仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

* 薔薇と愛:メーリケと啄木の詩から

2024年02月29日 09時32分56秒 | *東西詩の比較選:

  薔薇と鷲と愛 ;メーリケ :

朝まだき 入り江に漂う銀色の 霧に浮かぶ清楚な薔薇:

魅惑的に咲き誇り 末期(まつご)の定めも知らぬよう:

そして 果てしなき 宇宙へと 飛翔し 

目に飛び込む光を 威厳もて反映せし鷲よ:

頭(かしら)を蒼穹に 衝突せぬかと つき進む !..)))  

愛を鷲に比喩(くら)ぶれば 愛にも怖れあり 

されど また 怖れは 至福の時!.. さすれば 

鷲のごと 果敢にこそ あるものと・・ )) )  *

  Aus: Morike Gedichte  Reclam ebd. S.29...

      *- *- (( ( *

次に、啄木の詩から:   花薔薇(そうび) ・きみが花:

   ここでは花薔薇に託して、抑えがたい恋心の高まりが歌われた。:

きみ 紅(くれない)の花薔薇 白絹かけて包めども

色は ほのかに透きにけり  いかにやせんと 惑ひつつ

墨染め衣 袖かえし 覆ゑども いや高く 花の香ぞ溢れけり

 秘めがたき色なれば 頬に いのちの血ぞ火照り

つつみかねたる 香りゆゑ 瞳に星の香 浮き出でて

熄()えぬ火()ざらの 火の息に 

  きみが花をば染にけり・・   )) )   *

   つまり 竟には、自分の火の息で、薔薇の花なる きみの思いまで染めてしまった、というのである。

   東西の薔薇と愛の詩より。

 

 

 

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*ノサックの「死者とのインタビュー」:

2024年02月25日 10時45分26秒 | 現代ドイツ作家の群像; 人と作品:1945年以降

        ノサックの第一のテーマは時代における人間の生死の意味への問いかけであった。それを再三、報国調に、探究・調査風に、あるいは寓話風に追求した。

  この「死者とのインタビュー」は連作短編集で、その特色をよく表している。: そこには鮮明で飾り気なく、屡々、モノローク風な語り口で追跡した作品が収められた。:
 例えば、「ドロテーア」であり、神話風な「カサンドラ」であり、メルヒェン風な「海から来た男」であり、シュールなモテイーフの「アパッショナータ」や「死神とのインタビュー」であった。そして実存的な越境界が描かれたのだが、ノサック自身の体験を踏まえながらヤーンやカミユの読書を通じて、奈落における境界状況の視点から批評的に書いているのである。     H.E. Nossack:1901- 77.

 ところで、48年に発表された自叙伝的な報告「滅亡」は、1943年に始まり、その後10日間に及ぶ空襲によるハンブルク破壊の報告であるが、ノサックはその破壊的な経過を次のように書いた。:
  ちょっと想像してごらん、一瞬、目を閉じたとしよう。そして、再び開けたとする。すると、今まであったもの全てが、もう何もなくなっているのだからね・・・」

   ノサックにとって、大戦中という時代における人間の生死への問いかけは、第一のテーマであったのである。
Aus: K.Rothmann : Dt. sprachige Schriftsteller seit 1945 ..
Reclam ebd. S. 298ff... Interview mit dem Tode. 48.

K.ロートマン著: 現代ドイツ作家の群像 より      ***   )))   *

 

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*道ならぬ恋: トリスタンと王妃イゾルデ

2024年02月22日 11時59分00秒 | *Deutsche Lyrik

     道ならぬ恋の物語といえば、トリスタンと王妃イゾルデやフランチェスカとパオロの物語がよく知られている。

前者は中世ケルト説話に出てくる主人公トリスタンであり、彼は伯父マルクの妃となるべくアイルランドの王妃イゾルデを迎えに行った帰途、知らずに媚薬を飲んでしまい離れられない間柄になって密会をかさねる。そして それがマルクの知るに及んでトリスタンは追放され、二人は悲劇の死へと巻き込まれていく。

この物語からヒントを得て、ドイツの詩人プラーテンはガゼル詩の形式美を駆使して新たな地平を切り開いた。:

 美しき極みと魅力に とりつかれし者は

もはや 遁れるすべもなく やがて 放蕩の身となり 

死と向きあい慄くとも 悲しむこともなし・・)))  *

愛の苦しみ厭わずに  汝れは 突きすすむ・

されど 嗚呼 望みし願いの 叶えらるることなく

やがては 虚しき生に 苦しみ果てん

叶わぬ願いの侘しさよ   泉のごとく涸れたくと 

息するごとに毒仰ぎ 花の香に 死の匂いぞ嗅ぐばかり

美しき きわみと魅力に 憑りつかれし者は

 泉のごとく 涸れたくと・・

August Graf von Platen ; Tristan und Isolde

Aus; Dt. Lyrik vom Barock bis zur Gegenwart    dtv. S.162.

   ***   )))   *

トリスタンとイゾルデの恋の物語は、中世ヨーロッパの伝説。                               トリスタンは、コーンウォール王マルクの甥であり、イゾルデはアイルランド王女。 トリスタンは、王のためにイゾルデを妻として連れてくる任務を受けたが、途中で 二人は魔法の飲み物を飲むに及んで恋に落ちる。 こうして 二人は王に隠れ密会を重ね、やがて発覚 追われる身となるや、トリスタンはイゾルデと別れブルターニュに逃げ、そこで結婚したものの、本当の愛は忘れられない。 やがて トリスタンは戦闘にでると重傷を負い、死ぬ間際にイゾルデを呼び寄せる。イゾルデはトリスタンのもとに駆けつけたが、彼はすでに息絶えるや、イゾルデもまた 悲しみのあまり死んでしまう。               こうして 二人の遺体は一緒に埋葬されるや、墓から 二本の木が生えて絡み合ったと伝えられているのである。

    ***   )))   *

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*トリスタンとイゾルデ: プラーテンより 附:独文原文

2024年02月20日 10時02分21秒 | *Deutsche Lyrik

うつくしき きわみの魅力に とりつかれし者は

 遁のがれる術すべもなく おののく者となる

  されど  悲しむこともなき・・

うつくしき極みの魅力に 憑りつかれし者は

愛のくるしみ 厭いとうことなく

美の矢で 的ま と射とめんと 突き進む・・

 されど 望みし願いの叶えられることなく 生を紡ぎて ゆくばかり

嗚呼 願ひ叶わぬ侘しさよ  

されば 泉のごとく涸れたくと 

辺りに漂ふ花の香に 侘しき思いを知るばかり  ・・

うつくしき きわみの魅力にりつかれし者は

      泉のごとく 涸れたくと・・ ))) *

      これはペルシャのガゼール詩の形式美を駆使して、新たな地平を切り開いたプラーテンの詩で、プラーテンは晩年のゲーテと親交のあった形式美に優れた詩人。

August  Graf  von Platen : Tristan und Isolde : Dt. Lyrik vom Barock bis zur Gegenwart     dtv.   ebd.  S.162.

    * * *  )))    * 

 Wer die Schonheit angeschaut  mit Augen, 

      Ist dem Tode schon anheim gegeben, 

 Wird fur keinen Dienst auf Erden taugen, 

Und doch wird er vor dem Tode beben, 

Wer die Schonheit angeschaut mit Augen.     >>    

Was er will, das wird er nie gewinnen,

Was er wunscht, das ist ihm nie geworden. 

 Ach ,er mochte wie ein Quell versiechen,

  Jedem Hauch der Luft ein Gift entsaugen, 

Und den Tod aus jeder Blume riechen:

   Wer die Schonheit angeschaut mit Augen,

Ach , er mochte wie ein Quell versiechen !

【脚韻】 :

Augen- Taugen, gegeben- beben,

versiechen- riechen, entsaugen- Augen,

  **  )))  ++

*ドイツの詩人プラーテンは ペルシャのガゼール詩形を用いて「トリスタンとイゾルデ」をかいたが、この物語の悲恋は、中世の伝説に基づく。              

   *ガゼールとは、ペルシア語で「歌」を意味する「ガズル」から派生した言葉で、ペルシアやアラビアのイスラム文化圏で発達した抒情詩形式である 。 一般的には 5連から15連までの長さで構成され、各連は二行からなり また、各連はそれぞれ独立した意味を持ち、主題やイメージが連想的に展開される 。                      ガゼールでは恋愛や酒、自然などが主な題材として扱われ、恋人への憧れや失恋の苦しみ、神への懐かしさや神秘主義的な体験などが表現された 。

 

     

    

 

 

  

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*「特性のない男」:ムジールより

2024年02月18日 09時20分39秒 | *ドイツ詩人と作家のことなど:

    長いこと、水は空気と親類であると信じられていた。ギリシア人は世界と生命は、水から生まれたと考えた。:                                                      水はオケアーノス(大洋の神)であった。                                                        後世になると、ニクセ(水の精)や エルフェ(ドイツの伝説)や ウンディーネ(伝説的水の処女・仏語読みではオンディーヌ)、そして ニンフ(水辺や木立に棲む半女神)が発明されてゆく。     ** *)))    

ムジールは20世紀ドイツの作家で、長編「特性のない男」Der Mann ohne Eigenschaften で知られている。 因みに、特性のないとは、いろいろな可能性を秘め、一つことに定着しなかった才能の謂いなのでもある。

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*自分の時間: ムジール「特性のない男」より

2024年02月17日 10時01分57秒 | *ドイツ詩人と作家のことなど:

     ・・・処で、他の男なら すでに、お前の歳なら 人生に確固たる地位を築き上げている。だが、今となっては 結局、自力で社会的地位を得ずばなるまい。    学位を得ても、手前味噌に買いかぶっているばかりだ、・・・。                 いいかね、先にも述べた通り、わしは著書の新版のために、全時間と労働を この齢になっても なお、捧げているのだ。                                                 人間は自分の時間を大切にして、よりよく利用することだ。 何故なら、芸術は長くとも、人生は短いのだから。・・分かるね、おまえの歳なら・・

   Musil: Der Mnn ohne Eigenschaften  より

 

 

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*色彩の記憶:オーピッツ より

2024年02月16日 08時29分43秒 | ドイツ抒情詩選

わが色彩の記憶には 多々 あれど

純潔は白にして 淡い悲しみはピンクなり

別離の記憶にあるのは 海の碧にして

愁いは 黒洞々の黒なり そして 情熱は赤なれば

澄みわたる空の碧は 感性に通じ

希望の記憶は緑に通ず そして 

かくなる緑に こころ寄せ 愛着する色なれば

そは 夢多ま 精神の旅立ちの色なり・・ !!...

   *- )))  **

 17世紀はドイツバロック詩の時代で、特徴はオーピッツやグリューフィウスをはじめとしてマニエリスムの傾向が目立った。                       すなわち、技巧と誇張が主流。                           だが、末期になるとギュンターのように内面の心情の吐露、告白がうたわれるようになる。

 とは これすなわち 若きゲーテなどの詩にみられるように、青春期の心情の純粋な告白の先駆となり得たのである。                          Opitz:   Bedeutung der Farben     Das Ich              Deutsche Barock Lyrik   Reclam  ebd .S. 95f...

 

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*薔薇の部屋: ビールバウム より

2024年02月14日 12時57分55秒 | ドイツ抒情詩選

 机上には グラスに真紅の薔薇と 大理石のゲーテ像: 

折りしも 〈フィガロ〉が聞こえてくる :

 苦悶していたのか それとも 惑わされて・・ 

 あれは夢?!・・ :ゲーテ像が見つめるなか   

スザンヌとシェルバンが 歌唱していた のだ )))  --

 掠めていく 惑いと不安 ・・

グラスの真紅の薔薇と 微笑むゲーテ像 そこに

 聞こえてくる モーツァルトの歌劇・・)) )

嗚呼 咎は誰に?.. 幸せを望み 

 先を見据えていた きみと僕なのに )) ) * *

   

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*考える葦: パスカル 「パンセ」より

2024年02月10日 11時40分00秒 | 文学・学問・詩・余滴: Ⅰ

人間は、ひと茎の葦にすぎない。                                                               自然の中で、もっとも弱いものである。                                                        だが、それは考える葦である。                                                            思うに、尊厳のすべては、考えることにある。>>>  **
  
パスカル「パンセ」 第六章 哲学者 347.より

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*パスカルとライプニッツ:

2024年02月08日 10時15分03秒 | *Carpe diem:Geniesse den Tag!

 「パンセ」で知られるパスカルも、「モナド」(単子論)や「弁神論」「予定調和」などで知られるライプニッツも、時代は17世紀バロック期の戦乱時代にあって、その学識は幅広く、数学者としても名高かった。

      フランスは当時、数学の発達した時代で、その分野でも大いに学識を披歴して共通点も見られた。

パスカルは3歳の時に母を亡くし、(その後は父親からeducation=Erziehung: この言葉には、元来、才能を引き出すという意味がある、教育を受けている)、ライプニッツは6歳の時にライプツィヒ大学の教授である父を亡くしているのである。   ** *  )) )  

       一方、「武士道」で知られ教育者でもある新渡戸稲造も6歳にして父を亡くすと 叔父の家で育てられている。が、そんな不幸にも拘らず、並外れて学識が発揮できたのも、稀有には違いないが、そんな幼少期の悲しい共通点もあったのである。。。

 

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