平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

(9)六ヶ所村の世界平和の祈り

2006年03月07日 | エネルギー問題
六ヶ所村(9)

石油もガスも原子力も、現在の主要なエネルギー源はすべて環境に多大の負荷をかけます。原子力は二酸化炭素こそ排出しませんが、放射性廃棄物はいまだ未解決の問題です。バイオマスや風力や太陽光などの自然エネルギーは、いまだ既存のエネルギーに取って代われるだけのエネルギー源にはなりえていません。そういう中で、原子力も利用も、一種の「つなぎ」としてやむをえないと私は考えています。しかし、原子力を人類のエネルギー問題解決の切り札と見なすことはできません。核のゴミは未来の人類に大きなツケを残すことになります。私は基本的には、六ヶ所村の再処理施設の稼働はまだ必要ないと思っています。

私は2004年に下北半島に行ったことがあります。旅行の主要な目的は霊場・恐山の浄めでしたが、その帰途に六ヶ所村にも立ち寄りました。再処理施設の広大な敷地は厳重な壁で取り囲まれていました。とある場所に車を止め、敷地の近くに歩み寄り、数名の仲間とともに世界平和と地球の平和を祈りました。一行の中に霊視能力のある方がいて、私たちが祈っていると、敷地からもくもくと濃い黒雲が立ち昇ったといいます。何度も何度も印を組み、祈り続けているうちに、ようやく黒雲は晴れました。

その黒雲は、再処理施設から吐き出される放射能を象徴していたのでしょう。

現在、六ヶ所村の再処理施設に世界平和の祈りのメンバーが勤めています。その方は、これまで長年、広島で世界平和の祈りを祈ってきたのですが、仕事の関係で六ヶ所村に出向になったのです。原爆の被爆地から六ヶ所村へというのは、なんとも不思議なめぐりあわせですが、これも偶然ではないのでしょう。そういう方が六ヶ所村で毎日、世界平和の祈りを捧げてくださっているということは、本当にありがたく、心強いことです。

最新の科学理論によると、宇宙空間には無尽蔵のエネルギーが秘められているといいます。それを取りだし、利用することができれば、人類のエネルギー問題は解決できます。現在の地球の危機を解決するには、究極的には科学の飛躍的な発展が起こらなければなりません。人類はこれまで驚くほどの科学的な進歩を遂げてきたのですから、それも不可能ではないでしょう。ただし、新しい科学は、物質レベルのみの科学ではなく、意識や霊性の次元を含み込んだ科学になると言われています。そのような科学が現実化するまで、私たちは世界平和の祈りを祈って、人類の集合意識の中に愛と調和の光を放射し続けていかなければならないと思います。


(8)再処理のコスト

2006年03月06日 | エネルギー問題
六ヶ所村(8)

原子力発電は商業発電です。これまで原子力が利用されてきたのも、原子力が水力や石油に比べてコストが安いからです。

各種の発電のコスト比較
http://www.iae.or.jp/energyinfo/energydata/data1012.html

ところが、再処理をすると、直接処分よりもコストが高くなることが判明しました。総合エネルギー調査会・原子力部会作業部会がコスト比較のデータを作成していながら、それを公表しなかったのです。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/2004_17.html

ここでも、日本の政治・行政につきものの隠蔽体質がかいま見られます。

アメリカの試算でもやはり再処理のほうが高くなると計算されています。
http://homepage3.nifty.com/radioactivewastes/jastjj/page_2/article_4.htm

再処理は、希少なウラン資源をできるだけ長く使うために行なわれるはずです。しかし、再処理しても、発電に使用できるプルトニウムはせいぜい3割程度増えるだけだといいます。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/kanazawa.pdf

この程度では、エネルギー資源問題の根本的解決にはなりません。利用効率を3割程度、高めるために、膨大な資金を投入し、消費者に今まで以上に高い電気を買わせ、環境に大きな負荷まで与えてまで、再処理をする必要があるのかどうか、疑問のあるところです。

ウランを半永久的なエネルギー資源として利用するためには、どうしてもウランの99.3%を占めるウラン238を効率よく燃焼させる高速増殖炉を実現しなければなりませんが、これがはたして実現できるのかどうか、よくわかりません。

原子力大国のフランスでさえも、高速増殖炉建設の意欲が低下して、計画が見直されています。その理由は、

(1)技術的困難さ。
(2)高速増殖炉が軽水炉に比較して高くつく。
(3)世界的に核軍縮が進む中、むしろ余剰プルトニウムの処理が問題になっていて、高速増殖炉によって更にプルトニウムを増殖させる必要がなくなった。

という3点であるようです。
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/03010505_1.html

しかし、ロシア、インド、中国のように、現在でも高速増殖炉の研究を続けている国があり、日本も開発を断念していません。

高速増殖炉のことはさておき、プルトニウムが余っていて、地元の反対のためにそれをプルサーマルでどう消化するかの見通しも立たない段階で、しかもコストが割高で、エネルギーの自立にもつながらないというのに、はたして余剰プルトニウムを増やす再処理を急いで開始する必要があるのか、非常に疑問です。まず、現有のプルトニウムをきちんと消化する見通しを立ててからでも遅くないと思います。

このままでは、再処理でプルトニウムが増えるからプルサーマルをしなければならない、という本末転倒の事態になりかねません。六ヶ所村を理由に、原発の地元にプルサーマルを迫る、というやり方です。本来、プルトニウムの増加がいやならば、再処理をしなければいいだけです。

繰り返しますが、再処理+プルサーマルによって、電気料金が下がるという見通しはありません。むしろ電気料金は高くなると見られています。

ダムでも高速道路でも、いったん計画が作成され、それを実施するシステムができあがると、それに事業を依存する政府機構、官僚、企業、研究者、労働者が生まれ、その事業が役目を終え、もはや必要なくなっても、それをなかなか中断できないという日本の悪しき慣習が、ここでも作用しているような感じがします。


(7)再処理施設からの放射能

2006年03月04日 | エネルギー問題
六ヶ所村(7)

ウラン燃料は、小さなペレット(粒)として金属でできた燃料棒の中に詰められています。この燃料棒を原子炉の中で「燃やす」わけですが、燃料棒そのものは燃えてなくなるわけではありません。ウランが核分裂を起こしてエネルギーを発したあとには、燃料棒の中には燃え残りのカスが残ります。それが核のゴミ、放射性廃棄物です。

核のゴミを燃料棒のまま地中などに埋めるのを「直接処分」といいます。

これに対して、燃料棒を剪断(せんだん)して、中の放射性廃棄物を取り出し、それを化学処理してプルトニウムを抽出するのが「再処理」です。再処理の際には、金属棒の中に封入されていた放射性廃棄物が環境と広く接触することになります。

グリーンピースは以下のように警告しています。
http://www.greenpeace.or.jp/campaign/nuclear/documents/criradrepo1.pdf

・再処理工場は、原発とは桁違いの量の放射能を、海中や大気中に垂れ流す。
・ヨーロッパの再処理工場の周辺では、放射能による農産物や水産物の汚染が生じている。
・ヨーロッパの再処理工場の周辺では、子供たちの間に白血病が増えている。
・ヨーロッパの経験からすると、低レベルの放射線による被曝は、これまで考えられていた以上に危険である可能性がある。

原子炉は、チェルノブイリのような大事故を起こさないかぎり、それほど大量の放射能を周囲にまき散らすわけではありません。ところが、再処理工場は原子炉以上の放射能を周囲に排出する可能性があります。再処理の過程で、ヨウ素129、トリチウム、炭素14、クリプトン85などの放射性物質が、水中や大気中に放出されます。とくに、クリプトン85という放射性ガスは、六ヶ所村の再処理工場を1年間運転すると、チェルノブイリ原発事故の10倍もつくられるとグリーンピースは計算しています。

理論的にはこれらの放射性物質を完全に回収することも可能だとは思われますが、それを行なうと、コストが膨大になります。そのため、事業者が「合理的」でないと判断すれば、放射性物質は環境中に放出されます。「合理的」とは「商業的に見合う」という意味であって、「無害」という意味ではありません。

(6)玄海原発3号機でプルサーマル開始か

2006年03月03日 | エネルギー問題
六ヶ所村(6)

そういう中で、2月7日、全国に先駆けて、佐賀県がプルサーマルに同意する姿勢を見せました。佐賀新聞の記事より――

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 九州電力が玄海原発3号機(東松浦郡玄海町)で導入予定のプルサーマル計画について、古川康知事は7日、「安全性は確保される」とする見解を発表した。県は、計画の賛否の判断の前提に安全性を挙げていた。玄海町は近く同意する見通しで、県も3月末までに正式に同意するとみられ、全国で初めての同計画の実施がほぼ確実になった。
 
 県庁で記者会見した古川知事は、原子炉の制御性や混合酸化物(MOX)燃料の使用実績などに加え、地震やテロの可能性を含めた8項目の安全性に関する論点を県庁内で検討した結果、「国による厳格な規制、監督と九電の適正な安全管理を前提に、安全性は確保されるという結論に達した」と述べた。

 理由として「国の原子力安全・保安院と原子力安全委員会によるダブルチェックで安全とされた」ことに加え、九電の安全管理も「適切で良好な体制にある」とし、「総合的に検証した」と説明した。

 プルサーマル計画は、九電が2010年度の導入を目指して04年5月、県と玄海町に安全協定に基づく事前了解願を提出。安全審査を行った国は「計画は妥当」として、昨年9月に実施を許可。残る手続きは、玄海町と県の了解判断になっていた。

 県は、国や九電に続いて昨年12月、公開討論会を開催。この際、古川知事は「安全性の理解は深まった」と容認に向かう姿勢を示していた。

 古川知事は、玄海町の意向や、2月県議会での論議などを経て最終判断する考えだが、同町議会は既に導入を前提として地域振興策の協議に入っていることなどから、3月末までに知事が同意する可能性が高まった。

 一方、県民の間では、同計画への不安がぬぐい去られておらず、安全性に疑問を抱く市民団体などの反対運動が活発になりそうだ。

 プルサーマルは、国が核燃料サイクル政策の柱として推進。先行していた東京電力や関西電力ではトラブル隠しや事故で中断している。(坂田)
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http://www.saga-s.co.jp/pub/hodo/genkai/index.htm

この記事にもありますが、行政側と住民側では、プルサーマルの安全性への評価が違います。地元ではプルサーマルへの反対運動も起こっていますが、プルサーマルができないと、プルトニウムがたまり続けるので、国としてはどんなことをしてもプルサーマルを後押しするでしょう。

玄海原発が立地する唐津市では、プルサーマルの安全性について、2005年12月25日に公開討論会が開かれました。
http://www.saga-s.co.jp/pub/hodo/genkai/news/2005/051226.htm

・MOX燃料の特性
・事故時の影響範囲
・使用済みMOX燃料の処理

の3点について、賛否両論がまとめられています。これを読みますと、プルサーマルの安全性については専門の学者の間でも意見が一致しないようですので、素人には判断しようがありません。

今年になって佐賀県は以下のような理由で、「プルサーマルの安全性は確保される」という結論を出しました。

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 玄海原発のプルサーマル計画で、県は賛否の議論が分かれる論点について考えを示し、「安全性は確保される」と結論づけた。県の主な見解をまとめた。
 
<制御棒の利きが悪くなり原子炉を安全に停止できないのではないか>
 MOX燃料を使用した場合、制御棒の原子炉停止能力が低下することは確かだが、安全審査の基準を満たしており、原子炉を安全に停止できると理解できる。中性子を吸収するホウ素の濃度を上げることで調整でき、ウラン燃料使用時と同等の停止能力を持つことが確認されている。

<MOX燃料は核分裂生成ガス放出率が高く、内圧が高まって破損しやすいのではないか>
 核分裂生成ガス放出量が増えることを考えて、初めからガス加圧量を減らしており、燃料棒の内圧は基準を満たす。実験結果でも、燃料破損を特に考える必要はないことが確認されている。

<海外での実績よりプルトニウム濃度や燃焼度が高く危険ではないか>
 国内外の実験や安全解析に基づいて、玄海原発で計画されているプルトニウム濃度や燃焼度での特性を考慮し、安全解析が行われている。

<事故時の影響範囲が広がるのではないか>
 プルトニウムは気体になりにくく、原発には放射性物質を閉じこめる何重もの壁があるので、プルトニウムが外部に放出されることはほとんど考えられない。原発外への影響はウラン燃料と比べて差はないものと理解できる。

<テロの可能性が高まるのではないか>
 プルサーマルを実施することで警備体制や施設構造が変わるものではなく、攻撃される可能性が大きく増加するとは考えにくい。攻撃を想定した「県国民保護計画」を作成しており、万一の事態に対しても対応体制を整備していく。
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http://www.saga-s.co.jp/pub/hodo/genkai/index.htm

すでにプルサーマルが行なわれている西欧諸国では、これまで重大な事故は起こっていませんから、日本の原発が西欧諸国並みあるいはそれ以上に安全であるという前提があれば、プルサーマルそれ自体は、通常の原発と比べてそれほど危険(ナトリウムを使う高速増殖炉ほどの)ではないとは言えると思います。

ただし、プルサーマルのリスクが通常の原発とそれほど大きな違いがないとしても、再処理施設には原発とは違った危険性があると言われています。

(5)たまり続けるプルトニウム

2006年03月02日 | エネルギー問題
六ヶ所村(5)

プルトニウムは原爆にも転用できます。プルトニウムを大量に保有する国は、核兵器を製造する潜在能力を有することになります。日本は、使用済み核燃料を英仏で再処理してもらって、プルトニウムを受け取っています。日本は潜在的核兵器大国なのです。

プルサーマルは発電が目的であると同時に、プルトニウムを減らすためという側面もあります。現在、日本は、43.1トン(海外37.4トン、国内5.7トン)のプルトニウムを保有しているといいます。
http://www.gensuikin.org/rokkasho/060127.htm

六ヶ所村の再処理がスタートすれば、ますますプルトニウムが増えていきます。再処理しても、プルトニウムを消費する見通しが立たなければ、何にもなりません。

電力会社は今年になってようやくプルトニウムの消費計画を発表しました。2006年1月6日の産経新聞の記事より――

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 原発を運転する電力10社と原発計画を持つ電源開発の計11社は6日、全国12カ所以上の計16―18基の原発で、年間最大で計6.5トンのプルトニウムを消費するとした初の国産プルトニウム利用計画を公表した。開始時期は、「2012年度以降」としただけで特定されなかった。

 プルサーマル計画の現状をおおむねなぞった内容で、プルトニウムを使い切る計画と言えるかどうか、妥当性を確認する国の原子力委員会の判断が注目される。

 青森県六ケ所村の日本原燃再処理工場で今年春にも使用済み核燃料からプルトニウムが抽出されるのを前に、原子力委員会が公表を求めていた。

 日本原燃は早ければ2005年度中に試験運転として九州電力の使用済み核燃料で再処理を開始し、06年度と合わせて約1.6トンのプルトニウムを抽出。フル稼働すれば年間4トン強のプルトニウムが生産される。

 各電力は、日本原燃が六ケ所村に計画中の工場でプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料に加工、プルサーマルに使う。電気事業連合会は、年間5.5―6.5トンを消費し、海外保有分の約30トンも15年程度で燃やせるとしている。

 東京電力だけは原発名を挙げなかったが、トラブル隠しを受けて地元了解を白紙撤回した各自治体が、原発名を明示しないよう強く求めたのに配慮したとみられる。また、美浜原発死傷事故で計画が中断した関西電力は従来計画の原発名をそのまま表記した。

 地元に事前了解などを申し入れていない北海道、東北、北陸各電力はそれぞれ泊原発(北海道)、女川原発(宮城県)、志賀原発(石川県)としたが号機は未定。日本原子力発電は敦賀2号機(福井県)と東海第2原発(茨城県)を挙げた。具体的な計画が進んでいるのは中部電力浜岡4号機(静岡県)と中国電力島根2号機(松江市)、四国電力伊方3号機(愛媛県)、九州電力玄海3号機(佐賀県)、電源開発大間原発(青森県)。(共同)
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http://www.sankei.co.jp/news/060106/kei082.htm

2012年からは、六ヶ所村で年4トンのプルトニウムが生産され、年間5.5―6.5トン消費するというのです。この計画の通りにいけば、プルトニウムはたしかに減っていきます。

「プルトニウムを使い切る計画と言えるかどうか、妥当性を確認する国の原子力委員会の判断が注目される」と産経新聞は書きましたが、1月24日、原子力委員会は、わずか2回のヒアリングと1回の審議で、電気事業連合会等から出されていた「六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムの利用計画について」を「利用の透明性向上の観点から妥当である」と認めました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060124-00000096-kyodo-soci

ところが、「16―18基の原発」とうたってはいますが、どこの原発でプルサーマルを行なうのか、まだ見通しが立っていないのです。とくに東電は、トラブル隠しのために地元(新潟県、福島県)の賛同がまったく得られていません。

はじめから再処理とプルサーマルありきということで、話が進んでいるという印象を禁じえません。



ES細胞(2006年2月号)

2006年03月01日 | バックナンバー
 人体は無数の細胞から構成されているが、ある臓器の細胞は特定の機能しか持っておらず、他の臓器の細胞に変化することはできない。これに対してES細胞は、あらゆる臓器に分化する能力を持っている。ES細胞は通常は受精卵から取り出される。ES細胞を利用して臓器を培養し、現在は治療不可能な病気や怪我の治療(再生医療)に利用することができると考えられている。

 ES細胞の研究には卵子が用いられる。卵子を入手するためには、排卵誘発剤やホルモン剤を投与するので、女性の体に大きな負担をかける。提供者への十分な説明とケアが必要である。卵子をお金で買い集めれば、生命倫理に違反するし、もし教授が部下や学生に卵子を提供させれば、地位や権力を利用した強要(アカデミック・ハラスメント)となる。受精卵は人間として誕生する能力を持っているので、研究目的で安易に使用することは、生命の冒涜と紙一重である。

 韓国ソウル大学教授・黄禹錫(ファン・ウソク)氏は、ES細胞の研究者として世界的に有名であった。黄教授は当初、卵子の取得をめぐる倫理面で疑惑が持たれた。これだけでも重大な問題であるが、さらに、黄教授が作ったとされる、世界初のヒト・クローン胚を使ったES細胞が偽造であったことが判明した。

 黄教授はなぜこんな虚偽論文を捏造したのか。科学者であれば誰しも、できればノーベル賞を受賞し、その名を歴史に残したいと考えるだろう。しかも、科学後発国である韓国は、科学の分野でまだノーベル賞を受賞していない。ノーベル賞最短距離にいた黄教授は、韓国の英雄であった。次々と目覚ましい業績を出してみせた黄教授の研究室には、政府から多額の特別研究費が投入された。黄教授は、成果をあげ、韓国民の期待に応えなければならない、というプレッシャーにさらされていたのだろう。

 科学界の競争は熾烈である。競争は論文の質と数によって行なわれる。「ネイチャー」や「サイエンス」などの一流誌に論文が載ることは、学術的評価を高めるだけではなく、大学や研究所のポストや研究費の額など、学者の生活さえ左右する。医療や技術という、実生活に応用される研究であれば、特許料などの富に直結する。そういう状況の中で、論文捏造の誘惑に駆られる学者も出てくるし、倫理面の違犯も行なわれるのだろう。

 科学者が倫理意識を高め、自分を厳しく律しなければならないことは当然だが、「成果」を求めてこのような状況を煽っている政府、企業、国民にも責任がないとは言えない。結局のところ、肉体生活をより快適にしてほしいという人類一人ひとりの欲望が、科学と科学者を突き動かしているのかもしれない。