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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

テロ等準備罪と自衛隊治安出動の可能性,狙われるソフトターゲットと警察力の動員限界

2017-05-23 23:45:55 | 国際・政治
■英マンチェスターテロ発生
 自衛隊法78条には、一般の警察力をもっては治安を維持することができない状況において治安出動命令を発令できる、という条文があります。

 イギリス中部のマンチェスターで22日夜、日本時間の本日朝コンサート会場付近が自爆テロ犯による攻撃を受け、22名が死亡しました。本事案について、イスラム過激派ISILが犯行声明を出しました。イギリスでは2005年7月のロンドン地下鉄同時多発テロ以降、テロ事案が発生しており、近年はISILによるテロや襲撃事件も発生、警戒が強化されています。

 我が国ではテロ等準備罪の国会審議が大詰めであり、これまではテロ事件の発生を受けての捜査としてテロ事件を抑止する制度に欠缺があったテロ対策の空隙が漸く埋められようとしています。現状ではあの地下鉄サリン事件当時、実行犯と目されたオウム真理教関係者の逮捕を止むを得ず公務執行妨害等事実上の別件逮捕を乱発し対処した時代のままです。

 法整備、テロ等準備罪が衆参両院での可決を経て法執行基盤は整います。現状の公務執行妨害等事実上の別件逮捕を乱発し対処は、逆に問題がありテロ組織の攻撃を未然に阻止する法体系を構築してこその法治国家、乱用の懸念があるならば、新法反対ではなく乱用を防ぐ検察審査制度強化を求める事こそが肝要だ。しかし、法整備だけでは阻止できません。

 治安出動、2015年11月のパリ同時テロでは当時のオランド大統領が戒厳令を布告し、パリ警察や国家憲兵隊の支援へ陸海空軍より警備部隊を派遣、陸軍は全体の15%にあたる規模の部隊を常時街頭の警戒に派遣しています。効果はあるようで、警備部隊が実際にテロリストを阻止した事例もあります。こうした任務、日本も想定しなければならなくなる。

 自衛隊の治安出動といえば、思い出されるのは北朝鮮武装工作員浸透脅威顕在化を受けてのゲリラコマンドー対処任務付与が挙げられるでしょう。北朝鮮工作員は2001年に発生した九州南西海域工作船事件において巡視船により撃沈された船体内から対戦車火器RPG-7,無反動砲や機関砲と軽機関銃等が押収され、警察力での対応に限界が指摘されていました。

 しかし、テロ事案におけるソフトターゲット警備となりますと、別の問題が生じる可能性があります。それは警備の警察官の人員規模が全く不足する点です。日本の鉄道駅はJRが4600駅に民鉄5000駅の9600駅、ショッピングモールは日本ショッピングセンター協会加盟店舗で3195店、大学は国立86校に公立77校と私立595校の計758校、非常に多い。

 マンチェスター自爆テロではソフトターゲットが標的とされた点が特色です。ソフトターゲットとは警備厳重な施設を避け、警備が手薄な公共施設を標的とするテロリストの攻撃で、警戒厳重な国際空港や旅客機、政府庁舎や防衛施設、原子力施設等を避け、人が一定以上集まる中規模のターミナル駅やショッピングモールや大学に観光地等を攻撃するもの。

 オウム真理教による地下鉄サリン事件、地下鉄車内において神経ガスによる無差別攻撃を行うというもので、ソフトターゲットへのテロ行為の代表例といえるでしょう。テロ事件ではありませんが秋葉原連続通り魔事件はトラックが凶器として使用されました。こうした視点から、日本がテロ対策を行う場合はソフトターゲット警備が焦眉の課題となります。

 ソフトターゲットの警備は大変です。監視カメラや警備員、駅ならば改札付近に警察官が立哨し、ショッピングモールや映画館ならば警察官巡回強化を行う事は可能ですが、原子力施設のような機動隊選抜の警備隊が機関短銃と狙撃銃に防爆警備車で重点警戒、を行う事は、そもそも警備対象の数が多すぎ、やはり現実的には不可能と云わざるを得ません。

 自衛隊の治安出動、例えば具体的テロ事案等を経てソフトターゲット警備への警察力の限界が指摘された場合、勿論警察官を万単位で増勢するとともに鉄道公安官制度復活等、警察予備力を構築する事で対処する事が必要となりますが、増勢までの時間的間隙を、自衛隊の警備能力、例えばパリ同時テロ以降のフランス軍のように、動員の可能性があります。

 ゲリラコマンドー対処任務付与と共に自衛隊では重要施設警護訓練を実施しています。一方、ソフトターゲット攻撃の特色は警備の間隙を狙うと同時に、港湾や空港などからの重火器等が持ち込めない状況での選択肢となる場合が多く、基本的に武装の規模は軽量で小規模です。この為、普通科部隊の装備でも大き過ぎ、警察官の短銃程度でも十分阻止する、抑止する事は可能でしょう。

 国民保護訓練として現在では自衛隊が警察官を輸送するなどして、機動隊や警察特殊急襲部隊と銃器対策部隊の輸送支援を実施しています。ただ、ソフトターゲット警備の必要性などからの人数が不足する状況であれば、例えば空港等警察官の重点警備任務を自衛隊が治安出動命令を受けての派遣と重要施設警備を行い、短銃での対応が可能な方面へ警察官を派出させる事が可能な施策が、望ましいといえるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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