北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新防衛大綱と我が国防衛力の課題⑤ 専守防衛、何処までの武力攻撃事態を見込むのか

2013-12-12 23:52:15 | 防衛・安全保障

◆防衛と九州、脅威の能力と防衛グランドデザイン
 防衛計画の大綱改訂が発表されるまで間近とはなっていますが、ここで原点についての論点を示してみましょう。有事に我が国はどういった防衛を想定するのでしょうか。
88img_2901 最近、考えてみれば納得するものの、一瞬戸惑ったことがあります、それは“戦前や開戦期、本土防衛などと考える者は官民軍問わず非国民扱いされた”、というもの。一瞬、終戦時に本土決戦への固執があったことを知識としてもつ者には錯誤に陥りますが、なるほど、開戦時までは我が国の陸軍国防体系は外征が基本、海軍は海岸要塞こそは一応整備していましたが基本は艦隊を以て外洋で相手を迎え撃つ、敵を本土に迎え撃つなどは以ての外だったわけです。なるほど、時換われば価値観換わる。
Bsimg_4312 もちろん、我が国が現代の防衛政策を考える上で、有事の際には外地において敵野戦軍主力を殲滅し首都を攻略する、という発想は無く、当然のように専守防衛が念頭にはなるのですが、考えてみますと、どういった武力攻撃事態を周辺国で我が国へ武力攻撃を行う国が能力として展開し得るのか、という視点に立った防衛政策がどの程度行われているのか、勿論自衛隊では実任務への防衛計画として為されているのでしょうが、そのために防衛力が充分か不十分なのか、装備数が自衛隊の有事必勝計画に充分か不足か、という観点から見えてこない。
Img_1167 我が国は何処までの有事への対応を想定するのか、これは防衛計画のグランドデザインを画定するうえで必要不可欠な要素なのですが、周辺国への配慮からか、この部分は余り示されていません。もちろん、過度に情報を開示し手の内をさらす必要はありませんが、防衛計画のグランドデザインを明示出来なければ、具体的な防衛力を整備することも出来ません。当然ですが、過剰な軍事力を我が国が整備することは財政の面から不適当ですので、仮想敵の脅威評価、とはいかずとも、周辺大国を、偽米国防総省議会報告のようにまとめ、どういった脅威が及びうるのかを画定する必要は、と思うところ。
Mimg_1023 どこまでの武力攻撃事態を見込むのか、この命題は必然的に周辺国の軍事力がどこまでの我が国への武力攻撃能力を有するか、動員力と政治的意図までを見込んで検討しなければなりません。更には、我が国はどういった事態まで対応しなければならないのか、勿論、軍事力とは運用そのもので用法が大きく変わるという前提でゃありますが、憲法上の範囲から逸脱することは防衛行政として許されませんが、憲法上の自衛権の可能な行使の範囲と国民の権利、財産権と生存権との均衡点を図る上からも必要な視点でしょう。
Iimg_9932 そこで一例として九州を挙げます。九州、九州への着上陸や空挺浸透の可能性はあるのか。一見荒唐無稽な論調ではありますが、例えばこうした一見乱暴な視点から見てみましょう。もちろん、周辺国では急ぎ二万t級強襲揚陸艦の建造に着手する国も出ていますが、仮に強襲揚陸艦が十隻程度整備されただけでは脅威とはなり得ません。他方、制海権と航空優勢を喪失すれば若干数、例えば一個連隊程度の着上陸後、我が方の港湾施設などを占拠されるのみで、通常の輸送船舶による管理揚陸を受ける可能性があります。
Nimg_3184 予め注意しておきたいのは、想定として在り得るのかあり得ないのか、という点も踏まえ考える必要がありますが、先方の視点からを踏まえ、願望を評価とせず客観的な分析を行う、こうしたうえでの九州着上陸想定は一例であり、これを以て九州に機甲師団を、地対艦ミサイル連隊増勢を、という命題を示すものではありません。一例なのですから、対処法の想定は自衛艦隊による海上補給路寸断や絶対航空優勢奪還という防衛力整備に依拠した対処要領は無数にありますので、これは我が国の想定脅威の最大値を考慮する全体の論理展開における一例として挙げたにすぎません。
Kimg_9280_1 こうしたうえで、九州島への着上陸を想定しますと、政治的にまったく意味が無いのか、と問われましたら、そういう意味ではありません、政治の延長としての軍事という視点に依拠すると必要性は皆無ではないのです。仮に我が方がこれを喪失した場合、政治的に大きな譲歩を強いられることとなりますし、南西諸島防衛の重要な拠点を喪失することにもなります。これは周辺国が我が国に無条件降伏を求める手段としての、わたしたちが義務教育の歴史で学ぶような敗北ではなくとも、一時的に我が重要地域を占拠することで他方面での政治的譲歩を図る、という手段として無視できるものではありません。
Gimg_5947 もちろん、冷戦時代は同様の命題が北方方面に対し充てられる脅威想定があり、例えばソ連軍の強襲揚陸能力は限られていた一方で、空挺強襲とヘリボーン強襲を行い道北地方や道南地方、場合によっては道央地方へ強襲と陽動を並行して実施し、盆地や隘路等戦略上の要衝緊要地形を確保したうえで輸送船による管理揚陸を実施した場合、複数師団規模の展開は物理的に可能でした。他方で、関越地方や山陰地方への限定侵攻を行う事も能力場は不可能ではなく、必要性と問題点の均衡が取れ得なかったため実施されなかったから、と考えるもの。
Img_0859 これをもとにソ連側が求める太平洋への緊要地形、有事における海峡通航権の確保や、日米同盟への政治的対応を外交面で実施することは可能でした。他方これが実施されなかった背景には日米関係と米太平洋戦略上の我が国との関係の意義があったためではありますが、アメリカ側との衝突も辞さない急迫不正の国家利益が生じた場合、幸いにして生じませんでしたが、強行された可能性は充分に存在したでしょう。東西冷戦は、様々な視点はありますが、米側の軍拡攻勢と欧米の緊張緩和攻勢の相乗で体制の変革を強いられた、ということが出kますが、冷戦構造が長期化すれば、こうした上記可能性の否定はできたのでしょうか、という視点も必要と考えます。
Iimg_9050 ともあれ、我が国の防衛を想定する場合、周辺国の太平洋戦略、例えば周辺国がアメリカとの核均衡をめざし、戦略ミサイル原潜の増勢を行う際に海洋策源地として南西諸島西側海域の聖域化を必要とした場合、在沖米軍の退去を政治的に必要とする可能性が捨てきれませんし、我が国南方の戦時中までは日本本土であった地域において、その地域の独立を認めず武力併合を行う際の布石としての南西諸島への圧力、その後のその地域を策源地としての太平洋戦略の拡大の障壁除去へ、九州島への侵攻の可能性は捨てきれません。
Fimg_6687 更に自衛隊発足時からの想定では、朝鮮半島情勢が緊迫化し、特に周辺国がこの地域の衛星国化を期し、一方に対し軍事援助を行い、武力併合の可能性が生じた際、我が方としては対岸に脅威が展開するのを待って専守防衛を貫くのか、その他の選択肢として何らかの手段を得られるのか、という視点から見た場合、前者の場合は想定脅威が九州北部へ及ぶ蓋然性が生じます。我が国の位置と周辺国の太平洋政策の関係上、日米関係と環太平洋における均衡体制への挑戦、という可能性は安易に否定できません。
Eimg_2500 視点を変えるならば、朝鮮半島における友好国としての韓国の今後における米韓関係及び中韓関係が経済面以外の面で、特に軍事的な関係性を以て比重の均衡点が転換する可能性はあるのか、という視点や、同国の近年の国防政策における整備装備が示す将来の運用環境等を俯瞰した場合、周辺国との軍事緊張が生じた際の日韓関係の位置づけからも、我が国防衛政策に不確定要素が生じる可能性も見ていく必要があります。だからこそ、製作ではなく、相手に能力があるのか、という視点が必要で、そのための防衛体制は専守防衛の政策上、どういった状況までを想定しなければ、という視点こそが求められる。
Img_1057 即ち、我が国の防衛主眼は南西諸島における島嶼部防衛が当面の重要な課題としてのコツ現状は否定するものではありませんが、南西諸島島嶼部への我が国との軍事衝突も辞さない姿勢を持っての国家意思遂行の背景へは、単なる島嶼部の、特に現時点で極一部を問題領域として対日圧力を掛ける姿勢が目的への終止符であるのか、次の段階として周辺事態というべき行動を採る布石とするのかは見通すことなく、島嶼部防衛を主眼とした政策を展開することは防衛力のグランドデザイン構築を行う面で余りに近視眼的ではないか、という疑問符がどうしても生じるところ。
Cimg_2955 例えば南西諸島の海洋資源に対する周辺国の圧力を主眼とした南西諸島防衛計画を建てることに対して、武力奪取した海域での海洋開発を行い利益を得る可能性よりは、国際公序からの逸脱による国際金融市場での制裁による開発不能の可能性が当然生じるわけなのですから、南西諸島有事は手段として周辺国が目指すものであり、太平洋戦略における対日関係の転換強要や、台湾島における在沖米軍台沖連絡線遮断、有事における原潜部隊の太平洋中央部策源地構築などの視点も踏まえ想定している必要はないでしょうか。
Img_1654 仮にこうした可能性を踏まえた場合、その策源地攻撃の一環として、他の地域への武力攻撃が行われる想定を我が国としてもつ必要は生じてくるわけです。こうした意味では、九州は例示であり、他の地域への攻撃という可能性も生じられます。更に本州島に対して弾道弾攻撃が継続されて実施される可能性を示し、継続的に我が国政策決定への介入を期して持続された場合、我が国は自衛権の一環として策源地攻撃の可能性を捨てていませんが、航空攻撃では策源地攻撃へ不十分な状況が生じた場合、次の段階を想定するのかどうか、という視点も検討を避ける事は出来ません。
Bimg_3104 もちろん、防衛計画の大綱は自衛隊法とその上位に或る日本国憲法の下で展開するものなのですから、専守防衛を越えた防衛力、例えば周辺国の首都へ軍団規模の部隊を転換させる能力整備などは逸脱に当たります。逆に言うならば、我が国シティズンシップの討議に稀に生まれる“有事の際、仮に日本が侵略されたとして日本は勝てるのか”、という命題は、“憲法上相手国の首都を制圧することが難しい以上、負けないことは出来ても勝つ事は出来ない”、という不可避の結論を出る事は出来ないわけです。
Bs_img_1295 他方、こうした制約下では、我が国の防衛政策は何処まで展開することが出来るのか、という視点、何処までの武力攻撃事態を想定するのか、という視点は、相手の平時の戦力のみならず動員力と周辺国との外交関係による展開が少なくない影響を及ぼしますし、仮に周辺事態が発生し、我が国の介入有無を別次元の話として我が国周辺に脅威が及んだ場合、限定戦域での防衛を超えた事態を何処まで想定しなければならないのか、という視点が求められてくるもの。かなりあいまいで難しいですが、これが無ければ防衛のグランドデザインが描けません。
Bsimg_0879 ただ、この視点は単に戦車が何個大隊必要で、護衛艦は何隻必要だ、戦闘機は其処此処に航空団、というような単純な話ではなく、陸自軽視でも艦隊決戦重視でもなく、どういう任務の下で防衛力を整備するか、という一件曖昧なものとはなるでしょう。しかし、これを逆に言うならば、防衛力整備とは必要な装備は中期防衛力整備計画で明示すればよく、その大元となる防衛計画の大綱は、自衛隊が何処で何と戦うのか、という視点こそ明確に想定する必要があるでしょう。

北大路機関:はるな

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