北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

装軌装甲共通車両(89式装甲戦闘車後継)装備実験隊が試験【4】課題は搭載ミサイル製造終了

2020-02-11 20:03:53 | 先端軍事テクノロジー
■装軌装甲共通車両の課題
 富士学校祭等で展示される機会はいつ頃なのだろうかと気が早い話題なのですが課題もあります。

 装備実験隊の新型装甲車両、こうした装甲車は必要なのか、という視点ですが。機甲師団の機動打撃は極めて早く、高機動車に車載しての随伴などでは対応できず、軽装甲機動車には搭載できないものがあります。89式装甲戦闘車の生産開始とともに汎用車両として73式装甲車をエンジンなどに改良を施すなどして生産を継続していたならば話は別でした。

 73式装甲車の不足、こうした苦難は生じなかったのでしょうが、実際は廃止の73式牽引車の流用に留まり、89式装甲戦闘車の生産は冷戦終結を受け年間数両程度、二種を量産する余裕は当時の冷戦後という軍縮機運ではあり得ず、その上でバブル崩壊に伴う経済後退を受け、防衛上の脅威が顕在化している現在まで置き去りとなってきたのが、実状でしょう。

 装甲戦闘車、装備実験隊の試験車両は89式装甲戦闘車の砲塔を搭載しています、実際、足まわりの老朽化を解決する観点から砲塔は流用されるとの指針のようですが、89式装甲戦闘車の火器管制装置は老朽化が進んでおり、さらに搭載する79式対舟艇対戦車誘導弾については製造が終了しており、実のところ別のミサイルへ転換が必要であるように思います。

 ただ、79式対舟艇対戦車誘導弾の搭載により、その射程が4000mと長く、もともと89式装甲戦闘車の火器管制装置が、同時に35mm機関砲においても遠大な交戦能力を有していた背景でもあります。ミサイル本体の大きさが異なるために一概にはいえませんが、仮に中距離多目的誘導弾を搭載することが出来たらば、その能力は極めて高いものとなります。

 79式対舟艇対戦車誘導弾と比して中距離多目的誘導弾が優れるのは照準装置を発射装置から離隔し運用できる点で、赤外線半自動指令誘導方式の79式対舟艇対戦車誘導弾とは根本的に発射車両の安全性が異なります。79式対舟艇対戦車誘導弾は発射から命中まで車体を晒してワイヤーを通じて誘導を継続する必要があるのですが、第二世代の旧型設計でした。

 第二世代対戦車ミサイル。その射程は4000mに対し速度は200m/s、つまり命中まで20秒間誘導を継続せねばなりません、この間は車体が暴露し反撃を受けつつ誘導せねば命中しない、無防備きわまりないのですが、中距離多目的誘導弾であれば誘導装置を持った隊員が下車し、車体は掩砲所に待機しつつ射撃を行えば、反撃はほぼ受けずに対応可能です。

 ただ、中距離多目的誘導弾は発射装置にミリ波レーダーを搭載するなど、システムが高度化しており、取得費用も89式装甲戦闘車に匹敵する高価なものです。現実的には35mm機関砲に妥協し、戦車による攻撃を受けた場合には我が方の戦車の支援を受ける事が現実的です。40mmCTA機関砲、しかし89式装甲戦闘車が機関砲部分だけでも換装できれば、と。

 40mm機関砲に換装できるならば、交戦距離が大幅に延伸し、戦車に対しある程度有効な反撃が可能となります。40mm機関砲は3P弾という調整散弾を射撃可能で、実は35mmエリコンにも3P弾はあるのですが、40mm3P弾は戦車の光学照準装置に有効な打撃を加えることが可能となります、撃破は難しいのですが、装甲戦闘車には対処方法はあります。

 スウェーデンのStrf-9040/CV90などは敵戦車と遭遇した際には対戦車ミサイル組を下車させ、自車は全力で後退し戦車からは遮蔽され、対戦車ミサイル組などに接近する敵歩兵には40mm機関砲で支援できる位置まで転進するのです。折衷案として01式軽対戦車誘導弾発射架ごと砲塔に搭載する選択もあり、これはドイツ連邦軍が冷戦時代にやっています。

 マルダー1装甲戦闘車にミラン対戦車ミサイルを直付した実例があります。ただ、89式装甲戦闘車の火器管制装置は79式対舟艇対戦車誘導弾にあわせて4000mを想定しているのに対し、01式軽対戦車誘導弾の射程は1600m、若干もったいないきがしないでもありません。ただ、前述の通り79式対舟艇対戦車誘導弾は生産終了、現実、選択肢は無いのですね。

 将来的に砲塔を換装する可能性はあるのか。実のところ、諸外国の装甲戦闘車を視ますと、M-2A3装甲戦闘車やFV-510装甲戦闘車等は近代化の軸を砲塔の改良や換装としまして、逆に車体部分は駆動系の交換により延命している実情があります、逆に砲塔を交換した事例といいますと、外れてフィンランド軍のマークスマン自走高射機関砲くらいでしょう。

 砲塔ビジネス、世界を見ますと砲塔のみを提示するメーカーもあり、共通車体は89式装甲戦闘車と共に87式自走高射機関砲の砲塔延命も掲げている事から、主たる目的は野戦防空能力の維持にあり、装甲戦闘車についてはミサイルの問題も含め合理性に限界がある事から、将来換装を考えていないか、と。こうした視点も踏まえ、展開を見守りたいですね。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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コメント (4)
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