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【くらま】日本DDH物語 《第十九回》T-1改VTOL実験機構想の日本版軽空母艦載機試案

2017-07-22 20:25:54 | 先端軍事テクノロジー
■T-1練習機改造VTOL研究機
 岐阜県かかみがはら航空宇宙博物館に展示されているJR-100エンジンVTOL実験機は、航空自衛隊のT-1練習機を改造した次の実験段階が構想されていました。

 T-1練習機改造V/STOL機研究機、航空宇宙技術研究所NAL-V/STOL機研究として国産ジェットエンジンJ-3改良型のJR-100エンジン搭載のJR-100フライングテストベッド飛行実験に続き、開発が見込まれていました。しかし、諸般の事情、恐らく飛行時安定性の問題、から日本初のジェット練習機を改造した垂直離着陸航空機は実用しませんでした。

 Yak-36試作垂直離着陸機このソ連製実験機を一例にT-1改造機を考えてみましょう。仮に実現していたならばYak-36のような航空機となっていたのかもしれません。Yak-36は全長17 mと全幅10.5 mに全高4.5 mという機体規模で重量は空虚重量4140 kgです。対してT-1練習機は全長12.12mと全幅10.49mに全高4.08mで空虚重量 2858kg、Yak-36はピトー管が長い為全長が大きく見えますがほぼ同じ大きさ。

 Yak-36は実験航空機となっていましたが、運用構想はイギリスが開発しアメリカなど多数が運用したハリアーに近いものが考えられていたと推察できます。現にソ連海軍のモスクワ級ヘリコプター巡洋艦での艦上試験が実施されたほか、1967年モスクワ航空ショーにてロケット弾ポッドを搭載し飛行展示した事で実用攻撃機として判断、NATOコードネームとしてフリーハンドという識別名称を付与されています。前線航空機や艦載機として運用を構想していた事が分かる。

 T-1練習機改造V/STOL機は模型を見る限り、離陸用に胴体部分全体をエンジン区画としてJR-100エンジンを二基搭載しています。詳細な下部写真が無く安定機構については推測に頼らざるを得ませんが、主翼を後退翼から直線翼に換装し構造上主翼部分から飛行安定用の圧縮空気を噴出させる構造が可能です。非常に複雑な機体構造となっていたのでしょう。

 飛行安定性について、見通しがつかない事は容易に推測できます。離陸したらば微妙な気流変化を噴出するジェットにより機体を安定し、一定高度まで垂直で飛翔した後に前進し、翼の揚力で飛行するのです。上掲のソ連製Yak-36実験機も安定性に問題があり量産に至りませんでした。しかし興味深いのはこの研究が行われた1960年代から姿勢制御という航空技術に防衛庁技術研究本部が着目した事で、技術研究本部はこの後の技術蓄積を元に1976年に可変特性研究機VSAを完成させています。

 防衛庁技術研究本部可変特性研究機VSAは海上自衛隊のP-2V対潜哨戒機を改造し完成しています。機体姿勢直接横力制御や機体姿勢安定上下制御という研究に充てられ、技術開発は更にT-2高等練習機を改造したCCV実験機としてフライバイワイア制御技術へ発展、今日のF-2戦闘機やより先進的なフライバイライト制御のP-1哨戒機へ応用されました。

 JR-100フライングテストベッドの成功からT-1練習機改造V/STOL機研究機という次の段階に研究を展開する事が出来なかった為、技術の進展は少なくとも日本版ハリアーを目指すという意味での進展には至りませんでした。しかし、次の段階へ進んでいたならば、例えば後にT-2高等練習機を原型とする垂直離着陸支援戦闘機が完成していたのでしょうか。

 VTOL機は当時の一つの趨勢でした。そしてT-2練習機のような超音速機を原型として改造しようとした事例も多いのです。例を挙げますと西ドイツは冷戦時代の緊張下に航空攻撃の第一撃で空軍基地の滑走路を破壊され戦闘機が使用出来なくなることを警戒し、F-104戦闘機にロールスロイスRB145エンジン二基を搭載した EWR-VJ-101実験機やVFW-VAK-191B-VTOL核攻撃戦闘機というハリアーに似た航空機の研究を行っています。

 フランスも比較的早い時期、超音速戦闘機ミラージュⅢ原型のバルザック VやミラージュIII-Vの研究を行っています。ミラージュIII-Vはマッハ2を発揮する高性能機ですが高コストと技術的限界から開発が断念されました、実はフランスはこの機体を主力機とする構想があり、これを断念した為に性能として凡庸だが即座に量産できるミラージュF1の制式化に甘んじたという歴史もあります。T-1練習機改造V/STOL機研究も、趨勢に重ねた一つの技術的研究と云えました、が、完成すれば艦載機転用が模索されたでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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