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仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

*サナトリウム兼、養老院にて⑵:ランゲッサー短篇より

2023年10月26日 07時53分52秒 | *閨秀詩人ランゲッサー:-詩と短篇選;夏目訳--Goo

  「幼少のころは、本当にお幸せでしたのね」と私は この精神に異常を来たしている婦人の話を聞きながら云った。---    「ですが、その後の辛く悲しいお話には心よりお察し申し上げます。誰しも皆、つらい時代でしたものね…」---「それにしても、よく頑張ってこられましたわ。辛かったとは思いますが胸に迫ってきましたもの・・」と私は くりかえしていた。婦人は続けて云うのでした。:--「弟がいましてね、人さまからはグリム童話のヘンゼルとグレーテルのよう、などと云われ、ええ、子供のころは幸せでお金に不自由することもなく、欲しいとねだると買ってもらえましたもの。家族で、よく旅行もし、バイエルン地方へ出かけたり、ヘルグラント島へも、 ですが、その後、父が亡くなり、それがどんなものかはまだ、気付きません。背泳ぎに夢中になって泳いだり遊びにも活発な娘でして。 そして、大戦が勃発し、ですが身内には被害もなく終戦を迎えましてその直後のころはまだ、食べ物もあり過ごせたのですが、それからが大変で。クエーカー教会からは救援を受け、そんなころ高校生になると先生に恋慕を抱いたり、節度は守っていました、また、多くの人からプロポーズも受け、皆、戦死しておりまして。・わたしは幸い結婚もでき、彼は判事で上司からも親切を受けたものでした。そのうち、子供も授かり、男の子はヘラルドと名付け、次には女の子にも恵まれ、ブリギッタと名付け幸せでした。その後は夫が もっとお金に恵まれたいと法人団体の法律顧問に転職し、ケルンに赴任し次にはハンブルクに、それからケーニヒスブルクにも、各地に転勤しましたが、竟の棲家はロミント草原でした。そこは狩りも釣りもできると土地を買い求めることもできたのです。   --- 「ですが、不幸は誰が予感できたでしょう。それまでは充分に事が運んでいましたが、それからは流産を繰り返し、夫も歳をとってきますと胃潰瘍に苦しみ、それがもとで亡くなって。 ヘラルドが18歳、ブリギッタが16歳、戦争直前の頃のことでした。 ---.. E. Langgasser : Gluck haben .2..  Aus :Der Torso                              ランゲッサー:《精神異常の婦人の告白〉より 

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