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仔羊の回帰線

詩と散文のプロムナード :Promenade

◎*大酒豪と鐘の音:クライスト奇譚集より

2025年02月19日 10時07分29秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

      もと連隊兵のR.という男。  彼はどうしようもない大酒豪、それが元で或る時こっぴどい殴打の刑に処せられる。以来、品行方正、火酒からは足を洗った。が、それは三日坊主、四日目には早くも泥酔する有様。すると、逮捕され尋問を受けた。 >>

 「なにゆえ、また大酒の悪習におちいったのか」と。すると返答はこんなだった。 --- 「へい、悪いのは自分ではありません。自分は 遊園地の近くを通りかかったのであります。すると折から、ドームの鐘が鳴り渡ったのであります。-ポンメラン・ポンメラン!..」-と。  ううむ・・鐘のやつめ、鳴りおるわ・・くそう!喉が鳴ってくる!  自分は 刹那、そう口にしたものの思いとどまり、約束を思い起こし一滴も飲まずにいたのであります。ところが、ケーニッヒ通りに来ますと、ほんの一瞬、市庁舎の前で一休み。すると頭の上からまたもや鐘が鳴り渡ったのであります。--キュンメラン、キュンメラン、キュンメラン--と。自分はすると、塔に向かい叫んだのであります。--  塔の鐘よ、雲を引きちぎるほど鳴り響くがよいわ。けれども、わが魂よ、忘れてはならぬぞ、約束を・。喉がなって仕方なかったのでありますが、決して一滴も飲んではならぬと誓ったのであります。>>

 然し、帰路、養老院広場のほうへと回り道。すると、そこに一軒の居酒屋。30人余りの客でごった返していたのでありますが、折りしも また、連隊長殿、養老院の塔の鐘が鳴り響いたのであります。--アニゼッティ、アニゼッティ-と。すると とたん、もはや堪忍袋の緒が切れ、矢庭に一杯頼むぞ、いくらかねと聞いたのであります。-亭主は すると、6ペニッヒでやすといいますと、即座に差し出されたコップ酒をぐいと飲み干したのであります。が、以後はどうなったのか、一向に覚えてはおらぬのであります。>

 H. von Kleist: Der Brannt-Wein-Saufer und Berliner Glocken .Samtliche Werke . Hanser Vlg. ebd. S. 267f.. 

   Erste Ubersetzung; 1987. 8.21.. 夏目 政廣訳                  ハンザー版 クライスト全集より 

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*酒場A.亭の娘:ラーベ「黒いガレー船」より

2024年05月20日 10時34分57秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

「心は荒れ果てて・・」とドリア号の若き艦長アントニオが云った。

「友人なら、孤独を許してくれ・・ あのフランドル娘の 青い目とブロンドの編み毛に 身も心も蕩(とろ)けても。・・ほっといてくれ、レオノーレ・・」

「アントニオ、・・」と友人で部下の中尉が云った。

「本当に、虜になったのかい。つれないんだね、

*   これは1565年以来、ときは16世紀 大航海時代の覇者スペインの支配に対して、 祖国オランダの独立戦争のために 32年の長きにわたり戦っていた  《海の乞食》と呼ばれたオランダ水軍にまつわる物語の一節からである。

                             ( 67 pv.- 59-)   --  ( 81 pv.-- 73 - ) - (21-- 21- )

    W.Raabe: Die schwarze Galeere    Reclam  ebd. S.16...

 

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*艦長アントニオの狂乱と死: ラーベ「黒いガレー船」より

2024年05月12日 08時19分05秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

若き艦長アントニオは レオーネの腕から逃れようとした。

そして 叫びつづけた。: 全員、甲板へ!.. オールにつくのだ!..

  国王陛下、万歳!..・・

おっ、やつらの旗を見よ!..  《海の乞食》どもの旗を!.. 

あれを撃て.. 提督が 怒り狂っておるぞ・・ 構わず、撃て、...

  レオーネ、何をしておる、 船を守るのだ!.. 

・・ああ、駄目だ、・・船が 差し迫ってくる、・・発砲するのだ、

 ああ、だめだ・・ レオーネ、 守れ、 船を!...

 見れば、 艦長アントニオは 狂乱して 倒れていた。

 部下のレオーネは、すると、いち早く 駆け寄った。

  ふん、黒船か、  とレオーネ。

黒船への総攻撃は 5時のはずだ。・ 落ち着くのだ、 アントニオ。

用意は 万端だ。・・ 落ち着くのだ、 心配は 無用。・・

 ゆっくり休み 眠っているがいい。・・

 これを聞くや、アントニオは どっと倒れ、 目を閉じた。

それは 最後の足掻きのあとの アントニオの臨終であった。

ああ、アントニオよ。 わが友よ... 

   レオーネは 首を振り、 絶句した。>>> --

W.Raabe: Die schwarze Galeere   Reclam ebd. S. 45...

 ラーベ「黒いガレー船」より

長年のスペイン支配から、オランダが勝利し独立した歴史小説の一節から。

 

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* 端役の女:--- ⑵---:

2024年04月10日 09時48分42秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

    それから五月末の聖霊降臨祭が過ぎたころ、知り合った若い男から見捨てられたカーチャは、男を待ち伏せた。そして ようやく、劇場の裏木戸にいた彼を見つけると腹が立った。                      「まだ懲りずに、他の女をエサで釣ろうとしているわ?..」 そう思っていると 案の定、若い女が彼に近寄ってきた。いつものジーンズ姿の彼はおんなと寄り添って歩き始めた。カーチャは背後から追いかけた。 -道は馴染みの道だった。 ふたりはビアホールに向かっている。そこでまた口説いてヴァケイションに誘うのだろう。                                    「おとこの隅にも置けないわね。・・虫が好かないし・・」      カーチャは蓼食う虫も好き好きと思うと未練は つゆ残らなかった。         * ドイツ短篇選  デーブリーンより  夏目 政廣訳      

 

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*:端役の女; デーブリーンより 

2024年04月08日 09時54分05秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

  あたしは端役の女優カーチャよ。: 彼女は劇場に戻ると、誰構わず喋りまくった。  -「あたし もう、あんな男とは縁切りよ、だってさ、歳を取ってるのに まだ、一緒になって再婚してくれって しつこいんですもの。   それにクリスマスの頃なら式には一番だなんて勝手よね。 いやよ、歳がね釣り合うはずないわ。・・いやよ、だから、あたし・・」

  カーチャはすると、すぐ また、男を見つけていた。諦めてはいなかったのだ。・・だが、今度のポーランドの中年男も いつしか、行方を くらましていた。お金もあるし、使いっぷりもよいように見えた。が、僅かな至福の時にすぎなかった。- そして、お腹には子も授けたまま消えていたのだ。 カーチャの青春は束の間にすぎなかったのだ。 Alfred Doblin: Die Statistin     Erste Ubersetzung: 2008.8.30. -夏目 政廣訳

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*端役の女: デーブリーン 

2023年09月28日 07時18分01秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

    デーブリーンは20世紀前半に活躍したユダヤ系の作家。ベルリンの神経科医でもある。彼には「ベルリン アレクサンダー広場」という傑作があるが、次の短編は、孤独な老人と若い《端役の女》との淡く儚い話から。

    カーチャは鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。上半身裸のまま、見入っている。「あたしって、少しも美しくないんだわ・・」と思う。           「体形もそう。脚線もそう。・・お痩せだし、・・」       長く見つめていればいるほど、気が塞いでくる。すると鏡の中の自分を慰めようと鏡をこんこんと軽く叩き、声をかけた。  《でも、頑張るのよ。・・きっと、いいことも在るから…》

    イースターの日に、老人は劇場の裏木戸で、いつものように待ち伏せ夕食に誘ってきた。乗り気はしなかった。が、食事を一度ぐらいしてもいいかとついていった。老人は あれこれと注文し、食欲が旺盛だった。                 

     《よく食べるのね》とカーチャは少し嫌気がさしてきた。が、食べ終わると三泊の旅に誘ってきた。翌日、昼頃に、騙されたのかもと思いつつ 待ち合わせの場所に行ってみる。と、小さなスーツケースを携えてやってきた。

       「待たせて悪かったね」と老人は云うと、買い物に誘った。カーチャは小奇麗な店で帽子を買ってもらい、老人もグレイのハットを買った。が、出かける前に買ったのはこれきり。彼女は内心、新しいカラフルなドレスもヒールの高い靴も欲しかったのだ。

「嗚呼、もっと素敵な人とめぐり逢えたら・・」      こうして、旅の支度を済ませると駅に急いだ。旅の最中、老人は精一杯、報いようと努めた。が、時おり、不機嫌そうな顔。溜息を洩らした。

  「いやあね、これだから・・歳のいった男は・・」とカーチャ。やがて、降りる段になると、すれ違いに素敵な紳士が乗り込んできた。紳士はすると、目ざとくカーチャに一瞥を投げてきた。 少し戸惑っていると、羽根つきの鍔の広い帽子を被った見知らぬ女が寄ってきた。   「あなた、あたしの彼に、ちょっかい出さないで!...あたしたちも、これから旅するのよ!...」  こうして素敵なカップルは汽車に乗り込むと離れていった。

   Alfred Doblin:  Die  Statistin  夏目 政廣訳                              Aus: Deutsche Erzahlungen 3.  dtv.                             Deutscher Taschenbuch Verlag.  S.54ff.                                 デーブリーン:1878-1957.

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*「レーデゴンダの日記」:シュニッツラー短篇選より

2023年09月06日 08時38分59秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

  事実とは合致しない心霊的物語を作家は語ることがある。                   それが果たして 真実なのか判断は読者に任せられる。  とはすなわち、そのような出来事が、そもそも、あり得るのかという疑問が付きまとうからだ。そこから、作者は心霊論者なのか、という疑問が生じかねない。 作家という独特な人間に対して、不信の念を抱くか、まったく関心を寄せないか。

 そんな心霊譚を扱った作品に、19世紀オーストリアのよく知られた作家・シュニッツラーによって書かれた短篇「レーデゴンダの日記」がある。:-----

       《  或る決闘》に関して:   ---                                                                              この主人公となるヴェーバルトが、T.という龍騎隊長によって決闘で殺される。が、同じ日に、この男の妻であるレーデゴンダ夫人が若き連隊少尉と蒸発したという事件が生じていた。しかし 当のヴェーバルトは几帳面で思慮深く、また高貴な男として知れ渡っていたので、その少尉の身代わりとしてやられた、という者さえいたのだ。   「そなたが手にしているそれが、妻の日記だろうかなどとは疑わないでしょうな。それで、最後まで目に通してもらいたい。そうすれば書かれている一つ一つが虚しかったことがお分かりになるに違いあるまい」

   ヴェーバルトは そこで云われるまま記されている愛のすべてを読んでいった。:あの秋の朝、森で初めて話しかけた甘く奇妙なときのこと、はじめて接吻をかわしたときのこと、肩を並べ そぞろ歩いたときのこと、郊外へ馬車で出かけた時のこと、花で飾られた部屋で楽しく過ごしたときのこと、駆け落ちしようか心中しようかと迷った時のこと、また 絶望に陥った時のこと。ヴェーバルトはすべてに目を通していった。が、それらは想像の中で経験したことばかりであったが不可解なこととは思わなかった。というのも、レーデゴンダ夫人の愛は真実だと思われたからであり、想像の中での体験はすべてが、夫人もファンタジーの中で体験していたに違いないと。 不思議な力ではあったが、そう思えたのだ。                       然し、この時、別に こんなことも考えていた。この日記のすべては夫人の《復讐》以外の何ものでもなかったのではないかと。それ故、夫人の突然の死でさえ意志のなす業(わざ)であり、その背信の日記を裏切られた夫の手に渡るようにしておいたのも、夫人の意図からに違いない。ヴェーバルトは勿論、アヴァンチュールの結果に全責任を感じていたが心から望んでいたことでもあり、臆病のゆえに成し遂げられなかったことに忸怩たる思いでもあったのだ。  

「私はですな、」とレーデゴンダの夫は最後通牒のように云った。     「妻の死が知れ渡らぬうちに始末をつけておきたい。今は真夜中の一時だが、三時には介添人が来てくれることになっておる。五時までには何としても決着をつけたいのだ・・」

   「私はこの運命に立ち向かわなければならないと決意しておりました」ヴェーバルトは粛々と云った。                             「そこで 午前五時には森に出向き、レーデゴンダの夫とピストルを持ち向き合ったのです」

それで、あなたのほうに分があったのですね・・

   「いいえ、弾丸(たま)は相手のこめかみ近くを掠めたにすぎません。逆に、わたしの心臓がぶち抜かれていたのです。人の申しますには、その場にばったりと倒れ、息絶えていたのです・・」                    こういうや、男は消えていた。ヴェーバルトの姿は公園の何処にも見当たらなかったのである。   夏目 政廣訳

  Arthur Schnitzler: Das Tagebuch der Redegonda                                 Gesammelte Werke   Die Erzahlenden Schriften  [1]                                          Fischer Vlg. 1981  S.985-991.     

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*許婚:ミガとヤンの泪:ラーベ「黒いガレー船」より

2023年02月26日 08時46分44秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

   ・・ 歓声で 息を吹き返したミガ。

 ヤンの腕の中で 笑みを浮かべ、涙をみせ 自由の歌に 声を合わせた。

「約束は守った。 砲声と鐘とラッパの響きの中、故郷に帰れるんだ・・・

    助かったのだ・・」   こういうや、ヤンは歓声を上げた。

内城からは 号砲が矢継ぎ早に鳴り響いた。  町を取り囲む塁壁内からは、太鼓が鳴り始めていた。・・ 

そうして 喧騒を打ち消すように、歓声は高らかに鳴り響いた。

 

  神よ われらが主  我らが盾 われらが砦 !

   神よ!  われは 御身に 頼みます 見捨てたもう なかれ 

 永久に 感謝し 信仰に 身をゆだね 御身にお仕いします

打ちかかる暴虐は 追い払いくださいますよう・・・

 

W. Raabe: Die schwarze Galeere  

     Reclam  ebd. S.55...

   ラーベ「黒いガレー船」より ⑶

 

・時は1599年、16世紀後半の出来事。

  この大航海時代の覇者スペインの支配下から、独立と解放に向けてのなかの一挿話である。

 オランダの若き許嫁 ヤンとミガの苦難と希望が描かれた。 

そして 青年ヤンの活躍により、祖国オランダの勝利。

スペインの支配からの独立・解放。 

   のみならず、許婚のミガが、スペイン軍の若き中尉による横暴と虐げ、そして 絶望に陥るのを救済し、神への感謝と信頼により、前途に 希望を見出してゆくのである。

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*艦長A.の愛の叫び:「黒いガレー船」より

2023年02月24日 10時08分15秒 | *ドイツ短篇選: 夏目政廣訳;--Goo

   すると、聖母マリア寺院の鐘が鳴った。

真夜中 アントニオはベッドから起き 狂乱の叫びをあげた。                             「何処だ、何処にいる。・・酒だ、酒だ。・・明かりをつけ、連れてこい。・・レオーネ、何処に隠した。彼女は俺のもの。・・裏切ったな、レオーネ。・・  あの娘は俺のものだ。・・まだ、死んではおらぬ。・・レオーネ、 まだ、生きている。・・あの娘は 俺の・・」

  ミガは船室に横たわったまま。

友人のレオーネ中尉は 狂乱する友を ベッドに連れ戻し、落ち着かせようとした。 だが、 瀕死の艦長アントニオは まだ、炎々と気が昂ったまま

W. Raabe :Die schwarze Galeere : Reclam ebd. S.44f.

1831年、北ドイツはブラウンシュヴァイク生まれのラーベは、生涯に68編の長短編を書いた。

   この短編は30歳の時の初期の作品で、時は1599年、歴史的にはカトリックのスペインと プロテスタントのオランダとの抗争が 背景にあり、この16世紀大航海時代の覇者スペインの支配下から、独立、解放に向けての中の一挿話が 物語の内実となっている。:

一つはスペイン軍の二人の青年が 対照的に書かれる。            一人は30歳のドリア号艦長のアントニオ、 もう一人は彼の友人で、  部下の中尉レオノーレ。この二人の人間関係と行動が描かれた。

  そして、一方では、それにまつわり、支配下のオランダの若き許嫁ヤンとミガの苦難と希望、信頼に満ちた恋愛が描かれた

 

 

 

 

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