北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

自衛隊とスーパーハーキュリースの可能性【2】 C-1輸送機からC-130H輸送機導入の背景

2016-01-26 22:32:26 | 先端軍事テクノロジー
■沖縄返還と第一次石油危機
 C-130輸送機後継機の背景にはC-1輸送機からC-130輸送機への転換を観てゆく必要があります。これには沖縄返還と第一次石油危機という1960年代から1970年代の我が国戦後史における大きな転換がありました。

 C-1輸送機はボーイング737と同型のJT8D-9エンジン双発とした高速輸送機で、これは高速飛行により巡航速度を高め、一定輸送区間の24時間当たりの任務飛行回数を多く維持し、限られた輸送機であっても輸送能力を高める目的、更に前線飛行場と航空優勢維持が競合状態にあり経空脅威が潜在的に残る地域での飛行時間を最小限とすると共に、加速性を高く設計する事から機体形状と併せた短距離離着陸性能を付与することで、航空攻撃などで滑走路の完全使用が難しい前線飛行場での運用を考慮した設計となりました。航空祭などで驚かれる短距離離着陸性能はこのためのもの。

 C-130H輸送機が導入された背景には、C-1輸送機の製造費用が第一次石油危機と第二次石油危機に伴うインフレにより歳入不足と製造費用高騰が重なり、当初50機の導入計画が下方修正され生産を維持できなくなった後に、輸送機不足が指摘されたためです。併せて、C-1輸送機の初飛行から二年後に沖縄返還が実現し、本土から南西諸島への輸送任務が付与され、那覇基地に配備されるF-104戦闘機予備部品を搭載し、木更津の補給処から沖縄本島へ飛行する事へ天候制約が生じる為、航続距離不足が指摘されたともいわれます。特に季節風が少なくない影響を与えるという実情も挙げられるでしょう。

 C-1輸送機の改良型として、主翼内へ燃料タンクを拡張し、更に胴体を延長するC-1改輸送機の計画が立てられたのですが、当時防衛庁内は戦術輸送機として高い能力を重視する航空幕僚監部と日米装備共通化を期する防衛庁内局との対立構図があり、一旦生産が石油危機という外因とはいえ終了し製造ラインが閉じた後に改良型を製造するには、再度生産ラインを構築するには装備計画数が不経済であり、結局最終年度調達の5機について主翼燃料タンクを増設する設計変更のみが実現し、胴体延長型の開発は見送られました。胴体延長ですが、例えばアメリカのC-141輸送機等では既存機の胴体を7.11m延長する改修が行われています。

 C-130H輸送機後継機という視点ですが、C-2輸送機となる可能性が高いものの、C-2輸送機の生産計画は当面2個飛行隊所要であり、生産計画が現在のまま変更が無ければ、防衛省では電子情報収集型と電子戦訓練支援型及び試験評価機として5機から7機程度の派生型製造と共に生産ラインが閉じられることとなります。この場合、C-130H輸送機後継機にはC-2輸送機以外の機種が候補として上がる事となり、その時点まで生産ラインが維持されている場合という前提で、C-130J輸送機が有力な候補機となる可能性が出てきます、もちろんC-2輸送機との運用面の相違点、ヘリコプターへの空中給油機原型など用途がありますが、C-2輸送機と同時期に調達を要求するには補正予算など政治要素が無ければなりません。

 C-130H輸送機は、C-2輸送機との相違点としてC-130Jのように異なる点がありまして、その最たるものに、C-1輸送機が設計時点から想定しない不整地運用能力があります、実際岐阜基地には無舗装の不整地発着訓練滑走路があり、定期的に発着訓練を実施しているほか、岐阜基地航空祭において不整地発着展示を行う事があります、C-1輸送機は短距離離着陸性能を重視している為、破壊などにより滑走路が使用できない場合は滑走路の破壊圏外舗装帯や誘導路に着陸する前提での運用ですが、C-130H輸送機ならば滑走路の横、緑地帯芝生等に直接着陸出来、運用思想の相違と云えばそれまでですが運用可能で、言い換えれば飛行場以外での運用能力が高いという利点があるのです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 自衛隊とスーパーハーキュリ... | トップ | 榛名防衛備忘録:MQ-8沿岸監視... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事