北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南沙諸島危機、アメリカ軍艦艇が中国南シナ海人工島に接近 中国が領有化一方宣言の国際係争海域

2015-10-27 12:54:08 | 国際・政治
■米中危機への懸念
 我が国シーレーンが通る南シナ海、その中央部に位置する南沙諸島は沿岸国の多くが管轄権を有する多島海域ですが、中国がその全域の領有化を一方的に宣言し人工島を建設、摩擦が強まっている南沙諸島危機へアメリカが関与の動きを強めました。

 南シナ海の南沙諸島近海に中国が造成した人工島海上基地へオバマ大統領の決定に基づき米海軍艦艇が接近し、一部報道では既に12カイリ以内へ展開しているという情報も出ています。南沙諸島人工島、そもそも南沙諸島は1980年代以来、中国がヴェトナム沖やマレーシア沖、インドネシア沖とフィリピン沖のサンゴ礁や離島部分の一方的な領有化を宣言し、一部のサンゴ礁などを海軍歩兵部隊により占拠する暴挙に出た為、海軍艦艇同士の海戦や衝突に幾度も展開している事実上の国際係争海域となっているところです。

 中国は南沙諸島周辺海域に有望な海底資源があるとの海洋観測情報に接すると同時期に、その領有化を宣言、他国排他的経済水域へ浸透し摩擦を起こしている、この種の事案としては我が国尖閣諸島での中国公船による領海侵犯を彷彿させるものがあるのですが、冷戦期にソ連太平洋艦隊への対抗を軸として優勢な海上防衛力を持つ我が国に対しては、中国はこれまで軍事的に強い行動に出ていないものの、中国海軍よりも海上防衛力が低いと認識した諸国に対しては砲撃や機銃掃射などを加えている点で決定的な違いを見いだせるでしょう。

 人工島は海軍航空部隊の起点として2009年頃から本格的に埋め立てを開始しており2012年頃には滑走路建設に着手していまして、この時点で、東南アジア諸国はASEAN地域フォーラム等を通じ安全保障上の強い懸念を示すと共に埋め立て中止を要求してきましたが、その後も中国による埋め立ては続き、アメリカ政府も重大な懸念を表明してきました。懸念とは、人工島に飛行場が建設され、海軍航空隊のSu-27戦闘機が展開すれば南シナ海の周辺諸国全域が戦闘行動半径に含まれることとなり、現在は管轄権を維持している南沙諸島離島へ中国軍が航空優勢を確保した上で攻勢に出た場合、その管轄権を維持できない場合となる可能性が高くなるためです。

 アメリカのオバマ政権は、繰り返し懸念を表明し、2013年頃より海軍航空部隊の哨戒航空機による監視飛行を継続していて、しかし監視飛行ではその抑制には至らず、今回、初めて海軍艦艇による人工島接近に踏み切る事となった。人工島は国連海洋法等国際法上では領海の起点とはならない為、12カイリへ接近することは領海侵犯とはなり得ません。しかし中国政府は人工島を領海の起点とみなす独自の解釈を行っており、米中間の関係が致命的に悪化する可能性があるのです。一方、中国が我が国南西諸島上空に防空識別圏を設定した際にも同様の懸念があったが、航空自衛隊の対領空侵犯措置任務の継続により中国機の接近を全て排除している事により不測の事態は今に至るも発生せず、今回も最悪の事態を回避できる可能性は充分あるともいえます。

 最大の問題は、人工島を建設に着手した時点でアメリカ政府が明確な対応を採らなかったことにより、中国政府に誤ったメッセージを送ってしまった事だ、例えば人工島建設に必要な資材運搬などの時点で海軍艦艇による監視活動を行い、示威行動を執っておけばその建設に先んじて米中交渉と東南アジア諸国と中国の多国間対話へ持ち込み、既に完成した飛行場にイージス艦を接近させるという行動の前に幾つかの選択肢を採る事が出来たため、今回は手遅れではないにしても行動を起こすことにより生まれる緊張度は以前よりも遥かに大きくなっているといわざるを得ません。

 この命題に対し、我が国政府は日米間が緊密な情報交換を行っているとしています。特に米海軍の南シナ海周辺での航行に対し、中国海軍艦艇が航行を妨害し、その際にアメリカは強い行動を執らなかった、これはアメリカが緊張を避けた形ではあるが、中国側にはその艦艇による行動を撃退したとの誤解を与える事にもなっている、この問題は我が国シーレーンが南シナ海を通る為、我が国安全保障にも非常に大きな影響を及ぼすものですので、今後数時間から数日間の展開は重大な関心を以て見守るべきでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (1)
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