■近鉄ACE 乗車記
大阪~名古屋間の路線を中心に、京都、奈良、伊勢、吉野など近畿一帯に長大な路線網を有する近畿日本鉄道、私鉄最大の路線網を有する近鉄は、同時に多種多様な特急電車を運行している。
近鉄特急といえば、一般的には大阪難波~近鉄名古屋間を無停車走破する名阪甲特急として有名なアーバンライナー。伝統的なダブルデッカー車を中間に挟むビスタカー、ビスタカーに連結を想定して開発されたサニーカー、かつての甲特急、今は支線特急として運用されるスナックカー、そして様々な路線で柔軟に運用されてきたサニーカーなどが有名だ。しかし、エースカー、サニーカーの老朽化を受けて、その代替として開発導入されたのが、この22000系特急“ACE”である。
22000系は、1992年より導入が開始された特急車で、10400系特急エースカーに続く車両という位置づけだ。ACEという愛称からエースと呼ぶ方もいるようだが、そもそもこの一世代前のエースカーがトランプのエースカードのように自由自在に運用できることから記されたように、このACEも多くの路線で見ることが出来る。
1987年の時点で、サニーカーは40両、スナックカーは182両、エースカーは53両が導入されていたが、このACEの生産は1994年まで84両となっている。アーバンライナー、伊勢志摩ライナー、さくらライナーの導入によりビスタカーが余剰となり、特急体系に数的余裕があったという背景もあるが、当初は100両以上のACEが生産される計画だったのを下方修正した、という資料もあるので、旅客需要の変化があったということを示している。
近鉄の特急網は、列挙すると、大阪難波と近鉄名古屋を結ぶ名阪特急、名古屋と伊勢志摩を結ぶ名伊特急、京都と伊勢志摩を結ぶ京伊特急、京都と奈良を結ぶ京奈特急、大阪難波と奈良を結ぶ阪奈特急、京都と橿原を結ぶ京橿特急、大阪難波と吉野を結ぶ吉野特急、そして大阪難波と伊勢志摩を結ぶ阪伊特急に区分することができる。
近鉄名古屋駅の特急券販売機。近鉄は、首都圏やJRの特急と同じく特急料金が必要で、名鉄や南海のような料金不要の一般車は併結せず、また阪急や京阪、阪神や京浜急行のような特急料金不要の通勤車や急行車による特急料金不要の特急も現在は運行されていない。ただし、特急券は全車指定席であり、特急券を購入すれば必ず座る事が出来る点がJRより優れている。
津に向けてACEの特急券を購入。実はビスタカーか、レトロな旧型特急に乗りたかったのだが時間帯が合わなかったので断念。それでも久々に乗る近鉄特急、気を取り直して車内に足を運ぶ。洗練された転換式クロスシート方式の車内は、リクライニングシートが余裕のある1000㍉間隔で配置されている。座席は肘掛でセパレートされており、私鉄最大の路線網を有する近鉄の特急という風格は充分だ。
リクライニングシートの背面部分。フットレストが設置されている。テーブルは肘掛内臓式のものを採用。この22000系は2輌編成と4輌編成の二種類があるが、乗車した賢島行きは4輌編成で運行されていた。賢島行きは、近鉄名古屋を発車し、桑名、四日市、伊勢中川を経て賢島に向かう。ACEはVVVFインバータ制御を採用、営業運転における最高速度は130km/hとなっている。
名古屋で仕入れた駅弁を取り出す。長距離を走る近鉄特急では、ホームで駅弁が売られている。特急料金不要の阪急はもちろん(仮に売っていても9300系で弁当を広げれば大顰蹙、まあ、556くらいならOKかな)、名鉄もキオスクでは駅弁を売っていない(名鉄名古屋のようにコンビニが軽食を売ってる場合や軽食スタンドでテイクアウトフードを売っている場合はある)。
名古屋名物みそかつ弁当。味噌とソースが付いており、早朝の空腹に渇を入れるボリュームだ。新幹線の東京駅で購入した駅弁よりもサイズが大きく、さすがはスナックカーでその名を全国に轟かせた近鉄の供食サービス、と驚かされた。なるほど、揚げたてではないものの、御飯とよく合う、カツ弁当としては上位に位置するもの。個人的に新幹線ならば途中下車してでも“とりめし”を買うが、近鉄特急ならコレだね!という印象だ。
ACE車内の様子。ACEは、その機能的な車内と運用が認められ、グットデザイン賞を受賞している。駅弁を平らげたのち、お茶を楽しみつつしばし車窓の景色を堪能する。日曜日の早朝ということもあり、それほど車内は混雑することなく、車内も穏やか。22000系特急賢島行きは、恵まれた線形を景色とともに流れてゆく。
デッキ部分からみた扉の様子。三岐鉄道の列車を追い抜いている瞬間で、イエローとオレンジの車体から照り返しが、こちらの車内を彩っている。このACEの車内設備としては、洗面台、カード式電話機、洋式と小用式の御手洗が設置されている。なお、御手洗は車椅子対応のバリアフリー型であることを特筆しておきたい。
車内販売基地の跡地(?)、新幹線や寝台特急から食堂車が消えて久しいが、私鉄特急でも車内販売のあり方は根本的に見直されている風潮。しかし、使わない設備というのはなんだか勿体無いので、自販機の設置か乗務員室への改造、はたまは喫煙ブースへ改造してみては、と思ったりする。
カード式電話機。といっても、携帯電話が普及した今日、あまり利用している姿は見かけない。ここ数年、様々な特急のカード式電話の近くに座ったが、新幹線を含めて、利用しているのは殆ど見かけない、最後に見たのは今年一月に京阪のテレビカーで電話を利用してる主婦の姿。ただ、あっても困るものではないので、取り外すよりも取り付けている、もしくは小生が見てないだけで物凄く利用されているか、どちらかだろう。
なお、このACEは1067㍉軌道に対応する16400系も運行されている。そうこうしているうちに、近鉄特急賢島行きは、こうして小生が降りる予定の津駅のホームに滑り込んだ。長い時間ではなかったが近鉄特急に乗った、という余韻とともに開いた扉からACE22000系を後にした。
“つ”。近鉄津駅はJRの津駅と隣接している。近鉄は漢字表記を大きく書くのだが、JRは平仮名表記を大きく書くので、“つ”、という、味気ないというかユーモラスというか、とりあえず一枚パチリとしたくなるような表記だ。いや、なんというか、この写真と本文は大きなつながりはないけれども、とりあえず掲載。
車掌の安全確認とともにACEの一枚扉が閉じ、特急は賢島に向けて発車する。さて、現在の研究の大きな部分で一区切りが付く来年の上旬には、伊勢志摩ライナーで京都駅から賢島行き、近鉄特急中で最長の路線を利用して伊勢神宮に参拝に行きたいな、と考える今日この頃、ACEを見送り、小生も目的地に向かった。
HARUNA
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