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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:ファントム可変翼型F-4FVSをF-14トムキャット代替に提案,広域防空強化

2021-02-27 20:00:15 | 先端軍事テクノロジー
■超音速性能と要撃力を大幅向上
 ニセコ要塞や十和田要塞じゃないんだから、と思われるようなかなり先進的すぎる装備計画というものが歴史を振り返りますと意外に多く驚かされます。今回もその一つを。

 自衛隊のF-4EJ戦闘機、2021年に飛行開発実験団での運用が終了し、長いファントムの時代に幕を閉じます。ファントムは目一杯自衛隊は使い切った、という印象ですが昔初めてファントムを観た時代には既にF-15が航空自衛隊の主力となっていましたので、旧式という印象はぬぐえず、まさか2020年代まで自衛隊で運用が続くとは、思いもしませんでした。

 ファントム。しかし、もしかしたらば自衛隊は勿論世界でももう少し運用が続いていた可能性がありました、それはファントムの改良型がF-14トムキャットの代替として量産されていた可能性が、あったのですね。F-4戦闘機はアメリカ海軍の空母艦載機、次に生産されたのがF-14戦闘機でしたが、実はファントムを抜本的に改良する新型ファントム案が。

 F-111アードバーグ。ケネディ政権時代、新進気鋭の若き大統領を指導者として選んだアメリカでは自動車産業から合理的なマクナマラ氏を国防長官に指名、マクナマラ時代が始りました。マクナマラ国防長官は空軍と海軍が別々の戦闘機を使う事は非合理であるとして、空軍戦闘機と海軍空母艦載機を統合する戦闘機F-111を開発しました。夢の戦闘機でした。

 しかし、空軍と海軍が必要な性能を要求した事で戦闘機は際限なく巨大化し、結局海軍は艦載機として搭載するには10万トン級空母に現行全ての空母を置換えでもしないかぎり、この巨大なF-111は空母の格納庫に収まらない、として採用を拒否しました。しかし現行戦闘機の陳腐化が進む。そこでマクダネルダグラス社がファントム改造型を提案します。

 可変翼の採用。先ずマクダネルダグラス社はファントムの主翼を可変翼に再設計することとしました。先ずいきなり滅茶苦茶な提案ではありましたが、これにより燃料タンクの配置を原型のファントムから大きく見直し、航続距離を延伸すると共に超音速性能を刷新する案です。もう最初の時点から無理だろう、思われるかもしれませんが性能向上は大事だ。

 F-4-FVSという可変翼型ファントムは、更にエンジンを改良し飛行性能を向上させるとともに、コックピット周辺は変更せず、機首部分を僅かに延伸する事で新型のレーダーを搭載、AIM-7スパロー空対空ミサイルの改良型について搭載数を6発乃至8発、長距離から艦隊防空に充てる、というものでした。当たり前ですが、海軍はこの提案を却下します。

 F-111をアメリカ海軍が却下し、F-4 FVSにも興味を示さなかった頃、空軍もF-111を却下します。いや、開発したのだから最低限引き受ける事となり、戦略空軍に戦闘爆撃機として押し付けるという様な無理矢理を通しつつ、空軍はそのまま真っ当な制空戦闘機としてF-15イーグルを開発してゆく。流石にマクダネルダグラス社はF-4 FVSを提案はしない。

 マクダネルダグラス社は、しかし諦めません。いや、アメリカ海軍はグラマン社が開発したF-14トムキャット開発へと進むのですが、マクダネルダグラス社はアメリカ採用に見切りをつけて、今度はイギリス空軍に採用を持ちかけます。丁度、無理にロールスロイス社製エンジンを搭載したイギリスのブリティッシュファントムが短命に終わろうとした頃に。

 イギリス空軍は次期戦闘機として、イギリス本土をソ連ミサイル爆撃機から防衛するには空中戦能力よりも長距離空対空ミサイルを搭載した大型戦闘機が必要であるとして、TSR-2戦闘機を開発していましたが、大き過ぎて不採用となり、後にF-14戦闘機を模索する事となります。そこで同じ可変翼機で売り込んだ、だけではないのでしょうがFVSを売り込む。

 F-4 FVS、しかしイギリスでもファントムを可変翼に再設計する事の技術的障壁は即座に理解でき、要するに費用はかさむが肝心なところはファントムのまま、という部分に気付いたのでしょう、採用される事はありませんでした。その後F-4 FVSは全く音沙汰無くイメージ図だけが残ります。他方イギリスはF-14を希望しますが予算面で実現しませんでした。

 イギリスが欲しいのは長距離ミサイルを用いての迎撃能力なのですから最新型と云ってもスパローミサイルでは射程がイギリスの望むものではなく、F-14が必要と考えられたのは180kmという長射程を誇るフェニックス空対空ミサイルを運用できるからでして、可変翼機が欲しい訳ではありません、無理に変なファントムを採用する必要は無かったのですね。

 トーネードADV,イギリスは結果として欧州共同開発のトーネード攻撃機を原型として独自の制空戦闘機を開発する事となります。ただ、もしイギリスがF-4 FVSを、これこそ未来の戦闘機だ、と開発していたならば、もう少しファントムの寿命は世界全体で高まり、航空自衛隊のF-15導入計画遅延に際し増産されたF-4EJもFVSとなっていた、かも、ね。

 こうした視点で、しかし、F-14トムキャットと可変翼型のF-4 FVSファントムというものを連想しますと、丁度間ぐらいにトーネードADVが思い浮かべられるのは不思議ですね、同じ可変翼ですが、垂直尾翼はファントムと同じ一枚です。つまり、イメージだけは名機ファントムが欧州標準のトーネードに、なったのだ、という可能性は薄いのですけれども。

 F-4 FVSはめげずに今度はフランスに売り込んだとされるのですが、フランスが採用したのは小ぶりなクレマンソー級空母に搭載する小さなF-8クルセイダーのみ、クレマンソー級に搭載出来ない巨大なファントムに興味は無い。しかし、ここで万一英仏が採用したならば、その内フェニックスミサイルを搭載するファントムⅢへ発展したのでしょうか、ね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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