◆その都度生まれる一つの流れの結晶体
防衛産業について、前回は多国間国際分業という視点から切り込み、もう少し考えたいところですが、それはいずれ。今回は海外装備と国産装備の中で国産装備はひとつの潮流にあり、無駄が少ない、というところを少し考えてみましょう。
中距離多目的誘導弾、ミリ波レーダーと光学照準器を複合させ、同時多目標に即座に対処可能な新世代の誘導弾です。日本の防衛装備ですが、昨今、中国空軍がSu-34を模倣した新型戦闘爆撃機を開発したとの報道や、Su-30を原型とした新型艦載機の報道がなされる中、確かに華やかではありますが、落ち着いて考えれば新しい技術は何処か、という視点からは形を変えた前世代装備というものばかりです。
実のところ、日本の装備は一つの技術的潮流に依拠し、日々開発される新技術は逐次新装備へ反映されてゆきます。一つの技術的潮流とは、我が国の自衛隊が必要とする任務遂行を達成する、日本の戦術と戦略に合致し、最適化された装備の実現に向けた流れということ。
もちろん、海外装備を導入しなければ実現できない技術、特に一国で開発したのでは採算性に合わないものがありますが、これらは稼働率向上へ生産基盤を構築し、最小限の数で最大限の能力を発揮できるよう尽力してきたのは過去にも記載しました。他方、例えば戦闘機の電子戦装備など供与されないものもあり、これらは国産装備により置き換えられました。
海外装備は安いという視点から導入することの危険性はこの特集で何度も紹介してきていますが、安くとも装備単体は安くとも装備体系で運用する場合は高くつく場合があり、もう一つの視点では、そもそも装備開発は様々な技術を生み出す潮流なのだから、流れがあるにも拘らず他の技術を輸入により取得してしまうと、これを遮る可能性も出てきます。
もちろん、技術開発を継続しているのですから、技術開発の費用さえ予算を計上し続ければ途絶えにくい流ではあるのですけれども、予算計上には事業評価があり、海外装備を導入することで日本が開発した技術を装備として評価させられる、いわば具現化できなければ予算が削られるという事を忘れてはなりませんし、これでは開発装備を量産する防衛産業が存続できないことを忘れてはなりません。
加えて海外装備を導入する場合、その構成技術のうちどの程度が国産では不可能なのか、というところを厳密に考えねばなりません。技術基盤があっても開発費が少ないため具体化できない分野はあり、これを考えず、構成技術要素が遅れている装備を導入してしまうと、無駄な遠回りをしてしまうでしょう。
海外装備では大きすぎる、重すぎる、など使いにくい場合もあり国産化が為されるのですが、同時に戦車では狭隘地形での高機動を担保する電子制御式懸架装置や従来以上に優れた目標自動追尾技術に加え、昨今の潮流である部隊間情報共有技術などが盛り込まれ、日本の地形に合致し相手を圧倒できる戦車へと技術は進んでゆきます。
護衛艦についても、従来の広域洋上防空システムが遠距離探知を企図しSバンドレーダーを採用しましたが、Sバンドレーダーは遠距離目標を探知する性能に優れる一方、小型目標や低空目標への対処能力に限界があるため、これを補完するものとして海上自衛隊では従来から開発されているレーダーFCS-2を抜本的に改良したFCS-3としてCバンドレーダーを開発、実用化してきました。
海外装備では、特に汎用性を重視しているものが国際市場において大きく評価されています。これら装備の中にはもちろん、その能力の一端が日本の防衛に非常に有意なものもあるのですが、一方で日本の防衛と関係ない能力にも注力されているものが少なからずあり、近年の装備は段階近代化改修によりその都度能力を想定脅威に対応するものが基本ですので、時には日本の求める能力と全く異なる近代化改修であっても、ソフトウェア面であるので費用を支出し、対応しなければならなくなる面も想定しておくべきでしょう。
また、各種装備の中には日本が有する戦闘情報システムや情報伝送体系が想定している能力とは異なるものがあり、日本が海外での高い評価を背景に仮に新装備を導入した場合でも、その評価の背景には装備品を支援するシステムと併せた性能があり、そのシステムと日本が有する同様のシステムが異なる運用思想に基づき開発されていたならば、性能を発揮できないか、支援システムを一から調達する必要に見舞われるという事も有り得ます。
例えば新哨戒機などは、海上自衛隊の開発した国産機は長大な航続距離を有しつつ、独自の対潜哨戒任務能力を有し、洋上哨戒をも担う機体ですが、海外装備として導入が当時の与党一部から求められた装備は対潜哨戒も可能な一種の警戒管制機であり、無人機との協同が前提となっていたものもありました。
日本は一つの潮流に向け技術開発を継続していますが、各技術は流れ作業のように新しい新技術を具体化させる新装備を生みます、いわばこの潮流こそが一種の防衛力や、変な例えではありますが金の卵を産む鶏という役割を担っており、そのなかで開発中の技術を応用すれば、多国間開発の新装備へ資するものも多いことがあります。応用例としては昨今、ミサイル防衛技術やF-35共同生産などがあげられるでしょうか。
しかし、見方を変えますと、海外装備をそのまま、特に安いだけ、という理由から導入してしまいますと、この潮流に罅が入ります、金の卵を産む鶏に暇を出すことになるのですから。そして、これまで揃えてきた周辺技術、支援技術が応用できない場合があり、余程注意しないと費用を節約、という方式となならない。
国産装備という金の卵を産む鶏に、暇を出してしまいますと、飛ぶ練習を始めどこかに行ってしまいます、技術者が別の技術へと流出すれば戻ることは難しくなり、再度国産装備を産もうとした場合、散ってしまった技術を再度始動させるには時間と費用を要し、時間が掛かりすぎれば従来装備を置き換える上で必要な時間を、つまり耐用年数を迎えて、失ってしまうことにもなり得る。
日本の新装備は新技術の結晶です。そして新技術は絶え間ない技術開発の潮流に基づくもので、海外装備を導入する場合はこれを遮らないよう細心の注意を怠らず、併せて海外装備を取得する場合には既に日本が潜在的に実用化できる技術を導入すれば同じ技術の上塗りになり無駄となる、防衛産業とともに防衛技術基盤の潮流は評価が充分行われているかを考えつつ、海外装備と国産装備を比較せねばなりません。
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