北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛産業、我が国防衛力を構成する重要要素の将来展望⑭ 国際共同開発と多国間国際分業

2013-02-09 22:22:33 | 国際・政治

◆多国間“国際”分業F-35と“欧州”戦闘機EF-2000
 F-35の関係で我が国国内に最終組み立て工場を配置するという現時点での指針が武器輸出三原則に抵触するのではないか、という指摘がありました。
Img_2861 次期戦闘機に関してはF-35もEF-2000も個人的に撮影した使える写真が無いため写真の件は、まあ。さて、要望がありました、そこで今回は国際共同開発の双頭というべき、F-35とEF-2000について、国際共同開発に際しての問題点を少し提示してみましょう。割と当然のことであるけれども認識されていないのは国際共同開発とは、異なる国が参画して行われるもので、安全保障環境は国ごとに異なるという前提があり、安全保障環境の変化がその装備品に求める優先順位、それは即ち予算面での優先度の変化にも置き換わる、ということ。
Img_1196 さて、多国間国際分業の後に日本に集約され、最終組み立てが行われるF-35がイスラエルに輸出、紛争当事国であるイスラエルへの輸出というもの。F-35はイスラエルが優先顧客として日本がF-35を導入決定する以前に採用を決定しており、日本国内での完成機製造を行う現在の指針では、日本からイスラエルへF-35が輸出される、F-35はアメリカ製の機体で日本製という枠ではなく日本の通関を通りイスラエルに供給される、これが紛争当事国や共産圏と国連決議武器輸出禁止国への武器輸出を禁じた我が国の引き輸出三原則に反する、という危惧があったわけです。
Dimg_0002 多国間国際分業で生産されるF-35、結論から先に示すならば、F-35はアメリカ製の機体であり、アメリカを経由して各国に有償軍事供与と行う、という構図となりますので、日本側が最終組み立てをおこったとしても主体はアメリカにあり、日本から一旦アメリカに引き渡されたのちに各国、欧州やイスラエルなどに供給される、という構図になりますので、この点では問題はない、という事は出来るでしょう。もっとも、この方法を使うならば日米共同開発を今後行う装備品についてもアメリカを経由すれば輸出できるのではないか、とも言われそうですけれども。
Gimg_2674 ただ、F-35は将来的に台湾への輸出が考えられます。台湾空軍は現在F-16を運用していますが、F-16も台湾が導入を希望した当初は中国とのアメリカの関係を重視する観点から政治的に導入することが出来ず、独自戦闘機開発計画やフランス製戦闘機輸入を行い、これらの施策を経てアメリカはF-16戦闘機の輸出を議会が認めることとなりましたので、F-35についても日本が最終組み立てを行った機体が台湾へ輸出される可能性は充分あるのです。こうした視点から、理論武装と言いますか、今から考えておくべき物事はあるでしょう。
Simg_2642 実はこれが国際共同開発の一つの問題点ではないか、といえるもので、防衛装備品の輸出に対して第三国から圧力がかけられる事例は、かつて台湾へ潜水艦を輸出したオランダに対する中国からの圧力が代表事例として思い出されるのですが、スウェーデンのビゲン戦闘機輸出に際しての人権抑圧国家排除条件や、対イスラエル装備品輸出におけるフランスの国内政策など事例はかなり多く、異国開発とは異なり、多国間の様々な事情が関わるという、国際共同開発にはこうした問題があるという事を忘れてはなりません。
Nimg_8436 将来的に可能性がある、という日本組立F-35台湾輸出は、恐らく日中関係と米中関係を複雑に絡めた非常に大きな国際問題となるでしょうが、短期的な政治関係を背景に輸出に影響が、特に決定が二転三転と覆るようでは国際協同開発を行うことはできません。開発費が安くなるよう分担されるという利点があるのですから、利点だけを求めるというのは少々一人よがりすぎる考えに違いありません。こうした観点から、我が国としては装備品の国際共同開発とどのように向かい合うのかを考える必要があるでしょう。
Fimg_8783 EF-2000についてですが、次期戦闘機選定に際して提示されたF-35とEF-2000,それにF/A-18Eの中で、もっとも有力視されたのがF-35とEF-2000でした。しかし、EF-2000が完全な国内生産の要件を提示したのに対し、F-35は当初有償軍事供与のみとなるだろうとの下馬評を覆し、最終組み立てを日本国内で行うことが認められました。防衛産業への貢献度としては、完成機を海外にも供するF-35は、日本向けのものだけを組み立てるEF-2000と比較すれば貢献度が大きく、実は日本の防衛産業は武器輸出三原則の拡大運用という制約から大きく転換する瞬間ではないか、とも考えるところ。
Pimg_7860 我が国では戦闘機生産基盤が国内にあり、加えてその生産基盤は最新鋭の戦闘機をライセンス生産するに十分な技術を有し、加えてその技術基盤は開発能力の面でも一定水準の開発能力を持つものである、といううことが前者はF-15ライセンス生産が、後者はF-2支援戦闘機の日米共同開発の過程を以て強調することが出来た、こういうことが言えるかもしれません。 F-2生産終了と共に日本の戦闘機生産基盤が喪失する可能性があったのですが、アメリカ側からの日本のF-35計画への参入を行う意義が日本国内の戦闘機生産基盤に配慮しなければ実現し得ないという一点を重視し妥協を導いた、という背景に、アメリカがF-35について日本側の一切の関与を認めなければEF-2000を航空自衛隊が採用する可能性に現実味があり、それならば、と妥協を導き出したという構図です。
Img_5243 それではEF-2000が何故選ばれなかったのか、という点、これも将来の情報が開示されるまでは時間がまだまだ大きく、推測に頼らざるを得ないところとなるのでしょうけれども、EF-2000の最大のリスクについて少々考えてみましょう。実のところ、EF-2000は悪い航空機ではありません、予算さえ十分投入して運用基盤を整えれば、将来脅威にも対処し得ます。EF-2000はF-35とともに共同開発の航空機なのですけれども、運用主体が欧州の、冷戦構造が終結し安定している欧州機であるため、というものが一つのリスクとして考えられるやもしれません。
Img_9026 EF-2000の名誉のために追記するならば、EF-2000は完全なライセンス生産が提示されていたのですから、近代化プログラムへも関与する余地が残っていましたので、2005年頃まで、正確にはEF-2000後継機の討議がなされていた時代においてはEF-2000は日本にとり有力な選択肢と言えました、何故ならばEF-2000段階近代化改修に際し三菱重工とBAEの協同による技術提携が行われ、その次の段階として次世代戦闘機の日欧共同開発があり得たためで、EF-2000の運用基盤はNATOを中心としているため日本で高い稼働率を得るための後方支援基盤を一から整備しなければならりません。
Oimg_1789 このように難点はありましたがその次の世代戦闘機を開発できる、という見通しがあった際には有力な選択肢ではったのです。しかし、2005年頃を最後に、そして加えて欧州通貨危機の後は特に、EF-2000後継機としての次世代機開発の話は聞こえなくなり、EF-2000はトランシェ3の開発に資金が不足する状況に陥ります。とりあえず暫定型をトランシェ3Aとして供給を開始するのですが、開発期間の長期化とともに初期型のトランシェ1を3A規格に近代化する費用が増大、イギリス空軍などは早期退役方針を定めました。
Img_9797 EF-2000はユーロファイター、欧州共通戦闘機であり、東西冷戦構造が終結すると共に中東欧諸国がロシアと西欧との巨大な緩衝地帯となる国際情勢の変化と共に、欧州正面への第五世代機の脅威が大きく減退、特にロシアの新世代機T-50が欧州への航空強襲にもちいられる可能性も低く第五世代脅威を圧倒する能力よりは、対抗する能力を有し、その第五世代航空機の航空基地へ打撃を与える能力を保持すれば対応することが出来る、という範疇に収まったことが、トランシェ3の開発への優先度、後継機開発の切迫性を押し下げたのでしょう。
Img_2188 欧州情勢が極東情勢ほど緊迫していない。ユーロファイターは即ち第五世代脅威が切迫していないユーロのファイターであり、第五世代戦闘機をロシアと中国が開発を進め、緩衝地帯が台湾海峡や東シナ海に日本海を除いて有さないというオリエントのオリエンタルファイターでは無い、ということが航空自衛隊にユーロファイターが不向きである理由の一つといえまして、欧州と極東地域の安全保障情勢に此処までの温度差がある中では、導入する意義が薄い、ということ、欧州共同開発でも欧州と温度差がある極東地域の脅威には将来対処し得る伸び白が大きくなく、埋められる熱意にも温度差があるというわけです。
Img_9177h 第五世代戦闘機は開発費がかなり大きくなっていますが、これにより膨大な開発費を一国で負担することが難しくなり、膨大な開発費を国際共同開発により分担する、という潮流が確立しかけた頃がありました、しかし、開発に際して要求性能に関する各国の思惑の違いや、開発費分担金に応じた設計関与を求める主張などにより、結果として仕様が定まりにくく、開発期間が長期化し、性能が曖昧模糊とした要求に依拠するものとなる問題は以前から指摘されていましたが、このほかに上記の通り問題点がある、という事を提示してみました次第です。

北大路機関:はるな

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コメント (8)
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