米中全面対決で朝鮮半島は「コップの中の嵐」に転落 日本の立場は
7/7(火) 18:15配信
デイリー新潮
米中が全面対決する。南北朝鮮の争いは、もはや「コップの中の嵐」に過ぎない――と韓国観察者の鈴置高史氏は断ずる。
親北人士を集中起用
鈴置:韓国が北朝鮮に卑屈なほどすり寄っています。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は7月3日、情報機関である国家情報院(国情院)の院長に朴智元(パク・チウォン)前国会議員を指名しました。
金大中(キム・デジュン)元大統領の懐刀だった人です。
金大中政権時には青瓦台(大統領府)秘書室長を務め、2000年の史上初の南北首脳会談では密使を務めました。北朝鮮とのパイプを買われての起用です。
なお、金大中政権は南北首脳会談実現のため北朝鮮に5億ドルを送ったことが後に発覚、有罪判決を受けた朴智元氏は1年あまり収監されました。
統一部長官の候補には与党「共に民主党」の李仁栄(イ・イニョン)前院内代表を充てました。学生運動出身で北朝鮮と近い、全国大学生代表者協議会(全大協)の初代委員長です。
青瓦台の国家安保室長には徐薫(ソ・フン)国情院院長が回りました。情報機関の生え抜きで、北朝鮮との交渉窓口を長らく担当した人です。
2018年3月の韓国の「米朝仲介」の際には訪朝して金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会い、返す刀でワシントンを訪れてトランプ(Donald Trump)大統領と面談しました。
文在寅政権スタート時に青瓦台秘書室長の要職を務めた任鍾晰(イム・ジョンソク)氏は、大統領外交安保特別補佐官として青瓦台に戻りした。
全大協の3代目委員長で、1989年に北朝鮮で開かれた世界青年学生祭典に代表者を送ったため3年間半、服役しています。対北特使を想定しての人事と言われています。
踏まれてもついていく下駄の雪
――北朝鮮シフトですね。
鈴置:一部は予想していたものの「これほど露骨な人事をするとは」と韓国メディアも驚いています。文在寅政権は北朝鮮から罵倒され、ついには開城(ケソン)工業団地の南北共同連絡事務所まで爆破されてしまった。
それでも、この政権は北朝鮮がいつかは対話に応じてくれると信じて北に近い人を集める。永田町で言う「踏まれても、蹴られても、ついていきます下駄の雪」状態です。
人事だけではありません。6月30日、文在寅大統領はEU首脳との電話協議で「米大統領選挙の前に朝米対話が推進される必要がある」と述べました。今年11月までに米朝首脳会談が実現するよう、自分が仕切る、と宣言したのです。
もっとも、直ちに北朝鮮に袖にされました。
北朝鮮の対外宣伝メディア「わが民族同士」(日本語版)によると、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官は7月4日、談話を発表しました。
日本語におかしなところがありますが、談話の一部をそのまま引用します。このところ、北朝鮮媒体の日本語力は落ちる一方です。
・われわれの記憶からさえもかすかに忘れかけていた「朝米首脳会談」という言葉が、数日前から話題に上がって国際社会の耳目を集中させている。
・当事者のわれわれがどう考えるかについては全く意識せず、早まって仲裁の意思を表明する人がいるかとすれば、米大統領選の前に朝米首脳会談を行わなければならない必要性について米執権層が共感しているという声も聞こえる。
・朝米対話を自分らの政治的危機を処理するための道具としか見なさない米国とは対座する必要がない。
韓国は出しゃばるな
――「早まって仲裁の意思を表明する人」とまで、文在寅氏を馬鹿にしました。
鈴置:「我々は米国とのパイプを持っている。韓国は出しゃばるな」と揶揄したのです。ただ、文在寅政権はめげないでしょう。自分たちの存在意義は北朝鮮との関係改善にあると考えている。「下駄の雪」のように、どんなに踏まれてもついていくしかないのです。
左派は必死です。
北朝鮮の歓心を買うため、与党「共に民主党」は在韓米軍撤収を語り始めました。
外交統一委員長の宋永吉(ソン・ヨンギル)議員が7月1日、国会で開かれた懇談会で「在韓米軍はオーバーキャパ(over capacity)ではないか」――つまり、「多すぎ」と主張したのです。
北朝鮮は米韓同盟の解体を狙っています。その一里塚が在韓米軍削減・撤収です。
「我々は核を持った。米軍さえ追い出せば南は完全に言うことを聞くようになる」と踏んでいるのです。
米軍が駐留する今でさえ、韓国は北朝鮮の顔色をこれだけ見るのですから。
先に引用した「わが民族同士」(日本語版)の記事も、米国との首脳会談に応じない理由について、以下のように指摘しています。
・すでに遂げられた首脳会談の合意も眼中になく、対朝鮮敵視政策にしつこく執着している米国と果たして対話や取り引きが成立するだろうか。
・われわれと枠組みを新しくつくる勇断を下す意志もない米国がどんな小細工を持ってわれわれに接近するかということは、あえて会わなくても明白である。
北朝鮮にすれば「約束した米韓同盟解体はおくびにも出さない半面、核兵器の廃棄ばかり要求して制裁を一切、緩めない米国」はとても信用できない、ということです。
2018年6月の初の首脳会談で、米朝は「朝鮮半島の非核化」との文言により、北朝鮮の核兵器廃棄と米韓同盟の廃棄の交換を約束しました。
『米韓同盟消滅』の第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」で詳述しています。
受難のマッカーサー像
――米韓同盟解体をどれくらいの韓国人が賛成するのでしょうか。
鈴置:左派にとって米国との同盟こそが諸悪の根源です。北の同胞との和解を阻害するうえ、米国が韓国を支配するための道具――との認識です。
文在寅大統領も自伝『文在寅の運命』で「弱い民族を分断して世界を支配する米帝国主義」への反感を露わにしています(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。
――保守派や普通の人は?
鈴置:彼らは米韓同盟を支持しています。
そこで、左派はタイミングを見計らっては国民の反米感情を揺り起こし、米韓同盟の廃棄を訴えるのです。
7月1日、左派は仁川(インチョン)のマッカーサー将軍の銅像の前で「米軍は出て行け」と主張する集会を開きました。
左派が銅像前で集会を開くのは反米感情を煽る時です。
親米保守にとって、マッカーサーは仁川上陸作戦を敢行し、韓国を共産化から救ってくれた恩人。
しかし左派にとっては南北の統一を阻害した張本人なのです。この銅像は時々、火あぶりにされたりします。
ついに登場、同盟廃棄論
左派系紙、ハンギョレはさらに踏み込んで米韓同盟廃棄論を載せました。米国の外交政策フォーカス所長のフェッファー(John Feffer)氏の寄稿「韓米同盟を見直す時期だ」(6月29日、日本語版)です。
「11月の米大統領選挙で民主党のバイデン(Joe Biden Jr.)候補が勝つが、次期政権も北朝鮮に対しては軍事的な威嚇政策をとる」と予想したうえ、韓国の進むべき道を以下のように示したのです。
・このドラマの中で、受動的な俳優としての韓国の役割は変わらないのだ。 ならば、韓国は独立性を主張し、自分の運命の主になるべき時かもしれない。これは何よりも米国との軍事同盟の見直しを必要とする。軍事的観点からして、韓国は米軍の駐留を必要としない。
・朝鮮戦争勃発から70周年を迎えた。分断を克服するためには、究極的に韓米関係を変えなければならない。その関係を変える過程において、韓国が主導権を握ってこそ、地政学の中でも資格を備えた行為者になれる。
民族内部の対立を克服するには米韓同盟を廃棄するしかない――。この主張は韓国の左派が長らく唱えてきたことです。ただ、左派がそう主張すれば、保守や中道から反発を招いて逆効果になりかねない。そこでハンギョレは米国人の口を借りたのでしょう。
寄稿にしろ、ここまではっきりと同盟廃棄をハンギョレが訴えたのはニュースです。この記事の韓国語版に「ついにハンギョレが本性を露わした」とのコメントを書き込んだ読者がいました。
「米国は韓日併合と韓半島分断の元凶である」「文在寅政権は正気に戻って米国の植民地から独立して欲しい」といった記事に賛成する書き込みもありましたが。
「属国扱い」相次ぐ
――やはり今が「反米」の煽り時ですか?
鈴置:左派はそう判断していると思います。韓国の反米感情は「国の在り方まで米国に指図される。属国扱いだ」との悔しさから生まれます。そして最近、米国の「属国扱い」が相次いでいます。箇条書きにすると以下です。
(1)在韓米軍の駐留経費の分担額を9億ドルから50億ドルに引き上げるよう、一方的に要求した。
(2)非核化を目指す米朝交渉から韓国を排除した。
(3)韓国最大の貿易相手国である中国の包囲網に加わるよう要求した。
反米感情を煽る材料がずらりと揃いました。先に引用した「韓米同盟を見直す時期だ」もこれらを列挙したうえ、韓国に「米国から独立せよ」とささやいています。驚くほどに、韓国人の心情を読み切った記事なのです。
筆者はあまり有名な人ではありませんが、米韓同盟を憎むハンギョレにとっては便利極まりない存在です。
中国からいじめられたら助ける
――韓国は中国包囲網に加わるのでしょうか。
鈴置:そこです。中国は6月30日、「香港国家安全維持法」を公布。米中は全面的な対決に入りました。双方とも、容易なことでは引き下がれません。
当面の焦点は経済的な中国包囲網、EPN(Economic Prosperity Network=経済繁栄網)です。
米国は韓国に参加を呼びかけていますが、韓国政府は「詳しい説明を受けていない」などと逃げ回っていいます。
そんな時、東亜日報に面白い記事が登場しました。「米高官、『中国の報復の時には韓国のために何でもする準備ができている』」(6月15日、日本語版)です。
米高官とはEPNを担当するクラック(Keith Krach)国務次官です。
6月11日にインドやブラジルなど5カ国の報道機関と電話で会見、EPNや中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に対する制裁に参加するよう求めました。
韓国からは東亜日報だけが選ばれました。クラック次官の発言を記事から拾います。
・(韓国が、中国の報復措置を受ける場合)米国は韓国を助けるために何でもする準備ができている。
・全世界が中国の脅威と報復に対抗するために立ち上がらなければならない。
・中国と米国のうち一方を選択しろということではない。選択は誰にでも開かれているが、結局どちらを信頼するかの問題。
サムスンはTSMCに続くか
――「米中の二者択一ではない」と言いながら……。
鈴置:「結局は、どちらを信頼するかだ」と選択を迫ったのです。逃げ回る韓国政府に対し、東亜日報を使って警告を発したわけです。 会見で、クラック次官はサムスン電子にも言及しました。以下です。
・韓国は世界の経済的、技術的パワーハウスであり、米国だけでなく全世界的に大きな貿易パートナー。
・(サムスン電子に対しては)世界3大5G企業の一つであり、最も発達した半導体生産企業。
米政府は中国が5Gで通信の覇権を握るのを防ぐため、華為との商取引を規制しています。
クラック次官がわざわざサムスン電子に言及したのは、華為に対しシステム半導体を供給しないよう要求するためと思われます。
5Gに使う高性能のシステム半導体を生産できるのは台湾のTSMC(台湾積体電路製造)とサムスン電子くらい。
米政府はTSMCが華為に供給するのには歯止めをかけた模様で、残るサムスン電子の動向に注目が集まっています。
トランプ大統領が突然、文在寅大統領にG7に招待したのも韓国懐柔の一環と思います。
詳しくはデイリー新潮の「文在寅の懲りぬ『米中二股外交』 先進国になった! と国民をおだてつつ…」をご覧ください。
韓国は中立を守れ
一方、中国も韓国への圧力を強めています。6月16日に朝鮮日報などが開いたウェブ・シンポジウムに参加した、北京大学・国際関係学院教授で全国人民政治協商会議の賈慶林・常務委員長は以下のように語りました。
朝鮮日報の「中国は『中立守れ』…米国は『中国の報復時には助ける』」(6月17日、韓国語版)から発言を抜き出します。
・中国は米国の封鎖措置に抵抗するだけだ。中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)など様々の国際機関を創設し、各国との協力を進めている。このため、米国のEPNが成功する可能性は薄い。
・韓国が自国の利益のために正しい決定を下すと中国は期待する。韓国の最大の戦略は中・米の間で中立を守ることである。
・韓国が米国の中国封鎖に参加してはならない、というのが中国の立場である。中国の核心利益を損なってはならない。
なかなかドスが効いています。「もし韓国がEPNや、華為いじめに加われば、いじめまくるぞ」と言っているわけですから。
でも、中国の言う「中立」を守れば、米国からは中国側に走った、と見なされてしまうでしょう。韓国は板挟みです。
寝返る準備を開始
――韓国はどうするのでしょうか。
鈴置:まだ、分かりません。ただ、韓国政府は中国側に寝返った時の準備も進めています。韓国は半導体王国ですが、製造に必要な素材は国産化しきっていません。そこで日米企業に対し、素材の生産技術を韓国企業に渡すか韓国で生産せよ、と強く求めています。
ポイントになるのが、光が当たると溶けるフォトレジストという物質です。
半導体の回路を土台となるウエハーに掘るには、フォトレジストを塗っておき、回路の形通りに光を当てる方法をとります。
5G用のシステム半導体は、回路の線幅が極めて細いため極端紫外線(EUV)を当てますが、それに適合する高品位のフォトレジストが必要です。
韓国メディアはしきりに「米国や日本のメーカーがEUV用のフォトレジストの韓国生産に踏み切る」と報じます。が、それら企業のホームページでは韓国生産に関する発表が見当たらないのです。
いずれも上場会社なので、本当に韓国生産を決めたのならその情報を開示するはずです。
これから考えると、韓国政府は企業に圧力をかけつつ「韓国生産」のフェーク・ニュースを流して外堀を埋め、既成事実を作り上げる作戦と思われます。
――フォトレジストは輸出管理の対象品目ですね。
鈴置:2019年7月、日本政府は半導体関連の3つの素材に関し、対韓輸出の管理強化を実施しました。フォトレジストはその1つです。このため、この物質の「韓国生産」は韓国政府の対応策として語られがちです。
も、日本に対抗するなら、米国企業から高品位レジストを買えば済む話です 。韓国政府が日米企業の韓国生産にやけにこだわるのは、米政府が米国製の高品位フォトレジストの対韓輸出を止めるのではないかと恐れているからでしょう。
――韓国が中国の言うことを聞いた時の「制裁」ということですね。
鈴置:その通りです。サムスン電子が華為に5G用のシステム半導体を供給するなら米国には、日米の企業だけが製造する高品位のフォトレジストの対韓輸出を止める手があります。だから、そうされる前に韓国は技術を取り込んでおきたいのでしょう。
雌雄を決する米中
――結局、韓国、そして北朝鮮はどう立ち回るのでしょうか?
鈴置:南北朝鮮はどうしようもなくなります。米中が朝鮮半島に関心を持つから、南北が立ち回る余地も生まれる。でも、その関心が薄れるのです。
米中が雌雄を決するべく動き出した。
両大国は相手を打ち倒すことに集中します。
当然、彼らにとって半島問題の優先順位は急落します。
世界の覇権争いに勝てば、自動的に朝鮮半島でも有利な立場を確保できるのです。
米国が中国を下せば、中国の対北援助を止めさせることが可能になります。そうなれば北朝鮮の非核化はぐんと簡単になる。
一方、中国が米国を屈服させれば、日米同盟の弱体化を期待できる。強固な日米同盟があって初めて存在する米韓同盟は自然に崩れて行く。
中国は労せずして朝鮮半島全体を手に入れることができます。
もちろん、米中が睨み合うさなか、隙を狙って南北朝鮮が蠢動するかもしれません。
でも、北が挑発行動に出たら米国は今年6月のように演習を実施し、金正恩を暗殺するぞと脅せばよい。
北はおとなしくなるでしょう(「朝鮮半島は『2017年』に戻った 米朝の駆け引きの行きつく先は『米韓同盟消滅』」参照)。
南が中国にすり寄るなら、半導体素材の供給を止めたり、金融危機に陥れるぞと脅せばいいのです。
ちょっとした牽制球を投げるだけでいいのです。場合によっては、その必要もないかもしれません。
9回裏二死で強打者を迎えた投手は、投球に集中します。走者がちょろちょろ動いても、無視すればよい。盗塁されても、強打者を打ちとればゲームに勝てるからです。
身も蓋もない言い方ですが、朝鮮半島を巡る駆け引きは周辺大国の――現在は、米中の覇権争いの従属変数に過ぎないのです。
日本で中国を批判しても犯罪に
――「米中は世界の覇権を争う」ですか。
鈴置:「香港国家安全維持法」をお読みください。もう、問題は香港の人権問題には留まりません。日本人が日本で中国共産党を批判しても、この法律を破ったことになります。
第38条がそう規定しています。これから中国や香港には気軽に旅行できません。「中国の悪口を言っていたな」と逮捕されてしまうかもしれないのです。
犯罪と見なされる行為も幅広く、かつ、抽象的です。この法律によれば、以下の行為などが犯罪です。
・中国を分裂させ、統一を破壊すること(第20条)
・中国政府や香港政府の転覆を図ること(第22条)
・中国と香港に対し制裁、封鎖などの敵対行為をとること(第29条)
第29条により、中国や香港に経済制裁を科す米政府は犯罪国家となり、第31条の規定で罰金刑を科せられます。華為との取引を打ち切った企業も同じ扱いを受け可能性があります。
幸か不幸か現時点では、TSMCやサムスン電子のような「華為に製品を売れば米国が怒って来る」ほど、影響力のある会社は日本にありません。
ただ、米中の覇権争いが激化するに連れ、制裁対象が広がるでしょうから日本の会社も日本も、いずれ板挟みになるのは間違いありません。下手すれば、韓国よりも日本の方がつらい状況に陥ります。
属国に戻るだけ
――日本の方がつらい?
鈴置:韓国はいざとなれば米国との同盟を打ち切って、完全に中国側に行く手があります。その際、米国からは冷遇されるでしょうが、板挟みからは逃れられます。
共通の敵を失った米韓同盟はすでに風前の灯です。
もともと、朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の王朝の属国だった。多くの韓国人はうれしくはないでしょうが、米韓同盟の破棄を受け入れるでしょう。
一方、日本人は米国との同盟を失うわけにはいかない。中国の風下に立つつもりはないからです。結局、日本にとって米中板挟みが常態化するのです。
鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
週刊新潮WEB取材班編集
2020年7月7日 掲載
7/7(火) 18:15配信
デイリー新潮
米中が全面対決する。南北朝鮮の争いは、もはや「コップの中の嵐」に過ぎない――と韓国観察者の鈴置高史氏は断ずる。
親北人士を集中起用
鈴置:韓国が北朝鮮に卑屈なほどすり寄っています。
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は7月3日、情報機関である国家情報院(国情院)の院長に朴智元(パク・チウォン)前国会議員を指名しました。
金大中(キム・デジュン)元大統領の懐刀だった人です。
金大中政権時には青瓦台(大統領府)秘書室長を務め、2000年の史上初の南北首脳会談では密使を務めました。北朝鮮とのパイプを買われての起用です。
なお、金大中政権は南北首脳会談実現のため北朝鮮に5億ドルを送ったことが後に発覚、有罪判決を受けた朴智元氏は1年あまり収監されました。
統一部長官の候補には与党「共に民主党」の李仁栄(イ・イニョン)前院内代表を充てました。学生運動出身で北朝鮮と近い、全国大学生代表者協議会(全大協)の初代委員長です。
青瓦台の国家安保室長には徐薫(ソ・フン)国情院院長が回りました。情報機関の生え抜きで、北朝鮮との交渉窓口を長らく担当した人です。
2018年3月の韓国の「米朝仲介」の際には訪朝して金正恩(キム・ジョンウン)委員長と会い、返す刀でワシントンを訪れてトランプ(Donald Trump)大統領と面談しました。
文在寅政権スタート時に青瓦台秘書室長の要職を務めた任鍾晰(イム・ジョンソク)氏は、大統領外交安保特別補佐官として青瓦台に戻りした。
全大協の3代目委員長で、1989年に北朝鮮で開かれた世界青年学生祭典に代表者を送ったため3年間半、服役しています。対北特使を想定しての人事と言われています。
踏まれてもついていく下駄の雪
――北朝鮮シフトですね。
鈴置:一部は予想していたものの「これほど露骨な人事をするとは」と韓国メディアも驚いています。文在寅政権は北朝鮮から罵倒され、ついには開城(ケソン)工業団地の南北共同連絡事務所まで爆破されてしまった。
それでも、この政権は北朝鮮がいつかは対話に応じてくれると信じて北に近い人を集める。永田町で言う「踏まれても、蹴られても、ついていきます下駄の雪」状態です。
人事だけではありません。6月30日、文在寅大統領はEU首脳との電話協議で「米大統領選挙の前に朝米対話が推進される必要がある」と述べました。今年11月までに米朝首脳会談が実現するよう、自分が仕切る、と宣言したのです。
もっとも、直ちに北朝鮮に袖にされました。
北朝鮮の対外宣伝メディア「わが民族同士」(日本語版)によると、崔善姫(チェ・ソンヒ)第1外務次官は7月4日、談話を発表しました。
日本語におかしなところがありますが、談話の一部をそのまま引用します。このところ、北朝鮮媒体の日本語力は落ちる一方です。
・われわれの記憶からさえもかすかに忘れかけていた「朝米首脳会談」という言葉が、数日前から話題に上がって国際社会の耳目を集中させている。
・当事者のわれわれがどう考えるかについては全く意識せず、早まって仲裁の意思を表明する人がいるかとすれば、米大統領選の前に朝米首脳会談を行わなければならない必要性について米執権層が共感しているという声も聞こえる。
・朝米対話を自分らの政治的危機を処理するための道具としか見なさない米国とは対座する必要がない。
韓国は出しゃばるな
――「早まって仲裁の意思を表明する人」とまで、文在寅氏を馬鹿にしました。
鈴置:「我々は米国とのパイプを持っている。韓国は出しゃばるな」と揶揄したのです。ただ、文在寅政権はめげないでしょう。自分たちの存在意義は北朝鮮との関係改善にあると考えている。「下駄の雪」のように、どんなに踏まれてもついていくしかないのです。
左派は必死です。
北朝鮮の歓心を買うため、与党「共に民主党」は在韓米軍撤収を語り始めました。
外交統一委員長の宋永吉(ソン・ヨンギル)議員が7月1日、国会で開かれた懇談会で「在韓米軍はオーバーキャパ(over capacity)ではないか」――つまり、「多すぎ」と主張したのです。
北朝鮮は米韓同盟の解体を狙っています。その一里塚が在韓米軍削減・撤収です。
「我々は核を持った。米軍さえ追い出せば南は完全に言うことを聞くようになる」と踏んでいるのです。
米軍が駐留する今でさえ、韓国は北朝鮮の顔色をこれだけ見るのですから。
先に引用した「わが民族同士」(日本語版)の記事も、米国との首脳会談に応じない理由について、以下のように指摘しています。
・すでに遂げられた首脳会談の合意も眼中になく、対朝鮮敵視政策にしつこく執着している米国と果たして対話や取り引きが成立するだろうか。
・われわれと枠組みを新しくつくる勇断を下す意志もない米国がどんな小細工を持ってわれわれに接近するかということは、あえて会わなくても明白である。
北朝鮮にすれば「約束した米韓同盟解体はおくびにも出さない半面、核兵器の廃棄ばかり要求して制裁を一切、緩めない米国」はとても信用できない、ということです。
2018年6月の初の首脳会談で、米朝は「朝鮮半島の非核化」との文言により、北朝鮮の核兵器廃棄と米韓同盟の廃棄の交換を約束しました。
『米韓同盟消滅』の第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」で詳述しています。
受難のマッカーサー像
――米韓同盟解体をどれくらいの韓国人が賛成するのでしょうか。
鈴置:左派にとって米国との同盟こそが諸悪の根源です。北の同胞との和解を阻害するうえ、米国が韓国を支配するための道具――との認識です。
文在寅大統領も自伝『文在寅の運命』で「弱い民族を分断して世界を支配する米帝国主義」への反感を露わにしています(『米韓同盟消滅』第1章第1節「米韓同盟を壊した米朝首脳会談」参照)。
――保守派や普通の人は?
鈴置:彼らは米韓同盟を支持しています。
そこで、左派はタイミングを見計らっては国民の反米感情を揺り起こし、米韓同盟の廃棄を訴えるのです。
7月1日、左派は仁川(インチョン)のマッカーサー将軍の銅像の前で「米軍は出て行け」と主張する集会を開きました。
左派が銅像前で集会を開くのは反米感情を煽る時です。
親米保守にとって、マッカーサーは仁川上陸作戦を敢行し、韓国を共産化から救ってくれた恩人。
しかし左派にとっては南北の統一を阻害した張本人なのです。この銅像は時々、火あぶりにされたりします。
ついに登場、同盟廃棄論
左派系紙、ハンギョレはさらに踏み込んで米韓同盟廃棄論を載せました。米国の外交政策フォーカス所長のフェッファー(John Feffer)氏の寄稿「韓米同盟を見直す時期だ」(6月29日、日本語版)です。
「11月の米大統領選挙で民主党のバイデン(Joe Biden Jr.)候補が勝つが、次期政権も北朝鮮に対しては軍事的な威嚇政策をとる」と予想したうえ、韓国の進むべき道を以下のように示したのです。
・このドラマの中で、受動的な俳優としての韓国の役割は変わらないのだ。 ならば、韓国は独立性を主張し、自分の運命の主になるべき時かもしれない。これは何よりも米国との軍事同盟の見直しを必要とする。軍事的観点からして、韓国は米軍の駐留を必要としない。
・朝鮮戦争勃発から70周年を迎えた。分断を克服するためには、究極的に韓米関係を変えなければならない。その関係を変える過程において、韓国が主導権を握ってこそ、地政学の中でも資格を備えた行為者になれる。
民族内部の対立を克服するには米韓同盟を廃棄するしかない――。この主張は韓国の左派が長らく唱えてきたことです。ただ、左派がそう主張すれば、保守や中道から反発を招いて逆効果になりかねない。そこでハンギョレは米国人の口を借りたのでしょう。
寄稿にしろ、ここまではっきりと同盟廃棄をハンギョレが訴えたのはニュースです。この記事の韓国語版に「ついにハンギョレが本性を露わした」とのコメントを書き込んだ読者がいました。
「米国は韓日併合と韓半島分断の元凶である」「文在寅政権は正気に戻って米国の植民地から独立して欲しい」といった記事に賛成する書き込みもありましたが。
「属国扱い」相次ぐ
――やはり今が「反米」の煽り時ですか?
鈴置:左派はそう判断していると思います。韓国の反米感情は「国の在り方まで米国に指図される。属国扱いだ」との悔しさから生まれます。そして最近、米国の「属国扱い」が相次いでいます。箇条書きにすると以下です。
(1)在韓米軍の駐留経費の分担額を9億ドルから50億ドルに引き上げるよう、一方的に要求した。
(2)非核化を目指す米朝交渉から韓国を排除した。
(3)韓国最大の貿易相手国である中国の包囲網に加わるよう要求した。
反米感情を煽る材料がずらりと揃いました。先に引用した「韓米同盟を見直す時期だ」もこれらを列挙したうえ、韓国に「米国から独立せよ」とささやいています。驚くほどに、韓国人の心情を読み切った記事なのです。
筆者はあまり有名な人ではありませんが、米韓同盟を憎むハンギョレにとっては便利極まりない存在です。
中国からいじめられたら助ける
――韓国は中国包囲網に加わるのでしょうか。
鈴置:そこです。中国は6月30日、「香港国家安全維持法」を公布。米中は全面的な対決に入りました。双方とも、容易なことでは引き下がれません。
当面の焦点は経済的な中国包囲網、EPN(Economic Prosperity Network=経済繁栄網)です。
米国は韓国に参加を呼びかけていますが、韓国政府は「詳しい説明を受けていない」などと逃げ回っていいます。
そんな時、東亜日報に面白い記事が登場しました。「米高官、『中国の報復の時には韓国のために何でもする準備ができている』」(6月15日、日本語版)です。
米高官とはEPNを担当するクラック(Keith Krach)国務次官です。
6月11日にインドやブラジルなど5カ国の報道機関と電話で会見、EPNや中国の通信大手、華為技術(ファーウェイ)に対する制裁に参加するよう求めました。
韓国からは東亜日報だけが選ばれました。クラック次官の発言を記事から拾います。
・(韓国が、中国の報復措置を受ける場合)米国は韓国を助けるために何でもする準備ができている。
・全世界が中国の脅威と報復に対抗するために立ち上がらなければならない。
・中国と米国のうち一方を選択しろということではない。選択は誰にでも開かれているが、結局どちらを信頼するかの問題。
サムスンはTSMCに続くか
――「米中の二者択一ではない」と言いながら……。
鈴置:「結局は、どちらを信頼するかだ」と選択を迫ったのです。逃げ回る韓国政府に対し、東亜日報を使って警告を発したわけです。 会見で、クラック次官はサムスン電子にも言及しました。以下です。
・韓国は世界の経済的、技術的パワーハウスであり、米国だけでなく全世界的に大きな貿易パートナー。
・(サムスン電子に対しては)世界3大5G企業の一つであり、最も発達した半導体生産企業。
米政府は中国が5Gで通信の覇権を握るのを防ぐため、華為との商取引を規制しています。
クラック次官がわざわざサムスン電子に言及したのは、華為に対しシステム半導体を供給しないよう要求するためと思われます。
5Gに使う高性能のシステム半導体を生産できるのは台湾のTSMC(台湾積体電路製造)とサムスン電子くらい。
米政府はTSMCが華為に供給するのには歯止めをかけた模様で、残るサムスン電子の動向に注目が集まっています。
トランプ大統領が突然、文在寅大統領にG7に招待したのも韓国懐柔の一環と思います。
詳しくはデイリー新潮の「文在寅の懲りぬ『米中二股外交』 先進国になった! と国民をおだてつつ…」をご覧ください。
韓国は中立を守れ
一方、中国も韓国への圧力を強めています。6月16日に朝鮮日報などが開いたウェブ・シンポジウムに参加した、北京大学・国際関係学院教授で全国人民政治協商会議の賈慶林・常務委員長は以下のように語りました。
朝鮮日報の「中国は『中立守れ』…米国は『中国の報復時には助ける』」(6月17日、韓国語版)から発言を抜き出します。
・中国は米国の封鎖措置に抵抗するだけだ。中国はAIIB(アジアインフラ投資銀行)など様々の国際機関を創設し、各国との協力を進めている。このため、米国のEPNが成功する可能性は薄い。
・韓国が自国の利益のために正しい決定を下すと中国は期待する。韓国の最大の戦略は中・米の間で中立を守ることである。
・韓国が米国の中国封鎖に参加してはならない、というのが中国の立場である。中国の核心利益を損なってはならない。
なかなかドスが効いています。「もし韓国がEPNや、華為いじめに加われば、いじめまくるぞ」と言っているわけですから。
でも、中国の言う「中立」を守れば、米国からは中国側に走った、と見なされてしまうでしょう。韓国は板挟みです。
寝返る準備を開始
――韓国はどうするのでしょうか。
鈴置:まだ、分かりません。ただ、韓国政府は中国側に寝返った時の準備も進めています。韓国は半導体王国ですが、製造に必要な素材は国産化しきっていません。そこで日米企業に対し、素材の生産技術を韓国企業に渡すか韓国で生産せよ、と強く求めています。
ポイントになるのが、光が当たると溶けるフォトレジストという物質です。
半導体の回路を土台となるウエハーに掘るには、フォトレジストを塗っておき、回路の形通りに光を当てる方法をとります。
5G用のシステム半導体は、回路の線幅が極めて細いため極端紫外線(EUV)を当てますが、それに適合する高品位のフォトレジストが必要です。
韓国メディアはしきりに「米国や日本のメーカーがEUV用のフォトレジストの韓国生産に踏み切る」と報じます。が、それら企業のホームページでは韓国生産に関する発表が見当たらないのです。
いずれも上場会社なので、本当に韓国生産を決めたのならその情報を開示するはずです。
これから考えると、韓国政府は企業に圧力をかけつつ「韓国生産」のフェーク・ニュースを流して外堀を埋め、既成事実を作り上げる作戦と思われます。
――フォトレジストは輸出管理の対象品目ですね。
鈴置:2019年7月、日本政府は半導体関連の3つの素材に関し、対韓輸出の管理強化を実施しました。フォトレジストはその1つです。このため、この物質の「韓国生産」は韓国政府の対応策として語られがちです。
も、日本に対抗するなら、米国企業から高品位レジストを買えば済む話です 。韓国政府が日米企業の韓国生産にやけにこだわるのは、米政府が米国製の高品位フォトレジストの対韓輸出を止めるのではないかと恐れているからでしょう。
――韓国が中国の言うことを聞いた時の「制裁」ということですね。
鈴置:その通りです。サムスン電子が華為に5G用のシステム半導体を供給するなら米国には、日米の企業だけが製造する高品位のフォトレジストの対韓輸出を止める手があります。だから、そうされる前に韓国は技術を取り込んでおきたいのでしょう。
雌雄を決する米中
――結局、韓国、そして北朝鮮はどう立ち回るのでしょうか?
鈴置:南北朝鮮はどうしようもなくなります。米中が朝鮮半島に関心を持つから、南北が立ち回る余地も生まれる。でも、その関心が薄れるのです。
米中が雌雄を決するべく動き出した。
両大国は相手を打ち倒すことに集中します。
当然、彼らにとって半島問題の優先順位は急落します。
世界の覇権争いに勝てば、自動的に朝鮮半島でも有利な立場を確保できるのです。
米国が中国を下せば、中国の対北援助を止めさせることが可能になります。そうなれば北朝鮮の非核化はぐんと簡単になる。
一方、中国が米国を屈服させれば、日米同盟の弱体化を期待できる。強固な日米同盟があって初めて存在する米韓同盟は自然に崩れて行く。
中国は労せずして朝鮮半島全体を手に入れることができます。
もちろん、米中が睨み合うさなか、隙を狙って南北朝鮮が蠢動するかもしれません。
でも、北が挑発行動に出たら米国は今年6月のように演習を実施し、金正恩を暗殺するぞと脅せばよい。
北はおとなしくなるでしょう(「朝鮮半島は『2017年』に戻った 米朝の駆け引きの行きつく先は『米韓同盟消滅』」参照)。
南が中国にすり寄るなら、半導体素材の供給を止めたり、金融危機に陥れるぞと脅せばいいのです。
ちょっとした牽制球を投げるだけでいいのです。場合によっては、その必要もないかもしれません。
9回裏二死で強打者を迎えた投手は、投球に集中します。走者がちょろちょろ動いても、無視すればよい。盗塁されても、強打者を打ちとればゲームに勝てるからです。
身も蓋もない言い方ですが、朝鮮半島を巡る駆け引きは周辺大国の――現在は、米中の覇権争いの従属変数に過ぎないのです。
日本で中国を批判しても犯罪に
――「米中は世界の覇権を争う」ですか。
鈴置:「香港国家安全維持法」をお読みください。もう、問題は香港の人権問題には留まりません。日本人が日本で中国共産党を批判しても、この法律を破ったことになります。
第38条がそう規定しています。これから中国や香港には気軽に旅行できません。「中国の悪口を言っていたな」と逮捕されてしまうかもしれないのです。
犯罪と見なされる行為も幅広く、かつ、抽象的です。この法律によれば、以下の行為などが犯罪です。
・中国を分裂させ、統一を破壊すること(第20条)
・中国政府や香港政府の転覆を図ること(第22条)
・中国と香港に対し制裁、封鎖などの敵対行為をとること(第29条)
第29条により、中国や香港に経済制裁を科す米政府は犯罪国家となり、第31条の規定で罰金刑を科せられます。華為との取引を打ち切った企業も同じ扱いを受け可能性があります。
幸か不幸か現時点では、TSMCやサムスン電子のような「華為に製品を売れば米国が怒って来る」ほど、影響力のある会社は日本にありません。
ただ、米中の覇権争いが激化するに連れ、制裁対象が広がるでしょうから日本の会社も日本も、いずれ板挟みになるのは間違いありません。下手すれば、韓国よりも日本の方がつらい状況に陥ります。
属国に戻るだけ
――日本の方がつらい?
鈴置:韓国はいざとなれば米国との同盟を打ち切って、完全に中国側に行く手があります。その際、米国からは冷遇されるでしょうが、板挟みからは逃れられます。
共通の敵を失った米韓同盟はすでに風前の灯です。
もともと、朝鮮半島の歴代王朝は中国大陸の王朝の属国だった。多くの韓国人はうれしくはないでしょうが、米韓同盟の破棄を受け入れるでしょう。
一方、日本人は米国との同盟を失うわけにはいかない。中国の風下に立つつもりはないからです。結局、日本にとって米中板挟みが常態化するのです。
鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
週刊新潮WEB取材班編集
2020年7月7日 掲載