北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

榛名防衛備忘録:航空自衛隊E-X,次期早期警戒機に関する幾つかの考察②

2014-10-30 23:30:33 | 防衛・安全保障

◆E-767導入と現在のE-X選定へ

 E-2CからE-767へ。航空自衛隊の空中警戒航空機の転換について。

E2img_9076 航空自衛隊は滞空時間が10時間を超え、加えて地上の管制設備の支援を受けず作戦能力を自己完結させた早期警戒管制機の導入を1980年代末に決定します。そこで自衛隊が導入を期したのはE-3早期警戒管制機でした。日本経済は好調な成長を続けた1980年代、この状況を背景に任務拡大を視野に含めれば必要性が高まったE-3が取得できる程度の経済力があった、というもの。

E2img_3092 E-3の導入を期した自衛隊ですが、E-3はボーイング707旅客機へAPY-2レーダーを中心とした警戒管制システムを搭載したものであり、1980年代にはボーイング社が原型となるボーイング707旅客機の生産を終了してしまいます。現在の最新型はボーイング787ですが当時の最新がボーイング767、単純計算で世代交代を考えればその時点直前まで707の生産が続いていたという方が不思議でした。

E2img_8956 ボーイング社は代替案として当時新鋭でわが国も生産へ参画していたボーイング767を原型とした新型早期警戒管制機を示します。搭載機器はE-3と同型、E-3も初飛行から時間を経ていましたが、アメリカ空軍の空中警戒管制能力の重要性認識を反映しほぼ毎年アップデートが行われるため器材と性能面ではE-3のシステムを超える装備品は当時、厳格には現在もありません。

E2img_0004  707に搭載されていたものを767へ適合させることは新型機の開発を意味し、開発費を全て日本側が負担する事を示したのですが、幸い機内容積は707の倍以上を767は有していたため、余裕があり、長時間運用へ備えての休息区画の余裕等を含め開発することが出来ました。取得費用は550億円です。当時最新の汎用護衛艦むらさめ型は650億円、参考までに。

E2img_3230  こうして航空自衛隊はE-2C早期警戒機とE-767早期警戒管制機を同時に運用するという世界で唯一の空軍となりました。具体的にはE-767が拠点運用方式、E-2Cが進出し前線基地より運用する方式です。E-2Cを運用できる母艦があればE-767を導入せずともシーレーンでの警戒管制が出来たのかもしれません。

E2img_8295  荒唐無稽な案ではありますが、1980年代に自民党部内では護衛艦隊の4個護衛隊群を7個護衛隊群に拡大し、ヘリコプター搭載護衛艦に代え4万t程度の航空母艦を、という勉強会はあった、と仄聞しますが、現実的ではありません。何と言いますか早期警戒機と航空母艦では、母艦の方が高くつく。

E2img_3631  もっとも、高名な識者の中には早い時期からE-767の取得を決定した時点でE-2Cを中古機として海外に有償供与する方式をとれば、その費用を以てE-767を8機程度まで取得できたのではないか、という声があります。しかし、武器輸出三原則の観点から不可能であり、その分複数機種を運用することで防衛費に無駄が生じる事と武器輸出三原則緩和をもっと比較すべきだったのでは、とも。

E2img_8438  更に、日本が1970年代に多くの予算を有していれば、E-3を最初から取得できた、ともいえるのですが、はつゆき型護衛艦2.5隻分、いしかり型護衛艦5隻分、仮に4機のE-3を取得すれば、はつゆき型護衛艦5隻分、いしかり型護衛艦10隻分が飛ぶこととなり、1973年の石油危機以降高度経済成長がひと段落し物価高騰にあえぐ我が国では現実的ではありません。

E2img_8888  閑話休題。そして今回、1981年より導入を開始したE-2C早期警戒機が旧式化し、加えて南西諸島周辺での中国による軍事圧力が増大したことを受け警戒管制能力の強化が喫緊の課題となった反面、既にE-767や搭載するAPY-2レーダーの生産が終了し取得できなくなったため、新しい早期警戒機の導入が必要となった訳です。

E2img_0069  航空自衛隊が2000年頃までにE-767の増備を希望していたならば、レイセオン社等E-767のレーダー機材生産企業がAPY-2の生産継続を決意した可能性はありました。結果論ですが米空軍もE-3の後継機計画であるE-10が2000年代に頓挫し、E-3のシステムを更に近代化を継続するためこのプログラムに関与することでE-767のAPY-2は当面第一線に通用するでしょう。

E2img_3603  近代化改修ですが、E-767は一回当たり100億円以上の能力向上改修を数年おきに実施しています。その都度、処理能力が向上しレーダー情報から探知できる航空機がステルス性の高い目標に対してもその都度対応し、同時処理能力も毎回倍程度に向上しており、この価値は大きい。

E2img_9221  蛇足ながら、実のところ外側が古いのみ、このあたりアップデートに非常な費用を掛けるのは周辺国では理解されないのですが、日米ではF-15やE-767/E-3等で日常的に行われています。これは改修を受けるだけの機体容量の余裕があるためだる一方、外見が古いため旧式機と勘違いする周辺国もある模様で、このあたり抑止力の観点からの留意事項ではありますね。

北大路機関:はるな

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする