母親: 「エアハルト、お前は一体、何のために生きているの」
エアハルト:「勿論、幸福のためにでしょう」
母: 「それで、その幸福とやらは どこにあるのです」
「見つけましたよ、お母さん」
「まあ、この子は」
「ファンニーさん、入っていらっしゃい」
ファンニー:「本当に好くって?..」
「ええ、いいに決まっているでしょう。みな打ち明けてしまったから」
「あなたったら。当てにしていた光を、影まで消してしまったわね、ファンニーさん。どう見てもできないのが道理よ、あなた」
「ええ、不条理かもしれません。然し、これが事実だわ」
「エアハルト、飽くまで意志を通すつもりなの」
「はい、ほかに幸福が考えられませんから。僕は若い。 火が体の中で燃え立っている。生きたいのです。美しい人生の幸福の中で」
「まあ、よくも倅を騙したわね」
「お言葉ですが、そんなことありませんわ。エアハルトをだました覚えはありませんもの。彼が私に接近し、私も彼を迎えましたの」
「あなたは 7つも年上よ・・」
「でも、隠さず、何遍も言ってきましたわ、彼に」
*+
「ガブリエル・ボルクマン」 イプセン より
父親で元銀行頭取のボルクマンは嘗て、有価証券などを持ち出して犯罪を犯し、一家は今は没落の斜陽家族。
彼は二階に13年この方、幽閉されている。が、自分を犯罪者とは思わず、ナポレオンのように英雄だと妄想に陥っている。
イプセンは「人形の家」戯曲で女性解放を歌い上げて一世を風靡したノルウェーの劇作家。