北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

グアム沖で中国艦が米機をレーザー攻撃!052D型駆逐艦が米P-8A哨戒機に,太平洋艦隊が抗議

2020-02-28 20:01:20 | 防衛・安全保障
■西太平洋上の米中軍事緊張
 グアム沖でアメリカ海軍の哨戒機が中国海軍駆逐艦よりレーザー光線を照射されるという事態が、新型コロナウィルス肺炎蔓延続く最中に発生しました。

 さみだれ、太原。アメリカ海軍のP-8A哨戒機がグアム近海で中国海軍駆逐艦よりレーザー照射攻撃を受けました。今回P-8A哨戒機に対しレーザーを照射しましたのは昨年自衛隊自衛隊観艦式外国艦艇として招待されました中国海軍駆逐艦太原と同型の052D型駆逐艦です。アメリカ海軍によれば照射を行った艦艇の艦番号は161、艦番号から駆逐艦呼和浩特です。

 P-8A哨戒機はボーイング737型旅客機に対潜哨戒や海洋監視等の各種センサーを搭載した哨戒機です。事件は2月17日に発生しアメリカ海軍により昨日27日に公表されました。レーザー照射事件はグアム島西方380浬の公海上で発生、アメリカ海軍乗員に負傷者はありませんでしたが、P-8A哨戒機のセンサーが駆逐艦からのレーザー照射を検知しました。

 052D型駆逐艦にはレーザー砲等は搭載されていませんが、艦砲として130mm単装砲を搭載しており、この為に測距装置を搭載しています。通常、測距装置には余程の旧式でない限り有害なルビーレーザー等ではなく、安全なアイセイフレーザーを採用するのですが、アメリカ海軍によれば航空機のセンサーや操縦士への危険が及ぶものであった、とのこと。

 呼和浩特、P-8A哨戒機へレーザーを照射したのは昆明級/052D型駆逐艦の12番艦で2016年に竣工した防空駆逐艦です。レーザー照射は米中間でも2014年西太平洋海軍シンポジウムにおける多国間海上相互規範CUES,そして更には米中国防当局海上航空安全規則覚書MOUにおいても実施しない協定があり、アメリカ太平洋艦隊は強く抗議した、とのこと。

 052D型駆逐艦には測距装置としてレーザーレンジファインダーが搭載されていますが、機種によっては電子機器に有害であると共に視力に対しても影響を及ぼす波長があり、アメリカ海軍は今回のレーザー照射が電子機器及び人体の特に視力に対し影響を及ぼすレーザー照射を行わない米中MOUへの違反行為であるとして抗議、事態は深刻といえましょう。

 ゆうだち、に対して中国海軍が行いP-1哨戒機に韓国海軍が実施したレーダー照射事案が在った。そして今回のレーザー照射、一文字違いではありますが、レーダー照射は特に射撃管制レーダーが用いられたため、攻撃手順の一巻であるとして批判され、中国政府は日本政府に陳謝しました。他方、一文字違いのレーザー照射は攻撃そのものといえましょう。

 中国軍による米軍機へのレーザー照射は初めてではなく、2018年5月3日にもアフリカのジブチにおいてC-130輸送機に対して実施されており、この攻撃ではジブチ共和国が中国や日本、フランスやアメリカなどに対し提供されている飛行場にて、中国人民解放軍区画から米軍機に実施、操縦士二名が軽傷を負い、外交ルートで抗議する事例がありました。

 レーザー兵器使用は特定通常兵器使用禁止条約CCW追加議定書により使用が禁止されています。具体的には1995年締結の特定通常兵器禁止条約追加議定書4により禁止されており、失明をもたらすレーザー兵器の使用と失明をもたらすレーザー兵器の移譲が禁止され、1998年に発効しています。そしてこの中では測距用レーザーについても制限があります。

 アイセイフレーザー。レーザーとは方向性を持ったコヒーレント光であり、これが眼球の水晶体をへて網膜の裏側に当たりますと、比較的小さなエネルギーであっても永久失明を引き起こします。測距用にかつて1970年代にもちいられていたルビーレーザーなども実は有害であり、その後は波長が視力に影響しないアイセイフレーザーに転換しているのです。

 軍用レーザーは、測距装置はもちろん、レーザー誘導爆弾など、その用途は広く、例えば測距装置などは目標への正確な距離を算出することで戦車射撃などを性格に命中させる際の不可欠な要素となっていますし、対戦車ミサイルなどはレーザー反射光へ誘導する第三世代型がまだ世界中で多く、レーザー誘導爆弾等も普及しています。ただし此処で制限が。

 視力を奪う目的でのレーザーは、現在国際法にて禁止されていますが、国際法に禁止が明示される前であっても1907年ハーグ陸戦条約において、兵士に不要な苦痛を与えることを目的とした兵器が禁止、当時はダムダム弾などが想定しましたがレーザーも含まれる解釈があり、更に1932年ジュネーブ条約とともに1930年代後半から国際慣習法と考えられた。

 フォークランド紛争。レーザー兵器が視力を奪う目的により使用されたのは1982年、イギリス海軍が水上戦闘艦に艦橋構造物にサーチライト状のレーザー照射装置と思われるものを搭載していました。また、同時期、アルゼンチン軍機が不自然な墜落を起こした事からレーザー照射による突発的失明が原因と疑われる事例があり、疑義がもたれています。

 湾岸戦争でもイラク軍がT-72戦車の一部にダズラーミサイル妨害装置が搭載されており、これが視力を奪う、つまり対戦車ミサイルの視線合致誘導を妨害する、レーザー兵器と見なされ、多国籍軍ではその対策に追われました。なお、レーザー兵器対策は特殊遮光ゴーグルが用いられ、相当数が準備されたのですが、幸い、レーザー兵器は使われていません。

 特定通常兵器禁止条約はこうした懸念を受け、明確にレーザーが禁止されたのですが、イギリス海軍のほかにソ連海軍水上戦闘艦の一部にも同様の形状装備が1980年代に確認されていまして、ソ連海軍艦艇が戦闘に参加する事例はありませんでしたが、東西冷戦下、使用されることなく、しかし明確に禁止されていない装備というものは多かったといえる。

 344型火器管制装置。キノコを横にしたような形状のレーダーが今回レーザー照射に用いられたもので、パルスドップラーレーダーと共にTV目標追尾装置、そしてレーザー測距装置が搭載されています。レーザー測距装置はテレビカメラ状のもので誤照射を防ぐためにカバーが被せられているのがお分かりでしょうか。要するに戦闘照準にしか用いないもの。

 中国の今回の照射行動、特定通常兵器禁止条約追加議定書4には中華人民共和国も批准しており、アイセイフレーザー以外のレーザーを第三国の航空機に対して照射したことは厳しく批判されると考えるのですが、もう一つ、迂闊であると嘆息するのはレーザー兵器は近年、視力を奪う目的以外で開発が日米含め進み、使った事で相手に口実を与え得たこと。

 SHiELDシステム。2019年よりアメリカ空軍及び海軍がF-15戦闘機やF/A-18C戦闘機用に開発している機体自衛装置です。F-35戦闘機やF-22戦闘機、アメリカ軍はステルス戦闘機の配備を進めており、これらの航空機はミサイル攻撃を受けた場合でもステルス性によりミサイルに見つからず回避することが可能です。しかしそれ以外はどうか、ということ。

 F-15やF/A-18Cなどはステルス性が無く、そのために機体を自衛する掉尾として開発されたものがSHiELDシステムで、これはレーザーを用いるもの。戦闘機搭載用レーザー砲というもので機体の後方含む周辺から接近する空対空ミサイルや地対空ミサイルを破壊するための装備、現段階では開発を経て試験中ながら、基本装備で広範に配備される計画です。

 C-130J輸送機などは機体自衛レーザー装置が比較的早い時期から配備されていまして、こちらはSHiELDシステムのようにミサイルを破壊するのではなく、携帯地対空ミサイルなどの赤外線追尾装置にレーザーを幻惑するもので、我が国でもC-1FTBに搭載し評価試験を実施しています。こうした装備があるのですから、仮に中国が本件を正当化したらば。

 特定通常兵器制限条約追加議定書4の範疇において日米やNATO諸国は、現段階では平時から妨害目的によるレーザーの照射装備は有していません、が、機体自衛装置として対人用には使わないレーザー装置があるのです。故に中国が測距用としてアイセイフレーザー以外を使用し続けた場合、周辺国に強力な測距用レーザー使用の口実を、示したのですね。

 中国海軍によるレーザー照射は、海上自衛隊護衛艦ゆうだち、に対する火器管制レーダー照射と同じ現場の暴走であるのか、グアム方面への中国海軍軍事行動の一環としての中国政府や共産党党中央の支持を受けてのアメリカ海軍への公海上での飛行妨害行為であるのかは現時点で不明ですが、西太平洋での極めて憂慮すべき事態である事は確かでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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