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映画「パラサイト」が描く、韓国のおそるべき「超格差社会」

2020-07-21 17:00:15 | 日記
映画「パラサイト」が描く、韓国のおそるべき「超格差社会」

これは、韓国だけの現象ではない

金 敬哲

ジャーナリスト

プロフィール

2020年1月10日に公開される韓国映画「パラサイト 半地下の家族」。2019年のカンヌ国際映画祭で、最高賞にあたるパルムドールを受賞した傑作だ。

この映画には、上位1%の超富裕層と、その対極にある貧困層の暮らしぶりが、めちゃめちゃリアルに描かれている。

貧しさの象徴であり、映画タイトルにもなっている「半地下」部屋が生まれた経緯は? そもそも、なぜ韓国の社会はこんなにも二極化してしまったのか?『韓国 行き過ぎた資本主義』の著者・金敬哲氏が鋭く分析する。

今年、カンヌでパルムドールを受賞

2018年5月、世界三大映画祭の一角、フランスのカンヌ国際映画祭で、是枝裕和監督の「万引き家族」が、最高賞にあたるパルムドールを受賞した。

家族が生きていくため万引きせざるを得ない、貧しい庶民の生活を描いた傑作だ。


その翌年、2019年5月にカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したのは、今度は韓国映画の「パラサイト 半地下の家族」だった。

名作「殺人の追憶」などで知られるポン・ジュノ監督が手がけた最新作で、やはり貧しい家族が主役のホームドラマだが、「万引き家族」と違うのは、貧困家庭と富裕家庭の対比をテーマにした点だ。


80万人以上が「半地下」で暮らす

主人公のギテク(ソン・ガンホ)とその家族は、映画のタイトルにもなっている「半地下」部屋で暮らしている。

半地下とは、文字通り、地上と地下の間に位置する空間で、韓国の宅地法によると、床から地表面までの高さが、部屋の高さの半分以上なら地下、半分未満であれば半地下と区分される。

日本人には耳慣れない言葉だが、韓国人なら誰もが頷く「貧困家庭」の象徴である。

半地下の誕生は、北朝鮮と深い関係がある。

1960年代半ばから北朝鮮の挑発がエスカレートし、韓国政府は住宅建築の際、地下層の設置を義務化した。有事の時には避難場所として使うためだ。


この避難場所だった地下空間が住居用として使われ始めたのは、1975年からだ。

1960年代から始まった「圧縮成長」(異常なスピードで進められた経済成長)とともに、首都ソウルへの人口流入が本格化。

急激な人口増加は住居の不足をもたらし、避難場所だった地下層が密かに住居として貸し出されるようになった。

結果、韓国政府は同年、住宅法を一部改正し、地下層を住居として使用することを認めた。

そして、その際、地下層の劣悪な居住環境を少しでも改善するため、地表面の算定基準を緩和し、半分は地下に半分は地上にまたがる「半地下」という居住空間が生まれたのだ。

半地下は、現在の韓国社会において、貧困家庭が息をひそめて暮らす典型的な住居であり、韓国統計庁の2015年人口住宅総調査によると、約82万人が半地下で暮らしている。


災いを呼ぶ半地下部屋の窓

韓国では「ディテール・ポン」といわれるほど、細部までこだわった演出で知られるポン・ジュノ監督は、この映画でも半地下部屋での暮らしぶりを徹底してリアルに描いている。

たとえば、上の階の住民のWi-Fiを無断利用するため、ギテクの長男のギウ(チェ・ウシク)と長女のギジョン(パク・ソダム)は、家で最も高いところにあるトイレの便器の上へ上がる。

部屋の大半が地下の半地下部屋では、汚物が浄化槽から逆流しないよう、トイレは部屋でいちばん高いところに設置されているのだ。

災いの元となる天井の下の窓も、半地下ならではの独特な構造になっている。窓がまったくない地下に比べて、半地下には部屋の地上部分に小さな窓が存在する。半地下部屋の居住者は、この窓を通じて家の前を通る人々の足だけを見て生きている。

しかし、地下部屋との唯一の違いであるこの窓は、映画で見られるように、さまざまな災難を呼ぶ窓でもある。

酒に酔った人が窓のそばで立ち小便したり、洪水が発生すると窓から水が室内に氾濫するといった悲劇が起こるのだ。

また、半分が地下に隠れてしまった窓を通じて、太陽の光が室内へ入ってくる時間は極端に少ない。おかげで室内はいつも湿っていて、カビの臭いが鼻をつく……。まさにこの匂いこそが、映画でも表現されている「貧しさの匂い」なのだ。

「超格差社会」韓国の現実

一方、ギテクの家族がパラサイト(寄生)するパク氏一家は、韓国の上流1%に該当する超富裕層だ。

グローバルIT企業の若きCEOであるパク氏(イ・ソンギュン)の大邸宅は、美しい坂道を登ってやっとたどり着いたと思ったら、さらに門の前の階段を上がってようやく本宅に到着するという高地にある。

「半地下の家と丘の上の大邸宅」、これがまさに超格差社会韓国の現実である。

ギテクの家族は全員、韓国社会の熾烈な競争から脱落した人々だ。

ギテクはかつてチキン屋やカステラ屋を営んでいたが、店がつぶれてしまった。

長男のギウと長女のギジョンは大学入試に失敗し続けているし、スポーツ選手を目指していたギテクの妻チュンスク(チャン・へジン)も目標を達成できなかった。

大学入試の成功を祈る家族たち

四人家族全員が無職で、怠惰な一家だと思われるかもしれないが、一度レースから外れると戻るのが極めて難しい、韓国の厳しい競争社会における、ある意味、平凡な家族でもある。

「DJノミクス」で中産層が崩壊

韓国が本格的に格差社会へと突入したのは、1997年の年末に韓国を襲った「IMF危機」がきっかけだった。

「IMF危機」とは、財政破綻の危機に直面した韓国政府が、IMFから多額の資金援助を受けるため、国家財政の「主権」をIMFに譲り渡したものだ。


翌1998年2月に就任した金大中大統領は、「民主主義と市場経済の並行発展」をモットーとする「DJノミクス」を提唱し、IMF体制からの早期脱却を目指した。

「DJノミクス」とは、経済危機を招いた原因を、これまで30年余りにわたって続けられてきた政経癒着と不正腐敗、モラルハザードによるものと見なし、その改善のため、自由放任ではなく政府が積極的な役割を果たすとする経済政策だ。


つまり、公正な競争が行われるように市場のルールを定めて、市場を監視し、個人の努力や能力によって正当な報酬がもらえるシステムを作るというのが政策の核心だった。

しかし、実際に金大中政権が実施した戦略は、資本市場の開放、国家規制の緩和、公企業の民営化、そして労働市場の柔軟化およびリストラ強行など、新自由主義的な政策ばかりだった。

こうした金大中政権の「劇薬療法」によって、3年8ヵ月後の2001年8月23日、韓国はIMFから借り入れた資金を早期に返済し、経済主権を取り戻した。

しかし皮肉なことに、その過程で中産階級が崩壊し、二極化と所得の不平等がさらに深刻化してしまったのである。


階層上昇が難しい「障壁社会」

韓国を代表する「進歩派」(韓国では左派をこう呼ぶ)の経済学者である柳鍾一(ユ・ジョンイル)韓国開発研究院(KDI)国際政策大学院院長は、進歩系(左派系)メディアである「プレシアン」に次のような文章を寄稿している。

約20年前に韓国を襲ったIMF危機以降、韓国社会における最大のイシューは、二極化による「格差社会」である。

現在の韓国社会は、単に不平等なことが問題なのではなく、富と貧困が世代を超えて継承される点が際立った特徴となっている。

すなわち、世代間の階層の移動性が低下し、機会の不平等が深まり、いくら努力しても階層の上昇が難しい社会、すなわち「障壁社会」へと移行したのだ

たしかに、2018年に韓国の有力シンクタンクの一つである現代経済研究院が発表したアンケート調査の結果を見ると、

「いくら熱心に努力しても、自分の階層が上昇していく可能性は低い」と考えている韓国人は、2013年が75.2%、2015年が81.0%、2017年が83.4%と、毎年上昇している。

柳鍾一院長が主張した「障壁社会」について、韓国人の8割以上が同意していると見ることができるだろう。

また、2018年6月に韓国保健社会研究院が発表した「社会統合の実態診断及び対応策研究」報告書によると 韓国人の85.4%が「所得の格差が大きすぎる」と思っており、80.8%が「人生で成功するには、裕福な家で生まれることが重要だ」と考えている。

深刻な不平等や格差は映画の中だけの話ではなく、韓国社会の現実そのものなのである。

これは、ただ韓国だけの話ではない

しかし、この超格差社会は、ただ韓国だけの現象ではない。

カンヌ映画祭のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ審査委員長は、パルムドールに輝いた「パラサイト 半地下の家族」について、

「韓国を描いた映画だが、同時に世界的にも喫緊の課題をテーマにしており、ここにいる私たちすべての人生と関係のある主題を、ブラックコメディとして巧みに表現している」と評価した。

二極化や格差社会は、まさに全世界的な問題である。もちろん、日本も例外ではない。

かつては「最も成功した社会主義国」といわれた日本型資本主義だが、小泉純一郎政権以降、日本政府は新自由主義に大きく舵を切った。

弱肉強食が当たり前になり、それに対してうしろめたさを感じることもなくなってしまった。

寛容さは失われ、「自己責任」という言葉が力を持つようになった。

拙著『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)に書いた韓国社会の今は、遠くない未来の日本の姿かもしれない。



「パラサイト 韓国映画にみる格差社会」(くらし☆解説)

2020-07-21 16:28:35 | 日記
「パラサイト 韓国映画にみる格差社会」(くらし☆解説)

2020年02月14日 (金)

出石 直 解説委員

NHK 解説委員室


(VTR:授賞式)「アカデミー賞作品賞は、『パラサイト 半地下の家族』!!」

ことしのアカデミー賞の作品賞に韓国映画「パラサイト 半地下の家族」が選ばれました。

去年のカンヌ国際映画祭での最高賞パルムドールに次ぐ受賞です。

(ON)「消毒?」「窓を閉めて」「いやタダで消毒してくれる」
   「実は美術の先生も探していて」「思い浮かんだ人がいるのですが」

アカデミー賞の監督賞や脚本賞なども合わせて受賞したこの映画は、韓国の深刻な格差社会を描いた作品です。映画を通して、分断が進む韓国の格差社会についてお伝えします。



担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

Q1、まず簡単にストーリーを紹介して頂けますか?

A1、この映画には対照的な2つの家族が登場します。

まず半地下の家に暮らす貧しいキム一家。

おとうさんは、事業に失敗して失業中、長男は、大学受験に何度も失敗。

絵が得意な長女は、美術大学への進学を希望していますが、家が貧しいために予備校に通うことができません。

一方、こちらは高台のお屋敷に住むお金持ちのパク一家。

おとうさんはIT企業の社長さん。

高校生の長女といたずら好きの長男には、それぞれ家庭教師がついています。

物語は、半地下の粗末な家に暮らすキム家の長男が、友人の紹介でパク家の長女の家庭教師を引き受けるところから始まります

(ON)「代わりに英語の家庭教師を頼む」「何を言うんだ」「金持ちだギャラもいい。いい子なんだ。俺の留学中、よろしく頼むよ」
「どちら様」「お母さま、こんにちは、ミミョク君の紹介で」「どうぞお入り下さい」

招き入れられたのは、有名建築家が建てたという豪邸でした。

ON)「24番の答えは?」「・・・」

これをきっかけにキム一家は、経歴を偽って家庭教師やお抱えの運転手としてパク家に入り込んでいきます。パラサイト=寄生していくのです。

(ON)「あなた 新しい美術の先生よ」「イリノイのジェシカ先生 ディス イズ ドンイク」

こんばんは」「ダソンをよろしく」「授業は終わり?」「ええさっき」「ユン運転手」

やがて、思いがけない悲劇が2つの家族を襲います。

(ON)「計画を立てると必ず、人生その通りにいかない」

これ以上、お話すると映画を観る楽しみがなくなってしまうのでここまでにしますが、ストーリーは後半、思わぬ展開を見せます。


Q2、私もきのう見てきましたが、裕福な家庭と貧しい家庭とのコントラストが衝撃的でした。

出石さんはソウルでの駐在経験もありますが、この映画をどう見ましたか?

A2、フィクションではありますが、今の韓国社会が抱えている矛盾、病理を見事に描いた作品だと思いました。

Q3、矛盾、病理と言うのは?




貧富の格差

A3、韓国は大変な競争社会、格差社会です。2015年の調査では36万4000世帯が、この映画にあるような半地下の家に住んでいます。下水が逆流しないようトイレは一番高いところにあります。

こちらは、私が以前、取材したスラム街の写真ですが、ソウルの高級住宅街カンナム(江南)のすぐ近くにこうした地区があるのです。

こうしたスラム街や半地下の家がある一方で、カンナムやソウルの北側の高台にある高級住宅街には、映画に登場したような豪華なお屋敷が立ち並んでいます。

韓国では、サムスン、ヒョンデ、LGといった主な10の財閥だけで韓国全体の富の4分の3を生み出し、所得上位10%の層が国民総所得の45%を占めているのです。


Q4、わずか10%のお金持ちが国全体の半分近い富を得ているということなのですね。

A4、非正規労働者が多いのも格差が拡大する一因となっています。正規社員との賃金格差だけでなく、大企業と中小企業の間にも待遇に大きな差があるのです。

Q5、どうしてこんな格差社会になってしまったのでしょうか?

【若者】

A6、大企業中心のいびつな経済発展の結果だと思います。中間層が育っていないのです。


こうした格差社会の犠牲になっているのが若者と高齢者です。

若者の失業率は8.9%、就職を諦めてパートタイムで働いている人なども含めた潜在的な失業率はもっと高いと言われています。

厳しい受験戦争を勝ち抜くために子供のうちから塾に通い、一流大学を出ても大企業にはなかなか就職できない。

一方で、パク・クネ前大統領やチョ・グク前法相の事件で明らかになったように、有力者のコネがあれば一流大学にも入ることができる。

こうした不満が社会全体に渦巻いているのです。

韓国では、少し前に「7放世代」という言葉が流行りました。恋愛、結婚、出産、マイホーム、人間関係、夢、就職、この7つを放棄した、諦めた世代という意味です。

「金のスプーン」「土のスプーン」という言葉もありました。金のスプーンを咥えて裕福な家に生まれてきた人はずっと豊かな暮らしができる。

一方、貧しい家に生まれた人は塾通いもできず努力をしても報われないというのです。格差の広がりとともに格差の固定も深刻なのです。

Q6、「夢を諦めざるを得ない」「努力しても報われない」という若者が増えているのですね。

【高齢者】
A6、より深刻なのが高齢者です。

韓国の高齢者の貧困率は43.8%とOECD諸国の中でも突出しています。


こちらは高齢者がどうやって収入を得ているかを示しています。

40年前は子供からの支援が高齢者の生活を支えていました。

しかし韓国でも核家族が増え、若者の暮らしも厳しくなっていく中で、お年寄りも自分で働かないと食べていけなくなってきました。

韓国で国民年金の本格支給が始まったのは2008年と遅く、支給額も一か月に平均で3万円から4万円程度に過ぎません。

少子化が進んでいる韓国は、2060年には高齢化率が40%を超え、日本を抜いて世界でもっとも高齢化が進んだ国になると推定されています。

Q7、すると生活が苦しいお年寄りがこれからもっと増えてしまうのですね。


A7、こちらは10万人あたりの自殺者の数を示したものです。韓国は先進国の中でもっとも自殺する人の割合(24.6人)が多い国です。とりわけ高齢者の自殺が多く80歳以上ではこの3倍以上(78.6人)にのぼっています。苦しい生活と先行きへの不安が高齢者を自殺へと追いやっているのです。

Q8、こうした様々な社会矛盾が、この映画のテーマになっているのですね。

A8、この作品の監督・脚本を手掛けたポン・ジュノ氏は1969年生まれの50歳。学生運動や民主化闘争の先頭に立っていた世代です。

ポン・ジュノ監督は「格差が広がる中で富裕層と貧困層の共存や共生が難しくなりつつある」と今の韓国社会が抱える問題を指摘しています。

Q9、監督の言葉は、今の私達にも当てはまるような気がします。

A9、私はこの映画を見ていて、是枝裕和監督の「万引き家族」との共通点を感じました。

こちらも社会の片隅でたくましく生きる家族を描いた作品で、おととしのカンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞しています。格差や社会の分断は、何も韓国や日本に限った現象ではありません。世界各地で大きな社会問題になっています。

これらの作品が世界的に注目されるのは、格差や社会の分断が進む中で、人間の幸福とは何か、社会と家族はどう関わっていくべきなのかといった問題が、全世界的な課題になっているからではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)

アメリカ留学する韓国人 44%が「燃えつき」中途退学する理由

2020-07-21 16:02:21 | 日記
アメリカ留学する韓国人 44%が「燃えつき」中途退学する理由

アメリカのトップ大学に通う韓国人学生は44%が中途退学していると船津徹氏

合格後に「燃えつき」てしまうことが理由にあると指摘

世界中のエリート学生との競争に敗れ、自信を喪失してしまうのだ

米国トップ大学に通う韓国人の44%がドロップアウトしてしまう理由

2020年7月21日 9時15分

プレジデントオンライン

アメリカの大学に通う韓国人留学生数は約5万2000人で、日本人の約3倍にのぼる。だが、その実態はいびつだ。

日米で塾を経営する船津徹氏は、「ハーバードやイェールなどアメリカのトップ大学に通う韓国人学生は44%がドロップアウト(中途退学)している。受験のための詰め込みだけでは、合格後に燃え尽きてしまう」という――。


※本稿は、船津徹著『失敗に負けない「強い心」が身につく 世界標準の自己肯定感の育て方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■教育熱心な韓国人は世界のトップ大学を目指す

アメリカで学習塾を経営していて驚くのが「韓国人ママの教育熱の高さ」です。私の塾にもたくさんの韓国人ママが、小学生になったばかりの幼い子どもを連れてやってきます。

お母さんから話を聞くと、「子どもの教育のためにアメリカに移住(母子留学)してきた」というのです。

儒教の影響が根強く残る韓国は、「学歴信仰」が人々の価値観の根底にあります。

「子どもをいい大学に入れなければならない!」という社会のプレッシャーが桁外れに強いため、韓国人は「世界一」子どもの教育に熱心なのです。


少し前まではソウル大学や高麗大学といった韓国のトップ大学が目標でした。

ところが、グローバル化の進行によって、韓国のトップ大学の地位(価値)が揺らいでしまったのです。

「もはや韓国の大学を出ても国際社会で通用しない! 目指すはハーバード、オックスフォード、スタンフォード、世界のトップ大学だ!」という流れが今の韓国にはあります。

■もはや「英語」は韓国人の必須教養

米国国際教育研究所(Institute of International Education)の集計によると、2019年にアメリカの大学に通う韓国人留学生数は約5万2000人で、人口が韓国の約28倍以上の中国(約37万人)、インド(約20万2000人)に次ぐ大きな規模になっています。

同年の日本人留学生数は約1万8000人で韓国人の約3分の1です。韓国の人口が日本の半分以下であることを考えると、韓国人の留学熱の高さがうかがえます。


留学熱が高いとは言え、海外留学を実現できるのはごく一部の裕福層です。

多くの子どもは韓国に住みながら、英語学院と呼ばれる英語塾に通ったり、オンラインレッスンを受けたりと、努力を重ねて英語を身につけます。

韓国では英語を身につけられなければ「負け組」決定ですから、子どもも必死なのです。

韓国の英語学院(英語塾)は、日本の学習塾のように週1~2回、1時間の英語レッスンを受けるというなまやさしいものではありません。

学校が終わってから週に3~5日塾に通い、3~6時間、ネイティブ講師から英語レッスンをみっちり受けるのです。

塾が終わる夜10時頃になると、英語学院がひしめき合うソウルの一角は子どもを迎える車の列で渋滞が起きるそうです。

■社会問題化する競争による「燃えつき」

英語学院の指導レベルは高く、授業はすべてネイティブ講師が英語オンリーで行うのが原則だと言います。

小学生の子どもが、欧米の大学受験のための「TOEFL対策」をするのは当たり前。

さらに小学生から『ハリー・ポッター』などの小説やエッセイを「原書で読んで」内容を発表したり、英語でディベートしたりといったハイレベルな授業を行っているというから驚きです。

本当に韓国ではそれほどハイレベルな英語教育が行われているのだろうか?

疑問に思い、韓国の有名英語学院で指導経験があるネイティブ講師から話を聞いてみたことがあります。

その人によると、英語学院では、英語圏に留学することを前提に、英語で教科指導(数学、理科、社会)をしたり、アメリカの大学進学を目指す生徒向けにSAT(アメリカの大学適性試験)対策やエッセイ指導をしたりと、インターナショナルスクール顔負けの難易度が高い授業を行っているとのことでした。

最近は有名塾(英語学院)の人気が過熱し、入塾試験をパスするための塾が登場するなど、度を越えた「競争」が韓国の若者たちを疲弊させ、燃えつきさせてしまう(Burn out)ことが社会問題になっています。

■トップ大学に合格したあとの思わぬ落とし穴

親子で必死に努力した甲斐があって、多くの韓国人はアメリカのトップ大学への合格切符を手にしました。

ところが、ここに思わぬ落とし穴がありました。

ハーバード大学、イェール大学など、アメリカのトップ大学に通う韓国人学生のうち44%がドロップアウト(中途退学)してしまったと言うのです。

もの心ついたときから脇目もふらず、青春のすべてを勉強にかけてアメリカの名門大学入学を勝ち取ったのに、なぜ半数近くの学生が志半ばで中途退学することになってしまったのでしょうか?

世界中から優秀な人材が集まるアメリカの名門大学では簡単にトップにはなれません。

ましてや英語ネイティブの秀才たちとは英語力で埋められない差があるのです。

それまで勉強では負けたことがなかった韓国人学生が、アメリカの大学で初めて「負け/挫折」を経験したのです。

ドロップアウトした韓国人学生の多くは、世界中から集まってきたエリート学生との競争に敗れ、「自分はやっていけない」「自分には無理だ」と自信喪失してしまったのです。

韓国人学生の多くは、子ども時代を勉強だけに追われ、スポーツや音楽などの課外活動に本気で従事する経験を持つことができませんでした。

その結果、レジリエンス(敗北や失敗から立ち直る力)を身につけることができなかったのです。

だからこそ、グローバル競争社会で生き残っていくためには、受験のための詰め込みだけでなく、失敗や挫折を乗り越えられるメンタルタフネスを育てておくことが必要なのです。

■受験大国では特に「メンタルタフネス」が重要だ

日本も韓国ほどではないですが学歴社会です。

今後グローバル化が進んでいくことで、さらに受験競争に拍車がかかる可能性があります。

受験で子どもを燃えつきさせないためには、勉強以外の「特技」や「強み」育てに目を向けて、「メンタルタフネス」を鍛えておくことが大切です。

日本は世界でも例を見ない「受験が多い国」です。

幼稚園受験、小学校受験、中学校受験、高校受験、大学受験と、子どもは休む暇なく受験勉強に追いかけられます。

最近は中学受験がブームになっていますが、中学受験で第一志望に合格できるのは「3割」程度と言われています。

つまり7割の子どもたちは中学受験で「失敗体験」をするのです。

また、希望の学校への合格を勝ち取ったとしても、そこで停滞してしまう子どもが多いことを知ってください。

学力レベルの高い学校に合格すれば、競争のレベルも格段に上がります。

自分よりも学力も才能も優れたクラスメートに囲まれたときに、「自分はやっていけない」と自信喪失してしまう可能性があるのです。

■受験は自立のためのステップでしかない

私は受験に反対しているわけではありません。むしろ賛成派です。

ただ、受験勉強に必死に取り組んでいるうちに、親子とも、受験で合格を勝ち取ることがゴールにならないように警告しているのです。

受験は子どもの自立の一つのステップでしかありません。次のステップに進むためのトレーニングとして受験をするのです。

受験後の「Burn out /燃え尽き症候群」を防ぐには、困難や逆境に直面したときに「絶対に負けない!」とあきらめずに努力を継続していくメンタルタフネスを育てることが不可欠です。


そのためには自己肯定感の土台を大きくすること、そして、「勉強以外の強み」や「特技」を持たせてあげることが不可欠なのです。

スポーツ、音楽、アート、ダンス、将棋、囲碁、チェス、マジック、ルービックキューブ、ユーチューバー、プロゲーマー、漫才、落語、なんでもかまいません。

子どもの「好き」や「やりたい」を見つけて、「強み」や「特技」に引き上げることをぜひ実践してください。特技は子どもを燃えつきから救い出してくれます。

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船津 徹(ふなつ・とおる)
TLC for Kids 代表
明治大学経営学部卒業後、金融会社勤務を経て、幼児教育の権威である七田眞氏に師事し英語教材の制作などを行う。その後独立し、米ハワイ州に移住。2001 年、ホノルルにTLC for Kids を設立。英語力、コミュニケーション力、論理的思考力など、世界で活躍できる人材を育てるための独自の教育プログラムを開発する。著書に、『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)、『世界で活躍する子の〈英語力〉の育て方』(大和書房)ほか。
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(TLC for Kids 代表 船津 徹)