仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

*エアハルトの幸福・・:イプセンより

2024年04月04日 11時30分02秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅱ

  母親: 「エアハルト、お前は一体、何のために生きているの」

 エアハルト:「勿論、幸福のためにでしょう」

 母: 「それで、その幸福とやらは  どこにあるのです」

 「見つけましたよ、お母さん」

 「まあ、この子は」

「ファンニーさん、入っていらっしゃい」

ファンニー:「本当に好くって?..」

「ええ、いいに決まっているでしょう。みな打ち明けてしまったから」

「あなたったら。当てにしていた光を、影まで消してしまったわね、ファンニーさん。どう見てもできないのが道理よ、あなた」

「ええ、不条理かもしれません。然し、これが事実だわ」 

「エアハルト、飽くまで意志を通すつもりなの」

「はい、ほかに幸福が考えられませんから。僕は若い。 火が体の中で燃え立っている。生きたいのです。美しい人生の幸福の中で」

「まあ、よくも倅を騙したわね」

「お言葉ですが、そんなことありませんわ。エアハルトをだました覚えはありませんもの。彼が私に接近し、私も彼を迎えましたの」

あなたは 7つも年上よ・・」

「でも、隠さず、何遍も言ってきましたわ、彼に」

   *+

「ガブリエル・ボルクマン」 イプセン より

    父親で元銀行頭取のボルクマンは嘗て、有価証券などを持ち出して犯罪を犯し、一家は今は没落の斜陽家族。

 彼は二階に13年この方、幽閉されている。が、自分を犯罪者とは思わず、ナポレオンのように英雄だと妄想に陥っている。

       イプセンは「人形の家」戯曲で女性解放を歌い上げて一世を風靡したノルウェーの劇作家。

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*ハムレットは金髪:「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」より

2024年03月16日 12時30分50秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅱ

「処で、シェイクスピアはハムレットをどんなふうに描いているのでしょう」

「何よりもまず、金髪なんですね」  とヴィルヘルムは云った。

「穿鑿しすぎよ」  とアウレーリア。   「どこから そんな考え浮かぶのかしら」

「北国デンマーク人であれば、生まれつき金髪で青い目に決まっていますからね」       「シェイクスピアはそんなことまで」

「はっきりとは書いてはいませんが・・」

フェンシングは彼には骨が折れ汗も流れる。ですから王妃も、〈太っていらっしゃるのですから、ひと息 おつきなさいな> ・・などと声をかける。

      ですから、ハムレットは金髪の太っちょと、それに憂鬱症で涙もろく、実行は乏しく、あれかこれかで悩んでばかり。  優柔不断な性格、 つまり Hamlet, der Zaudererというわけなのです。

  でね、すらりとした栗色の髪の青年とは考えにくい。・・     すらりとした栗色の青年でしたら、果敢で敏捷ですからね・・

  「太っちょの金髪のハムレットなんて、まっぴらね。太った王子なんて」 と アウレーリアは云った。   「それよりか、原作者よりも魅了させてくれる人物像をみせてほしいわ。 魅力あるほうが素敵ですもの・・・」

   Goethe: Wilhelm Meister's  Lehrjahre  ゲーテより

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* 漱石の「虞美人草」と紫の女-藤尾

2023年12月18日 08時23分41秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅱ

  漱石が東京帝大英文科の職を辞して職業作家として新聞に初めて掲載した小説、「虞美人草」:                                                      この小説には擬古文調の地の文のほかに、色に纏わる語彙が多々、出てくる。: 例えば、ヒロインで勝ち気な藤尾を、こんな風に描写している。:

   紅くれないを 弥生につつむ 昼たけなわに、春をぬきんずる 紫の濃い一点を、鮮あざやかに 滴したたらしたる女である。--                      夢の世を 夢よりも 艶あでやかに 眺めしむる黒髪の 鬢びんの上には、玉虫貝を菫に刻きざんで、細き金脚きんあしに 打ち込んでいる。

静かなる昼に 心奪いとらんとするを 黒き眸ひとみの動けば、見る人は あなやと我に帰る。  この瞳ひとみの魔力の境を究きわむるとき、桃源を   再び塵鐶じんかんに変えるを得ず。ただの夢ではない。                               模糊たる夢の、燦たる妖精が 死ぬまで 我を見よと、紫色の眉まゆちかく 逼せまるのである。                                               勝ち気な女は 紫の着物を着ていた。(二の冒頭 より)

      *- *- ( ((   * これを、欧米の文学作品の解釈からすれば、譬えば、「作品における色彩の語彙の使い方や、その象徴的意義と心の変遷について」などと試論が一つ書ける気がしないでもないが、この「虞美人草」に関しては、果たして、どうなのであろうか。

 勝ち気なヒロイン藤尾の心の内部の葛藤や、微妙に揺れ動く比喩的な描写と読み解けば、魅惑は一段と増すが、色彩の語彙の多々用いられているのはドイツの詩人トラークル他にも、よく見られることを思えば興味深い。

 

 

 

 

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*仮面舞踏会: ティークより

2023年03月10日 08時47分23秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅱ

「おや、なんたる冴えない顔。カーニヴァルだというのに・・」                ノックもせずドアが開き、仮面をつけた若者は いきなり声をかけてきた。              「今日は仮面舞踏会だ。いいから、一緒に。約束を忘れているのは きみのいつもの癖だよ」

 エミールは待つ間に 向かいの見知らぬ娘に詩を書いた。              気になり眠れなかったのだ。:

   森の静寂 小夜啼き鳥の囀り                            春の息吹き 甘く  木々の葉擦れ 花も歓喜                       月は輝き  夕べの風は 菩提樹の薫香を漂わす                     薔薇も 光り輝き  星も煌めく

だが なほ愛らしきは 蝋燭に揺れる 青き炎                        その小部屋に 美しき乙女                                 覗き見れば 嫋やかに お下げ髪 編み                           薄き長衣に  栗色の巻き毛                                 そに 花冠が飾られて

やがて 乙女 リュートを吹くや                                 音色も笑い 戯れ 動き回る                                 乙女 歌えば  音は庇護を求む                             嗚呼 歌声 更に 心の中まで追い回し・・                            構わないで!.. でも負けないぞ                                 かんぬき 外されるまでは・・

  * = *  )))   

作者のティークTieckは1773年生まれ。                            19世紀ドイツロマン派を代表する一人。 80歳の生涯を過ごした。               よく知られた作品には「美しきマゲローネの物語」Die wundersame Liebes-Geschichte der schonen Mageloneや「ハイモンの4人の子ら」など。

 

 

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* ホフマン より

2023年01月07日 09時25分29秒 | ギャラリー:世界の文学 Ⅱ

    或る書によれば、想像力に恵まれている人は 海の潮のように高まったり引いたりする情感を持ち合わせている。 次第に高くなる上げ潮の時は 夜が始まるとき。そして 目を覚まし一杯の珈琲を飲んでいる朝の時間は 引き潮の時にあたる。  それ故、この時間帯はいちばん頭の冴え、最も重要な要件に利用するがいいというのである。                         *- *-  (((    *

        Hoffmann: Prinzessin Brambilla : ホフマン                            メルヒェン 「ブランビラ姫」第五章 より
 これは17Jh.世紀のローの謝肉祭を背景にした仮面喜劇。

 おお イタリア!.. 太陽の国 !                                
  カーニヴァルの季節ともなれば 羽目外し                    仮装が華やかに跳ね回り  これぞ妖精の世界: 

   そこでは自我より 非自我が産まれ   存在の苦悩が歓喜に変容する:  

この国の  この自我に 明るく澄みわたる空も加わり              一組の若き男女が契れば 真理は彼らを照らす 

    夢の世界 生への覚醒だ!..  そして                    聴くは 巨匠の神秘なる音:   万象も その音に聞き惚れ 沈黙する   すると 天も輝くや 森も泉も ざわめきだす 

 おお 歓びに満てる国よ 

  憧れが おのが姿を 愛の泉に映しだすと                   新しき憧憬が手にいり 水も沸き立てば                     やがて 歓喜も極まり 炎となり戯れるのだ

  おお 汝 歓びに満てる國よ !...

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