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榛名防衛備忘録:戦車300&火砲300時代③ 消えるという話が消えるのは割と多い

2014-04-30 21:46:57 | 防衛・安全保障

◆コンパクト化された師団戦車と特科
 戦車と共に特科火砲も300門へ縮小されましたが、この特科火砲についても考えてみます。
Phimg_989_6  特科火砲300門、ですが、全国の特科連隊は順次3個大隊30門への転換が進行中です。これは全国の師団が四個普通科連隊編成を採っていた師団もうち一個を即応予備自衛官部隊としていたため、即応予備自衛官基幹普通科連隊を方面混成団へ移管することで特科連隊も直援大隊は3個で対応できるようになったためです。そこに加えて師団長直轄の全般支援大隊としての第5大隊を廃止したため、30門で特科連隊を編成していることが可能となた訳で、300両の火砲定数は10個特科連隊所要となることがわかるでしょうか。
Phimg_4222  このほか、特科火砲縮小の方針も最初に特科火砲縮小が明示された1995年防衛大綱の検討時期から旧式化した107mm重迫撃砲に換え、射程が三倍近くに伸びた120mm重迫撃砲RTが普通科連隊重迫撃砲中隊へ配備開始となりました。これは迫撃砲としてはかなり有力は装備で、開発国フランスでは軽砲の後継とし、一種普通科連隊連隊戦闘団へ配備されていた直掩火力の105mm砲を補うに十分な迫撃砲として多数を装備するに至りました。フランス軍には200門程度が装備されていますが陸上自衛隊は430門を装備しており、火砲の縮小はより強力な迫撃砲により補完されていた、ということです。
Phimg_4278  特科隊は、従来4個中隊20門への縮小が行われていましたが、一部特科隊は3個中隊基幹として、15門へのコンパクト化が行われています。15門とて、対砲レーダ装置等により支援されているため馬鹿にできませんし装備するFH-70榴弾砲の発射速度は世界第一線級、これを越える自走榴弾砲として国産の火力戦闘車の開発が始まりましたし、15門として安易に見ていますと叩き潰されることになるでしょう。この特科隊であれば、300門定数であっても20個特科隊所要であることがわかります。師団と旅団は15個ですので、この300門という数は決して全体として不足していない。
Phimg_4621  300門、すると、6個旅団と大都市配備の2個師団が特科隊を編成に置き、師団は7個が特科連隊を置いています。単純に特科連隊30門と特科隊15門で300門の定数のうち全ての連隊と隊を維持する前提で観てみましょう。7個特科連隊所要は210門、8個特科隊所要が120門です。現在火砲が装備されていない沖縄の第15旅団へも配備すると仮定した場合で所要火砲は330門です。300門という定数を若干超過していますが、一割であれば、まあ元の数からの縮小規模を考えたならば、妥協できる範囲内でしょう。
Phimg_4973  僅か15門といえども特科隊が維持される理由には大きなものがあります、それは迫撃砲では如何に射程が長くとも、対砲兵戦を展開出来ないという部分があり、相手が火砲を装備していた場合、間合いを飛び抜けて攻撃できる装備、戦闘ヘリコプターや長射程の地対地誘導弾が無い限り一方的に撃たれることとなってしまいます。特科隊には情報小隊が置かれており、敵砲兵からの砲撃を受けた際に迅速に射撃位置を評定し的確に反撃可能な対砲レーダ装置と対迫レーダ装置を装備し、この情報に基づいて運用される野戦特科情報処理システムを運用しています。
Phimg_6404  特科隊を有する旅団と仮定する持たない旅団を比較した場合、野戦特科情報処理システムの有無により対砲兵戦闘に致命的な差異が生じます。重迫撃砲と野戦特科情報処理システムを連動させる技術は、一応考えられなくはないのですが、残念ながら重迫撃砲は軽砲を置き換える、榴弾砲を部分的に置き換える能力を有しているものの陸上自衛隊には今世紀初頭までに軽砲は全廃されており、全て中砲、つまり155mm榴弾砲に置き換えられており、この最大射程は従来の重迫撃砲の十倍程度、最新の重迫撃砲でも中砲の最大射程の三分の一程度でしか無く、持続射撃能力や全般支援火力としての能力共々中砲に対し重迫撃砲は及びません。
Phimg_6598  逆に言えば、特科火砲は戦車定数の300両が機甲師団所要を含んでいるのに対し、特科火砲の特科師団に当たる装備はありません。更に方面隊所要の特科隊や特科団はありましたが、特科火砲として方面隊に所管されていた重砲、つまり203mm自走榴弾砲はMLRSへの転換とMLRSの長射程精密誘導弾導入に伴い任務を置き換えられ、最盛期90門が装備されていた203mm自走榴弾砲は遠からず全廃されることとなります。すると、師団装備火砲と旅団装備火砲だけを考えればいいのですから、元々300門という定数はそこまで難しいものでは無かったのかもしれません。
Phimg_8514  特科隊の維持とはこうしたところにあり、併せて無理に部隊を縮小しなくとも現状の規模の特科部隊であればすべての師団と旅団に配備したとしても配備数で300門は何とか全ての旅団と師団に配備させることが出来る水準が維持されているのですから無理を重ねることは逆に非合理というものでしょう。もちろん、全般支援火力大隊と直掩四個特科大隊を含む最大規模の特科連隊を縮小された連隊を含め拡大改編するのであれば、300門とは4個特科連隊所要でしかありませんが、こうする合理性はありません、部隊のコンパクト化に適した運用も確立しているのですから、無理に大型部隊を創設するよりは現行のまま配備したほうが良い。
Phimg_6665  このように、300門の戦車と300門の火砲、という数量しか認められない、と考えますと保守的になってしまい、戦車と火砲を主柱して部隊規模を維持する、という思考へ展開してしまうところですが、特科連隊と特科隊定数を冷静に300門の火砲に置き換えますと数としてはほぼ充分といえる規模ですし、戦車定数300も戦車大隊の半分を機動戦闘車に置き換え同じく装輪装甲車を装備する普通科連隊へ直協配備させる方式を採るならば、それこそ無理をしてまでも戦車を北海道へ集約する必要はありません。
Pimg_1992  消えるという話が消えるのは割と多い、戦車を北海道に集中させるということは機動防衛力の観点から有事の際に全国へ素早く戦車を展開させる機動力が必要となります、これは投機性が大きく、戦車を持たない師団や旅団の能力に上限を設けてしまう。火砲については、大型編成の特科連隊を創設する意思がないならば現状の部隊数では装備数で間に合う、消えるという話が消えるのは割と多い、今回の話題もそうなる可能性は多分に多いように思います。"榛名防衛備忘録:戦車300&火砲300時代",全三回、今回が最終回です、お付き合い頂きありがとうございました。

北大路機関:はるな

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