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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

再論:普天間移設問題、普天間那覇統合航空基地案と日米九州沖縄交代案の問題点

2015-10-24 22:44:54 | 国際・政治
■日米抑止力交代の課題
 再論:普天間移設問題、2015-10-13日付記事にて特集しましたが、今回はその続きを。

 普天間飛行場名護市移設工事に関して沖縄県知事の名護市辺野古沖埋め立て承認取消し正式表明を受けての再論となりましたが、私案として、那覇空港へ普天間飛行場を移設することで日米統合基地とし、逆に普天間飛行場移設予定の名護市辺野古へ那覇空港を沖縄空港として移設する案を提示しました、この私案は、名護市へ新飛行場を建設するが基地ならば滑走路は1600m、新空港ならば2700m、第一次工事として1600m滑走路を建設し空港移設構想が頓挫すればそのまま海兵航空基地へ、移設構想が具現化すれば2700m滑走路埋め立てをする、と、万一知事の判断が一転した場合でも柔軟に対応出来ます。

 一方で、日米九州沖縄交代案を提示しました。海兵航空基地の機能一部を九州へ移転し海兵遠征隊を目達原駐屯地と佐世保市周辺の駐屯地に移設すると共に九州に新編される陸上自衛隊の水陸機動団を沖縄、可能ならば飛行場撤去後の普天間へ普天間駐屯地を置く、那覇駐屯地を拡張し空港周辺に南那覇駐屯地を新設する、沖縄から米軍負担を縮小すると共に陸上自衛隊の第15旅団と水陸機動団、アメリカの第3海兵師団、が協同し、沖縄本島に駐屯するとともに抑止力を担う、という提案を行っています。沖縄県は米軍基地数の負担が強調されますが、駐屯地数や基地数では自衛隊の駐留は少ないのです、そこで米軍負担を軽減する私案として日米九州沖縄交代案を提示したもの。

 しかし、重大な問題があります、それは、日米の部隊を交代する事は可能だ、と仮に交渉が行われた場合、日米の抑止力交代を担う事が出来るのか、ということです。抑止力については、2015-10-13日付記事にて“台湾海峡有事に際し邦人救出へ海兵隊に代わり名護へ駐屯する陸上自衛隊水陸機動団が新しく導入される自衛隊のMV-22により台北へ展開する体制を構築し、邦人救出と共に大陸からの軍事行動への一定の抑制効果を期待する”と、表現しました。在沖米軍は朝鮮半島有事と台湾有事への抑止力行使、即ち万一の際にはすぐ介入する基盤を誇示することで大陸からの軍事力による現状変更の選択肢を封じる機能を有しましたが、米軍が沖縄から九州へ転地することで、朝鮮半島には近くなりますが、台湾海峡からは距離が大きくなりすぎます。

 自衛隊が、台湾海峡有事の際に邦人救出任務として台北へ水陸機動団を展開させる、その際に大陸側が自衛隊へ攻撃を加えれば日中全面衝突の巨大なリスクが生じる、この可能性を回避するには台湾海峡を軍事力により突破し攻撃するという選択肢を大陸側が断念する他ない、というもの。非常に困難な選択肢ですが、目達原等へ海兵航空部隊が緊急展開部隊と共に移駐し、那覇空港等へローテーション配置する程度となれば、残念なことに目達原から台湾海峡までMV-22は展開する事が出来ませんので、米海兵隊の任務を陸上自衛隊が担う事となります。そんなことは起きるわけがない、と反論するならば結構、準備だけ台湾へ那覇から水陸機動団が展開する体制のみ構築しても、大陸側が台湾海峡を軍事力により突破するとの事案、反対する方が起きないというならば相手が起こさない限りこちらも発動する事はありません、準備体制に反対する論拠とはならないでしょう。

 台湾海峡有事へ日本の自衛隊だけで対処できるのか、と問われるかもしれませんが、陸上自衛隊は航空集団や支援戦闘機部隊を持ちませんので、米空軍のエアカバー、特に第35戦闘航空団のF-16戦闘機による航空阻止や近接航空支援と連携し行い、初動にて邦人救出任務へ出動した自衛隊部隊を数時間程度の時間を空けて九州から展開する元在沖米軍の第31海兵遠征隊が後詰で展開するまでの緊要地形確保への展開となりますので、全て自衛隊だけで行う事ではなく、日米共同にて実施する事でその能力的に現実性が強くなります。問題は、沖縄の基地負担軽減を主軸として、その達成に必要な手段としてこれまで米軍が担ていた台湾海峡有事への抑止力を日米交代という選択肢を採る事が妥当か、というところですが。

 憲法上の問題ですが、邦人救出であり、中華民国軍支援ではないという原則を堅持する限り、もちろん中華民国政府との間で平時の内に、自衛隊と民国軍との情報連携体制を構築し、有事の際にいきなり自衛隊が台湾に展開し不測の事態が生じる可能性が無いよう調整が必要ではありますが、憲法上邦人救出任務を自衛隊が行う事が違憲と言い切れるかについては、議論の余地があるでしょう。もっとも、実質的に沖縄の米軍抑止力を自衛隊が引き継ぐことで、米軍の沖縄から九州移転を行うという選択肢は、間違いなく安全保障関連法制整備以上の大きな問題となります、ですから、台湾海峡有事へ対処する海兵隊部隊を沖縄に維持し、我が国としては沖縄県と鹿児島県島嶼部に軸を絞った専守防衛政策を堅持し、平和憲法維持のために沖縄県民の方々には米軍の抑止力を受け入れる努力をお願いしたいところなのですが。

 抑止力を移管せずに海兵隊と自衛隊の部隊だけを平時は九州と沖縄で交代させることはできないのか、と指摘はあるやもしれませんが、台湾海峡有事と沖縄島嶼部有事を並列すれば発生の蓋然性が高いものは紛れもなく前者です、そして台湾海峡有事が抑止出来ない場合、更に台湾本島が大陸側の軍事制圧下に入った場合、我が国シーレーンが重大な影響を受けます、台湾を基点にシーレーンが脅威に入った場合、航空自衛隊のエアカバーは台湾を除き、九州フィリピン間を維持するほどのものはありません、海上自衛隊がジェラルドフォード級原子力空母、とはいかないまでも各護衛隊群にクイーンエリザベス級空母を配置しないかぎり、シーレーンは脅かされます。例えば命題がマラッカ海峡などであれば、マカッサル海峡やカリマータ海峡などやや東方のインドネシア領海の国際海峡を利用する選択肢がありますが、台湾周辺、台湾海峡と台湾東部沖をシーレーンの選択肢から外すことはできません。

 ただ、水陸機動団の沖縄移駐は、沖縄県の県民世論として米軍の九州移転と自衛隊との交代を受け入れられるという前提で最大の問題はありません、最大の問題とは、隊区の問題です。西部方面普通科連隊は連隊編成と持っていますが、西部方面普通科連隊は長崎県の相浦駐屯地に駐屯していますが長崎県で災害派遣の初動に当たる隊区は大村駐屯地の第16普通科連隊が担っています。仮に西部方面普通科連隊が長崎県を隊区としていたらば話は非常に複雑となりました、第31海兵遠征隊と交代したとしても、海兵遠征隊に長崎県の災害派遣隊区を移管する事は不可能だからです、機動運用部隊ならば隊区を持たない事は当然に思われるかもしれませんが、例えば習志野駐屯地の第1空挺団は千葉県を隊区としています、一方中央即応連隊は隊区を持っていません、機動運用部隊ですが西部方面普通科連隊は中央即応連隊と同じ扱いとなっていた訳ですね。

 自衛隊と米軍の駐屯地交代、安易に提示しましたが、駐屯地そのものを交代する事は出来たとしてもその場合、軍隊は抑止力を以て戦争を防ぐことを第一の任務とし、その第一の任務が破綻した際には全力と以てその影響が国内に悪影響を及ぼすことを阻止しなければなりません、この為に駐屯地を交代するならば抑止力を交代する必要があり、そのためには特に台湾海峡という現在世界で最も大規模な海戦や航空戦闘が発生する懸念が深い地域での抑止力均衡を破綻させず転換させなければならないという非常に難しい選択肢を乗り越えねばなりません。ですから、最大の私案としては現状維持による普天間移設が最良の選択肢で、仮に野党民主党などが自民党へ対案を提示する際に示すべき選択肢として、民主党が日本版台湾関係法と自衛隊米軍九州沖縄交代案を併せて提示すべき、として私案を示してみました。

北大路機関:はるな くらま
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