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「命の経済」に転換へ国際社会は総力を 仏経済学者ジャック・アタリ氏

2020-07-26 15:08:59 | 日記
「命の経済」に転換へ国際社会は総力を 仏経済学者ジャック・アタリ氏

2020年7月26日 06時00分

世界で甚大な被害を引き起こしている新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、社会生活を大きく制限した。

以前から新たなウイルスの大流行に警鐘を鳴らしてきたフランスの経済学者で思想家のジャック・アタリ氏(76)は社会の準備不足を懸念、命を重視した経済システムへの転換を訴える。(聞き手=パリ支局・竹田佳彦)




パリ郊外の自宅で新型コロナ流行後の世界を語るジャック・アタリ氏=竹田佳彦撮影


◆保健分野への準備不十分

2016年の著作で、新しいタイプのインフルエンザが明日にでも流行する兆しがあると指摘した。

世界は気候変動の危機に加え、疾病大流行のリスクがあるが、準備してきたとは言い難い。

とりわけ欧州は、米国に比べても保健分野への投資が不十分だった。今後も温暖化によって蚊が大量発生すれば、新型ウイルスが大流行しかねない。

今回の新型コロナでは、中国当局による感染者数の公表に疑問も残るが、世界が大損害をこうむったのは間違いない。

一方、韓国は15年に流行した中東呼吸器症候群(MERS)を教訓に疾病管理本部を強化し、流行後の管理態勢を整備した。今回の対策の成功例といえる。

感染実態を把握する検査とマスク着用を徹底し、感染者が出た際には行動確認をする。

ロックダウン(都市封鎖)ではなく、韓国式対策をしていれば、各国は経済的、人的にも被害を抑制できただろう。

これまでは自動車や航空、化学などの産業が重視されてきたが、見直す時が来た。医療衛生や教育、研究、食糧…。今後は命に関わる分野を重視した「命の経済」を目指す必要がある。


◆欧州、経済・医療で強い連帯

パンデミック後の世界秩序をめぐり、感染の広がった欧州で中国が存在感を高めたといわれる。

だが、それは誤りだ。確かに各国に医療支援はしたが、マスクなど象徴的な物資を少々送った程度で、政治的な打算が働いたやり方だ。

欧州には非常に強い連帯があった。

欧州中央銀行(ECB)は量的金融緩和政策を拡大し、各国経済を支援。

フランスの患者をスイスやドイツが受け入れるなど、各国は医療でも相互に協力した。

7500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金も動き始めている。自然なやり方で助け合っており、中国の影響力が強まったとはいえない。

国際社会の中で、中国は米国の代わりにはなり得ず、将来の超大国でもない。

国の指導者に対する表現の自由がない国は真の超大国ではないし、恐怖政治で国は良くならない。崩壊したソビエト連邦は軍事大国以上でも以下でもなかった。


◆超大国は存在しなくなる

中国は独裁国家であり、世界に示せるモデルも持っていない。

自国民を養うという強迫観念にとらわれて食糧の入手先を血眼になって探している。

太平洋の支配をもくろむが、ベトナム、カザフスタン、ロシアなど周辺国は中国に対して疑心暗鬼だ。地域ですら覇権を握れていないのだ。

とはいえ、今後は米中の二大国が併存する世界になる。日本や欧州、世界的な大企業は一大勢力かもしれないが、超大国は存在しなくなる。あえて巨大な勢力があるとすれば、自然だ。人類を圧倒するほどの力を持っているのだから。

米中対立が深刻化する中、これからは13世紀以降初めてリーダーがいない世界になる。世界秩序はなくなり、ますます分裂していく恐れがある。


◆利己的な利他主義が鍵

私が今後の世界で鍵となると考えるのが「利他主義」だ。他人のために尽くすことが、めぐりめぐって結局は自らの利益になる。

 例えばマスクを考えてみよう。他人を感染から守るために着けるが、同様に他人も着ければ自分の身を守ることにつながる。

「利己的な利他主義」の好例だ。自らに利益がなければ、人は利他的になりにくい。外出制限は利他主義の対極にある。自己の中に閉じこもるだけの愚策であり、経済危機も引き起こした。

パンデミック後の世界は他者としての将来世代の利益を考慮しなければならない。何が将来世代にとって重要なのか。政治家らも考える時だ。

人類の安全保障や将来のため、生活のあり方や思考法を変えて「命の経済」に向かわなければならない。新型ウイルスに限らず、気候変動による危機なども叫ばれる中、国際社会には総力を挙げた取り組みが求められている。


 ジャック・アタリ  1943年、アルジェリアの首都アルジェ生まれ。思想家、経済学者、文筆家。フランスのミッテラン元大統領の経済顧問を務めた後、欧州復興開発銀行の初代総裁、経済成長に関する仏政府委員会委員長などを歴任した。マクロン大統領は委員会の元報道官。9月に近著「レコノミー・ド・ラ・ビー(命の経済)」の邦訳を出版予定。

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点

2020-07-26 14:52:10 | 日記
JBpress

未来学者フリードマン氏が看破する中国の致命的弱点

平井 和也 2020/07/26 06:00


近年、米中対立が激しさを増している中で、国際政治の専門家の間で米中間の「トゥキディデスの罠」という考え方が浮上している。

トゥキディデスの罠とは、新興国が覇権国に取って代わろうとするとき、2国間で生じる危険な緊張の結果、戦争が不可避となる状態を指す言葉だ。

ハーバード大学のグレアム・アリソン教授が古代ギリシャの歴史家トゥキディデスにちなんで提唱した概念として注目されている。

アリソン教授は、東京新聞のインタビュー記事(2019年12月2日)の中で

「トゥキディデスの罠に米中が陥り、全面戦争に発展する可能性は高まっているのか」という問いかけに対して、

「もしトゥキディデスが今の米中関係、特に中国の国益を追求する姿を見ていたら、新興国(中国)と覇権国(米国)は、衝突する方向に明らかに加速している、と言うだろう」と答えている。

この米中のトゥキディデスの罠について、米ジオポリティカル・フューチャーズ(GPF)の創設者であり、

世界的なインテリジェンス企業ストラトフォーを創設したことでも知られている未来学者・地政学アナリストのジョージ・フリードマン氏が、7月14日にGPFのサイトに一読の価値がある論考を発表した。

フリードマン氏はこの論考で、「中国の台頭」にまつわる言説には誤解があると指摘し、米中間に「トゥキディデスの罠」は当てはまらないと述べる。

中国には経済面、軍事面で「弱点」があり、依然として米国には対抗できないというのだ。以下では、フリードマン氏の論考の概要を紹介したい。

「台頭する中国」は誤認
 
記事の冒頭でフリードマン氏は、アテネとスパルタの間で戦われたペロポネソス戦争から数千年後に、評論家たちは「この戦争が、権威主義的な政府は民主的な政府を打ち破るだろうということを示した」と論じたとし、この考え方は第2次世界大戦の初期段階に広く唱えられ、冷戦の間も繰り返し唱えられたと述べている。

ただしフリードマン氏は、「実際には、民主主義国と圧政的な体制についてトゥキディデスが言ったことは、敗北主義者が引き合いに出す単純なスローガンよりもはるかに洗練されて、複雑なものなのだ」と指摘する。

トゥキディデスの罠が持ち出される言説には、しばしばいくつかの間違っている点があるという。フリードマン氏は次のように述べている。

「間違っているのは、中国が台頭する大国だという考え方だ。中国は毛沢東の死後から急激に盛り上がったという意味で台頭という言葉を使っているのだとしたら、それは正しい。

しかし、中国が米国に挑戦することができるくらいまで台頭したと言われているのは、誤認に基づいた言説だ。米国が過剰反応するかもしれないという議論は、この間違った認識に基づいている。米国は中国に強い圧力をかけるという戦術を選んでいるが、そのリスクは低い」

中国の輸出依存体質
 
フリードマン氏によると、中国に関して最も重要な点は、中国の国内市場が、工場で作られた製品を資金的に消費できないことである。

「中国は確かに成長したが、その成長ゆえに海外の顧客に囚われの身となってしまったのだ。

中国の国内総生産(GDP)の20%は輸出によって生み出されており、輸出の5%を買っているのは、中国にとって最大の顧客である米国だ。

長期的に見て中国経済を約20%減少させる可能性があるのは、このどうしようもない脆弱性だ。新型コロナウイルスが今後も多くの国を傷つけ続けるだろうが、中国にとっては、国際的な貿易が崩壊すれば、国内消費の減少が海外市場の損失の上に現われることになる」

「中国は米国からの非軍事的な脅威にさらされている。米国はそのGDPの1%のわずか半分を中国からの輸出に依存しているにすぎない。

米国は中国製品の購入を減らすだけで、中国にダメージを与えることができる。中国が台頭する大国だとしても、その台頭は非軍事的な非常に滑りやすい傾斜の上に成り立っている」

加えてフリードマン氏は、米国にはさらに軍事的な破壊的なオプションがあるとしている。

「中国は、大きく依存している世界市場に、東海岸の港からアクセスしなければならない。そのため、南シナ海は中国にとって特別な利益を握る境界だ。

中国は海洋にアクセスするために少なくとも1カ所の出口から通商航路をコントロールしなければならない。

しかし、米国はこれらの通商航路をコントロールする必要はなく、中国に航路を与えなければいいだけの話だ。

この違いには極めて大きな意味がある。

中国はアクセスを確保するために、米国を深くまで後退させる必要があるが、米国は、巡航ミサイルを発射するか、または地雷を設置するための適所にいるだけでいいのだ」

中国が太刀打ちできない洗練された同盟システム
 
さらにフリードマン氏は、米国の同盟システムの有効性について述べている。

米国海軍は、アリューシャン列島から日本、朝鮮、台湾、フィリピン、インドネシア、オーストラリアに至るまでの太平洋をコントロール下に置いており、中国が太刀打ちできないような洗練された同盟システムを持っている。

 同盟国を持たないということは、紛争時に他の国を巻き込む戦略的なオプションを持たないということだ。

中国は周辺の1カ国と同盟関係を結ぶだけで、戦略的な問題は解決するかもしれない。

同盟国を獲得できないことは、中国の力と信用を地域的に評価する上での指標となる。

中国の戦略的な問題には、中国の国益に対して敵対的なベトナムやインドといった国と国境を接しているという面もある

「仮想的には、中国はロシアと同盟関係を構築できるかもしれない。だが問題は、ロシアが西方とコーカサス地方に注力しなければならないという点にある。

ロシアには中国に貸せるような陸軍はなく、太平洋の作戦で決定的な意味を持つような海軍も持っていない。

ロシアによる西方からの、そして中国による東方からの同時攻撃は、一見すると興味深いものに思えるが、米国と同盟国を分断するには至らず、中国に対する圧力を排除できない」

輸出依存のままで戦争を始めるのは無理な話
 
次にフリードマン氏は、中国の輸出依存体質について再度強調する。つまりグローバルな貿易システムに組み込まれた中国の脆弱性について、である。



「中国が台頭する大国であることは確かだが、前述のとおり、中国は毛沢東時代から台頭している。中国は相当程度の軍隊を持っているが、その軍事力は輸出依存という脆弱性が排除されない限り、縛られたままだ。

このような状況では、戦争を始めるなどというのは無理な話だ。中国はたぶん世界のどこの国よりも、グローバルな貿易システムを破綻させるようなリスクを冒すことができない国だ」

「米国は西太平洋での戦争には興味がない。西太平洋の現状は満足のいく状況であり、紛争を起こしても、何も得るものはない。ただ、米国は太平洋をあきらめてはおらず、これまでにも太平洋を維持するために、第2次世界大戦や朝鮮戦争、ベトナム戦争を戦ってきた。

米国は中国大陸を侵略したり征服したりすることはできないし、巨大な中国陸軍に対して軍を差し向けることもできない。その意味で、中国は安全だ。中国が恐れているのは、世界市場からの孤立という海洋にある」

トゥキディデスの罠は米中には当てはまらない
 
軍事力そのものに関しても、米国は今なお中国に対して圧倒的に優勢だという。フリードマン氏は以下のように述べる。

「戦争に勝つためには、経験豊富な人員と、勇敢でモチベーションの高い軍隊、へまをしない工場が必要だ。工学技術は戦争の一部だが、その本質ではない。もちろん、テクノロジーは重要だが、それは実戦経験を積んだ人々の手の中にあって初めて決定的な意味を持つ。

しかし、中国はそれを欠いている。

ハードウェアとテクノロジーを持っているとは言っても、中国は1895年以来、海戦を戦っていない。

中国は陸上での戦闘経験と比べて、海戦の伝統がない。

それに対して、米国は、航空機で陸上の標的に対抗したり、対潜水艦調査を実施したり、実戦環境で艦隊用の防空システムを運用したりしてきた豊富な経験がある」

「私が誤認した識者の意見に反対するのは、この点においてである。

彼らは、米国が追いついていないテクノロジー面での優勢に着目して、中国は台頭していると考えている。たぶんその通りだと思うが、米国は依然として経済的な優勢、地理的な優勢、同盟関係における政治的な優勢、海と空、宇宙における経験の優勢を誇っている。

テクノロジーは、これらの点における不足を相殺するだけだ」

以上のような考察からフリードマン氏は、「トゥキディデスの罠という概念は米中には当てはまらない、と私は考えている。

中国はいかなる側面においても、米国を追い詰めてはいない」と結論づける。

米国は実戦経験など様々な分野において依然として圧倒的な優勢を誇っているため、トゥキディデスの罠の理論は米中には通用しない、というわけである。