goo blog サービス終了のお知らせ 

北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

オスロプロセス(クラスター爆弾禁止レジーム) 国際規範と日本

2008-06-15 23:02:12 | 国際・政治

■国際レジームにどう関与するべきか

 クラスター爆弾とは、親子爆弾というべき爆弾だ。投下されると一定の高度まで大きな親爆弾が降下し、一定の高度に達すると子爆弾を“産卵”する。子爆弾は定められた範囲に一定の密度で着弾し、例えば上陸橋頭堡や物資集積地、行動中の機甲部隊を有効に無力化する。

2005116_071  正直な話、近年叫ばれる中国脅威論の正体が掴めない。強いて言えば、政権の軍事化や文民統制の問題から生じる幾つかの可能性であろうか。さて、その昔、ソ連空軍の膨大な航空戦力や地上部隊を相手に、F-1支援戦闘機にASM-1空対艦ミサイルが装備される1980年代までF-86戦闘機に500ポンド爆弾を搭載して対地攻撃を行っていたのだが、近年航空祭に足を運べば支援戦闘機としてF-2が並んでいる、冷戦時代と比べると、脅威正面に殆ど部隊が配置されていないことを除けば(これは一番大きいというか問題と考えるのだが)、緊張度合いはかなり低くなったのではと思ったりもする。閑話休題。航空自衛隊の作戦運用体系は基本的に航空阻止と可能な限りの航空優勢確保であった。この為F-104やF-4EJ,F-15Jといった極力戦闘機としての機能を有する機体の整備が優先されており、NATO軍がトーネード攻撃機やアルファジェット軽攻撃機のような攻撃機の装備化に尽力し、航空優勢が確保できない状況下においても近接航空支援を実施し仮想敵国の強力な機甲部隊をなんとか暫減させようとしたのとは対称的である。

Img_6385  これには、地続きの陸上国境を有する欧州と、航空優勢確保を維持できれば渡洋上陸を阻止できるという日本の国情が大きく影響している。この日本でクラスター爆弾の導入が本格的に検討されたのは1980年代後半からで、クラスター爆弾としてはGBU-15滑空誘導爆弾やCBU-75などが検討されていたと伝えられる。結果、航空自衛隊にはクラスター爆弾としてCBU-87が制式化され、日本国内でライセンス生産が行われている。このCBU-87には202発の子弾が内臓されている。なお、1980年代後半から、陸上自衛隊の作戦運用体系が相手を上陸後内陸に誘致して防御線にて撃破する内陸誘致戦略から、上陸地点において大火力を行使し一気に殲滅する水際撃破戦略に移行しており、冷戦末期にクラスター爆弾が採用された背景にはこういったものもあるのかな、と。

Img_8201  このクラスター爆弾(写真が無いのでJDAM&F-2で代用)は、日本においては水際撃破の有力な火力行使手段として用いられ、対戦車用途としても期待された。対戦車子弾10発を搭載したCBU-97クラスター爆弾(日本未採用)がその用途には最適であるが、CBU-87も行動中の戦車のハッチ部分や車体後部のエンジングリル上面に着弾し炸裂すれば、戦車の行動を阻害でき、加えて随伴歩兵や兵站用のソフトスキン車に対しては大きな打撃を与えることが出来る。他方、紛争地域では対人用に用いられる場合もあり、不発弾の発生が人道上大きな問題に繋がっている。こうして、クラスター爆弾禁止レジームが発足した。クラスター爆弾禁止レジームはノルウェーを中心として2007年2月から本格化し、使用や製造及び移動、備蓄の禁止を目指した。

Img_0563  クラスター爆弾禁止レジームは、ノルウェーの首都にて会議が開かれたことからオスロプロセスと称され、不発弾の発生しやすい旧型のクラスター爆弾の使用を第一段階として禁止、続いて使用や製造及び移動、備蓄の禁止を目的としたレジームに移行した。クラスター爆弾や、このレジームが対象とする装備品に大きく依存する国家の参加としてはドイツの積極性が上げられる。ドイツ連邦軍は陸上自衛隊も運用している多連装ロケットシステムを多数配備しており、集束方式の弾薬を対機甲戦力の中枢として装備化していた主要国の中では最も積極的であった。ドイツの合意形成過程にはドイツ連邦軍内部の、レジームに参加することで可能な限り自己に有利なレジームとする目的と、クラスター爆弾による文民被害への憂慮を根拠とする市民運動との相関関係があるのだが、結果的にこのオスロプロセスを大きく牽引することとなった事実には興味深いものがある。

Img_9204_1  クラスター爆弾禁止レジームは拡大段階でイギリスが、そして最終段階で日本が参加したことが特異点として挙げられる。まず、イギリスの参加であるが、条約には10発・各4kg未満の子弾型で電気式自壊装置付の新型について、規制対象から除外する旨が明記されており、代替兵器の可能性が残されていたことと、同時に備蓄しているクラスター爆弾について備蓄年限が近付いており、新型に代替する必要性が生じていた事を、レジームへの参加要素として挙げることができる。ただし、問題が無いでもない。代替装備が結局所要の性能を満たせなかった時代がイギリスにある。イギリス空軍では規制対象となる3650発のRBL-755の代替としてブライムストーン空対地ミサイル(自衛隊装備でいうとAH-64Dのヘルファイアのようなもの)の運用を検討したが、命中精度に問題があり、近接航空支援に支障が出る可能性が指摘されている。

Img_6905  日本は何故、このクラスター爆弾禁止レジームに参加した理由はなにか、この一つの回答として、国際規範という問題だ。近年、法的拘束力を有する、しかし、批准には各国議会の議決が必要であり締結までの弊害が多い条約に替わり、国際合意というかたちでのソフトロー、若しくは原則宣言のような国際規範により道義的拘束という方式が注目されている。リアリズムの観点からは無視し得るこうした国際規範も、近年の幾つかの事例を見る限りいわゆる強制力(フォース)を有するに至っている事例として典型的なのは、対人地雷全廃条約のオタワプロセスにおける中国の非批准の問題である。広大な国境線を有する中国の安全保障には地雷は不可欠であり、自国内での使用を除き対人地雷の輸出などを行わない一方的宣言を行わなかったのだが、対人地雷全廃条約に批准しなかったという事実のみが一人歩きし、潜在的レジーム参加については考慮されていない。また、ソフトパワーの観点からも、オタワプロセスに参加をしなかった国家として批判の対象とはなっても賞賛の対象とはなり難い。これが国際規範の潜在的な強制力である。

Img_9010  日本は専守防衛を国是としており、憲法9条には基本として海外への武力行使は規制されており、また、それに基づく国際関係を展開している。欧米において比較憲法を学ぶものには基本的に日本国憲法の平和主義は議論の対象となり、加えて国際平和維持活動への消極性や集団的自衛権への否定的見解は、海外においては日本通以外でも一応知識としては認知されている。したがって、専守防衛の日本においては、自国の防衛以外には基本的に、いわゆる非人道兵器と称される装備品についても用いられることはなく、この点、日本国内の防衛に必要な装備品については、規制する必要は無いのではないか、という国内世論についても一考の価値があり、他方、これはレジーム参加の他国に対しても一定の説得力を有することは確かであるが、他方でオタワプロセスにおける中国の対応のように、レジームへの不参加は賞賛の対象となることは可能性として低い。結果、ソフトパワーを維持する為には、代替装備の開発を励行し、レジームに参加する必要性はあったわけだ。

Img_7887_1  クラスター爆弾以外にも、陸上自衛隊が運用しているMLRSの240㍉ロケット弾M26/M26A1は、前述のようにポリウレタンに包み込まれた213㌘のM77円筒形子弾644発を搭載しており、規制対象となる。1995年に特科教導隊に装備されて以来、方面特科隊の全般支援火力として整備されてきたMLRSであるが、一発あたり100×200㍍(風速や散布高度により若干異なる)の面制圧が可能なM77ロケットが今回の条約により禁止された以降は、M1399対戦車地雷を運搬するAT2対戦車弾に代替するか、現在開発中の240㍉ロケット弾XM31の採用が必要となる。

Img_4312  今回のオスロプロセスにおいては、日本は不関与というような姿勢を採り続けた、若しくは外務省と防衛省の相互理解が必ずしも最適な状態に無かった点、更には国際規範と国際秩序への共振や国際法における軍備管理法体系に関して適切な理解を共有できなかったことが、一連の混乱の要素として挙げられる。教訓として挙げるならば、自衛隊という機構にもっと国際法の博士号保持者を養成する努力が必要なのでは、ということだ。誤解されては困るが、陸海空自衛隊の幕僚監部総務部には法務課があり、法学博士号を有する幹部自衛官が勤務しており、その中には個人的に注目できる研究成果を送り出している方もみえる。他方、国際レジーム形成に自衛隊が関与していくには、もっともっと人員が必要なのではないか、ということだ。追記するならば、もっと法学以外にも経営学(米軍では大規模部隊の指揮に経営学の手法が用いられており、経営学修士号を有する高級将校も少なくないという)、制作科学分野などの大学院を初めとする学術分野に、自衛官の進出を励行するような人事体系の構築を切に必要とすると考えるのだが、どうだろうか。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする