仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

*ジッド「贋金つかい」より:

2023年06月23日 08時07分03秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅰ

  「一緒に昼飯でも喰わないか?.」 ベルナールはオリヴィエに会えて喜び云った。                                                「今日は午前中に国語の試験があってね、午後にも もう一つ、ラテン語の試験があるのだが・・」                                      「うまく いったのかい」オリヴィエは訊いた。                          「うん、でも、ぼくの考えが 試験官の意に沿うかどうか・・」                 「というと?...」                                           ラ・フォンテーヌ四行の詩句について意見を述べよ、という問だったんだがね・・ :                                                  われは パルナスの蝶 : 賢きプラトンが                                               この世の驚異に なぞらえた蜜蜂にも 似て                                          軽やかに 何処の主題にも 飛び回り                                                  花から花へ 物から物へ  渡りゆく・・ :

  「オリヴィエ、きみなら 答案を どんな風に書くかい?...」 ベルナールは云った。                                               すると 小粋な身なりをしたオリヴィエは 才気煥発なところを みせた。

「うん、ぼくなら こんな答えを。つまり、ラ・フォンテーヌは まず、自画像を描き、それから 世界の外面、つまり 花しか諾(うべな)わない芸術家の肖像を描いた。そのあとで 対照的存在として 詮索する学者の肖像を描き、そして 最後に・・・・」                                                 彼の言葉には 他人の思想の受け売りのようなところがあった。            「それって誰の言葉だい」とベルナールは 云いそうになった。が、気分を損ねてはいけないと 差し控え、顔を不審気に眺めるにとどめた。        Les Faux-Monnayeurs

   *ベルナールの親友オリヴィエの叔父は作家で、目下、「贋金つかい」という小説の構想を練りつつ日記をつけている。                       ・パルナス:  Parnasse:  詩壇・文芸界。; アポロとミューズが棲んでいたという山の名に由来する。

 

 

  

 

 

 


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