北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

航空防衛作戦部隊論(第十六回):航空防衛力、分散運用と戦闘継続の諸問題

2015-10-14 21:52:17 | 防衛・安全保障
■戦闘継続の諸問題
一撃で無力化されないよう分散運用を対処法に提案しましたが戦闘継続の諸問題があります。

飛行隊は8機から成る飛行中隊を3個有する体制へ拡大改編する、との案を示しましたが、F-15戦闘機8機、これだけでも決して相手には無視できる部隊規模ではありません、8機ならば緊急発進への待機が可能となりますし、航空隊全体でローテーションを確立させ戦闘空中哨戒も可能でしょう。航空隊本部展開基地はF-15戦闘機10機とUH-60JA救難ヘリコプター2機を分遣隊とする。

南西諸島、多くの飛行場がありますが特に先島諸島は中国本土からの短距離弾道弾射程圏内にあるため、宮古空港、下地島空港、多良間空港、新石垣空港以上の四箇所については短距離弾道弾の攻撃により早晩に機能を喪失する可能性があります。この為、ここを平時から那覇基地のような戦闘機部隊の展開する自衛隊基地とすることは現実的ではありません。目標となる航空基地が明確であれば有事の際に第一撃をうけるためです。

短距離弾道弾が何故脅威か、といいますと、その保有数の多さにあります。中国は台湾侵攻を念頭に大量の短距離弾道弾を保有していますが、沖縄本島や九州などを射程に収める中距離弾道弾の総数は、一桁少なく、日本が永らく整備してきました弾道ミサイル防衛システムが機能する、とはいっても飽和状態となる可能性も高いのですが現実的な範疇ともなっています。

しかし、尖閣諸島に程近い先島諸島は、短距離弾道弾の射程に収まっており、従って、先島諸島に飛行隊を基幹とする部隊を常駐させようとした場合、最初の一撃で滑走路を破壊され、離陸できない状況となる懸念があるのです。滑走路復旧は早くとも数時間を要し、その間に第二波第三波の攻撃や航空攻撃の危惧がある。その間に航空優勢維持と要撃戦闘を展開しない限り、その後の航空作戦全般への悪影響は避けられないでしょう。

もちろん、滑走路が破壊されたとしてもハリアー攻撃機のように垂直離着陸可能な航空機であれば離着陸は可能で、同様の状況が想定された東西冷戦下の欧州ではハリアーは前線航空機としてこの種の運用を想定していましたし、スウェーデンでは高速道路の滑走路転用が行われ、J-37等短距離離着陸能力の高い戦闘機が配備されていました。しかし、日本の場合高速道路は作戦部隊移動に不可欠ですし、何より住民疎開にも必要です。

滑走路破壊に備え西ドイツではロケット補助推進装置JATOをF-104に搭載しカタパルトから直接打ち出すゼロ距離発進研究も進められたほどで、アメリカもF-100戦闘機をカタパルトに設置しJATOのロケット燃焼によりそのまま打ち出すように発進する研究が行われていますが、F-15やF-2のような自衛隊の航空機では適していません。それならば、一カ所の基地に部隊を集約する事を避けるしか、実際のところ選択肢は無い。

短距離弾道弾の射程内への基地は、このほか、基地機能を維持するための必要な物資空輸を継続しなければならず、兵站線の長さが大きな負担となります。そして滑走路補修機材と部隊の維持など、兵站線の太さへの要求は更に大きくなるため、消耗戦となる可能性が高く、先島諸島へ部隊配置を行う事は、特に戦闘機部隊配置は慎重にすべきです。ただ、中隊規模の戦闘機の臨時配置ならば、最悪一撃で麻痺も念頭に検討の余地はあるのです。

北大路機関:はるな くらま
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
コメント (1)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする