元ラーメン屋店主のツイート集

ラーメン屋を10年経営し、今は閉店し、介護士をしています。

自作小説「Highway Starが鳴り響くラーメン屋」・・・4話

2009年04月28日 | ≪創作活動≫★状況報告★
この物語はフィクションです。


バー「16世紀のGreensleeves」の客は、次々と入れ替わって
いるが、俺とビッグ・ジムは、奥のテーブルを陣取って、深刻に
話し込み、和やかな店内と異質な雰囲気を醸し出していたと思う。

店内BGMは軽快な「ルナサ」の楽曲が流れていた。
ケルト/トラッド系のアイリッシュ伝統音楽は、リバーより、ジグや
リールが俺は好きだな・・・て、思いながら、軽くリズムを
とっていると、

「で、リッチーはさっき、ヘヴィメタルを捨てた。と、言ってい
たがどうゆう事なんだ?」と、タバコの煙を吐きながら、
ビッグ・ジムが尋ねた。

最近、俺の身に振りかかった、俺の居場所「スピード・キング」解散、
最愛のマーギットとの別れ、職場「ホーリー・ダイバー株式会社」退社、
住居「コーポ・エアロスミス」からの強制退去、大切なギターを
「リサイクルセンター伝説のチャンピョン」で売った話などを、長々と
話し続けた。

「だから、もう、俺には何も無い。全て失った。生きがいも、目標も、
生活基盤も、何も無く、ホームレス生活をするより他に無い。」
改めて、自分が絶望の淵に立たされている事を痛感すると涙が出てきた。

「ハハハハハー」

何だ?ビッグ・ジムは俺の不幸を高笑いしてる・・。
「おい!あんた酷くないか?他人の不幸は蜜の味って事か?」

ビッグ・ジムは、ニヤッと悪戯な笑みを浮かべ
「それだけ吐き出せば気が済んだだろう。
悲劇のヒロインになるのは、それぐらいにしておけよ。
リッチー。お前、ヘヴィメタルフリークのくせ
ネガティブになってんじゃねぇよ。
怒り、不満、敵意、反逆、反骨精神がヘヴィメタルの真髄だろ?
俺達がヘヴィメタルに出会った反抗期・思春期の頃、不当な権力や、
一般論、大人たちの言動に逆らい、背き、激しい怒りによる破壊行為が
ヘヴィメタルだっただろ?
精神的に満たされない時に、いつも励ましてくれたのがヘヴィメタルじゃ
無かったのか?
今更、世の中を嘆くなよ。
世の中に嫌悪したらとことん叫べよ。
それがヘヴィメタルだろ。
怒りの代弁がヘヴィメタルだろ。
フラストレーションと、エネルギーをとことんヘヴィメタルで、
発散すればいいだろ。何があろうと、ヘヴィメタルは裏切らないぜ。
ヘヴィメタル・スピリッツを失わず、太く一本筋が通った、自分の
人生を進むのみじゃ無いのか?」

ビッグ・ジムの迫力に押され、俺は小声で
「でもー。これから、俺はどうすれば・・・」

「それは、お前が決める事だ。誰にも媚びず、自分を貫け。
ヘヴィメタルを演奏するにはテクニックや経験よりも、演奏者の熱い
思いや生き様が重要だろ?甘っちょろい事言ってねぇで、世の中に
流されず、自分で切り開けよ。自分の世界観を見失うんじゃないぞ。
常識や一般論なんて糞くらえだ。一度しか無い自分の人生は、自分の
生き方を貫き、追求しろ。人生は常にリスクが付き物だ。
いちいち落ち込んでる場合じゃないぞ。
反省はしても、後悔すんな。
熱くなけりゃヘヴィメタルじゃない。今のお前は、冷め切ってるぞ。
ヘヴィメタルって、単なる音楽ジャンルじゃないんだぞ。
ファッション、考え方、生き方など全て含んでヘヴィメタルだ。
辛い時は、「パンテラ」や「メタリカ」の歌を叫び、非現実の世界に
しばし陶酔し、純粋で未熟さを維持しながら、世の汚色に染まらない
のが俺らの生き方だろ?
お前が絶望の時に「ラーメン天国への階段」に来たのは、ラッキー
だったぜ。お前、どうせ明日から何もする事無いんだろ?
うちに来なよ。「ラーメン天国への階段」で、俺とラーメン作らない
か?給料は多くは出せないが、店の2階を好きに使っていいぜ。住ま
いと飯の心配はしなくていい。お前に、再び、ヘヴィメタルの熱さが
蘇って、まとまった金が出来たら、後は好きに好きに生きろ。
お前をいつまでもラーメン屋に縛り付けるような真似はしねぇよ。
とりあえず、ホームレスになるよりは良いだろ?
どうだ?」と、ビッグ・ジムは真っ赤な顔をして言った。

俺は急な展開に動揺した。

捨てる神あれば拾う神あり、とは、よく言ったものです。
「芥川龍之介」の「蜘蛛の糸」のように、救いの手が差し伸べられた。
同情を受けるのが気に食わないなんて強がってホームレスになるより、
この話しを受けるのが賢明だ。

「いいんですか?ありがたい話です。飲食店の勤務経験どころか、
自炊経験も無いけど大丈夫ですか?」と、尋ねた。

ビッグ・ジムは、ようやく、ニコっと笑い
「じゃ、明日からよろしくな。年も近いし、ビッグ・ジムって呼び捨て
でいいぞ。それに敬語はこそばゆいから、ため口でいいぞ。」
と、手を差し出してきた。

しっかりと、握手をし、互いに笑いあった。

「よし、この話はここまで。で、リッチーは、インペリテリの新譜は
買ったか?」と、ビッグ・ジムは強引に話を反らし、
「16世紀のGreensleeves」の閉店時間までヘヴィメタルの話で盛り
上がった。

「ラーメン天国への階段」まで送ってくれ、俺は店の2階で寝る準備をした。

ビッグ・ジムは、近所にアパートに住んでいる。

床につきながら、フラフラとたまたま入ったラーメン屋で
こんな流れになり、明日、目を覚ましたら、その店で働く
ようになっている奇想天外な運命に、微笑みながら
床についた。

翌日から始まる過酷な業務など知る余地も無く、ほろ酔い
気分のまま床についた。

つづく