◆第15旅団の能力強化と在沖米軍施設利用
本日付の朝雲新聞電子版によれば、那覇駐屯地に司令部を置き南西諸島の防衛警備を担当する第15旅団の隊員が在沖米軍施設において水路潜入訓練を行った、とのこと。
水路潜入はボートや泳法により島嶼部へ上陸する水陸両用部隊の基礎というべき用法で、単に水泳力だけでは成り立つものではなく技法と技術を必要とするものであり、第1空挺団の空挺レンジャー課程や島嶼部防衛を任務とする西部方面普通科連隊でもその基礎として習得するものです。
今回の訓練は10月に行われ、沖縄本島のうるま市のホワイトビーチにて、第15偵察隊の隊員を中心に未経験者47名が着装泳法訓練と偵察ボートによる展開訓練、操舵訓練や転覆復旧訓練、10kmの操舵訓練などを実施した、とのこと。未経験者という表現を用いている以上、米軍施設での自衛隊訓練は意外と行われているのかもしれません。
単に沖縄の陸上自衛隊部隊が、同じ沖縄に或る在日米軍施設で水路潜入の訓練を行った、というだけのように聞こえるかもしれませんが、沖縄を防衛警備管区とする第15旅団が従来不足しているとされた水陸両用技術を演練し、加えて非常に限られた沖縄県の自衛隊演習場環境を米軍施設利用により対応した、という点で意味としては非常に大きいといえるでしょう。
特に偵察教導隊ではボートを用いた偵察オートバイの渡河訓練を行っているのですが、渡河と水路潜入では波高など条件が異なりますので、同じ沖縄本島で米海兵隊からその技術について支援を受けられる、ということは非常に意義があるもの。
第15旅団は第1混成団を拡大改編し創設されたもので、離島救難任務を想定し、CH-47JA輸送ヘリコプターやUH-60JA多用途ヘリコプターを装備する第101飛行隊を混成団から旅団への拡大改編と共に第15ヘリコプター隊へ改編しており、旅団飛行隊としては比較的大きな空中機動能力を有しています。
更に混成団時代の戦闘部隊は第301普通科中隊と第302普通科中隊のみでしたが、軽装甲機動車や対戦車ミサイルと120mm重迫撃砲を装備する第51普通科連隊へ拡大改編し戦闘部隊として完結したと共に偵察隊を新編し、87式偵察警戒車など装甲車両を装備しました。
実は第1混成団は、冷戦時代、基本的に米軍の拠点である沖縄本島への軍事的圧力は限定されているという前提で、沖縄返還後、ホーク地対空ミサイル部隊の配置と沖縄戦による不発弾処理任務部隊を行う混成部隊を置く、という構想の下編成された背景があり、戦闘部隊としての能力は重要視されてこなかったのです。
さらに、沖縄返還と共に創設された第1混成団ですが、旧海軍小禄飛行場跡地近くに駐屯地を配置したのですが、演習場だけは米軍基地と米軍演習場が集中する沖縄県内に確保することが出来ず、グラウンドを転用した小訓練場での基礎訓練以外、じっするる事は出来ません。
第1混成団時代でも107mm重迫撃砲や重機関銃射撃訓練は最寄でも九州の日出生台演習場へ展開する必要がありました。射程が延伸された120mm重迫撃砲や81mm迫撃砲、01式軽対戦車誘導弾に87式対戦車誘導弾、偵察警戒車の25mm機関砲や軽装甲機動車などの戦術機動訓練等、訓練需要は増えるばかりで、演習場環境はそのまま、何とかしなければなりませんでした。
第15旅団は演習場環境が限られているため、沖縄県という現在最も緊張を強いられている地域にありながら能力強化への演習場利用が難しく、能力的に限界が来していると共に、有事の際には確実に島嶼部戦闘が展開される条件下であり、且つ隣接し同じ沖縄本島に世界で最も水陸両用戦に長けた米海兵隊が駐留していながら、技術交流の機会も限られていました。
今回の米軍施設を利用しての水路潜入訓練の実施はこうしたこれまでの第15旅団を取り巻く課題を解決するという意味で大きな一歩です。更に、陸上自衛隊は今月末に画定する新防衛大綱において長崎県の相浦駐屯地に駐屯する西部方面普通科連隊を基幹として水陸両用団の創設を計画していますが、もちろんそれだけでは完結しません。
水陸両用作戦は第15旅団管区で生起する蓋然性が高まっていますので、島嶼部を警備管区とする第15旅団についても、両用能力の強化は大きな課題でしょう。こうした意味から、今回の訓練のような技術と第一線部隊間協力の蓄積が続くことを期待しましょう。
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