北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

核兵器禁止条約交渉の険しい展望,核兵器使用合法性事件と核拡散防止条約の核廃絶への成果

2017-04-06 20:02:39 | 国際・政治
■核廃絶への現在の進捗
 核兵器禁止条約交渉開始,しかし、云われるほど条約が目指すものは簡単ではなさそうです。

 新しい核兵器禁止条約の課題の一つは、核兵器を持つ核拡散防止条約における核兵器国と、核拡散防止条約に違反して核兵器を新たに配備した核保有国が参加しないことです。参加国を広める措置は重要で、現状では仮に核兵器禁止条約が成立した場合でも核兵器そのものが削減される見通しがない、という部分にあります。核兵器禁止条約はアメリカや中国とロシアをはじめ核兵器国がすべて参加しておらず、日本やドイツなどの非核兵器国で非核保有国、核拡散防止条約に違反し核武装を行ったインドや北朝鮮も枠組みに参加していません。

 その上で、たとえば核兵器禁止条約参加国は国の数としては多数が参加していますので、核兵器国や核保有国への制裁などを盛り込んだとしても、実効性を確保できないでしょう。そもそも、現状では検証措置や核開発査察制度の再編等も未知数で、核兵器を新たに装備するまでの検証機能も明確ではない。核兵器は、それでは国際法上、核兵器禁止条約を討議しないことでその脅威を放置しておいてよいのでしょうか。この点について、核へ意識用合法性事件という大きな成果が国際法においてすでに構築されています。

 核兵器使用合法性事件、として核兵器を用いることは国際法上適法か、という、いわば自衛権の範疇においては核兵器を使い得るのか、という核軍縮の究極的な目標である核戦争の阻止を1994年に国際司法裁判所において討議した事例がありました。国際司法裁判所勧告的意見について、核兵器使用は、究極的な自衛権が行使される状況に置いては国際司法裁判所の判断の及ぶところではない、と示しました。

 国際司法裁判所勧告的意見に示された究極的な場合、とはどういう意味でしょうか、それは核兵器が使用された状況です。即ち、究極的に自国へ核兵器が使用された状況をのぞけば核兵器の使用は許されない、という核兵器先制使用を事実上禁じた勧告的意見を国際法上の強行規範として示し、通常戦力の延長線上としての核兵器使用を封じました。冷戦時代初期には核戦力が野砲からの投射を含め整備されていたことを踏まえれば、この判断は画期的という一言に尽きる。

 核放棄へ核拡散防止条約は実績があります。筆頭となるのは、インドの第一次核開発を核兵器が核爆発装置まで開発できた段階での核放棄へ導いた実績がありますし、東西冷戦終結後のソ連崩壊に伴うCIS諸国への核兵器拡散を阻止した実績もあります。ソ連崩壊後の核拡散は、特にウクライナ国内の旧ソ連軍核兵器をウクライナ軍が管理する施策が示され、核保有国が増大する可能性がありました。

 核拡散の危機というべき状況です。ウクライナ政府は、核兵器国であるソ連が導入した核兵器を国家継承とともに移管を受けたものであるため、ウクライナは核兵器国である、と強調しましたが、核拡散防止条約締約当時、ウクライナは独立国ではなく、ソ連を国家継承したのはロシア連邦であるとし、ウクライナからの核兵器撤去を成功させた事例があります。

 仮にあのとき、ウクライナの核兵器撤去が実現していなければ、たとえば2014年のウクライナ東部紛争でのロシア介入疑惑の際に、双方何れかが運用し、核戦争が勃発していたかもしれません。こうした意味で、核拡散防止条約は緩慢ながら着実な成果を上げている点を忘れては成らず、これを空文化させかねない急進的な核軍縮の試みには、大きなリスクが伴うわけです。核兵器非合法化条約が目指す以上の成果を示している訳です。

 核兵器禁止条約、核兵器を禁止しようという国際公序を核兵器国と核保有国が参加しない状況で討議する事は無意味ですが、その上で例えば幾つかの意味を持たせる事は出来るかもしれません。例えば、核開発防止の国際機構として核不拡散条約以上の措置を盛り込む場合です、例えば化学兵器禁止条約に際し盛り込まれたようなチャレンジ査察制度、無予告で適宜核開発を査察する制度や、不透明な核開発疑惑施設と原子力施設に対する核兵器禁止条約の履行機関としての監視要員常駐等、核不拡散条約査察制度を上回る査察体制を構築し、履行した上でこの機能を国際的に普遍化したならば、査察機能として核開発監視制度で核拡散防止条約枠組への波及効果は期待できるかもしれない。

 画期的な点として核兵器そのものを直接非合法化しようという試みについて。画期的な軍縮交渉は、結果的に参加国を局限する可能性を無視しては成りません。1930年代の航空母艦禁止条約を筆頭として、事実上履行できない軍縮条約を既存の軍備管理国際法体系へ盛り込むことで、条約体系そのものを機能不随に陥らせる外交交渉は過去に幾つか存在しました。

 大陸間弾道弾や戦略爆撃機運搬以外の核爆弾を禁止する短距離核兵器全廃条約交渉など、実現性が難しい命題を投じて既存の履行しがたい条約体系を機能不随に追い込む施策は過去に多々あり、第一に核拡散防止条約の確実な履行、北朝鮮など核兵器国以外の核保有国を核兵器放棄へ強制する一致した制裁手段の模索、経済制裁を越えた経済封鎖や海上封鎖などの施策には可能な選択肢は多いのです。こうした履行可能な枠組みを広く徹底しつつ、緩慢ながら確実な核兵器廃止への道のりが、重要なのかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【京都発幕間旅情】広島城,日... | トップ | 平成二十九年度四月期 陸海... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

国際・政治」カテゴリの最新記事