルメと言えば、フランス。フランス人自身もそう思い込んでいるのでしょうが、そのフランス人が怒っています。こんなランキングはおかしい。絶対受け入れられない!

何に腹を立てているかというと、イギリスの雑誌“Restaurant Magazine”が発表した「サン・ペレグリーノ賞」(le prix S. Pellegrino)。「料理界のアカデミー賞」とも言われる権威ある賞で、世界のレストラン・ベスト50を認定しているのですが、フランスのレストランのランク・インが少ない・・・これは、おかしい! 評価の仕方が間違っているのではないか!!

では一体、どのようなランキングで、フランスのレストランはどのような状況になっているのでしょうか。19日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

2010年と同じように、今年もデンマークのレストラン「ノーマ」(Noma)が世界のベスト・レストランに選ばれた。審査をしたのは、世界の美食に関する批評家、専門家800人で、「ノーマ」は2年連続でベスト・レストランの栄誉に輝いた。コペンハーゲンの再開発された港湾地区にある倉庫を改造したにレストラン・「ノーマ」を率いるのは、32歳の若きシェフ、René Redzepi(ルネ・レッゼピ)で、その類まれな創造性が高く評価されている。彼はまた、北欧料理大使であり、地元の季節の素材を上手に生かしている。牛乳、フェロー諸島で獲れたヨーロッパアオザエビ(ラングスティーヌ:langoustines)、栗の実、黒パン、自家製ヴィネーグル・・・

スペインからは2店がトップ・ファイブに入っている。「エル・セジェール・デ・カン・ロカ」(El Celler de Can Roca)と「ムガリッツ」(Mugaritz)で、トップ・テンにはもう1店、「アルサック」(Arzak)が8位に入っている。一方、同じスペインのレストランで、2006年から2009年まで4年連続で1位に選ばれた「エル・ブジ」(El Bulli:世界一予約が取れないレストランとして有名、ミシュランの3つ星)は、ランク・インしていない。伝説のシェフ、フェラン・アドリア(Ferran Adria)が、充電のため、今年7月からしばしの間、閉店するからだ。2014年に再開されることになっている。

上位にスペインのレストランが並ぶ中、ブラジルの“D.O.M.”が昨年から11位も順位を上げ、7位にランク・インした。サンパウロにあるレストランで、シェフはアレックス・アタラ(Alex Atala)。賞の主催者も驚く上昇ぶりだ。

イタリアン・レストランは、2店がトップ・ファイブ入りしている。「オステリア・フランチェスカーナ」(Osteria Francescana:立地はイタリアのモデナ、シェフはマッシモ・ポットゥーラ)と「ファット・ダック」(the Fat Duck:立地はイギリスのバークシャー)。“Fat Duck”のシェフは、フェラン・アドリア同様、分子ガストロノミー(分子美食学:調理を科学的視点から社会的・芸術的・技巧的に解明しようという試み)を信奉するヘストン・ブルメンタール(Heston Blumenthal)だ。

アメリカからは、2店がトップ・テン入りしている。“Alinea”(シカゴ)が6位、“Per Se”(ニューヨーク)が10位。

昨年、トップ・テンに1店もランク・インしなかったフレンチだが、今年はパリ(11区)にあるビストロ「ル・シャトーブリアン」(Le Chateaubriand:シェフはInaki Aizpitarte)が9位に入り、トップ50には、8店が入った。「アストランス」(L’Astrance:パリ)が昨年の16位から13位に、「アトリエ・ド・ジョエル・ロブション」(L’Atelier de Joël Robuchon:パリ)が29位から14位に、それぞれ順位を上げた。一方、「ピエール・ガニェール」(Pierre Gagnaire:パリ)は13位から16位へ順位を下げた。アラン・パサール(Alain Passard)の「アルページュ」(L’Arpège:パリ)は19位、「ブラス」(Michel Bras:オーブラック)が30位。そして「ラ・メゾン・トロワグロ」(La Maison Troisgros:ロアンヌ:多くの日本人が修業したレストラン)は44位を守ったが、ホテル「プラザ・アテネ」(Plaza Athénée)にあるアラン・デュカス(Alain Ducasse)の店(Alain Ducasse au Plaza Athénée:パリ)は41位から45位に後退した。

世界のベストレストラン50は昨年、フランスのシェフや美食評論家たちから、時代の流行を反映しているだけで、ランク付けの基準が明確でないと非難されたが、今年のランキングもまた同じ批判の対象になることだろう。

・・・ということで、日本からは、フレンチの「レ・クレアシヨン・ド・ナリサワ」(Les Créations de Narisawa:南青山:成澤由浩シェフ)が12位、和食の「龍吟」(六本木:山本征治シェフ)が20位にランク・インした「世界のベストレストラン50」。日本のメディアも報道していましたから、ご存知の方も多いかと思います。

気になるのは、『ル・モンド』の最後の段落です。フランスから聞こえてくる批判の大合唱。基準がなってない、流行の後追いに過ぎない、美食の本質が分かってない・・・どうしてそう言えるのでしょうか? 

ランク・インしているフランスのレストランが少ない。しかも、上位に少ない。そんなわけがない。フランスこそ美食の本場。その伝統に裏打ちされた繊細にして華麗な味は、世界中の美食家を唸らせている。伝統を守りながら、常に新しさに挑戦している、フランス料理。それなのに、どうして、評価が低いのだ。納得できない。こんないい加減なランキングは、受け入れられない。主催者がイギリスの雑誌だからではないか。フィッシュ&チップスとローストビーフくらいしか生み出さなかった、味覚の分からない国が美食を評価するなんて企画をすること自体が間違いだ!

そんな噴飯やるかたないフランス人の憤りが聞こえてきそうです。もちろん、私の想像ですが、そんな気にさせる、「最後の晩餐」ならぬ「最後の段落」です。

フランス版アファーマティブ・アクション。いきなり困難に直面。

2011-04-22 21:19:45 | 社会
アファーマティブ・アクション(Affirmative action)・・・弱者集団の不利な現状を、歴史的経緯や社会環境を鑑みた上で是正するための改善措置のこと。この場合の是正措置とは、民族や人種や出自による差別と貧困に悩む被差別集団の進学や就職や職場における昇進においての特別な採用枠の設置や試験点数の割り増しなどの直接の優遇措置を指す。(ウィキペディアより)

有名なのは、アメリカでのアファーマティブ・アクションですね。困難な状況に置かれているアフリカ系若者の救済策の一環として、大学入学に際し、学力に関わらずアフリカ系の学生枠を一定数用意し、特別に入学させるなどの措置が取られてきました。しかし、白人学生からは逆差別ではないかという声も上がっていました。

また、歴史を遡れば、優秀な学生の多いユダヤ系を不合格にするために点数を下げていたという、逆アファーマティブ・アクションもあったようです。

フランスでは、移民2世たちが出生地主義に基づきフランス国籍を持ち、フランスの義務教育を受けた結果、文化的にはフランスに同化できているものの、住んでいる環境や親の経済状況により、高等教育を受けにくい状況にあります。そこで、最高学府とも言えるENA(l’Ecole nationale d’administration:国立行政学院)入学を目指す準備クラス(ENAをはじめとするグランゼコールに入るには、高校卒業後、準備クラスでさらに猛勉強する必要があります)に、恵まれない家庭出身の学生を一定数受け入れて、合格させ、フランス社会のトップで活躍してもらおうというフランス版アファーマティブ・アクションが2009年にスタートしました。その一期生たちが昨秋から入試に挑みました。さて、その結果は・・・11日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

恵まれない家庭出身の15人の学生が、ENA進学を目指す準備クラスに2009年に受け入れられたが、昨秋からの入学試験の結果、全員が不合格となってしまった。日刊紙・リベラシオン(Libération)の報道が確認されたカタチだ。

11人の女子学生と4人の男子学生がENA入学を目指す「多様性推進」プロジェクト(la promotion “diversité”)の第一期生として準備クラスに受け入れられた。しかし、わずか一人の女子学生が昨年12月に行われた二次試験にあたる口頭試問に進んだだけで、他の学生は口頭試問にも進めなかった。その女子学生にしても口頭試問で不合格だった。15名の学生のうち7人は再挑戦へ向けてまた勉強を始めることになっているが、次回は合格するチャンスも広がるだろう。何しろ、ENA合格者の52%が2度目の挑戦で合格しているのだから。

残りの8名の学生のうち、3人は社会保険庁、フランス銀行、自治体に採用され、2人は他の高等教育機関(パリ第1大学の博士課程、HEC経営大学院)に入学し、2人は民間企業で働き、残りの一人も学業は止めるが、どうするかは不明となっている。

ENAの経営陣は一期生の状況を見て、昨年の二期生受け入れに際しては、文学系からの採用を減らし、法律、経済系からの採用を増やした。その結果、10人の女子学生と4人の男子学生が今年秋からの受験を目指して勉強中だ。そして今、三期生の受け付けが5月13日まで行われている。

2009年10月7日に行われた第一期生の入学式には、ヴルト予算・公務員相(Eric Woerth)、アマラ都市相(Fadela Amara)、イルシュ連帯相(Martin Hirsch)という3人の閣僚に加え、多様性委員会のサベグ氏(Yazid Sabeg)が出席していた。

・・・ということで、社会の多様性を推進するために、移民の家庭を中心とした恵まれない環境で育った学生をENAに入学させ、政治、行政、企業のトップで活躍してもらおうという試みですが、初年度の挑戦は残念な結果になってしまいました。

進学準備クラスにたぶん授業料免除で入学させて、猛勉強させたのでしょう。しかし、ENAの狭き門をくぐることはできませんでした。それだけENAに入学するのは難しいということですね。1945年にドゴール(Charles de Gaulles:後の大統領)とドブレ(Michel Debré:後の首相)によって創立され、1992年には時のクレソン首相(Edith Cresson:日本人を黄色いアリ(fourmis jaunes)呼ばわりした女性首相)の発案によりストラスブールに移転したENA。今日では、毎年80~100名の学生を受け入れています。しかし、多くてもわずか100名。難関なわけですね。

ところで、アファーマティブ・アクションと言っても、フランスの場合は大学入学などにあたって移民の子どもたちなどに特別枠を用意してはいません。準備クラスに特別枠で入れているだけで、入試は同じ土俵。特別扱いはしていません。その学校にふさわしい学力がなければ、たとえどのような背景があろうと、入学はさせない、という明確な指針を持っているようです。このあたりが、アメリカとの差ではありますね。こうした違いを知るだけでも、いくつかの国々にアンテナを張っておくことは、無駄ではない、楽しいことだと思えます。

そして、日本でこうしたアファーマティブ。アクションは、どうなっているのでしょうか。やがて必要になってくるのかもしれませんが、格差社会、格差の固定化を考えれば、まずは、奨学金の拡充が急がれるのではないでしょうか。それも、奨学金の返済が滞る日本、奨学金や学費ローンの返済に追われ、苦しむアメリカの元奨学生・・・こうした現状を改善する方向での拡充が取り急ぎ必要なのだと思います。

外国人に認める職種を減らせ・・・加速するフランス政治のポピュリズム。

2011-04-21 20:13:03 | 政治
昔、日本に「3K」という言葉がありました。住宅関係の言葉ではなく、職業に関するもの。Kitsui、Kitanai、Kikenの頭文字から「3K」、つまり、人がやりたがらない、きつく、汚く、危険な職種のことです。そうした職種では人材確保も一苦労。今では、気がつけば多くの外国人、特にアジア出身の外国人が日本人労働者の穴を埋めてくれています。アメリカでは、Dirty、Dangerous、Demeaningで「3D」と呼ばれています。

同じようなことが、フランでも起きています。戦後、労働力不足を補うために、アフリカの旧植民地を中心に多くの外国人労働者を受け入れました。当然、いわゆる肉体労働の現場で働いていたことは想像に難くありません。その後、そうした移民の家族も受け入れ、フランス生まれの子どもたちも増えました。

しかし、フランスは今でも外国人労働者を受け入れています。給与、手当、補償など、経営者としては、フランス国籍を持った移民やその子どもたちよりは、新たにやってくる外国人労働力の方が使いやすいということもあるのでしょう。また、専門的職種の場合もあるでしょう。不法移民もいますが、正規外国人労働者も毎年多く受け入れています。

それが、ここ数年、ヨーロッパ全体で顕著になって来ている外国人排斥の機運に乗って、フランス政界からは、不法移民の国外追放や合法移民の受け入れ数削減などが提言されたり、実施に移されたりしています。イタリア経由でフランスにやって来ようとしている騒乱の続くチュニジアなど北アフリカ諸国からの人々を、イタリアとの国境でブロックし、入国を認めない、といった動きにもなっています。

外国人排斥・・・その新たな一方策がベルトラン労相(Xavier Bertrand)から出されました。どのような内容なのでしょうか。18日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

フランス政府は、合法移民への攻撃をさらに続けようとしている。ゲアン内相(Claude Guéant)が受け入れる合法移民の数を削減したいと述べたのに続き、今度は閣内の同僚、ベルトラン労相が17日のテレビ番組(TF1で毎週日曜日の18:30から放送されている“le Grand Jury”という政治番組)で、外国人労働者受け入れを認めている職種を削減したいと述べた。

外国人労働者受け入れを認められているのは、求人採用が困難で「切迫した職種」(métiers en tension)と言われている職業だ。労相は、外国人労働者に頼るのではなく、フランス人の求職者を訓練することによって、そのポストを埋めるべきではないかと語っている(失業率も、なかなか目標値まで下がりませんからね)。

日本のハローワークにあたる雇用局(Pôle emploi)の年間統計によれば、求人の三分の一以上(37.6%)が、採用の困難に直面している。「雇用局や雇用に携わる人たちに言いたいのは、「切迫した職種」の解消に向けて全力を尽くしてほしいということだ。フランス人求職者で対応できれば、労働を目的とした外国人合法移民の数を削減することは可能だ」と労相は強調している。

しかし、労相は、外国人労働力をどれくらい削減できるかについては言及しなかった。ただし、労働目的による合法移民の数は、年間およそ2万人だという数字は明らかにした。

日本の経団連にあたる“Medef”(le Mouvement des Entreprises de France)のパリゾ会長(Laurence Parisot:大手調査会社“IFOP”のCEOなどを経て、2005年からMedefの会長。パリ政治学院卒で、ナンシー第2大学で公法の修士号取得。1959年8月生まれですから、最近話題の原子力複合企業体・Arevaのアンヌ・ローヴェルジョンCEOと同年同月生まれですね。経営陣に女性が少ないと言われるフランスですが、日本よりははるかに多いようです)は、「労働目的の合法移民を問題視すべきではない」と述べるとともに、盛り上がるポピュリズムを前に、「最も危険なことは、フランスが外国に門戸を閉じて引き籠ってしまうことだ」と、語っている。

・・・ということで、国際化の中、世界の企業と熾烈な競争を繰り広げている企業のトップからは、必要な労働力・技能者は、外国からであろうと、正規であれば受け入れるべきだという声が聞こえてきますが、一方、国内の空気を読んで、選挙で勝利しようとする政治家、特に右翼の政治家からは、外国人排斥をさらに進めるべきだという意見が出されています。

ポピュリズム政治・・・フランスよ、お前もか、という気分になってしまいます。国家理念に基づき、信念を貫き通す。そんなところに、フランスの良さの一端があったと思います。ちょっと前の例では、イラク開戦への反対にも見られますね。それが、大衆迎合。いや、それどころか、大衆を煽ってさえいるようです。

ベルギーでは、外国人排斥どころか、オランダ語圏とフランス語圏の対立から、国家分裂さえ危惧される状態が続いています。オランダをはじめ、多くの国で、外国人排斥を訴える政党が勢力を伸ばしています。最近では、フィンランドで反EU・反ユーロを政策に掲げる「真のフィンランド人」という保守政党が議席を大きく伸ばしています。この政党も厳しい移民制限を訴えています。統合から、自国中心主義へ。統合を目指したヨーロッパの長い実験が終了してしまうのでしょうか・・・ユーロを早くドルか円に替えなくては、などと自己中心的なことを考えてしまったりします。

ニカブ・ブルカなどの着用禁止への反対行動。その取締り理由は、無届けデモ。

2011-04-18 20:20:41 | 社会
ブルカ(burqa:顔から全身を覆う服装)やニカブ(niqab:目を除いて顔や全身を覆う服装)など顔全体を覆うベールの着用を禁止する法律が、11日に発効しました。法案が政府から議会に送付されたのが昨年の5月で、可決されたのが10月。半年の猶予期間を経て、実施に移されました。

顔が見えないのでは、本人確認できないといった実際面での問題も指摘されますが、背景には、言うまでもなく、「共和国精神」と「共同体主義」との関係など、微妙な問題をはらんでいます。

実施初日、パリなどでは抗議運動も行われましたが、微妙な問題だけに、現場での取り締まりを担当する警官たちにも、悩ましい問題になっています。

そうした状況を、11日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

ブルカ、ニカブなど顔全体を覆うイスラムのベールの公共の場すべてにおける着用を禁じる法律が、11日発効となった。法律は、着用するものがベールであろうと、ヘルメットや覆面(目出し帽)であろうと、顔を隠すものの着用を、公共の場、つまり公道や公園、駅、商業施設などで禁じ、違反者には罰金を科すというものだ。

取り締まる警官たちには嫌がる着用者にベールを脱がせる権限は与えられていないが、違反者には最高150ユーロ(約18,000円)の罰金と公的な奉仕活動への従事、あるいは両者のどちらかが科せられる。女性にベール着用を強要した人には、1年の禁固刑と3万ユーロ(約360万円)の罰金、もし女性が未成年の場合はその倍の刑期と罰金が科される。

この法律に反対する集会がノートルダム大聖堂前で行われたが、ニカブをまとった二人の女性と多くの支持者が取り調べを受けた。「今日はベールをまとっているから取り調べたのではなく、デモの届け出をしていなかったことによる」と、公安担当のマルサン警視(Alexis Marsan)は述べている。

集会の発起人である“Touche pas à ma constitution”という団体のラシダ・ネカス(Rachid Nekkaz)は、「ノートルダム前でのデモに先立つ10時頃、エリゼ宮(大統領府)前でニカブを着た友人一人とともに尋問を受けた。私たちはニカブ着用への支持を言葉で表明しようとしただけなのに、警察署にまで連行された」、と語っている。

フランスは、顔全体を覆うベールの着用を禁じたヨーロッパで最初の国だ。騒然とした議論の後、昨年10月11日に国会で承認された法律で、400万から600万人いると推計されているイスラム教徒のうち、2,000人弱の女性がその対象となる。

警官組合の副書記長、マニュエル・ルゥ(Manuel Roux)は、ラジオ局フランス・アンテール(France Inter)のインタビューに答えて、この法律は実際に運用するのが非常に難しく、ほとんど適用されないだろうと語っている。警官が再び失敗の責任を取らされるのではないかと思うと気が重いとも語り、「張り切り過ぎているのが警官でないことは明らかだ。しかしかなり挑発的な場合には、何もしないという訳にはいかない。そうした場合には、法律を理解させ、教育的立場を堅持し、法律を遵守するよう説得することになるだろう」と説明している。

ルゥ副書記長はまた、「警官があちこちで尋問を行うことは、問題の種をまくことになる。移民の多いセンシティヴなエリアで、屈強な男と一緒にいるベールをまとった女性に対し警官の方から最初に職務質問などの行動に出た挙句、のっぴきならない状況の陥るのを想像しようとは思わない」と語っている。

この法律は、来年の大統領選まで1年となり、また極右政党・国民戦線が勢力を拡大するなかで、イスラムの地位や政教分離(la laicïté)がフランス政治の主要テーマになっているというタイミングで、発効した。

発効に対する反対は、フランスの外からも発せられている。ヨルダンのムスリム同胞団は、ベール着用の禁止は危険な戦いの始まりだと非難している。ムスリム同胞団のリーダー、ハマム・サイド(Hammam Saïd)は、ベール着用の禁止は、フランスが鼻にかけてきた人権に反することであり、イスラム教および世界中のイスラム教徒の権利に対する侵害だ。また基本的人権の侵害であり、もし浜辺で女性が服を脱ぐことが許されるなら、女性が自ら顔を覆いニカブを着用することも許されるべきだ」と語っている。

・・・ということで、文化、価値観、伝統が異なる人同士が、どうやって同じ社会で共に生きていくのか。「異文化共生」という日本語もありますが、これが難しい。

自分の価値観が唯一正しいとして、他の価値観を持つ人たちに自分の価値観を無理強いすることは、反感を買うだけで、決して共存を可能にするものではないと思います。しかし、西欧の価値観・文化こそが最も優れたものだと思い込む人々にとっては、異なる価値観・文化・宗教は改めさせるべきものだと考えられる。その結果、「米世論調査機関ピューが昨年発表した調査結果によると、仏国民の約82%がベール禁止を支持、反対は17%だった。この支持率はピューが5カ国で実施した同様調査の中で最大だった。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは欧州人権保護法に抵触するとして法案に反対していた。」(3月5日:CNN)

旅行で訪れるだけなら、いい国は多いのですが、文化・価値観・伝統・宗教などを視野に入れてしまうと、嫌な面も見えてきてしまいます。しかし、世界がひとつにまとまるためには、異文化共生のような難問を解決していかなくてはならない。そこで「人類の知恵」が試されるのだと思います。

菊池恵介氏が書かれた「植民地支配の歴史の再審――フランスの「過去の克服」の現在」(金富子・中野敏男編『歴史と責任――「慰安婦」問題と1990年代』(青弓社、2008年刊)に所収)から一部を孫引きになりますが引用してみます。

「(註:“La République du mépris”(侮蔑の共和国)の著者で、現代フランスにおけるマイノリティー排除の論理を、「共和主義的レイシズム」と見做すピエール・テヴァニアンは)国民共同体の文化的マジョリティーの側が、「共和国」対「共同体主義」という虚構の二項対立を作り出し、フランス共和制の礎となる普遍的理念の名において、マイノリティーの排除を正当化しているというのである。たとえば、2003年のフランスでは、イスラム・スカーフを着用して公立学校に登校した少数のアラブ系女子学生が、「政教分離」と「女性解放」の名の下に排斥された。「女性蔑視のシンボル」と一義的に断定されたスカーフをまとう彼女たちは、「家父長制に屈した娘」として主体性を否定され、さらに、学校側の説得を聞き入れようとしなかった者たちは「原理主義に洗脳された娘」として排斥されたのである。こうして、だれもが賛同する普遍的理念の名の下に、同化圧力に抗う少数者を糾弾し、沈黙させるところに、テヴァニアンの指摘する「共和主義的レイシズム」の本質がある。」


また、イザベル・アジャーニ主演の映画“La Journée de la jupe”(『スカートを穿く日』)も思い出します。スカートを穿くことを強いられた西欧の女性たちが、ついにズボンを穿く自由と権利を勝ち取った。彼女たちにとって、スカートは強制のシンボル。しかし、体の線を見せる服の着用を禁じられてきたイスラムの女性にとっては、スカートは憧れ。しかも、スカートを穿くことは男を挑発することだと見做されるフランス国内のイスラム社会で、なんとかスカートを穿く権利を獲得したいと願うイスラムの女性たち。どちらも権利を求めての戦いなのですが、ゴールがまったく異なっている。スカートを脱ぎ捨てるか、スカートを堂々と穿くか・・・しかし、スカートを穿く自由と権利を求めるイスラムの女性を、時代に逆行するとか、女性の権利を放棄しようとするとか言って非難するフランスの女性たち。お互い非難し合ってどうなるのでしょうか。要は、穿きたいものを穿きたいように穿くという自由と権利を得ることが大切なのではないかと思うのですが、自らが獲得した権利を他の人々にも分けてあげたい、という思いやりが仮に出発点ではあっても、結果としては、その権利の押しつけとなってしまうことがあります。

文化・価値観・伝統・宗教などが異なる人同士が、どうやって共に認め合って生きていけるのか・・・宇宙船「地球号」の未来がここにかかっていると言っても過言ではないとさえ思えてしまいます。

日本食の危機、フランスでも。

2011-04-17 21:17:55 | 社会
農産物への放射能汚染が危惧され、日本国内でも出荷停止や風評被害が問題になっています。そして、衝撃的な映像や過熱する報道ぶりから、日本中が放射能に汚染されているといった受け止め方がされている外国では、日本以上に「日本食」に関して敏感になっているようです。何しろ、口に入れるものだけに、仕方のない面もあるかと思います。

影響は近隣諸国ではもちろんですが、遠く離れたフランスにも及んでいます。日本食レストランや日本食材店は客が減り、また検疫の問題で食材の輸入がストップしたり・・・そうした大変な状況を12日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

「お客様各位 当店は安全の確認された食材を使用しており、魚はパリの中央卸り市場(Rungis)で購入したものを使用しております」・・・パリの日本人街とも言われるサン・タンヌ通り(la rue Saint-Anne)の近くにある小さな日本食レストラン「寿司きらら」の入り口に貼られたこうした案内が、現状を明確に示している。日本原産の食材を自慢するなどもはやできるものではなくなった。

福島沖で取れた魚が放射能に汚染されていたという最初のニュースが流れるや、日本産の食材を使用していることを品質保証であるかのごとく自慢していた本格的な日本レストランは、食材の安全性を証明することを迫られるようになった。「放射能の危険性を伝え続けるテレビの報道の影響で、人びとは日本産の食材に恐怖を感じているようで、客数が30%も激減した」と、「寿司きらら」のオーナー、Sakakibara Hitoshi氏(榊原さん)はこぼしている。

寿司の出前分野に進出してきた中国人やベトナム人経営の店と一線を画するために、伝統的な日本食レストランを「本格的日本料理店」として認定する制度が2007年に創設されたが、このマークも今や追い風とはならなくなった。この試みを始めたJETROは、認定レストランの更新を今年は諦めた。このマークを得るには、日本から輸入したワサビ、わかめ、米を使用しなくてはいけないからだ(このマークが、皮肉にも、汚染された食材使用の可能性を物語っていると、理解されてしまう訳ですね)。

「本格的日本料理店」の認定を受けている麺類専門店の「国虎屋」のシェフ、Matsumara Tatsuhi氏(松村さん、あるいは松原さん)は、中国産のワカメを使用していることを理解してもらうため、個袋に入った中国産の食材を店頭に展示している。またこの店では、数ヶ月前に輸入済みであったことを表記した上で、日本産の醤油や海藻類を使用している。

日本産の食材を用いた料理を食することへの客側の不安に加え、食料品店や卸売商たちは今や、在庫を切らしてしまうことにも頭を悩ませている。津波は東日本でのサプライ・チェーンに大打撃を与えているが、その結果、輸出能力の大幅な減少も引き起こしている。日本政府による二重のチェックと福島原発に近接する12の県からの製品に関するフランス側の検疫強化により、商品の流通が阻害されている。

「注文した日本からの食材・食品が、ル・アーヴルの税関でストップされたままだ。それらを運んできた船は、震災の前に日本を出航したのに」と食材店兼食事処「十時や」のオーナー、Torada Keiyuki氏(虎田さん)は特に5月に予定されている次の入荷を心配している。「日本人のお客さんの中には、品不足を危惧している方もいる。そうした方々は、自宅に保存するために、かなりの買いだめをされていった」と、午前中に売り切れた福島の北隣、宮城県産のワカメを店頭に補充しながら、同氏は語っている。

日本の松本外相が、福島原発の状況に関して十分な情報を開示し、且つ、食材については原産地と放射能汚染に関する安全証明を発行するので、日本製品の輸入を禁止しないよう求める声明を最近発表したが、パリの日本食材店は輸入が滞ることへの備えを模索している。

パリの大手日本食材店「京子」では、大震災後の日本では輸出の確保が必ずしも優先事項ではないことを認めつつ、「もし在庫を切らしたくなければ、日本食材の一定の部分を日本以外の国で生産された食材で補てんせざるを得ないかもしれない」と語っている。つまり、伝統的な日本食材店は中国産の食材を輸入し在庫切れを防ぐことになる、ということだ。

・・・ということで、パリの日本食レストランや日本食材店が、福島原発の放射能漏れの影響を蒙っています。パリ滞在中に利用させていただいた店も多く、他人事ではないような気がします。福島原発問題が一日も早く収束して、世界各地の日本食関係の店が再び活気を取り戻すことを願ってやみません。

また、日本食と言えば、マンガやアニメ、ファッションなどとともに、今後、日本の輸出に大きく貢献するといわれていただけに、出鼻をくじかれたようなものですね。その意味からも、風評被害がこれ以上広がらないでほしいものです。

ところで、風評被害と言えば、福島から避難した子どもたちへの影響が出ているそうです。避難先の関東地方の町でのこと。公園で遊んでいたところ、他の子どもたちから、どこから来たのか尋ねられた。福島からと答えると、えっ、福島!! 放射能が移るから、あっちへ行け!! と苛められ、結局家族でまた福島へ戻ったという例があるそうです。

福島から避難してきた子どもとは遊ばないようにと親が注意していたのか、福島の農産物や海産物は危険だ、怖いといった親など大人たちの会話を子どもが誤解したのか、いずれにせよ、「異質を排除する日本社会」はこの先も安泰なようです。