北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

中東危機と自衛隊アラビア海派遣【5】不測の事態起こり得るイラン情勢とタンカー安全確保

2020-02-10 20:09:15 | 国際・政治
■イラン情勢は安定化したのか?
 ホルムズ海峡海上護衛戦という視点は幾度かこちらで検証しましたが、やはり難しいのは機雷敷設への対処です。

 むらさめ型、たかなみ型護衛艦は大型ヘリコプターの運用能力はありません、が、MCH-101の原型機であるAW-101は特殊な設計であり、開発したアグスタ社とウェストランド社はHSS-2対潜ヘリコプターを運用できる水上戦闘艦への搭載を念頭に機体規模が設計、海上自衛隊護衛艦は汎用護衛艦がHSS-2を念頭に飛行甲板と航空格納庫を設計しているのです。

 MCH-101,掃海器具の整備には追加搭載する装備品もありますが、緊急時の暫定搭載というならば充分可能です。MCH-101,しかし問題は輸送手段がありません、前型で既に全機用途廃止となったMH-53と比較しMCH-101は小型で軽量ではあるのですが、戦略機動性の要求仕様が違います。MH-53はアメリカ空軍C-5輸送機への搭載を念頭に全高を抑えました。

 MH-53に対して、MCH-101の原型であるAW-101は輸送機への搭載を想定していません、故に緊急時にはヘリコプター搭載護衛艦や砕氷艦で輸送するか、1000km置きに経由地を確保し自ら飛行してゆく必要が生じまして、後者については長距離過ぎ現実的ではありません。現時点で派遣に際し、たかなみ艦上にMCH-101を搭載し派遣する計画もありません。

 MQ-8無人ヘリコプター、海上自衛隊が導入予定の無人ヘリコプターもレーザーセンサー搭載による機雷探知が可能ですが、まだ引き渡されておらず、今年進水式を迎える30FFM/3900t型護衛艦に搭載されると目され、確実に間に合いません。現状では事後的に、機雷脅威が顕在化した場合には改めて掃海隊群の掃海艇を増派する必要が生じるでしょう。

 ホルムズ海峡が制御不能となるほどの状態に陥った場合。ジブチ航空拠点に航空自衛隊のF-15戦闘機飛行中隊の6機程度とE-2C早期警戒機を派遣すると共に、一個護衛隊程度の護衛艦、イージス艦を含め増派の必要性、生じるかもしれません。イランイラク戦争ではサウジアラビア空軍がF-15戦闘機を派遣、警戒しました。ただ、これは最悪の事態です。

 最悪の事態、こう説明する背景には、イラク国内でのイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官の空爆、この報復によりイランがイラクの米軍基地をミサイル攻撃した四時間後に発生した、テヘラン近郊でのウクライナ航空旅客機撃墜事件の発生によるイラン世論のイスラム最高評議会反対機運です。ボーイング737-800が撃墜され、イラン人多数が犠牲となった。

 イラン政府とイスラム最高評議会は一致してボーイング社製旅客機の機体トラブルによるものと主張しましたが、ウクライナ航空当局が検証の結果、機体にミサイル爆発による痕跡が確認、これを受け11日になり、ようやくイラン政府が撃墜の事実を認め、誤射であるとして陳謝しました。これが政府に同胞を殺されたとしてイラン世論を激昂させた構図に。

 イラン情勢が不明瞭であるのは、旅客機撃墜と共にイラン政府はアメリカへの対抗措置としてウラン核濃縮の強化を発表し、爾来イラン核合意枠組み維持を支持していたイギリスフランスドイツの欧州各国態度硬化を招き、イラン経済制裁強化を示唆しています。そして、ソレイマニ司令官のイラク潜入が、反イラン世論払拭への非正規作戦にあったという。

 ホルムズ海峡で懸念されるべき情勢というものは、旅客機撃墜で反イラン世論払拭の構図が一時イラン国内とアメリカの強硬手段に対するイラク世論の反発から成り立ちかけた瞬間に、旅客機誤射で撃墜という最悪の展開を自ら招き、再度反イラン感情払拭へ何らかの特殊作戦が実施、国内世論団結を図る懸念が否定できない、というところにあるのですね。

 アラビア海派遣で、自衛官の生命を危険にさらすのか、という批判はあるでしょう。その通りです、しかし、タンカーはじめ商船乗組員を危険にさらすのですか、との反論に合理的な回答はありません。ホルムズ海峡ではイランイラク戦争での大量の商船被害が、と歴史を持ち出すまでもなく昨年に日本タンカーに被害がでているのです。無視して良いのか。

 自衛官の安全を、しかし逆に考えるならば、明確な交戦規則を示し、必要な場合には第一線指揮官の裁量で必要な措置を行い、政治は確実に命令を発した責任を取る、こちらの方が重要であるよう思います。艦砲から対艦ミサイルに個艦防空能力と艦載機まで搭載しているのです。万一の際に出来る能力は大きく、これを政治が制限しない事が要諦でしょう。

 予防外交と抑止力、さて。海上自衛隊の護衛艦と哨戒機を派遣することは、イラン政府の統制外にある革命防衛隊の独断専行によるタンカー攻撃や機雷敷設を抑止する効果があり、これは紛争の武力紛争化を最初の段階で防ぐことを意味します、結果論として大規模な武力衝突への抑止効果も期待できるでしょう。何が起きるか分らないからこそ、備えが要る。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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