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【榛名備防録】旧日本海軍の戦艦重視空母軽視論は本当か?戦艦に戻されなかった赤城と加賀

2021-08-07 14:44:38 | 防衛・安全保障
■赤城と加賀は元巡洋戦艦と戦艦
 世の中には少し調べればわかるものが機会に巡り合わない事で誤解され続けている俗説や珍説が多い様に思います。

 赤城や加賀、日本海軍は戦艦重視で時代遅れだった、という"珍説"に接しますと、この人は歴史をなにも知らないのか調べようとしないのだなあ、という少し残念な気分に陥ります。もしほんとうに日本海軍が戦艦至上主義であったならば、ワシントン海軍軍縮条約により建造を断念し、空母へ区分変更した戦艦加賀など条約失効後に戦艦に戻したでしょう。

 加賀、航空母艦として有名で中国大陸にハワイにインド洋に、そしてミッドウェーへと戦い続けた航空母艦はもともと加賀型戦艦として設計されていました。これは強力な戦艦で41センチ艦砲を10門搭載しており、日本初の41センチ砲搭載戦艦である長門型戦艦よりも一回り大型で世界最強と称して過言ではありません。建造中に空母へ改造したのですね。

 赤城、こちらも天城型巡洋戦艦として建造されていたものを、ワシントン海軍軍縮条約により主力戦艦建造を世界各国で同時に制限した際、航空母艦へ転用されました。満載排水量4万7600tの巡洋戦艦で速力は30ノット、41センチ艦砲10門を搭載する計画でした。加賀型戦艦2隻と天城型巡洋戦艦4隻、ここに長門型戦艦2隻で強力な艦隊を計画します。

 土佐、加賀型戦艦2番艦土佐は建造が進んでいたのですが、ワシントン海軍軍縮条約の削減対象となり、建造を中断し標的艦として外洋で撃沈されています。もっともワシントン海軍軍縮条約では日本は現役戦艦の縮小を最小限とする条約交渉の成果もあり、イギリスやアメリカが大量の14インチ砲搭載艦を戦わず廃棄させたという成果は、ありましたが。

 天城、もともと航空母艦へ改造されるのは赤城ではなく天城でしたが、横須賀にて建造中、1923年の関東大震災に被災し建造中の船渠で横転、竜骨が折れ大破したため、急遽建造中止を決定し、廃艦となる予定であった赤城を航空母艦としています。上部構造物はかなり設計変更していますが、赤城、加賀、ともに船体設計で戦艦の系譜にあることは事実だ。

 日本海軍が戦艦を重視している、航空を軽視している、この"珍説"が事実であるならば、ワシントン海軍軍縮条約が失効した後に赤城と加賀を戦艦に再改装する選択肢もあったはずでした、なにしろこの建造で長門型戦艦よりも強力な戦艦が2隻揃うのですから、大和型戦艦2隻と加えて41センチ砲と46センチ砲搭載艦が6隻揃い、アメリカに対抗できる。

 アメリカ海軍はワシントン海軍軍縮条約失効とともにノースカロライナ級戦艦2隻とサウスダコダ級戦艦4隻を建造、これは16インチ砲搭載艦ですが、条約前の戦艦よりも進歩したエンジン技術を用いており、巡洋戦艦なみの速力を持ち戦艦としての防御力を有するもので、日本では長門型戦艦で艦砲で拮抗しても速力が劣り、対抗には限界がありました。

 しかし日本海軍は、航空母艦として赤城と加賀を維持しているのですね。実際のところ、航空機による攻撃は急降下爆撃でも新戦艦を破壊することは簡単では無い、50番という長門型戦艦の砲弾を転用した爆弾を高高度から水平爆撃で命中させ、砲塔付近から貫通できれば弾薬庫を破壊し撃沈できるが相手が航行中は難しい、航空魚雷を数十発充てる必要が。

 日本は真珠湾攻撃でアメリカの戦艦を撃沈しましたが、幾度か機会はあるも作戦行動中のアメリカ戦艦を航空攻撃で沈める事は遂にできませんでした。航空魚雷も駆逐艦の酸素魚雷に比べると威力が限られています。しかし、赤城と加賀を戦艦に再改装せず、空母として活用した一点だけでも日本は戦艦重視と、"珍説"の的外れが端的に説明できるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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