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【新年-防衛論集】“新しい八八艦隊構想”,防衛大綱F-35B導入決定と将来水上戦闘の変容(1)

2019-01-02 20:18:47 | 北大路機関特別企画
■護衛艦はるな除籍から十年
 皆様、重ねまして明けましておめでとうございます。新年特別企画としまして北大路機関は本日から“新年-防衛論集”を掲載してゆきます。

 はるな除籍、舞鶴基地にて初のヘリコプター搭載護衛艦はるな、が自衛艦旗を返納してから今年で丁度10年となります新防衛大綱へF-35B取得が示された事で、改めて護衛艦隊へヘリコプター搭載護衛艦の増勢を行う提言を新年という事で改めて。はるな就役が1973年という事で海上自衛隊は洋上における航空部隊運用では年々実績を積み重ねてきました。

 護衛艦隊には四個護衛隊群が、横須賀基地、佐世保基地、舞鶴基地、呉基地へ配置されています。護衛隊群は護衛艦8隻より成り、護衛艦4隻から成る護衛隊を2個により群が編成されています。一つの護衛隊はヘリコプター搭載護衛艦中心、一つはイージス艦中心に。現在イージス艦等防空艦は8隻、そしてヘリコプター搭載護衛艦は4隻配備されています。

 かが就役と新防衛大綱、大綱には護衛艦へF-35搭載の方向性が示されました。2019年新年特別企画として毎年八月八日に特集を組みます“新しい八八艦隊”という護衛艦隊改編提案を改めて提示します。2019年という新しい年が護衛艦はるな除籍10周年を示すと共に初の全通飛行甲板型護衛艦として建造された護衛艦ひゅうが就役10周年を示します。

 新しい八八艦隊、これは現在護衛艦隊隷下に置かれている四個護衛隊群、これを構成する八個護衛隊について、全てヘリコプター搭載護衛艦を配備し、四隻のヘリコプター搭載護衛艦を八隻体制へ増強し、汎用護衛艦数隻とミサイル護衛艦で構成される護衛隊が確実にヘリコプター搭載護衛艦の哨戒機や哨戒ヘリコプター支援を受けられる体制の提案です。

 イージス艦8隻、ヘリコプター搭載護衛艦8隻、八八艦隊。八八艦隊とは旧海軍が大正時代に構想した高速戦艦八隻と巡洋戦艦八隻を基幹とする巨大海軍構想です。軍縮条約により実現しませんでしたが、長門型戦艦と同等の戦艦を毎年2隻建造するという当時の我が国経済力の限界を超えた構想で、実現したらば日米開戦は無かったでしょう、経済破綻で。

 88艦隊として海上自衛隊は、1980年代に護衛隊群の編制として護衛艦8隻と哨戒ヘリコプター8機からなる現実的な構想を着手、ヘリコプター搭載護衛艦を直轄艦として、艦隊防空に当るミサイル護衛艦2隻の護衛隊、汎用護衛艦2隻の護衛隊、汎用護衛艦3隻の護衛隊、これらを以て編成する構想は1996年にイージス艦みょうこう就役を以て完成しました。

 帝国海軍の八八艦隊構想のような大袈裟な防衛計画は必要ありません、しかし、新しい八八艦隊構想は、基本的にヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強する、というものでありながら、昨年12月、つまり先月、閣議決定されました新防衛大綱に護衛艦へのF-35B搭載能力の付与という新事業により、極めて大きな意味を持つ事となります。そして必要でもある。

 かが竣工により海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦は護衛艦隊隷下四個護衛隊群全てに一隻配備されている定数の四隻全てが従来のヘリコプター巡洋艦型から全通飛行甲板型となりまして、全通飛行甲板型護衛艦の時代となりました。しかし、海上自衛隊護衛隊群は二個護衛隊群から編成されており、全てにヘリコプター搭載護衛艦が配備される訳ではない。

 ヘリコプター搭載護衛艦の増勢を行い現在の4隻体制から8隻体制へ事実上倍増させる。勿論、人員不足に悩む海上自衛隊にとり、一隻で護衛艦あさぎり型の定員よりも倍の乗員を必要とするヘリコプター搭載護衛艦を4隻増強する事は簡単ではありません、補給整備や基地機能の拡充を考えれば人員だけでも自衛隊全体で800名近い増員が必要でしょう。

 SH-60J/K哨戒ヘリコプターであれば、護衛艦隊を構成する汎用護衛艦にも全て各1機が艦載機として搭載されています。元々SH-60J開発当時は対潜ヘリコプターと呼称されており、主任務は対潜哨戒にありましたが、副次的に護衛艦のマストに搭載の各センサー延長線上に対艦ミサイルの目標索敵や通信中継という任務があり、これをセンサーノード機という。

 近い将来、現在進行形で進む艦載ミサイルの世界的な長射程化を前に、現在のヘリコプターを用いたセンサーノード機任務には回転翼航空機という巡航速度と航続距離に物理的上限が存在する区分では対応が困難となるのではないか。“新しい八八艦隊”を提案する背景にはミサイル長射程化時代に現在の護衛隊群編成と艦隊運用に限界があると考える為です。

 長射程対艦ミサイル、ハープーンミサイル等の後継装備は現在かなり長射程化が見込まれています。1980年代から自由主義世界に広く輸出されたハープーン対艦ミサイルは射程200km程度でしたが、流石に配備開始から40年前後というハープーンシリーズに近代化改修や改良型開発に限界が見え始めています。そこで後継候補の一つにLRASM等がある。

 LRASMはロッキードマーティンがアメリカ国防高等研究計画局と共に開発を進める将来の対艦ミサイルで、発射筒からの投射以外にMk.41VLSからの発射が可能です。Mk.41VLSは世界の標準的な垂直発射装置で、海上自衛隊でもイージス艦と護衛艦むさらめ型以降の汎用護衛艦に採用されています。LRASMの特色はその射程で実に800kmに達します。

 VL-JSMはノルウェーコングスベルグ社製の将来対艦ミサイルで、射程は300km以上、原型となるJSMミサイルはF-35戦闘機の兵装庫収納型ミサイルとしても開発されており、いずれにせよハープーンミサイルの射程を大幅に凌駕します。すると、センサーノード機にはこの長距離射程に応えるだけの索敵能力が求められ、ヘリコプターの限界が見えます。

 世界的な対艦ミサイルの長射程化、と理由を説明しましたが、これはアメリカ海軍とその友好国に限った事ではありません。中国製YJ-18対艦ミサイルは射程540kmとされ2020年代までにYJ-83を置き換えます。ロシア製SS-N-27/3M54E1カリブル対艦ミサイルはシリア内戦にて巡航ミサイル型が実戦投入されていますが、その射程は300km以上という。

 カリブルについて300km以上、という射程はその上限が明確に示されていません。これはロシアが輸出したカリブルが射程300kmに留まった為で、中距離核戦力全廃条約等の履行と共にその最大射程を意図的に公表していない為です。そこで世界はロシア軍のカリブル巡航ミサイルも射程300kmと見積もっていたのですが、シリア内戦により性能の一端が。

 SS-N-27/ 3M54E1ではなくシリア内戦にロシア軍が投入したものは対地型の3M14TEですが、カスピ海のコルベットから発射されたカリブルはイラン上空を経由しシリア領内の攻撃目標へ命中、その距離は2500km近く隔てていたのです。ロシアはソ連時代から長く大型で長射程の巡航ミサイルを重視していますが、この長射程は予想外の高性能でした。

 LRASMとVL-JSMがハープーンミサイルの後継という割には射程が大きく延伸している背景に、中国海軍のYJ-18とロシア海軍のSS-N-27/3M54E1カリブルの長射程に従来のミサイルではアウトレンジされ一方的に攻撃を受け続ける懸念がある為です。この為にセンサーノード機には更に長い戦闘行動半径が求められるのですが、もう一つ新しい問題も。この点については次回議論しましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2019-01-02 21:01:19
あけましておめでとうございます

なるほど、新年特集ですか
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