仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

*「エレクトラ」: ホフマンスタールより

2024年06月26日 08時00分19秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

 エレクトラ:  そんなに見つめないで、オレスト、                    わたしは もはや、貴方の姉の亡骸にすぎないわ。                      きっと わたしを見て身震いすることでしょう。でも これでも 王の娘だったのよ。美しく、鏡の前に立って明かりを消せば、闇をぬって わたしのからだは神々しいほど輝き、汚れなく、白い肌の上に おぼろ月が照りわたると、水浴びしているように 映ったものよ。・・                             それが今は、このありさま、もつれ、汚れ、いやらしい身になって、         それでも、オレスト、貴方だけは、分かってくれるわね。              たとえ わたしが甘美な戦慄で歓びに浸り、この身を アガメンノン王に捧げたとしても。・・・

 *ソフォクレスのギリシア悲劇「エレクトラ」の翻案劇。ホフマンスタールより 

*アガメンノンはトロイ戦役の凱旋将軍。だが、帰還すると殺害される。これを知った子のオレストは復讐するが、母親ゆえに狂気に陥ったりもする。

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*オフェーリア: ハイム より

2024年03月14日 09時40分39秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

女の夢みし 深紅の接吻

オフェーリアは 永久なる夢とともに流れゆく

岸辺にどよめく街の音 鐘の音も加わりて

クレーンは 眩む夕焼けを背に  巨大な腕を振りあげる >>

水に護られ オフェーリアは流れゆく

傍らには 過ぎ行く人の群れ そが水に映りて 暗き影

夏の空も夕暮れて やがて 空に飲まれゆく >>

水に 沈みつ浮かびつ 女は 遠く運ばれて

冬の侘しき港抜け 時くだり 永遠を潜り抜け

 地平のかなたへ ・・ オフェーリアよ

   汝れは 何を想いて運ばれゆく   ) ))    *

          Georg Heym; Opheria

   オフェーリアはシェイクスピアの作品で有名だが、それを描いた絵も又、よく知られている。詩人は、そうして、その絵からイメージを膨らませて、こんな詩も書くのである。

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* 菫・すみれ: ゲーテ

2024年03月12日 10時12分05秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

      草原に 人知れず咲く菫

そこに うら若き羊飼いが 歌口ずさみ やってきた

 ねえ みてみて  あたしが いちばん美しい花よ!...

  ですから やさしく 摘み取ってほしいの)) *

 けれども 羊飼いは 目もくれず 

 すみれは踏まれて 息も絶え絶えに

 だが 健気に息吹き返して スミレは呟いた:

 あの方に踏まれたのなら 死んでもいいわ 

   嗚呼 憐れな スミレ 

    愛らしき すみれよ !..  *- * -  ((  (  *

 J.W. von Goethe : Das Veilchen 

若きゲーテの作。1773年ごろ。24歳のとき

モーツァルトの曲で、リートとして知られている。  

 

 

  

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* 月曜の朝:.ヒルティより

2024年01月19日 09時24分49秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

スイス連邦州都のギムナジウムで月曜の朝、意外な光景が見られた。           教師が花束を持ち、長い廊下を歩いていた。                 若い教師の名はベルナック、古風な言葉で授業を行なう教師だった。
 つい先週までは、ある先生のクラスの授業を受け持っていたが、その先生は50前の働き盛りだというのに、亡くなっていた。                
初冬の空は その日も 広場も向こうのドームの背後も、どんよりしていた。     そんな日に、薄暗い廊下での紅いカーネーションの花束は、どう見てもそぐわない。それで 皆 首を傾げたり クスクス、ニヤニヤしたり。      . Hilty : Antigone  「アンティゴーネ」                         ヒルティは1925年 スイス生まれ。   ** ))) *

 因みに、ギリシャ悲劇にアンティゴネという作品がある。これは主人公のアンティゴネが、戦争で敵対した兄弟が国家によって埋葬を禁じられたことに反発し、自らの手で兄の遺体を埋めるという行為に出たため、そのことで国家の権威に触れ、アンティゴネは死刑を宣告される。



    
  

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*カーター・ムル:「吾輩は猫である」より

2024年01月16日 08時42分00秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

 「吾輩は猫である」にはこんな一節がある。:                                                        先だって、カーター・ムルという見ず知らずの同族が、突然、大気炎を上げたので、ちょっとびっくりした。    よく聞いてみたら、すでに百年前に亡くなっている。 好奇心から幽霊になって吾輩を驚かせるために、はるばるドイツからやってきたのだそうだ。この猫は才気があり、あるとき詩を作り、主人を吃驚させたそうな。                                            こんな変わりが、実に一世紀も前に ドイツにいたというのである。                               *- *- ((((                                                                         *        カーター・ムルはドイツ後期ロマン派の怪奇幻想作家ホフマン作「雄猫ムルの人生観」に出てくる主人公。                                                                Lebens Ansichten des Kater  Murr

  

 

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*フランチェスカとパオロ:道ならぬ恋: 

2023年12月22日 10時23分47秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

フランチェスカは北イタリアのラヴェンナ城主の娘。--  1275年に隣国の城主と政略結婚をさせられた。--が 彼は醜い男で狂暴極まりない

その彼には弟パオロがおり、こちらは眉目秀麗。-- 彼には9歳の娘と二人の息子がいた。--にもかかわらず、城主の不在の折りのある日、密会。--ところが、不意に帰宅した彼に見つけられ、二人は殺害されてしまう。--   *- *- (((   

 ・ 以下、ダンテの「神曲」 より:

 それから私はこう語りかけた。--「フランチェスカよ、苦悩は悲しみと憐みゆえ。-甘美なため息のおりふし、どんなきっかけで胸の思いが恋と知れしか」

  フランチェスカは云う。--「惨めな境遇にあって 幸せの時を思い起こすより悲しいことはありません。--ある日私たちは イギリスのアーサー王伝説の円卓騎士  ランスロットが  恋のとりこになった物語を読んだのでございます。--  ほかに誰もおりませんでしたので、憚ることなく二人の眼は合い顔が色を変えてきますと、あの人は察したように 私を抱きしめられたのでございます。・・」   ダンテ「神曲」地獄篇より

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*女神像の微笑み: ゲオルゲより

2023年11月18日 07時24分56秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

   風なき森の朝まだき 雨は密やか 森を濡らし

濡れた木の葉は 雫を滴らせ 土を潤していく

 弱き陽の光は 樫の木の蔽いを抜け 小路を照らし

そのなかを 父と子は寺院へ 向かひゆく

入り口に 接骨にわとこ茂り 触れると

花粉が舞った; おお かくなる渦は 何の前触れか 

されど 青年よ 汝れは男ぞ

いざ 筋骨隆々の魅力を見するがいい! 

さすれば 女は 柔らかな唇で 応えてくれよう

今 戒めの桎梏から 抜け出てはならず

施しを拒んでもならず 取り乱してもならず

女神像の微笑みに 快く応え 慄くまま

ひたすら 伏すがいい  さすれば 

魅惑の息づかいが 汝が頬を 火照らすであろう 

胸の高鳴りは 快く受け止めよ 

その時  女神像の微笑みに 納得するであろう )) )

        *ゲオルゲ「春の目覚め」 より

     S.George  Fruhlings-Wende

 

  

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*シュニッツラー「みれん」:Sterben より

2023年07月19日 09時16分31秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

   シュニッツラーは19世紀末のオーストリアの作家。                      「みれん」Sterbenは代表作の一つで、わが国でもよく読まれた作品。
            鴎外訳  その34より
  鴎外は「諸国物語」というタイトルの下に諸外国の作品を数多く翻訳し、芥川龍之介はその翻訳から、多大な影響を受ける。 

        *  
   本を読み始めたフェリックスは作中の人物の栄華が癪に触ってくる。そこで哲学書を読もうと、ショーペンハウエルだのニーチェを読むと心が安らいできた。だが、長くは続かない。
 或る晩、医学士が来る。と、ショーペンハウエルを伏せ、厭な顔をした。「どうした?...」と学士。
「また、読もうと思う。フィクションは虚構だがね。詩人も同じだ。だが、この先生は気取っているな」   
こういうと、病人は起き上がった。

   「哲学者は厭世観や死生観を述べてひとり楽しんでいる。かと思えばイタリアは明るく賑やかさに取り巻かれている、などと平気で書く。それが気取っているというのだ」
「よせ、そんなパラドックス・・」
「まあ、いいさ、気取り屋ということが分かっていれば・・」
「なら、ソクラテスはどうだね」
「もとより、狂言者に決まっているじゃないか」
「もう、いい、そんなノンセンス。 ・・」    

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*若き騎士の恋: テイークより

2023年06月14日 16時47分06秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

青春の日 世界を駆け巡る: 馬に乗り 旅立つ                 山や野も 森も乙女も 煌びやか 

美しき光景は 楽しみに満ち けれども                                            瞬く間に 消え: 心に湧き上がる 熱烈な願い:

武勇に優れた若者に 名声が: 

月桂樹と薔薇が 高みへと:  周りには 歓喜                  敵する者なく  勇者として讃えられ                            

気に入りし乙女を 選ぶ誉れ                                                            おお プロヴァンスの若き騎士よ!

    **   昔 プロヴァンスの伯爵に 凛々しい息子あり 背も高く 髪はブロンド うなじまで垂らし 武芸十八般に通じ 槍や剣に関しては 右に出る者なく 皆から賛美の言葉 青年の名は騎士ペーター だか 人知れず悩みあり 物思いに沈み すると 恋していると推察された。

そんな或る時 異国を巡り 見聞豊かな吟遊詩人 伯爵にペーターを褒めた後 云ったのだ                         「息子殿は 他国を経巡り 見聞を広め 向上するがよかろう」と。                              

 

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*「月と六ペンス」: モーム Maugham より 

2023年01月24日 09時11分43秒 | *詩と散文のプロムナード:Promenade:

    美と感受性 : Schonheit und Sensibilitat:

 「いいかい、美というものは砂浜の石ころのように、誰にも拾えるようなものではない。美は不思議なものだ。

芸術家が魂の苦しみを通して、ようやく創り出しえるものだ。

だから誰もが知ることができるわけではない。

美を認識するには、芸術家の経験を繰り返してみるよりほかない。

芸術家が奏でるメロディーを耳をすまし聴いてごらん。

それには感受性や想像力、何よりも澄んだ心が必要なのがわかる。

 

    暴露: Entfullung :

           芸術家の作品は人間を暴露する。・

・作品に真の人間が顕れるのはどうしようもない。

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