◆武力行使にあたり、対水上戦闘も有り得た
中国海軍が危険な火遊びを行いました、武力攻撃ではありませんが国際法上の武力行使にもあたり、状況によっては対水上戦闘も有り得た事態です。
先月30日、東シナ海の公海上を行動中の海上自衛隊護衛艦ゆうだち、に対し中国海軍の江衛Ⅱ型フリゲイトが3kmの距離から射撃管制レーダーにより数分間に渡り照準する事態が発生しました。江衛Ⅱ型は満載排水量で護衛艦ゆうだち、の三分の一程度の小型艦ですが、搭載している火砲や誘導弾は水上戦闘艦の実装備であり、海上自衛隊以外の国においては海軍交戦規定により自衛のための予防措置として反撃を行う規定を有する海軍もあるため、非常に危険な行為に他なりません。
水上戦闘艦には、基本的にレーダーは二種類あり、周辺の状況把握と索敵用に用いるもの、そして射撃を行うものの二種類が搭載されていますが、索敵用のものは航海レーダーとして衝突防止などの状況把握に用いるものである一方、射撃管制レーダーは水上戦闘における攻撃の一環として照準に用いられるもの。攻撃の準備ではなく、攻撃の一環として照準を行うものですので、今回の事案は射撃に至らなかっただけ、単純に艦砲を相手に向け威嚇するような甘い話ではない、ということ。
中国の行為が如何に非常識であるかを分かりやすい事例として盗撮に例えましょう、航海レーダーなどは道路を歩いているときに偶然カーテンの隙間に窓の奥に目が行ってしまった、という程度のものですが、射撃管制レーダーの操作はカーテンの隙間にカメラを向ける行為にあたり、照準を行う行動はオートフォーカスでピントを合わせ撮影出来る状態にあたります、この状況でお巡りさんが通りかかれば、撮った撮らないは兎も角として確実に職務質問と交番へ直行です。
今回の事案は国際法上でも武力攻撃には当たりませんが、国際慣習法上の武力行使にあたります。ゆうだち、は佐世保を母港とする護衛艦ですが、海上自衛隊では、今回のレーダー照準を搭載する電波受信装置により感知し、事態の重大性に鑑み、この電波情報を防衛省本省が分析、これにより間違いなく射撃管制レーダーによる照準であると判断されたことから、本日夕方の防衛大臣緊急記者会見において公表し、外務省は中国政府に対し東京の中国大使へ、また北京の日本大使館から厳重抗議を行いました。
護衛艦ゆうだち、に対し30日行われたのですが、加えて横須賀基地を母港とする護衛艦おおなみ艦載機であるSH-60哨戒ヘリコプターに対しても先月19日に射撃管制レーダーによる照準が行われた可能性があることも、本日発表されています。海上自衛隊の護衛艦が中国海軍フリゲイトからこのような行為を受けた海域は防衛省によれば東シナ海の公海上とのみ発表し、具体的な海域は現時点で護衛艦の行動状況に関する情報を安全保障上の観点から伏せていますが、一部報道では警戒監視任務に当たっていたというものも出されています。
SH-60哨戒ヘリコプターに対し照準が行われたのは、海上自衛隊のヘリコプターに搭載されている警報装置、これは火器管制装置等に連動する射撃管制レーダーの照準を受けた場合に危機回避行動を搭乗員に促すための警報装置が搭載されています。SH-60は乗員が飛行中に警報装置が作動したことを報告しており、おおなみ艦載機への行動に続いて、護衛艦ゆうだち、に対する今回の行動が行われた、という事になりますので、偶発的事故ではなく中国海軍が故意に行った危険な火遊びと言わざるを得ません。
連続して中国海軍が行ったこの行為は、場合によっては対水上戦闘に発展するものです。冷戦時代でもソ連海軍はこうした戦闘を仕掛けていると誤解される行為は現住に避けてきました、場合によっては今後偶発的事態を経て対水上戦闘に展開する危険もありますので、中国側の再発防止措置が必要です。ただ、今回の射撃管制レーダーの照準を感知したことは、非常に貴重な電波情報を海上自衛隊が得たことでもあり、有事の際には電波妨害に重要な情報を得ることが出来た、という事も出来るやもしれません。
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