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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

陸上自衛隊アフガニスタン人道支援任務派遣問題を考える④ 難しい輸送支援

2009-09-21 22:45:55 | 国際・政治

◆仮にアフガンに派遣するとして

 鳩山総理、そういえば民主党が野党であった2001年の段階で、鳩山氏はアフガニスタンに行っていたことを思い出した。パキスタンのバグラム空軍基地から、SP二人とともに。確かカブールが北部同盟により陥落した直後あたりだったか。カンダハルで海兵隊が掃討作戦をやっていた時期である。

Img_1186 2001年11月19日に、佐世保から、護衛艦くらま、を中心とするインド洋対テロ海上阻止行動給油支援にて派遣されて以来、海上自衛隊は一時的な例外として中断して以外、補給艦による補給支援は、5隻しかない補給艦とともに実施されている。しかし、民主党は小泉政権時代から一貫して、給油支援は憲法違反であり、国連安保理決議に依拠したアフガニスタンでの復興人道支援を行うべき、という主張のまま与党となったことから問題は変わっている。

Img_1280  アメリカは給油支援の継続を望んでいる。給油支援(海上)から給水支援(陸上)へ、というコンセプトで見た場合、現在のアフガニスタンは余りに危険が大きく、リスクが大きい。また、東西冷戦時代、陸上自衛隊はソ連極東軍の強大な破城鎚、戦車師団や自動車化狙撃師団を相手に防御と攻撃前進を行うべく訓練を積んできた。

Img_1635  アフガンにて野戦築城を行い火砲を持ち込んでの防御や山間部に立てこもる武装勢力を戦車と空中機動で掃討する機動打撃を行うならばともかく、治安が悪化する中で人道支援など、行えるものなのだろうか。少なくとも人道支援といっても、敵対勢力増長を防ぐための宣撫任務となってしまうのが実情、当然、攻撃の対象となってしまう。

Img_9168  アフガニスタン、鳩山氏が足を運んだ2001年とは大きく状況が変わってきている。アフガニスタン情勢は、2001年に米軍が9.11の報復としてアフガニスタン空爆を始めて以来、特殊部隊が乗馬してムジャヒディンとともに最前線から目標を探し、B-2やB-52が成層圏からJDAMで航空支援を行い、北部同盟の前進を阻んでいたタリバンの拠点を次々と破壊、神出鬼没の偵察部隊と長い槍の航空支援が破竹の快進撃を支えた。

Img_8328  しかし、あれで再びアフガニスタンに平和が戻るとだれもが考えていたのだが、しかし、イラク戦争が始まり、同じく第3機械化歩兵師団を先頭に破竹の快進撃でバクダッドを攻略したのち、イラク治安作戦が長期化し、本日の時点でイラク戦争戦死者は4345名、しかしながら、アフガニスタンから人員をイラク方面へ抽出したことが裏目に出てしまっている。

Img_9_849  結果、アフガニスタン治安任務は国連では対応できないことになりユーゴスラビアの大のように主導権はNATOに移り、この混乱で軍閥が盛り返し、支持の無い軍閥に代わりタリバンの支持が増えるに至っている。そして、NATOのISAFや増派米軍の死傷者が激増する状況で、日本はインド洋給油支援に代えてアフガニスタンの大地へ支援のために進むことを表明しているのである。

Img_0268_1  輸送支援については、これは一つの意味で自衛隊が行える国際貢献なのだが、かなり難しい問題が二つある。輸送は軍事と直結しているという点、そして輸送部隊の脆弱性という点で問題がある。輸送支援というと、ISAFの関連物資、同時に人道関連物資の輸送を後方支援連隊や方面輸送隊から派遣された車両により実施し、車両デポを維持し、車列の警備などを実施する、という任務だろうか。

Img_8414  輸送、アフガニスタンと輸送。これはかなり難儀である。1979年からのソ連軍アフガニスタン侵攻に際しては、四個師団がアフガニスタンに侵攻したものの、ソ連の鉄道拠点が置かれたウズベキスタンのテルメズから、二車線の山間部道路をヒンズークシ山脈の3363㍍のサラン峠を越えて400km移動するというもの。

Img_0197  補給線を絶てばソ連軍の行動が鈍るということから激しい攻撃に曝され、400kmの移動に数日間を要した。危険というが、どのくらいかと問われれば十往復すれば叙勲の対象になるほどで、損耗も大きかった。補給が無ければ第一線は成り立たず、それだけに遊撃戦では襲撃の対象となる、危険な任務なのである。

Img_0634  輸送部隊の脆弱という点について、後方支援の分野でも戦闘支援、という概念が陸上自衛隊はNATOや米軍と比べてポテンシャルが低かったという点が背景にある。戦闘支援とは、戦闘が行われている第一線に直接補給品を送り届けて戦闘を支えるという事である。当然、第一線部隊と比して遜色ない自隊防護能力が求められるし、兵站車両も一部については装甲防御力が求められるのだが。

Img_4832  基本的に普通科を中心として東西冷戦においては航空攻撃に脆弱な機械化を進めず、陣地防御とキルゾーン形成による対機甲戦を念頭に部隊や訓練体系を構築していたため、航空攻撃の危険がある中で補給線に恒常的に輸送コンボイを通す必要は無かったわけであり、戦線の変動も大きくは想定されていなかった。

Img_5137  その分の予算をホークミサイルの近代化による全般防空、74式戦車や90式戦車の装備により世界一級の機甲部隊への対処能力を付与、対戦車ミサイルを筆頭に対戦車火力の充実を図るとともに、更にAH-1Sによる空中打撃力やV-107,CH-47の充実による空中機動能力の確保などに邁進してきた。

Img_5545  従って、彼我混交の競合地域において長距離を移動する、ということはあまり考えられなかったわけであり、後方支援車両への機関銃の搭載は、荷台部分に機銃を施すなどを除けば、あまり考えられず、キャビン部分への本格的な防御力の付与などは考えられていないということが実情である。

Img_8513  1992年10月14日、ドイツ連邦軍兵士がカンボジアで射殺された、ドイツ発の海外派遣での死者だが、車両で移動中、衛生兵が乗車する車両が首都プノンペンで水溜りを通過した際、水飛沫が武装した市民にかかってしまい、カラシニコフで射撃され、死亡したのだ。これを契機に、世論は紛糾、ドイツ連邦軍は兵站車両の防弾化を開始し、ディンゴ完全防弾車が開発されるに至っている。

Img_0130  ドイツ軍のみならず、NATOの陸軍では、装甲キャビンを有するトラックを次々と開発し、米軍も応急装甲キットを開発し、イラクに送りこんでいるが、軽装甲機動車程度の防御力を有する輸送車両、つまりトラックを早期に開発しなくては、アフガニスタンで、好ましくない事態につながってしまう可能性もある。

Img_3177  このように、輸送任務は戦闘支援と重なってしまうし、人道支援物資であっても、略奪の対象となる可能性、加えて戦闘支援と区別がつかないという問題がある。そして陸上自衛隊には、競合地域で戦闘に対応できる輸送兵站車両が装備体系に無い、という大きな問題を抱えており、鳩山首相が2001年にアフガニスタンを訪問した時よりも悪くなっている。この点、考えるべきだろう。次回は給水支援や学校再建などに焦点を当てて考えてみたい。

HARUNA

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2 コメント

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こんばんは。 (ウルトラマン)
2009-09-22 21:00:23
こんばんは。
 さっきニュースでインド洋の給油撤退についてアメリカ側が容認の姿勢だとか。
アメリカ側は、日本にお手並み拝見というところでしょう。でも、要求が一段レベルアップして泥沼にはまる予感がしますが考えすぎでしょうか?
軍事に疎い民主党が考えるよりアフガンはあまくないと思うのにな!来年には給油を中止したら次にその年にはアフガンで何か行動しなくてはならないでしょうね。ヨーロッパなんかは撤退の様子をうかがっているのにな。たぶん自分の予想ですけどね。
逆に、アメリカやヨーロッパが撤退したほうが日本はアフガンにかかわりやすいですけどね。
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ウルトラマン 様 (はるな)
2009-09-22 23:18:41
ウルトラマン 様

ISAFは、撤退したい意思はあると思いますが、それはアフガニスタン情勢がイラク並に鎮定してのちのことだと思います。その為に増派、ということはあるでしょうが。

日本へは、恐らくCH-47のような輸送ヘリコプターの派遣を求めてくるのだろうと考えています。ただ、兵員輸送などを行う事も併せて求めてくるはずですから、難しいでしょうね。
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