平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

脳内汚染(1)

2006年03月30日 | 最近読んだ本や雑誌から
話題の本、岡田尊司さんの『脳内汚染』(文藝春秋社)を読みました。この本は、近年になって、日本やアメリカのような先進国で、以前には見られなかった、青少年や、ときには子供による残虐な犯罪がなぜ頻発するようになったのか、という問題を、映像メディア、とくにゲーム機の普及という面から説明しようという試みです。

文藝春秋社のサイトは、この著作についてこう紹介しています。

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ゲームは虚構と現実を混同させ、中毒性があり、脳の発達を妨げ、犯罪すら引き起こす。脳神経学者が医療少年院から問う警告の書!

ゲームやネットに溺れる子どもたちは、(1)仮想と現実の区別がつかなくなり(2)麻薬と同様の中毒症状を呈し(3)脳の前頭前野の発達を妨げられる――。もっとも無抵抗で、自分を守る術を持たないものたち が、とりわけ強い影響を受け、深刻な被害を蒙っているのである。ゲームやネットは、子ども部屋に侵入した厄介な麻薬なのだ。

医療少年院の勤務医として、若者たちの危機的状況と日々向かい合っている著者が世に問う警告の書。
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http://www.bunshun.co.jp/book_db/html/3/67/84/4163678409.shtml

この本には賛否両論があります。私も読んでいて、納得できる部分もありましたが、やや誇張されているし、論理の展開に疑問を感じた点もありました。しかし、全体として、やはり重要な問題提起をしていることはたしかだと思います。学校の先生方、小さなお子さんたちをお持ちのお父さん、お母さんにはぜひ読んでもらいたい本です。

現代の青少年犯罪を一つの原因だけで説明することはできないでしょう。家庭環境、教育環境、薬物、さらには食事や環境汚染さえも複合的に関わっているのかもしれません。その中にあって、「情報環境」とでもいうべきものが、やはり一つの大きな要因になっていることは否定できないと思います。

本書の短所といえば、その情報環境を唯一最大の原因としている点で、その点において、たしかに単純化と誇張は否定できません。しかし、それも問題提起、社会への警告であると思います。

現代社会には、数十年前には存在しなかった膨大な刺激的情報があふれています。そういう情報が人間の意識と行動に影響を与えないはずはありません。

人間は、動物とは違って、単なる物質的環境の中で生きているのではなく、様々な情報に取り巻かれて生きています。そして、20世紀の後半から、人間は膨大な情報の中で生きるようになっています。まさに「情報化社会」の到来です。

その情報も最初は、左脳が処理する文字情報でしたが、テレビの普及以来、右脳が処理する映像情報にが大量にあふれてきています。その映像情報も、最初は漫画のような絵から、最近の3Dゲーム機のような非常にリアルな映像に進化しています。そういうヴァーチャルな映像情報は、人類が過去数万年の進化の歴史の中で一度も経験したことのないものです。そういう映像情報に日々さらされていたら、人間はどうなるのか、ということを、私たちはあまり深く考えてきませんでした。

脳が完成した大人は、ある程度、主体的に映像情報に接することができます。しかし、まだ脳が未完成の子供が、膨大な映像情報にさらされたらどうなるのでしょうか。しかも、それが暴力的であったり、性的な刺激に満ちていたらどうでしょう。そういう映像にさらされた子供が、そうでない子供と同じに成長するとはとうてい思えません。心に何らかの歪みが生ずるのは当然ではないでしょうか。

それはちょうど、お酒やコーヒーのような嗜好品が、適切にとれば大人にとっては適当なリフレッシュメントになるとしても、肉体が未熟な子供にとっては有害な影響を及ぼすことと似ているのかもしれません。