北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】アエロインディア2021,テジャス量産とロシアSu-57,ブーメラン装甲車初登場

2021-02-18 20:19:43 | コラム
■特報:世界の防衛,最新論点
 アエロインディア2021、インドにおいて2年に一度開催されます防衛装備品展が2月3日から7日までイェラハンカ空軍基地にて挙行されました。

 2019年には航空自衛隊のC-2輸送機が展示された事でも知られましたが、今年の主役は何と言ってもテジャス戦闘機、毎回是非行きたいが伊勢湾機雷戦訓練があるしなあ、と冗談の種となる防衛装備品展です。テジャス戦闘機の量産決定は驚かされました。ここまで遅延するのは難しいですが日本のF-2後継機計画も大器晩成を期せば妥協で何とかなる、というべきか。

 テジャス戦闘機は戦闘機界のサグラダファミリアと呼ばれ中々完成しない事で知られていましたが遂に80機の量産が正式に決定したほか、テジャス戦闘機工場の拡張による年産16機体制への拡大、テジャス戦闘機空母艦載機型発表など完成すると思わなかっただけに驚きの、発表が続いていましたが、早期警戒機構想など他にも注目はあり、この点を纏めた。

 インド防衛装備展“アエロインディア2021”において、インド空軍はエアバスA320改造型の新型早期警戒機計画を発表しました。これは欧州製エアバスA-320旅客機にカヌー型通信アンテナを搭載する事で早期警戒機に改造する案で、アエロインディア2021にはイメージ動画の他、縮尺模型に旅客機にアンテナを搭載した機体を一般に公開しています。日本はE-2Dを導入する中、インドは国産へ。

 A-320旅客機模型にはCABS-DRDO 社がエンブラエル社製ビジネスジェットに搭載したNetra早期警報システムと類似した240度の範囲を警戒可能であるレーダーとともに前方を警戒するAESAレーダーと思われるものが旅客機機首に搭載された模型で、胴体上部と機首にレーダーを搭載する事で360度の警戒監視能力を意図している形状といえましょう。

 ロシアの防衛産業ロステック社はインドにて開催されたエアロインディア2021兵器展に第五世代戦闘機Su-57の実物大模型を展示した。アエロインディア2021はインドのバンガロールにて2月3日から5日にかけ実施されたもので、ロステック社は安価な第五世代戦闘機選択肢であるSu-57には複数の国が関心を示した、と2日付タス通信取材に応じた。安価でF-22に対抗出来るのは本当か。

 Su-57E、今回展示された模型はSu-57の輸出型として開発されたSu-57Eであり、ステルス性と高速度性能を兼ね備えつつ、しかしF-22やF-35といった競合する第五世代航空機よりも安価とした点を特色としている。Su-57はスホーイ社により開発されており、2028年までに76機を量産予定、製造はコムソモリスクオンアムール航空工場にて行われている。

 ロシアの防衛産業ロステック社はアエロインディア2021に開発中のK-16/K-17ブーメラン装甲車を初展示しロシア国外での初めての国際商戦への参入となった。VPK7829戦闘車両として開発が進められたブーメランは、八輪型の装輪装甲戦闘車であるK-17ブーメランと、八輪型の水陸両用装甲車であるK-16ブーメランからなり、車体部分は共通構造である。我が国の96式装輪装甲車よりも完成度が高い。

 ブーメランはK-17が重量25tであり30mm機関砲を搭載しており、K-16は12.7mm重機関銃を搭載し重量22tとなっており、ヤロスラブリエンジン社製の750hpディーゼルエンジンにより舗装道路上を100km/hの高速で機動出来る他、10km/hの浮航能力がある。またオプションとして、Afganitアクティヴミサイル防御システムを搭載する事も可能という。

 ロシア陸軍ではソ連時代に開発されたBTR-80装輪装甲車が自動車化狙撃部隊の主力を構成しているが、BTR-80は原型のBTR-60からの設計を踏襲し、兵員室の乗降扉が車体後部ではなく車体左右側面に配置されており、BTR-60よりは扉が大型化しているものの乗降の煩雑さが難点であった。ブーメランは後部に扉を配置し、迅速な乗降が可能となっている。

 ロシアの連邦軍事技術協力機構副部長はアエロインディア2021においてインドへのS-400ミサイルシステム輸出は2021年内に最初のミサイルが納入されると2月3日にインターファクス通信の取材において発言した。S-400はロシア製広域防空システムであり、対航空機用及び限定的な弾道ミサイルに対応、射程は300km規模と非常に長い事で知られる。

 S-400はインド軍が2018年に54億ドルで導入契約をしており、連邦軍事技術協力機構副部長のウラジミールドロジゾフ氏によれば、既にインド軍訓練要員がロシアへ入国し教育訓練中とのこと。なお、アメリカの駐インド大使館ドンヘフリン臨時代理大使はアメリカの対ロシア経済制裁対象にS-400が含まれ、インドへの防衛装備品供与の影響を示唆した。トルコとアメリカの摩擦を見るとこの分野で日本が貢献できる部分もあるようにも。

 COVID-19感染拡大が続くと共に毎日世界では40万以上が感染し1万5000名が死亡、世界感染者1億0884万で死者250万を越えたという最中、アエロインディアではCOVID-19陰性証明必須とサージカルマスク&フェイスマスク必須の感染強化下で実施、飛行展示も実施されました。多数がオンラインであった2020年よりは日常は戻りつつあるようですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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【京都幕間旅情】勝竜寺城-神足神社,羽柴秀吉天王山の戦い勝利の背景は”最後は愛”があった

2021-02-17 20:20:55 | 写真
■羽柴秀吉中国大返しの論拠
 麒麟がくる、此処に併せて散策してみました天王山とその周辺の情景と共にふと気づいた点などを示す一連の話題は今回が最終回です。

 勝竜寺城は織田信長の勢力下に入りますと細川藤孝が城主となります。信長は続いて東側に槇島城を造営、ここは現在の宇治市に位置しますが、後に羽柴秀吉が整備するまでは宇治市と長岡京市の狭間は湿地帯で、この二箇所を抑える事で京都防衛を確たるしました。

 神足神社。京都府長岡京市東神足二丁目にあります、桓武天皇の時代に平安遷都に先立つ頃、内裏に及ぶ悪霊をこの近くの泉に神々が降りたち防いでいるとの夢見から、絹と剣を収めるべく創建された神社です。ここにも勝竜寺城の遺構があり、続いて散策が趣き深い。

 松井屋敷、米田屋敷、神足屋敷。勝竜寺城は三つの郭から構成される城郭であったようで、また、東山文庫記という天正時代の文献には天守閣と思われる施設が中央部に建築されていたといい、実は有名な安土城天守閣よりも早い最古の天守閣であったともいわれます。

 神足神社、勝竜寺城の北隣には神足神社がありまして、そもそも長岡京駅が出来る前はここに東海道本線神足駅があったほどですから、地名としては神足が歴史的です。神足神社の境内には城郭の遺構、掘割や土塁なども残っていますので、改めて参拝したいところ。

 さて。本能寺の変、その後に視点を転じましょう。明智光秀は勝竜寺城から指揮しました。なるほど歴史の文献に知識として様々なものを得てゆくのと、実際に歩みを進めてみてみますと、不思議と感じ入るものは別のものとなるものでして。今回は中国大返しの謎を。

 本能寺の変の情報が秀吉の元に届いたのは諸説ありますが有力説は二日後とされています、本能寺の変は6月2日、羽柴軍230km移動し山崎に布陣を完了したのは12日とされています。単に引き返すだけではなく、中国攻めの最中ですので大急ぎで講和し、引き返えす。

 完全武装のまま引き返すのは、しかし戦術的に不可能でしょうか。姫路城があった。上記顛末だけをみていますと、やはりドラマでも態度悪かった秀吉があやしい、と思われるかもしれませんが秀吉は別に全軍だけで引き返す必要はなかったのですね。補給路が在った。

 秀吉は中国攻めに際して、本拠地の長浜城から明石城や姫路城などを経由し、中国地方まで山陽道を幾つもの中継地を置いた補給路を準備していました。兵糧はもちろん予備人員も含めて中継点には蓄積、230km敵中を突破したのではなく、単に補給路に沿い戻るだけ。

 兵站といいますか戦闘支援、この視点から考えますと、中国大返しは割と自然なものでして、天王山まで、明智軍の妨害もありませんでした。実はもう一つ、秀吉の視点に立てば、急がなければならぬ理由が在った。愛する妻おねが琵琶湖畔の長浜城に取り残されている。

 戦国随一の愛妻家という羽柴秀吉長浜城に急ぐ。実際安土城などが明智軍に攻撃され焼かれているのですから、このままでは妻子が危ない、すると多少無理をしてでも全力で秀吉が引き返す必要があった、明智軍は邪魔なので撃破した、で納得できてしまうのですよね。

 東海道本線の新快速や北陸特急サンダーバードが全速で通過する沿線に位置する城郭、新快速は長浜に向かい、なにかこう、愛妻が敵中に孤立しつつある最中に駆け付ける秀吉の心境が、わかるのですね。豊臣時代、近畿一円は盤石に安定化、城はその役割を終える。

 江戸時代には山城長岡藩が置かれ初代藩主永井直清は城郭遺構の北側に大名屋敷を造営、その際に破損部分を僅かに手直ししましたが摂津高槻藩に統合され廃城となった。城跡には1992年から模擬櫓と虎口跡、模擬隅櫓に掘割と土塁、と整備され往時の面影を伝えます。

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【防衛情報】アイアンドーム米到着と露ハボック改良,独マンティスとJLTV機動車無人機狩り

2021-02-16 20:05:56 | 先端軍事テクノロジー
■週報:世界の防衛,最新12論点
 今回は防空やヘリコプターに小型装備等12の話題を。ミサイル防衛に当るイージス艦とCIWSやSEA-RAMのような装備をTHAADミサイルも必要としているのかもしれません。

 アメリカ陸軍はイスラエル製アイアンドーム戦術防空システム評価支援用の2基目のシステムを受領しました、評価試験用に導入されるアイアンドームはこれで完納となります。アイアンドームはカッサムロケット等短射程のロケット弾による同時飽和攻撃に強い防空能力を発揮出来、既にイスラエルでは2400回以上の迎撃任務に成功した実績があります。

 アイアンドーム戦術防空システムは今後、ホサイトサンドミサイル射撃場において徹底した評価試験を受け、巡航ミサイルや砲弾に対する防空能力を試験します。アメリカ陸軍では中距離弾道弾等からの防空を担うTHAAD終末高高度迎撃システムとの連接により、THAADの弱点とされる巡航ミサイル攻撃や砲撃などから防護する運用を構想している。

 アイアンドーム戦術防空システムについて、アメリカ陸軍での運用に特筆されるのはオシコシ社製トラックによる機動運用を期している点で、イスラエル国防軍では事実上の固定配備運用を執っているのに対しアメリカ陸軍では自走地対空ミサイルシステムとして運用するようで、評価試験後、2022年までにテキサス州フォートブリスに配備される計画です。
■CH-53Kキングスタリオン
 CH-53Kキングスタリオンは海上自衛隊が運用していましたMH-53掃海ヘリコプターの原型最新型です。

 アメリカ海軍は最新鋭のCH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプター6機の低ロット生産分の契約を5億5040万ドルにてシコルスキー社との間で締結した。CH-53K重輸送ヘリコプターはアメリカ海兵隊所要の機体であり、航空調達は海軍が調達し海兵隊へ配備する調達方式を採っている。生産初期の低ロット生産分は24機分を契約する方針である。

 CH-53Kキングスタリオン重輸送ヘリコプターは海兵隊に200機が調達される方針で、現行のCH-53Eスーパースタリオン重輸送ヘリコプターを更に強化したものだ。6機で5億5040万ドルとは如何にも高額であるが、低ロット生産から本格的な量産へ移行した際には費用は低減されよう、今回の契約となった機体は2024年に海軍へ納入される計画である。
■ハボックの高地運用試験
 ハボック攻撃ヘリコプターはロシア版アパッチと呼ばれるヘリコプターです。

 ロシア軍はMi-28NMハボック攻撃ヘリコプター及びMi-26T2Vヘイロー重輸送ヘリコプターの高高度試験を12月より開始したとのこと、これはコーカサス山脈の最高峰であるエルブレス山付近において実施されている、エルブレス山山頂の標高は5642mだ。山間部での運用試験は既にシリア国内において実施されており、今回の試験は冬季運用が主眼だ。

 ハボックはロシア版アパッチとして旧式化したMi-24ハインドを置き換える機体ですが新たに出力を向上させたVK-2500Pエンジンが開発され、10月までの低地での運用試験を完了させているが、今回のコーカサスでは、その高高度冬季運用試験が行われる。ハボックはN025レーダーによる対地捜索や無人機の管制運用能力と能力向上を進めているもの。

 ヘイローことMi-26T2V重輸送ヘリコプターは20tというC-130輸送機並の輸送力を持つ世界最大のヘリコプターでNPK90-2V統合航法装置の高山部での能力試験が今回実施される。特に標高5000m級の高山地域における自動操縦での夜間輸送能力を試験する。二機種による試験は技術試験と共にコーカサス地方でのプレゼンス発揮も目的と考えられよう。
■ハインド後継にH-145
 ハインドと云えば重武装の攻撃ヘリコプターですが、ハンガリーは意外な軽量ヘリコプターを後継機に充てるようです。

 ハンガリー空軍は運用するエアバスH-145M軽ヘリコプターH-Force武装システム搭載型の近代化改修を行う方針です。H-145Mはハンガリー軍に20機が配備されています。H-Forceは高機能カメラ装置と操縦系統への防弾板追加、またハイドラ70ロケット12連発射装置や12.7mm機銃ポッドを搭載、軽攻撃や軽輸送に用いられる武装ヘリコプターだ。

 H-145M軽ヘリコプターは原型が川崎重工のBK-117-C2です,Mi-24ハインド重輸送ヘリコプターの後継機として導入されたもので、重厚なハインドと比較した場合、一見非力には見えますがNATO標準装備を搭載しており、対戦車ミサイルの搭載も将来的に可能です。近代化改修は既に3機に行われ、2021年にも追加の2機が近代化改修を受けるとのこと。
■アフガニスタンのMD-500
 MD-500シリーズと云えば2019年度まで自衛隊で運用されていましたOH-6シリーズそのものですね。

 アフガニスタン軍はアメリカのMDヘリコプターズ社よりMD-530Fウォリアー軽武装ヘリコプター12機を14億ドルにて運用契約する事となりました。MD-530Fは機体こそ安価なMD-500系統ではありますがディロンMCAS航空武装システム及びFNハースタル12.7mm重機関銃ポッド、M-260七連装ロケットポッド等を搭載し高度に武装されている。

 MD-530Fウォリアー軽武装ヘリコプター12機を14億ドルにて運用契約、一見非常に高価に見える契約ですが、これはMDヘリコプターズ社による運用支援及び整備支援を盛り込んだものといい、アフガニスタン軍は五年間に渡り同国での実任務に必要な支援を受ける事を意味します。現在アフガニスタンには世界有数のMD-530運用実績が積まれている。
■アメリカのJLTV統合機動車輛
 自衛隊の高機動車後継車両も機動性よりも生存性を考え、このように頑丈な車両となるのでしょうか。

 アメリカ陸軍は2021年よりハンヴィー高機動車後継のJLTV統合軽量機動車輛3230両の受領開始にあたってJLTVを製造するオシュコシ社はその生産ラインを報道公開したとのこと。陸軍と空軍が第一線での運用を想定し開発、JLTV-GP汎用型、JLTV-UTL多目的車輛、JLTV-HGC重機関銃搭載型、これらは一つの生産ラインで基本車輛が製造されます。

 JLTV統合軽量機動車輛3230両は2021年から2045年までの間に年間125両から150両を生産しハンヴィー高機動車を置き換える事としています。ただ、陸軍及び空軍はM-1114装甲ハンヴィーの全てをJLTVにより置き換えるのではなく、汎用輸送車や支援車両としてハンヴィーの運用は継続される予定で、JLTVはより危険な地域へ投入される計画です。
■JLTV,機関砲搭載で無人機狩りへ
 無人機は情報優位喪失や徘徊型弾薬など新しい脅威となっていますが、機関砲という従来型の装備がその天敵となるかもしれない。

 アメリカ海兵隊はJLTV統合軽多目的車両の一部に30mm機関砲を搭載する構想だ。JLTV統合軽多目的車両は現在アメリカ四軍で広範に運用されているハンヴィー高機動車の後継車両であり、一部は装甲防御を有するアメリカ版軽装甲機動車というべき車輛である。構想では四輪駆動型JLTVの車体上面にXM914E1/30mm機関砲を搭載するという。

 XM914E1/30mm機関砲はX-113砲弾という新型の空中炸裂弾を投射し、主として無人機やヘリコプターに対する近接防空に充てる構想だ。空中炸裂弾による無人機対処の場合、一定高度以上では破片による地上への被害を抑制できるとされ、また既存の遠隔操作銃搭RWSへ搭載する事で開発リスクを極小化できるとのこと。当面は300両への搭載を見込む。
■フィリピン軍TOW導入
 自衛隊で用途廃止となった重MATなども案外第二の使い手が在ったのかもしれませんね。

 フィリピンは11月23日、アメリカからTOW対戦車ミサイル100基など1800万ドル相当の武器をアメリカから有償供与されました。この内訳はTOWミサイル本体100発、発射装置12基、また航空機に搭載するMk.82/500ポンド爆弾24発などとなっています。フィリピン陸軍は15万名、これだけの装備が在れば一個大隊が短期間戦闘可能でしょう。

 TOW対戦車ミサイル等を必要とする背景には、フィリピンでは中国により自国環礁を不法占拠され緊張関係が続くとともに、フィリピン国内にもイスラム武装勢力による脅威が現在進行形で顕在化しており、機銃拠点等に対する有効な打撃手段として対戦車ミサイルは有用であり、また空軍の軽攻撃機や高等練習機攻撃型は500ポンド爆弾を搭載可能です。
■ドイツのマンティス機関砲
 自衛隊でもおなじみのエリコン社は現在ラインメタル社の傘下に在ります。

 ドイツ連邦軍は現在試験中のマンティス高射機関砲システムの連続射撃耐久試験を実施しました。マンティス高射機関砲システムは35mm無人砲塔システム6基と射撃管制装置2基から構成され、各機関砲は毎分1000発の速度で射撃が可能となっており、主としてアフガニスタンでの無人機攻撃やロケット弾のテロ攻撃を迎撃する運用が想定されています。

 連続耐久試験では22000発が発射され少なくとも複数回に渡り4000発を連続射撃する試験が行われましたが、これにより3本の銃身が限界に達したとのこと。マンティスはエリコン35mmの改良型、35mm砲弾には各152個の3.3gタングステン弾体を内蔵します。近年高射機関砲は近年脅威となる無人機や徘徊式弾薬に対しても有用と考えられています。
■スウェーデンのペトリオット
 スウェーデン軍も広域防空から弾道ミサイルへも対処できるアメリカ製ペトリオットミサイルを採用しました。

 スウェーデン国防装備庁は12月、スウェーデン軍が新たに導入するアメリカ製ペトリオットミサイルシステムの試験用、最初の納入を受けました。スウェーデン軍では次期地対空ミサイルとしてペトリオットミサイルとフランスのユーロSAM社製アスター30/SAMP/T地対空ミサイルを比較した上で、ペトリオットミサイル採用を決定しています。

 ペトリオットミサイルは設計が古く、例えば垂直発射に対応していない為に射撃陣地の制約がある等、アスター30/SAMP/Tに対し陳腐化している点はありますが、長期的な運用を経ているペトリオットミサイルには信頼性があり、スウェーデン軍に採用されたというもの。スウェーデン軍はペトリオットPAC-3を4個射撃中隊とミサイル400発を導入します。
■インドネシアのベル412EPI
 インドネシアも自衛隊のUH-1Jと同じ後継機を選んだ模様です。

 インドネシア陸軍は2020年12月末にベル412EPI多用途ヘリコプターの初号機を受領しました。これはベルヘリコプターテキストロン社との間で2016年に成約した契約に基づきPTDIインドネシア国営航空宇宙公社によりノックダウン生産される9機の内の初号機で、PTDIでの組み立ては24カ月間という長期間を要し完成の後、飛行試験を行いました。

 ベル412EPIはインドネシア軍で既に運用中であるベル412EPの改良型であり、エンジン出力強化とアヴィオニクスの近代化が行われています。インドネシア軍では最新鋭のAH-64Eアパッチガーディアンを取得しましたが、その数は充分ではなく、ベル412EPIへはディロンエアロスペース社製多銃身機銃を搭載しガンシップとする構想もあります。
■NATO,トルコへミサイルの提言
 アメリカ製や欧州製ミサイル以外にNATOというかアメリカのシステムと適合するミサイルには日本製も薦めたいところ。

 NATOのストルテンバーグ事務局長はトルコ政府に対してトルコ軍がNATOの一員としてロシア製S-400ミサイルシステムを運用する事はNATO航空機を危険にさらすと改めて表明しました。S-400はデータリンクに際してNATO防空システムにロシア製バックドアの危険が及ぼす可能性があり、また要撃管制網や敵味方識別機能への影響も未知数です。

 S-400はNATOと軍事対立下の時代に開発されておりNATOシステムへの適合を念頭に開発されていません。トルコは既にアメリカCAATSA敵対制裁法に基づく軍事調達局4名への制裁措置を実施しています。こうした中ストルテンバーグ事務局長はトルコ政府に対し、NATO装備体系に適合するアメリカ製ペトリオット、ユーロサムSAMP/Tを提唱しました。

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そうりゅう,高知沖衝突事故の検証【2】潜水艦事故イギリスは2000年~2016年に22回発生

2021-02-15 20:09:50 | 防衛・安全保障
■事故一週間,そうりゅう阪基へ
 そうりゅう衝突事故から一週間が経ちましたが阪神基地入港、潜舵が大きく変形し痛々しいものの、30年ぶりの大事故と云うのは大袈裟すぎるだろうとのご指摘がありました。

 あさしお事故。2007年11月21日に宮崎県日向市油津港沖50kmの海域でAIP実験潜水艦に位置付けられた練習潜水艦あさしお、がパナマ船籍のケミカルタンカースプリングオースターと衝突し推進装置近くの縦舵を大きく変形させる事故が生じているとお教えいただきまして、云われてみればと確認しますと、記憶よりも激しく損傷し驚かされました。

 アメリカ海軍では潜水艦事故は年間4回程度、艦橋が折れるとかソナードーム全損総取換等、被害額200万ドル以上か殉職者が出た事故をクラスA事故、被害額50万ドル以上200万ドル以下をクラスB事故と区分し、2005年は5件、2006年は4件、2007年5件、2008年5件、2009年は6件、2010年は1件、2011年3件、2012年1件、2013年5件、と。

 イギリス海軍と比較してみよう。日本だけを検証しては不十分であろうと思い、また最新のレーダーやソナーを装備する潜水艦でも事故は起きるのか、というコメントもお寄せいただきましたので、イギリス海軍と比較してみる事としました。イギリスは攻撃型原潜7隻と戦略ミサイル原潜4隻の潜水艦11隻体制、事故は2000年から2016年まで22件です。

 セプター。2000年3月6日、造船所に入渠中ドック内で誤って全速前進し足場を破損。タイヤレス。2000年5月原子炉一時冷却装置故障で原子炉停止し補助動力作動せず漂流。ヴィクトリアス。2000年11月2日スコットランドクライド湾で座礁。トライアンフ。2000年11月19日スコットランド西海岸沖水深200mを22ノットで座礁。この年は事故が続く。

 ヴィクトリアス。2001年7月26日アメリカ沿岸警備隊の艦艇と衝突事故、ただし損害は軽い。セプター。2002年1月に原子炉に暴走の危険性が発見され二年前の造船所内暴走事故とも因果関係が判明する。トラファルガー。2002年11月、教育中スコットランドスカイ島で海底衝突し3名負傷、このままでは衝突すると警告したが練習生が理解せず海底へ。

 タイヤレス。2003年5月13日氷山と衝突し浸水、損傷し艦首が9度下がる。イギリス海軍が久々に実施した北極海域での航行ではあったのですが衝突直前または衝突まで目の前の氷山を探知できなかったという。セプター。2005年2月3日、非核動力系異常でジブラルタル緊急入港、破損個所が原子炉でないか放射能漏れは無いかと疑うスペインと係争に。

 タイヤレス。2007年3月21日、北極近くで爆発事故2名死亡、艦内では治療できない規模の重症者が複数出た為に負傷者はアメリカ軍の支援を受けアラスカのエルメンドルフ基へ。シュパーブ。2008年5月26日スエズ運河で衝突事故、潜航不能。正確にはスエズ運河海域に含まれる紅海での事故で浮上系統のメインタンクや隔壁まで被害が及ぶ事故です。

 ヴァンガード。2009年2月4日大西洋でフランスの潜水艦 トリオンファンと海中で衝突、衝突直前まで双方を認識していなかったと仏国防相の発言も。アスチュート。2010年10月22日スカイ島沖で座礁し航行不能、曳航され修理に。アスチュート。2010年12月11日、座礁修理完了当日動力系統異常により緊急帰港、と二回連続の事故に見舞われます。

 タービュレント。2011年5月26日、熱交換器故障の高熱で死傷者26名が発生、潜航中に艦内が90度から100度まで上昇する非常事態に。ヴァンガード。2012年1月微細な破損によりPWR2試験炉の冷却水から放射線が検出される。アスチュート。2012年11月12日、原子炉パイプ継ぎ目の不適部品から漏えいが判明します。原子炉事故が連続してゆく。

 タイヤレス。2013年2月19日原子炉冷却装置破損でデボンポートに緊急入港へ。タレント。2014年にロシア海軍監視中氷山と衝突と2015年に発表されました、事故は一年間発表されませんが新聞報道により事実を認める。ヴェンジャンス。2016年6月アフリカ沖に試験中のトライデントが米国東海岸沖へ飛翔、一歩間違えれば第三次世界大戦といえる。

 トライデントミサイルは潜水艦発射弾道弾、訓練用なので核弾頭は無くフロリダは消滅を免れた。アスチュート。2016年7月20日ジブラルタル海域で浮上中に商船と衝突する。アンブッシュ。2016年7月20日ジブラルタル海域で商船アンドレアスと衝突ソナー破損する。つまりイギリスは同じ日に7隻ある攻撃型原潜の内で2隻が事故に見舞われた事に。

 イギリスは16年で22件、潜水艦1隻当り2回の計算です。イギリスは原潜で自衛隊は通常動力潜水艦、一概には比較できませんが座礁して入渠とか海底に衝突して航行不能、という事故は聞きません。トライデントミサイルは積んでいませんが実弾の誤射もありません。すると30年ぶりの事故と云うのは誇大表現だったか、深く反省しているところです。

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令和福島県沖地震発生,マグニチュード7.3-3.11東日本大震災東北地方太平洋沖地震の余震

2021-02-14 20:10:59 | 防災・災害派遣
■震度6強-長周期地震動階級4
 2011年3月9日1145時に三陸沖でマグニチュード7.3の当時としては巨大地震が発生、これを昨晩思い出させる緊張がありました。

 昨晩の2021年2月13日2307時、久々に緊急地震速報が鳴り響き、緊急地震速報の警戒範囲は福島県と宮城県の点灯から東北全域へ、そして警戒範囲は北関東へと広がり、直後のNHK東京ではまさに揺れる東京渋谷から地震発生中の第一報を速報を通知していましたが、その直後に長周期振動は日本全域に伝播してゆきました、2021年福島県沖地震です。

 防衛省では多賀城の第22即応機動連隊の初動対応部隊、福島の第44普通科連隊より初動対応部隊を、霞目の東北方面ヘリコプター隊と立川の東部方面ヘリコプター隊よりUH-1が、海上自衛隊は厚木第4航空群のP-1と館山第21航空群のUH-60,八戸第2航空群P-3C,小松第6航空団のF-15と百里救難隊のUH-60などを出動させ情報収集に充てたとのこと。

 福島県沖地震は気象庁マグニチュードでMj7.3の規模、最大震度は6強、宮城県蔵王町と福島県国見町及び相馬市と新地町で観測、今回の福島県沖地震では長周期振動も長周期地震動階級4が福島県中通りで観測され、この長周期地震動階級4は制度発足後初観測となった2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震以来約3年ぶりの観測となりました。

 3.11東日本大震災の余震とみられ、しかし今回は幸い津波は観測されませんでした。新下に来は深さ55kmと観測されており、海上の浅い震源であれば津波が発生していた規模といえるでしょう。そして、東日本大震災以来、東北地方の地震振動が電燈を吊った長いケーブルの振動という僅かではあるのですが、確認できたという意味でほぼ10年ぶりです。

 阪神大震災を引き起こした兵庫県南部地震、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0であり、地震の規模は阪神大震災の1450倍という巨大なものでした。ただ、2011年3月9日1145時に発生したMw7.3、東北地方太平洋沖地震前震活動と規模が同程度でしたので、今回が新しい前震でなく余震と発表、安堵はしましたね。

 東日本大震災から10年という2021年は、防災への決意を新たに、という話題を扱おうという正にその最中に緊急地震速報が発令された構図です。幸い今回の地震で死者はありませんでしたが、東北地方と北関東を中心に転倒や落下物命中により負傷者が150名確認されていまして、新幹線の架線柱や高速道路法面、一部の建築物等に被害があったという。

 東北新幹線の全面復旧へは十日程度を要するとの事で、しかし懸念された原子力施設への影響は燃料保管プールから僅かな振動による溢水が在った程度、広範囲に停電が在った点が大きな被害ですが、地震発生から数時間で大半が復旧、15時間で完全復旧となりましたのは幸いです。死者なし。数多余震により地震対策が普及した、という事なのでしょうか。

 2016年福島県沖地震。3.11東北地方太平洋沖地震の余震としては宮城県仙台港で 1.44m の津波が観測された2016年の福島県沖地震を思い出すところ。これは2016年11月22日0559時、黎明の東北で生じた地震を思い出されるところですが、長周期振動は2021年福島県沖地震の方が広範囲に確認されたよう思い、なにしろ緊急地震速報で揺れたのは驚き。

 東北地方太平洋沖地震3.11東日本大震災の余震だる点は同じですが、最大震度は震度五弱が福島県沿岸部の広い範囲と茨城県及び栃木県一部で観測されたものでした。揺れは今回よりも小さいのですが気象庁マグニチュードMj7.4と今回よりも大きく、これは震源の深さ25 kmと今回の深さ55kmよりも浅かったためかもしれません。しかし津波警報が出た。

 余震はいつまで、という焦燥感ですが、これは岐阜県東部での自信が参考となるかもしれません。岐阜県東部では定期的に震度2から3の小規模地震が発生していますが、これは1891年10月28日の濃尾地震、歴史地震を除けば内陸地震では近代観測史上最大のマグニチュード8.0を記録した地震ですが、その余震が130年を経て続いているという実例が。

 巨大災害への警戒は一時も休みはありません。もっとも軍事攻撃のような人間の悪意は無く連綿と紡がれた地球との繋がりが時として大きな変動を生むというものですので、冷静に“その時”というものを考え、準備を怠らぬようしなければなりません。しかしこう気構えていても、緊急地震速報の警告音は、似た音を含め臓腑を掴まれる緊張を感じます。

 東日本大震災から来月で10年、地学のメカニズムからは日本国土の形成からして地殻変動によるものであり、その真上で過ごす日本では巨大地震の有無は最早問題ではなく、それがいつ起こるか、という視点が必要、巨大地震の起きえない地域は巨大カルデラの真上くらいですので、常に緊張感と共に防災の備えを組んではなく実行に移す事が大事ですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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そうりゅう,高知沖衝突事故の検証【1】2000年代各国潜水艦事故と意外な潜水艦の盲点

2021-02-13 20:01:10 | 防衛・安全保障
■確認不徹底の要因に挙げるもの
 2021年2月8日に足摺岬南方40kmの海上で自衛隊潜水艦と大型商船の衝突事故が発生しました。

 高知沖での潜水艦そうりゅう衝突事故、発生は衝撃的でした。衝突進路が5m外れていればセイルそのものが圧潰していた危険もありました。原因は何か、訓練不足であれば潜水艦乗員の交代要員を増やしてアメリカの潜水艦のように複数クルー制を採る必要がありますし、設計の問題であればドイツ潜水艦のように大型化を含め次の潜水艦に反映すべきです。

 潜水艦の衝突事故。考えてみれば海上自衛隊では1988年の潜水艦なだしお衝突事故以来の衝突事故、32年ぶりの事故となりますので原因は何か、という事を考えざるを得ないのですが、ソナー確認不徹底の可能性がたかい。世界を見ますと潜水艦と商船の衝突事故は案外発生しているものでして、2005年1月にアメリカ原潜サンフランシスコが海底に衝突しています。

 サンフランシスコ海底衝突事故は推進150mを30ノット以上で衝突した為にバラストタンク破裂、ソナードーム破壊という大被害となりましたが、何とか修理し2017年まで現役でした。イギリス海軍も2002年に原潜トラファルガーがスコットランド沖で海底激突する事故を発生させていましたが、イギリス国防省は2008年まで事故を発表していませんでした。

 イギリスとアメリカに続いて、ドイツ海軍でも2017年にノルウェー沿岸でU-35が座礁事故を発生させていまして、カナダ海軍も2004年にイギリスより取得したアプホルダー級潜水艦シクーティミが火災による浸水事故を発生させています。2004年の中国海軍遠征61号ガス事故やアルゼンチンのサンファン沈没事故、これは日本だけの問題ではありません。

 ただ、潜水艦の事故というものは気持ちの良いものではありません。今回は幸い、潜舵破損と通信装置破損に被害は留まり、人的被害が負傷者三名に収められ、また激突した相手が大型商船であった為にこちらも彼我が無かったのは僥倖ですが、原因を放置する事があれば、次は大きな事故となる可能性も否定できません。すると、再発防止を祈念したい。

 事故は注意力散漫が原因です。恐らくアクティヴソナーを用いて周辺海域を捜索する際、海水温度層や塩分濃度層を考えて複数回ソナー探索を行うべきところを、一回捜索した後に浮上航行訓練を行ったか、複数回捜索したあと時間を経て浮上したのでしょう。その注意力散漫の背景は、恐らく居住性等からくるストレスか、勤務増大故のストレスが、と。

 潜望鏡で確認しなかったのか、と思われるかもしれませんが、今回の事故においては的外れです、潜望鏡は13m級のものを装着していますが、衝突した商船オーシャンアルテミスは載貨重量9万tといいますので吃水は15m近くなり、潜望鏡で確認できる水深では潜舵に衝突し得るほどに大きな艦なのですね。するとやはりソナーで確認せざるを得ません。

 そうりゅう、海上自衛隊初のAIP推進方式潜水艦です。AIP推進とは潜水艦が浮上せず水中で発電する方式を示し、燃料電池やスターリング機関、海水化学反応方式等が開発されています。浮上すればスノーケルはレーダーで簡単に発見される。しかし、私たちは気づかない事ですが海中での発電は簡単ではありません、何故ならば海中は空気が無い為です。

 あさしお。海上自衛隊は潜水艦はるしお型あさしお練習潜水艦に転籍の上、船体を延長しAIP区間を新たに追加、その上でAIP機関の実艦研究を進め、そうりゅう型潜水艦は1970年代から海上自衛隊が川崎重工などと共に研究を重ねてきたAIP潜水艦が2000年代に入り、始めて実用化される。経済大国とは言え防衛費は限られ、中でも研究はは更に少ない。

 おやしお型潜水艦の設計を基本として建造された潜水艦そうりゅう型、しかし元々狭い艦内にAIP機関を圧し込んだ事で元々居住性が悪化しているのですね。おやしお型は船体が前から5区画に分かれていますが、そうりゅう、は6区画、しかし船体全長は2mしか延伸していません。これは基準排水量が3000tを超えない為という財政上の配慮とされます。

 あさしおAIP区画は11mでした。はるしお型潜水艦に11mのAIP区画を挿入しましたので、当たり前ですが全長は11m延長していまして、あさしお全長は海上自衛隊最長のものとなっています。そして当然ですが船体居住区を大きく設計変更せず11m延長しているだけですので良好な居住性は維持されているのですね。この点は心理的な影響がないのか。

 しかし、各国潜水艦と比較しますと、ドイツの206型潜水艦のように食堂に椅子さえない立ち食い潜水艦が存在しますし、アメリカのロスアンゼルス級攻撃型原潜は全員分の寝台が無く当直で空いた寝台に後退した乗員が休憩する人肌の寝台という状況で、実際、オーストラリア海軍等が検討し乗艦した際でも、そうりゅう型居住性は問題となっていません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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令和二年度二月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2021.02.13-2021.02.14)

2021-02-12 20:07:33 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
 例年ならば小牧航空祭が行われる頃合い、バレンタインデーを前にコロナワクチンが奔放到着しましたが皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今週末の自衛隊関連行事はありません。いよいよ日本でのワクチン接種開始の目処が立ったようですが、現行ワクチンの一部は南アフリカ変異種に対して感染防止の効果がないとのイギリス保健省暫定調査結果があり、イギリス政府は重症化を防ぐ大きな意味がある、としていますが、ウィルス変異とのワクチン開発競争という状況が続いているところです。

 ファイザーワクチン第一便が本日12日午前中に成田空港に到着しました。ファイザー社製コロナワクチンは政府が7200万人分の供給を受ける契約をファイザー社との間で締結しているとのことで、時間はかかりましたが、EUのワクチン輸出規制と共に危惧されていたものの、ベルギーの製造工場を出発したワクチン第一便は無事空路にて成田、日本到着です。

 河野規制改革担当大臣は、来週からの医療従事者へのワクチン接種開始を行い、4月からは高齢者へのワクチン接種開始へ進む計画を本日改めて発表しました。2月11日まで、日本国内感染状況は死者6722名と阪神大震災の死者数を超えており、感染者数41万、中規模地方都市人口に匹敵し、既に日本の総人口の0.32%が感染した状況、急がねばなりません。

 ファイザー社製ワクチン以外でも全国民に来渡るワクチンを政府は確保し、無料での全国民接種を行う方針ですが、アメリカでは2020年11月よりワクチン接種が開始されています。ただ、日本では感染拡大が抑えられている為にCOVID-19の危険性とワクチンの安全性が秤に掛けられた状況、そして薬害への警戒と、なにより治験の遅れという状況がある。

 治験の遅れ。日本国内では過去に薬害の厳しい歴史があり、治験を経ずして大規模接種を行う事への慎重な意見があります。しかし治験ではCOVID-19ワクチンと偽薬等を被験者に通知せず接種し、その後の感染状況を確認する事で抗体獲得の有無を検証するのですが、治験はワクチン接種者も偽薬接種者もCOVID-19感染が無かったという難しい結果という。

 ワクチン全員接種し意図的にCOVID-19に感染させ免疫反応を探るという選択肢も非常手段として無いには無いのですが、なにしろ指定感染症、致死率2%と脳機能障害に脳血栓や腎不全といった後遺症が多数報告されるCOVID-19を日本国内で故意に感染させる試験は現行法では不可能であり、また人体実験と後年批判される試験は行うべきではありません。

 中和抗体増加確認。ファイザーワクチン日本国内治験者は160名、厚生労働省は治験での感染率有無を偽薬と比較するのではなく、感染回復者が体内に持つ中和抗体をワクチン接種により獲得できたかを検証する手段で、感染したか否かではなく、感染しないか否かの抗体を抗体検査により確認する手段へ改め、これにより中和抗体増加確認が為されました。

 承認は今夜にも。厚生労働省は本日12日中に専門家部会を招集し、中和抗体増加確認と国内治験者への副作用報告無との概況を元に、ファイザー社製ワクチンの承認を実施する方針です。今回緊急承認が為されず手順を踏んだ背景には、欧州やアメリカで人口一万人当たり数百の感染者が発生、人口十万人当たり百数十人が死亡する各国との温度差でしょう。

 人口十万人当たりの死者は欧州ではベルギーが最悪の186名、スロベニアが177名、イギリスでは169名、チェコが166名、イタリアが153名、欧州だけで死者79万と感染者398万5161名。ベルギーと大阪府のGDPは同程度ですが、仮に大阪府でベルギー並の状況となった場合は大阪府人口882万3000名、つまり1万6554名となり、欧州の切迫度は高い。

 国内感染状況は大阪府が死者1031名、感染者数4万5478名、こうなっていますので将来の薬害の危険と現在のコロナ感染の危険とを比較した場合は、どうしても充分な治験を行って、とリスク管理の結論が示されるのかもしれません。もっとも、副作用の留意よりは海外状況の情報収集を総合的に行った上で緊急承認しても良かったとは思うのですけれど。

 日本国内で大規模感染が起こっていないからこその治験の遅れが在り、危機感が薄いのはそれだけ死者が少なく、落ち着いて平時の感覚が維持できている為とも云えるのですが、しかし上記の通り既に死者数は阪神大震災を超えています。総人口0.32%が感染した状況ですが、感染者が60%を超えなければ集団免疫は形成されず、だからこそワクチンが要る。

 全国民へのワクチン接種、少なくとも人口の半分程度までワクチンが行き渡らなければ政府終息宣言は難しいでしょう、しかし、二度目の緊急事態宣言により終息は遠くとも収束の目処は出ています、現状では未だ収束といいますかクラスター感染が頻発していますが、収束見通し立たずの状況ではありません、こうした中、ワクチン到着は新しい一歩ですね。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭

・今週末の行事なし

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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【防衛情報】英国空母クイーンエリザベス,イギリス海軍旗艦を揚陸艦アルビオンから交代

2021-02-11 20:02:24 | 防衛・安全保障
■世界の防衛,最新論点
 世界初のF-35B,即ち第五世代戦闘機運用に特化した強力な航空母艦が作戦運用への第一歩を進みました。

 イギリス海軍第一海軍卿トニーラダキン提督は2021年1月30日付で新しいイギリス海軍旗艦を空母クイーンエリザベスとした旨を発表しました。30日、海軍旗艦旗と将旗はイギリス海軍旗艦アルビオンから静かに降ろされ、最新鋭空母クイーンエリザベスへと移されています。アルビオンはアルビオン級揚陸艦の一番艦、東京に入港した事で有名です。

 クイーンエリザベスはインヴィンシブル級空母の後継艦として建造されましたが、インヴィンシブル級空母の三倍という巨艦となるとともに建造計画に遅れが在り、一番艦竣工時にはインヴィンシブル級3隻全てが除籍、その後はコマンドー空母である揚陸艦オーシャンがイギリス海軍旗艦となっていましたが老朽化で除籍、ブラジルへ売却されています。

 イギリス海軍旗艦は伝統的な任務であり、第二次世界大戦後では永らくイギリスが最後に建造し第二次世界大戦に間に合わなかった戦艦ヴァンガードが充てられていた事でも知られますが、空母クイーンエリザベスは満載排水量6万5000tとイギリス海軍史上最大の艦艇でもあり、名実ともにイギリス海軍を象徴する旗艦として世界の海に臨む事となります。

 空母クイーンエリザベス、アジア地域回航へ。イギリス海軍は最新鋭の航空母艦を国際公序の維持と継続へ展開させるとともに、イギリス海軍旗艦の任務を揚陸艦アルビオンから空母クイーンエリザベスへ遷し、文字通りイギリス海軍の象徴的な艦艇となりました。2017年に竣工した本艦は2021年、艦載機F-35Bをふくめて作戦即応能力を獲得しました。

 アジア方面へ回航する。日本とイギリスは包括安全保障協力協定を締結しており、この准同盟国というべきイギリスの航空母艦がどの程度の能力を有しているか、という視点は大きな関心事でしょう。大きさでは、ニミッツ級原子力空母とアメリカ級強襲揚陸艦の真ん中程度の大きさ、いずも型護衛艦の二倍以上というかなり大型の艦艇となっています。

 イギリス海軍の航空母艦、その能力はいかほどのものなのでしょうか。クイーンエリザベスは基準排水量45000t、満載排水量67700tで全長284m、イギリス海軍史上最大の航空母艦です。外見上の最大の特色は二つが並ぶ艦橋構造物で、航海艦橋と航空艦橋、艦橋は従来一つで対応しているのですが、機能性を考慮した結果、二つに分けることとなりました。

 F-35戦闘機とAEW-101早期警戒ヘリコプター、AW-101哨戒ヘリコプター,クイーンエリザベス級航空母艦はこれら艦載機40機を搭載します。実のところもう少し多数を搭載できるのですが、飛行甲板に並べる機体を定数とするアメリカ海軍と異なり、イギリス海軍では格納庫容積を念頭とします。この点は海上自衛隊と同じですね。そして、F-35,です。

 第五世代戦闘機運用に特化した世界初の航空母艦、クイーンエリザベス級航空母艦がどの程度強力な艦艇か、と問われますと世界で初めて第五世代戦闘機運用を前提とした空母である点が全てを物語っているのかもしれません、第五世代戦闘機は概して定義するとステルス性能を有し、超音速巡航が可能、ネットワーク型戦闘に対応する、というもの。

 F-35Bをイギリスは136機導入予定です。実はクイーンエリザベス級空母は計画当初、ここまで大型化する計画ではなく、この大きさとなった時点でイギリスはより航続距離の大きなF-35Cへの機種転換を構想したのですが、既にF-35Bを発注していた点、F-35B用の設計をF-35C用に転換の費用の大きさから結局F-35Bとなった、そんな歴史がありました。

 AW-101-AEW早期警戒ヘリコプターはF-35Bの能力を最大限発揮するための必須の航空機です。早期警戒機の有無は過去、1982年のフォークランド紛争においてレーダーピケット艦を前進せざるを得ず、損耗を強いられたことがありました。こうした点でイギリスはヘリコプターを早期警戒機とするシーキングAEWを開発、その後継がAW-101-AEWです。

 対艦弾道弾や人工衛星画像情報のAI解析、航空母艦は過去のものとなった、という批判はあります。しかし人工衛星のAI解析は航行中の航空母艦を撮影したものが稀に示される一方、基地近くやAIS船舶位置情報表示中や訓練中の航行海域位置情報開示が行われている際の撮影画像が大半で、墜落旅客機残骸さえ発見できないのが現在の衛星画像の水準です。

 45型防空駆逐艦、イギリス海軍の現時点では対艦弾道弾を迎撃できるイージス艦を有していない点でしょうか。対艦弾道弾は目標命中の際に軌道修正を行う際に減速するため、弾道ミサイル防衛システムにたいし脆弱性があります、が、イギリスは日米のようなミサイル防衛の必要性が無く、現時点でその能力はありません、日米艦の援護は必須でしょう。

 クイーンエリザベス級航空母艦はこの通り、F-35運用に特化した極めて高度な航空母艦です。既にアメリカ海兵隊のF-35B展開試験も実施されている為、極東展開の際には岩国基地の第1海兵航空団所属機も展開する可能性があり心強い。2019年には2番艦プリンスオブウェールズが竣工、2023年には作戦即応能力を獲得するべく完熟訓練中となっています。

 プリンスオブウェールズ、クイーンエリザベス。イギリス海軍は二隻の航空母艦と共に一隻を即応体制に置く構想です。上記の通り世界初の第五世代戦闘機を運用する航空母艦であるとともに、アジア地域にはアメリカ海兵隊のF-35Bが既に運用中、ワスプ級強襲揚陸艦よりもF-35Bの運用には適しており、これは、極めて強力な空母であるといえますね。

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【防衛情報】パトリアNEMO自動迫撃砲行進間射撃能力とパトリアAMV装甲車自衛隊検討中

2021-02-10 20:00:56 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 砲兵戦とは高等数学の瞬間計算が砲弾に込められる科学の世界でしたが、今回の新技術は精度次第で新しい一歩となるでしょう。

 特科火砲の行進間射撃は、自衛隊にとり、いや恐らく全世界の砲兵にとり一つの理想でした。映画のように火砲が陣地を動かず延々射撃を加えるのは第二次世界大戦までの話、砲弾は対砲レーダーに映ります、延々といわず十数分射撃を続けるだけで、どこから射撃しているかが標定され、その陣地に誤差50mで数十発の効力射が撃ち込まれるでしょう。

 フィンランドのパトリア社はNEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力の獲得を発表しました。NEMO自動迫撃砲システムはパトリアAMV装輪装甲車などに搭載する後装填式120mm自動迫撃砲で50発から60発の120mm砲弾を搭載し、連続して射撃が可能、パトリアAMVの他に各種装輪装甲車や哨戒艇へも搭載が可能となっています。

 NEMO自動迫撃砲システムについて行進間射撃能力は、従来の間接照準射撃砲兵システムへゲームチェンジャーというべき能力を意味します、何故ならば迫撃砲や火砲は直接照準の戦車砲や機関砲と異なり標定が必要である為、行進間射撃には向かず、逆に対砲兵レーダ装置に砲弾が捕捉され射撃位置が暴露する事から、迅速な陣地変換が必要とされてきた。

 行進間射撃能力を有するという事は、常に射撃位置を移動しつつ火力支援が必要であり、仮に対砲兵レーダ装置に砲弾が発見された場合でも、自走迫撃砲の生存性が根本から飛躍的に向上する事を意味します。アメリカなどではXM-2001クルセイダー自走砲等が将来の可能性として行進間射撃能力を構想しましたが、発展以前に開発中止、実現していません。

 一効力射3発30秒、陣地変換完了3分。75式自走榴弾砲の時代などは特科部隊が陣地変換に必死となっていまして、特科教導隊ではこの水準を普及させるために操砲技術研究を続けていました。1970年代、ソ連軍の北海道侵攻が現実的脅威であった時代は、膨大なソ連軍火力から特科部隊が生き残るには素早い陣地変換こそが唯一の選択肢だったのです。

 99式自走榴弾砲の時代もこの能力は継承され、第7師団が派米訓練を実施した際、仮設敵との激しい模擬戦闘に際し、90式戦車などの装備が次々と損害を重ねる中、第7特科連隊の派遣中隊は実に200回も効力射と陣地変換を繰り返し、第一線を支え続けたというお話もある。しかし、行進間射撃を出来るならば、今後は戦車に随伴し火力支援ができる事に。

 NEMOは1990年代にスウェーデンが開発したAMOSを単装化、最大射程は10km、この射程をみますと自衛隊の採用したフランストムソン社の120mmRT迫撃砲の射程延伸弾が誇る13kmよりも短いものの、NEMOとAMOSは直接照準により150mから1550mまで火力支援や対装甲戦闘も可能で、最大射撃速度毎分10発と持続射撃でも毎分7発という。

 パトリアAMV,この自走迫撃砲システムを含めて一つの武器システムとして考えますと、実は陸上自衛隊の次期装甲車として非常に有用な選択肢となるのではないか、こうかんがえるのです。もともと自走迫撃砲は陸上自衛隊が96式自走迫撃砲を第7師団に限定して運用していますが、火砲の自走化が進む北部方面隊でも第7師団に限定されたものでした。

 120mmRT重迫撃砲は陸上自衛隊普通科部隊の標準的な装備ですが、全般的に自走化せずとも、もともと機動力は高いものであり、高機動車の派生型である重迫牽引車で牽引するだけでも十分機動力は高く、CH-47J/JA輸送ヘリコプターによりつり下げ空輸も可能ですので、寧ろ機動性は96式重迫撃砲よりも高いとさえ言えたものですが、これが一新する。

 96式自走迫撃砲は機甲師団に随伴する装備であるための、"贅沢な"装備品であったのですね。当たり前ですが行進間射撃はできません。しかしNEMOの行進間射撃は、贅沢云々ではなく、敵に標定を許さない撃破されにくい火力投射手段というもので、いわば贅沢ではなく別物の装備となったといえます。この有無は陸上火力体系を大きく左右するでしょう。

 パトリアAMV、これ単体であれば非常に優れた装備ではあるのですが、三菱重工の提案した機動装甲車が、16式機動戦闘車と車体が同一で整備整合性の観点から非常に有利でした。しかしもしNEMO迫撃砲システムを搭載したパトリアAMVが即応機動連隊の火力支援中隊へ配備されるならば、火力支援中隊と普通科中隊の車種を統合できる為、話は別だ。

 NEMO自走迫撃砲システム。もちろんこの装備は自衛隊に提案されたものではありません、そして共に同じパトリア製ですのでNEMOはAMV車上にて試験されているのであって、極論ですがNEMOを16式機動戦闘車に搭載し自走迫撃砲とすることも当然可能です、メーカーも様々な車両に搭載できることを強調しています。なかなかに興味深い装備ですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
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四国沖そうりゅう衝突事故:高知緊急入港,深刻な潜舵大規模損傷と判明した予備通信機能欠如

2021-02-09 20:03:13 | 防衛・安全保障
■足摺岬沖潜水艦衝突事故
 そうりゅう衝突事故の昨日夕刻に入っての一報には驚かされましたが、事故発生から潜水艦隊への報告遅れが通信機能全損の為との状況に更に驚かされました。

 衝突事故を起こした潜水艦そうりゅう、昨夜2300時頃に高知港外に緊急錨泊しました。入港しなかったのは、潜水艦を入港させるには専用の曳船が必要であり、基本的に基地施設以外では潜水艦は港外に錨泊し補給などは伝馬船や交通船などを用いる為です。しかし、海上保安庁が昨日撮影し公開した事故後の潜水艦空撮画像は、被害の大きさが目立つ。

 そうりゅう。セイル部分には大きな損傷が見られ、潜舵が大きく破損し変形していました。事故発生から報告まで三時間を要した、とされていますが、原因は衝突により通信手段を喪失したためで、携帯電話は使用可能ですが事故海域の足摺岬南方40kmは携帯電話圏外、そのために航行は可能であったため、先ず沿岸に近い通話圏内まで自力航行した、という。

 タレスCMO10非貫通型デジタル潜望鏡やZPF-6レーダー及び電子戦装置、事故の報道で画像が公開される前には、艦橋のアンテナが破損し通信不能、となったため、これらの装置がもぎ取られた構図かと考えていましたが、海上保安庁発表画像では潜望鏡などは無事、勿論衝撃で破損の懸念はありますが脱落するような損傷は確認できませんでした。しかし。

 潜舵が大きく破損していた。修理は充分可能でしょう、潜水艦同士の事故で一番印象的な事故に1992年2月11日にバレンツ海で発生した米ロ潜水艦衝突事故がありました、ロサンゼルス級原潜バトンルージュとシエラⅠ型潜水艦B-276/クラーブが衝突した事故で、クラーブは艦橋圧壊という大破でしたが、艦橋部分に限られたため修理され現役復帰します。

 そうりゅう衝突事故、実のところ人的被害が生じる事なく潜水艦の破損に留まりましたので、僥倖といえば僥倖なのですが、一概に単なる潜水艦衝突事故や訓練不十分というだけに留まらない実状があるようです。なかでも、マストが欠損したことにより潜水艦は全ての通信能力を喪失した、という点でしょうか。潜水艦通信系統に予備がなかったのですね。

 通信不能。これは重大な問題です、軍事機構とは指揮系統により成り立ちまして、潜水艦はVLF超長波通信アンテナブイを装備しています。これは水中の潜水艦から通信ケーブルに繋がれたブイを発進させブイを水中50mくらいまで浮上させますと、VLF周波数の通信を、潜水艦は水深数百m潜航を維持したまま通信可能です、しかし、受信しかできない。

 潜水艦にしかし、予備の通信手段が無く、四国沿岸部まで航行して携帯電話で通信することしかできなかった、というのは衝撃的でした。こういいますのも、陸上自衛隊の装備に携帯可能な衛星通信装置がかなり広く配備されていまして、防衛出動ではないですが東日本大震災でも災害派遣部隊が民間通信回線輻輳下において通信を維持していたのですね。

 VLF超長波通信の送信には波長に応じて長いアンテナが必要となり、もともと潜水艦には受信アンテナしか搭載していません。潜水艦が送信するには浮上しての通信となります。そのアンテナは浮上した際に潜水艦が船体全部を曝さず送信できるように、潜望鏡付近に配置されていまして、これが今回この部分をピンポイントで破壊された、ということ。

 水中電話という選択肢も潜水艦側にはありました、これは一種のアクティヴソナーを用いた音声伝達手段で8kHzの国際音響帯域が水中電話用に確保されています。ただ当たり前ですが水中で大声を出すようなものですので、四国南方から呉基地へは報告できません、近傍に潜水艦や護衛艦が遊弋している場合にのみ有効、そうりゅう、今回訓練は単独でした。

 JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置。実は陸上自衛隊は通信網が破壊された場合に予備の通信装置を有しています、それがJPRC-C1,普通のアタッシュケース程度の大きさですが、アタッシュケースのように開くと上半分が大きく広がり衛星通信できるアンテナに、そして下半分には電源とともに受話器がおかれていまして、世界中と音声とデータ通信が出来る。

 タスコムXという高機動車に搭載されたかなり大型の衛星通信装置、正式にはJMRC-C4衛星単一通信可搬局装置という装備が師団や旅団単位で装備されているのですが、これに万一があった際の予備がJPRC-C1です。そしてこれら衛星通信装置も、実は防衛マイクロ回線通信の予備、陸上自衛隊は衛星以外にも他に野外通信システムを装備しています。

 潜水艦は一段潜航しますと通信は受信のみとなり、潜水艦艦長は一人で潜水艦の指揮官であると共に戦域作戦での指揮官でもある、とはよく潜水艦の特性説明に際して用いられる表現です。しかし、今回は自力航行できましたが、通信系統はこのままで良いのでしょうか。勿論浮上しなければ衛星通信装置も使えず、潜水艦事故は浮上出来ないこともあるが。

 予算に限りがある事は理解しているのですが、22隻の潜水艦は日本の重要な装備です。JPRC-C1衛星単一通信携帯局装置くらいは搭載できないものでしょうか。潜水艦の容積は限られますがそれほど大きなものではありません、艦艇建造費は備品一つ一つ予算を削り積み上げて数億円単位の予算縮小を行っているのは理解していますが、必要な装備です。

 そうりゅう。報道写真が出始めますと船体右舷側に擦過痕が広範囲に見えまして、音響タイル擦過に留まらない懸念もあります。また、過去に記載しましたように、そうりゅう、幾つか看過できない出来事があり、こうした艦は、艦に限りませんが傾向として再発防止が徹底されすぎますと、艦内の自由闊達な発想が委縮、意志疎通の齟齬が生じやすくなる。

 事故は一歩間違えれば潜水艦救難艦出動となるところでしたが、しかし幸い今回は人的損耗が生じる様な事故ではありませんでした。修理には時間を要するとは思いますが、この種の装備体系を整備する以上、どうしても発生し得るものは各国海軍の事例をみるとおりでして、乗員と部隊が、過度に委縮せず元気に服務できる環境こそが、再発防止の要諦でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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