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歴史地震再来と日本安全保障戦略⑨ 筑紫地震,日本書紀に記録された最初の巨大地震

2013-12-14 23:43:09 | 防災・災害派遣

◆飛鳥時代の北九州を襲った巨大地震

 地震災害ですが、これは何処で発生するかにより被害が大きく変わってくるのは当然で、無人の山間部で発生するか、都市部で発生するかにより被害は変わってきます。その典型的な事例として筑紫地震の事例をみてみましょう。

Dgimg_0483 岐阜県の根尾谷断層は、6mもの上下のずれを生じさせた日本の地質史上最大の内陸部地震であった1891年10月28日、濃尾大震災による断層破壊を刻銘に残し今に至ります。濃尾大震災は震度6、死者7300名と、一見その後の関東大震災と比較し被害が小さい印象を与えるのですが、これは当時最大震度が6であり、震度7制定以前であったこと、そして発災が現在の東海道本線拠点駅が置かれている大垣市の北、人口希薄な本巣郡が震源だったことと勘案し、犠牲者の数を見ますと、その大きさが極まってくるのではないでしょうか。

Dimg_3355 しかし、歴史をさかのぼる事飛鳥時代の天武天皇治世下、西暦に換算すれば679年に我が国では同じように断層が6mにわたり跳ねあがる巨大地震の記録があります。これは筑紫地震として日本書紀に記録されているもので、口述伝承を除く文献に残る地震記録としては日本最古の地震被害記録となりました。記録には巾二丈即ち6mに渡り地面が持ち上がったと記録され、20世紀にはいり、本格的な地質調査が開始、1988年の久留米市教育委員会による調査では、やく20kmに渡りこうした断層破壊の痕跡が見つかったとのこと。

Eimg_60150 これが筑紫地震による被害と推測されるのは、九州全域に降り積もる錦江湾の姶良火山大規模噴火による火山性堆積物という地質学上の指標があり判別が容易であると点に加え、飛鳥時代の土塁などに対する被害が確認できたため、かなりの確率を以て確証できた、とのことです。被害記録などは前述の断層破壊のほか、大規模な地滑りが発生し民家などが多数破壊された、という程度であり、律令制度が完全に確立する過程の時代とあって、倒壊家屋数や人的被害は大まかな規模さえ判明しないのですが、小規模な地震とは考えにくい。

Fimg_5119 断層破壊の水準から類推するだけでも地震の規模が想像できるのですが、この地震の発生で最も危惧するのは、仮に濃尾地震と同程度のマグニチュード8前後の地震であった場合、その被害は九州北部だけではなく朝鮮半島南部に地震被害として波及する可能性があるのです。震度分布などはまだ不透明な地震であり今後の研究の進展を望みたいところではあるのですが、地震被害は耐震強度に関する確たる方針に基づいた都市計画が為されている九州よりも朝鮮半島南部の方が大きくなるのではないでしょうか。

Img_3619 筑紫地震が仮に再来した際、その震源には久留米市、隣接して福岡市など大都市圏が広がっています。震度7の大規模地震が発生した場合、震源が浅ければ局地的とはなるでしょうが建築物と人的な被害が非常に大きくなり、仮に震源が深ければ震源付近の揺れは抑えられるものの揺れが広域化します。ただ、耐震構造を充分配慮した都市部であれば被害は抑えられ、勿論山岳崩壊などの危険は当然残り、姶良火山や加久藤火山に阿蘇山の火山性堆積物の積層地域では地震亀裂がラハールを誘発する可能性があるのですが、被害は局限化することが可能です。

Img_9576 内陸部での直下地震であってもその規模によっては被害がプレート境界地震ほどではないにしろ広域化することは研究として知られており、重要なのは震源の深さです。しかし、この筑紫地震はこの地域に断層が6mに渡りずれを生じさせ得るという歴史的教訓を残しているほか、その規模と被害の範囲は僅かな地割れと姶良火山堆積物の変動という痕跡でしか知ることが出来ず、堆積層の調査はその労力、つまり費用対効果の問題から十分に行うことが物理的にできません。

Cimg_27000 地震は発生場所によりその被害が変わってくる、とはこのこと。歴史地震が問いかけるこの地震の最大の恐怖は、防災が一種の社会的な様式として定着している我が国では再来に対し、当然看過できない被害は及ぼす事でしょうが、想定外というほどの被害を及ぼすかと問われれば充分勘案しなければならないだろう程度の建築物強度や防災体制の官民における準備などが為されています。しかし、それならば海峡の向こう側に或る朝鮮半島南部の防災対策はどうなのでしょうか、この点を考えると、何とも言い切れないものが出てくるのです。

Himg_1241 朝鮮半島南部での被害、特に九州北部から300km程度の距離には韓国水力原子力の月城原子力発電所があります。我が国では震源から遠くない距離に九州電力玄海原発などが置かれていますが、原子力規制法に基づく最大限の地震対策が義務付けられている我が国の原子力施設と比較し、韓国国内法ではマグニチュード6.5規模への耐震性を基準としていますので、300km圏に隣接しマグニチュード8クラスの地震が発生した場合、果たして対応できるのか、という疑問が生じます。

Aimg_2525 これはもちろん、原子力事故が韓国南部で発生した場合、日本海と我が国日本海沿岸が汚染されることを意味するのですから。誤解されがちですが我が国の福島第一原発事故は東京電力と関連企業に自衛隊や関係各省庁に米軍とフランス電力公社の協力によりかなり抑えられ、被害を局限化できています。しかし、これが韓国国内で想定外の地震被害により原子力事故が発生した場合、防災インフラの基幹部分から、これらを福島第一原発事故のように抑えられるとは限られないという事を忘れてはなりません。

Img_1992k 歴史地震は様々な問いかけを我が国の現代における防災政策に投げかけてくるのですが、このように我が国領域で発生した大規模地震が隣国に及ぼす被害の可能性について、加えてその隣国が十分な対策を行っていないという状況が現在生じています。国際的な協力の在り方、防災揚力の必要性というものは通常の公序として求められるものですがどの程度の政策への反映を前提とした国際協調を行うかは当事国の防災への意識により変わってくるものがあります、いわば危機感の共有というものが重要であり、この点での日韓関係を見ますと非常に不十分と言わざるを得ないように感じる次第です。

北大路機関:はるな

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